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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第1章、異世界転送
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第16話、マッドドクターK


「それで、どういった事なんだ? これは」

 健司さんが腰に手を当てて麻美さんにたずねた。

「何から説明したものかしら……」

 話しても理解してくれるだろうか。まあ、コボルトの現物を見ているから何とかなるか。

 麻美さんと俺は交互に、これまでの経緯を話した。


「なんだよ、それー!」

 彼が大声を放つ。

 そうだよな、いきなり異世界とか言われても受け入れることはできないだろうな。

「そんな楽しい世界なら、俺も連れてけよー!」

 えっ?

「自衛隊では戦うことなんか無かったんだぜ。災害救助とか荷物の運搬ばかりでさあ。チクショウ、銃を撃ちまくるために自衛隊に入ったてえのによう」

 両手を天に向けて、本気で嘆いている。

 あれっ、健司さんって……。

「ああ、マシンガンを撃ちまくりてー。ナイフで敵を殺しまくりてえぜ。手榴弾を投げてドカーンと破壊してえんだよな」

 ああ、この人も変な人だ。戦争マニア、戦闘凶というべきか。美形と言うほどでもないが、引き締まって端整な顔立ちをしている。麻美さんと同じで、黙っていれば普通の人間なんだけど……。

「おい、あんた」

 俺は両肩をガッシリと捕まれた。

「はい、私は佐藤ですけど」

「佐藤さん、俺を異世界とやらに連れて行ってくれ」

 この人は本気だ。目が爛々と輝き、それは獲物を狙うコボルトのよう。

「でも、藤堂さんからはリュックを先に持ってくるように言われているんですけど……」

「いいよ、そんなの。それよりも俺だ! 向こうでコボルトとやらをガンガン殺しまくってやるぜ」

 ニターと嫌な感じの笑みを浮かべて俺に詰め寄っている。目つきが普通じゃない。勘弁してくれよ。

「いい加減にしなさいよ、健司!」

 麻美さんが腰に手を当ててビシッと言い放つ。

「あんたは予備兵力として待機ということだったでしょ。所長の命令が聞けないの? だったらクビよ、クビ!」

 健司さんが舌打ちをして俺から離れていった。

 この人でも解雇は怖いらしい。それもそうだろうな。こんな人を雇ってくれる会社があるとは思えない。


「しかっしさあー」

 コボルトの近くに寄って腕組みをしている健司さんが独り言のようにつぶやく。

「佐藤さんが持ち上げることが可能な物だけ転送できるんだよな」

「ええ、そうですけど」

 それがネックなんだよな。もっと重い物を運ぶことができれば……。

「でも、こんな巨体でも運ぶことができたんだろ」

 彼が足でコボルトを小突く。

 あっ、そう言えば……。コボルトは軽く見積もっても200キロは超えている。持ち上げるなんて俺には不可能だ。

「なんか、いっぱい持って行く方法があるんじゃないか」

 そうだよな、コパルの話では重量物は持っていくことができないということだった。しかし、そのルールには適当なところがあって、抜け道があるのではないだろうか……?

 どのような手順でコボルトが一緒に来たのか……? 俺は高い天井を見上げて考え込んだ。


 ビッビー。

 シャッターの外から車のクラクションが聞こえた。

「ドクター啓治が来たわ」

 麻美さんがシャッターに近寄ってガラガラと開ける。

 外にはミニバンが停まっていて、その車のそばに立っているのは白衣の中年。

 背が高い男だった。俺よりも少し年上だろうか。髪はボサボサで眼鏡を掛けている。ブレザーの上に白衣をまとっていた。普段からそういった服装なのか。

 顔は細面で、どこか間の抜けたような感じだった。

「やあ、麻美君。珍しい動物が手に入ったそうだが」

 麻美さんがコボルトを指さす。

「これよ、これ。ドクターが喜びそうな生物よ」

 ロープで縛られてコンクリートの上に横たわっているモンスターを見て、ドクターは口を結んで目を細める。

「なんということだ。すばらしい!」

 そう言ってコボルトの横にしゃがみ、毛むくじゃらの腕をなで回す。

「地球の生態系には存在しない生物だ。ああ、まだ生きているんだ。信じられない……クフフフフフ……」

 いやらしい笑い。興奮して呼吸が激しくなっている。黒縁メガネの奥で目がキラキラと輝いていた。

「これは、どこで手に入れたんだい?」

「内緒。企業秘密でーす」

 ニコニコ顔の麻美さんは口に人差し指を当てている。けっこう可愛い表情だ。

「それで、いくらで買ってくれる?」

 コボルトを売るのかよ。麻美さんという女は……。

「100万円でどうかな」

 買うのかよ、このドクターは。

「オッケー」

 ご満悦な表情の彼女。

 ドクターは車に戻り、札束を持って帰ってきた。

 彼は黙って渡し、麻美さんがニンマリとした顔で受け取った。密猟者が絶滅危惧種のカワウソを売り払っているというイメージが頭に浮かぶ。

「では、研究所に持ち帰って可愛がってやるかな……クフフフフフ……」

 まるで恋人を見るような目だ。優しく頭をなで回している。

 可哀想なカワウソ。じゃなかった、異世界から迷い込んだコボルトは、散々実験されたあげく、切り刻まれてしまうんだろうな。

 ドクターは白衣のボタンを外し、ブレザーの内ポケットから注射器を取り出す。チラリとメスのような物も見えた。

 いつも解剖道具を持ち歩いているのか。あんたはブラックジャックかよ。

 たぶん、麻酔薬だろうと思う薬剤をモンスターの首筋に注射。

 ぐったりとしたコボルトを4人でミニバンに乗せた。


 去って行く車を脱力感とともに見送ってから、俺達は2階に上がった。

 散乱している事務用品。事務所の中はメチャクチャだった。コボルトの野郎、派手に暴れやがって。

 軽く片付けを手伝ってから、俺はソファに座り込む。ああ、なんか今日は疲れたあ。

 横に置いてあったショルダーバッグを手に取った。チャックを開いて中を確認するが、物色された形跡はない。いくら麻美さんでも、お金を抜き取るとか、そこまではやらないよな。

「これ、成功報酬です」

 そう言って、400万円をテーブルに置く。片付け作業をしている健司さんが目を大きく開いて札束を見ていた。

 まだコボルト殲滅戦の状況を確認したわけではないが、藤堂さんなら良い結果を出してくれているに違いない。

 麻美さんが駆け寄ってきて札束を手に取り、ほっぺたにスリスリ。

「ああ、今日は商売繁盛だわー」

 この女は、どういった人生を送ってきたのだろう。

「俺はアパートに帰ります。また夜に来てリュックを異世界に届けますよ」

 まだ散らかっている事務所を出て、大通りでタクシーを拾った。


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