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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第1章、異世界転送
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第20話、嫉妬かな


 転送終了。

 目の前には、古いが大きな家。俺達が異世界で得た活動拠点だ。

 ドアを開けて中に入ると、藤堂さんと長沢がテーブルに座っている。それにトルティアがテーブルをタオルで拭いていた。

「サトウさん。お早うございます」

 トルティアが笑顔であいさつ。この笑顔を見るために転送してきたと言っても過言ではない。でも、なぜ彼女がここに……?

「おお、佐藤さん。朝飯は食ったか?」

 藤堂さんがコップでお茶のような物を飲んでいる。

「食べましたよ。……まあ、向こうでは夕食ですけどね」

 リュックを居間の隅に下ろした。異世界と日本では半日ほど時間がずれている。

「ありがとね、佐藤ちゃーん」

 長沢がリュックを開けて中の物を取り出す。

 短い弓のような物―クロスボウというのかな―や食器、それに紙の小さな箱がテーブルに並べられた。

「これは何ですか」

 紙の箱を持つと、ズッシリと重い。

「拳銃の弾丸さ」

 藤堂さんが箱を取り上げる。そんな危険な物を運んできたのか俺は。しかし、それって銃刀法に違反しているよな。平和な日本で、どうやって手に入れるのだろう。

 日本は資本主義、お金さえ出せば何でも手に入るのかな。


「トルティアは、どうしてここに?」

 疑問に思っていることをたずねる。

「藤堂さんは村の恩人ですから、こうやって食事などの世話をしてあげているんです」

「ああ、そうなんですか」

 チクショウ、うらやましいぜ。俺の世話もしてもらいたい。


 藤堂さんに事務所のことを聞いてみた。

「ああ、あのビルは俺達の他は誰も使っていないから構わないだろ」

「じゃあ、4階に引っ越してきても大丈夫ですね」

 これで電車移動の手間が省ける。

「ああ、使っていたテナントが夜逃げして家具や事務机が放置されているが、一人で住むのには問題がないだろう」

「そうですね」

 世の中、色々あるんだなあ。

「お金があるんだから、あんたは最上階だけじゃなくてビルごと買い取ればいいんじゃないか」

「それは……」

 そうか、丸ごと買ってしまうという手があったのか。

 ビルって値段はいくらなんだろう。登録とか税金とか面倒くさそうだなあ。

「とりあえず、4階だけにしときます」

「そうかい、佐藤さんがビルのオーナーになれば家賃を払わなくて済むと思ったんだが」

 そう言って、にこやかな顔をする。家賃を払う気がないのかよ藤堂さんは。俺がビルの持ち主になったら、きっちりと集金するつもりだ。


 馬車を借りて藤堂さん達とシンヤードの町に行きたいと言ったら、トルティアも一緒に付いていくと言う。

「今日は何のご用で行くんですか」

 トルティアは定番の服だった。もっと別のコーデを見てみたい。

「銀を査定してもらおうかなと……」

 バッグから銀が入った袋を出して中を見せた。

 息をのむ彼女。

「これは銀ですか!」

「ええ、純銀の板ですよ」

 笑って答えた。やはり、異世界で銀は貴重な物らしい


 彼女に馬車を用意してもらい、藤堂さんが御者台に座った。その後ろの席に俺達が座る。

 シンヤードの町に向けて出発。

 藤堂さんは車の運転をするように、すんなりと馬を操っていた。日本では馬車など運転したことはないのだろうが、藤堂さんは器用な人だ。


 揺れる馬車の上、気になるのはトルティアが藤堂さんと親しげに話していることだ。

 藤堂さんはゼスチャーを必要としないで普通に会話している。異世界の言葉を完全にマスターしたらしい。

「佐藤ちゃーん。ボンヤリしていると、藤堂さんに彼女を盗られちゃうかもよ……」

 長沢が耳打ちしてきた。

「そ、そんなことは……」

 マズい、それは大問題だ。

「トルティアちゃんはファザコンかもよ……。中年オヤジの隊長に父親の姿を重ねていたりして」

 彼女の両親は遠くに出稼ぎに行っているという話だった。寂しさのあまり、頼りになる藤堂さんに思いを寄せても不思議ではない。

 不安感が湧き出て、胸がざわめく。

「失恋したら、あたしが慰めてあげるわよーん」

 そう言って接近してくるホモデブを押しのける。

 藤堂さんとトルティアが恋人になる? その状態を想像すると寒気に似た灼熱が体をむしばんだ。これが嫉妬というものか……。

 俺は何も言わずに藤堂さん達から顔を背けて、流れゆく景色に目をやった。


  *


 シンヤードに着いたのは昼前。

 ギルドの近くにある食堂に入ることになった。

 テーブルにつくとメイド服のような物を着たウェイトレスが寄ってきた。ここはメイド喫茶かよ。

「えーと、この定食をもらおうかしら」

 トルティアが木の板に書かれたメニューを指さす。

 俺を含めて日本組はメニューの文字が読めなかったので、全員が同じ定食を頼んだ。

 他の席の客は珍しそうに俺達を見ている。自衛隊の服や俺のワークシャツなどは今まで見たことがないよな。

 やがて可愛いウェイトレスがやってきて食事を並べた。

 目の前には豆のスープとパン、それに鳥の唐揚げなどがそろった。これは鳥だよな……鳥だと思い込むことにしよう。


 食堂を出てギルドに向かう。日本で買った銀を査定してもらうためだ。

 トルティアに案内されて、貴金属の取り扱い窓口に行った。

「すいませーん。この銀を見てほしいんでけど……」

 こんな言い方で良いのかな。

 すぐに係員がやってきた。暑苦しい黒のコートを着た若い男。

「これをちょっと査定してもらいたんです」

 銀が入った袋をカウンターに置いた。なんかデジャヴを感じる。質屋を思い出したのか。

「拝見しましょう」

 袋を開いた男の目つきが変わった。中から1枚の板を取り出す。

「これは合金ではない? まさか……」

 大きな天眼鏡を取り出して、じっくりと鑑定している。

「おーい、カリーナ! ちょっと来い」

 大声を出して手招きすると、奥から女の子がやってきた。

 黒いベールをかぶった長い黒髪の少女だった。全身が黒っぽい服装で小柄、いくつかの指輪をはめている。若手アニメ声優の誰かに似ているのだが名前を思い出せない。トルティアとは、また違った感じの美少女だった。

「カリーナ、この銀の板を鑑定してくれ」

 男がカウンターの上に1枚の銀を置く。

「はい、分かりました」

 カリーナと呼ばれた少女は目をつむり、両手を板の上にかざして呪文を唱えだした。

 彼女の手がボンヤリと光り出す。

 しばらくすると呪文が止まり、少女は少し引きつった顔で男を見る。

「すごい、純銀ですよ、これ! 混じり物がない銀なんて初めて見ました」

 魔法を使って鑑定したらしい。

 ギルドの男とカリーナが俺のことを凝視していた。


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