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異世界転生、おっさんニートの成功物語  作者: 佐藤コウキ
第1章、異世界転送
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第13話、俺はスポンサーなんだけど


 事務所に戻ってきた。

 麻美さんと長沢が驚きの表情で俺を見ている。

「本当に異世界に行ってきたのね……。急に消えて、急に現れるからびっくりするわ」

 彼女は事務机に座って、札束を手にしている。本当にお金が好きなのか。

「佐藤さんのことを心配してたのよー」

 長沢が両手で抱きつこうと迫ってきた。

「はい、これ。藤堂さんから!」

 ポケットのメモを突きつけるようにして長沢を押しのける。

 彼はメモを開いて中を読む。その後ろに麻美さんが回ってのぞき込んでいた。

「うわー、予備兵力としてケンチャンを呼べってさ……」

 長沢が顔をしかめる。

「えー、あの御劔みつるぎ健司けんじを呼ぶの?」

 麻美さんも露骨に嫌そうな顔をしている。

「誰ですか、その……やけにアニメの主人公的な名前の人は」

「隊長の部下だった男よ。藤堂さんも手を焼いていたわよん」

 そういう長沢も世話をかけていたんだろう。藤堂さんの部下にはろくな人材がいなかったんだなあ。

 俺は心の中で毒づいた。


 転送可能になるのに、20時間以上もある。

「とりあえず、一度アパートに帰ります」

 そう言ってバッグを肩にかける。

「えー、泊まっていけばあ。ソファで寝ればいいじゃない。あたしが添い寝してあげる」

 しなを作って長沢が俺を引き留めた。

 バカを言え、ホモデブ。そっちの世界には行きたくないんだよ。

 事務所を飛び出してタクシーを拾った。夜も遅いので、電車の本数が少なくなっているからだ。


 アパートに着いて、すぐにベッドに入った。今日は疲れたなあ。


 翌朝、起きてから、いつもの適当な朝食。

 録画してある深夜アニメを見る。今は番組の改編時なので、新しいアニメがたくさん放送される。それらを全部チェックするのが大変だ。でも、3週間も経てば、見るアニメは半分に減る。


 日が暮れたころ、事務所に向けてアパートを出る。体は34歳に戻っていた。

 マクドナルドでハンバーガーを食べてから藤堂探偵事務所に。

 何度も往復するのは大変だなあ。車を買うかな、それとも今後のことも考えて事務所の近くに引っ越すか。これからも村がモンスターに襲われるかもしれないし。


「待ってたわよん」

 長沢は迷彩服に迷彩柄の帽子。テレビで見る自衛隊員そのものという格好をしていた。腰に戦闘用の大きなナイフを付けている。

「必要経費を払ってくれないかしら。所長が武器とかバンバン買っちゃってさー」

 花柄のブラウスにタイトスカートの麻美さん。その服も経費で落とそうと思っているんじゃないだろうな。武器というのはピストルのこと? 日本で拳銃とか簡単に手に入るものなのか。

 ……まあ、いいや。とにかく今はコボルトのことだけを考えよう。

 俺は、ハイハイと言ってカバンから札束を取り出す。

「300万でいいですか」

 テーブルの上に置くと、麻美さんがニンマリと口を三日月のようにして持って行った。お金に関しては野獣のような人だなあ。家畜を狙うコボルトみたいな女だ。


「じゃあ、行きましょうか」

 俺は少し腰を落として長沢に背を向ける。

「ええ、佐藤ちゃーん。一緒にイキましょーね」

 やつは両腕を俺の首に回し、背中に太った腹を押しつけてきた。重い! 80キロくらいか。

 しっかりと両足を踏ん張り、下腹に力を入れる。トルティアに早く会いたい。

 すると目の前がボンヤリと白くかすんできた。もうすぐだ。もうすぐ異世界に飛んでいける。

 長沢の息を右の頬に感じる。ああ、嫌だ……。突然、やつは右頬にチュッとしてきた。

「ギャー!」

 目の前が暗くなって膝がカクンと折れ、意識が消える。


 気がつくと朝日に照らされたレンガ造りの家。

 長沢のせいで四つんばいのオンブ状態で到着。ワンワンスタイル俺にワンワンスタイルのホモデブがしがみついている。

「おお、やっと来たな」

 向こうから藤堂さんが歩いてきた。

 背中の長沢を振り払って立ち上がる。やつは口を開けたまま異世界を見回していた。

「約束通り、長沢さんを連れてきましたよ。昨夜は大丈夫でしたか?」

 トルティアもやってきた。可愛い笑顔を見ると嫌な気分も流れていく。

「夜はコボルトが2匹ほどやってきたぜ。偵察なんだろうな」

「えっ」

「1匹は殺したが、1匹は逃がした。たぶん、今夜あたり集団で襲ってくるだろう」

 言葉を失った。あのモンスターを一人で倒したのか。すげーなー自衛隊。レンジャーって人間なのかよ。

「……トルティア、会議、行こう……」

 藤堂さんがトルティアにゼスチャー混じりで話しかけた。

「あれ、藤堂さん。……異世界の言葉が分かるんですか」

「ああ、英語と文法が似ているからな。何とか片言で話すことができるようになったぜ」

 そう言って藤堂さんは、ふてぶてしい笑顔。やはり、隊長を務めていただけあって優秀なんだな。


 トルティア家の居間。

 テーブルには藤堂さんと俺、それに長沢とトルティア、村の自衛団の男が座った。

「今夜が決戦になると思う。コボルトが集団で襲ってきたら、非戦闘員は絶対防衛権に避難、戦闘員は作戦通りに指示された場所に待機してくれ」

 藤堂さんが議長となって作戦会議を進めていく。

「あの、絶対防衛圏って?」

 俺が聞く。

「この家と、他に3軒をまとめて柵で囲っておいた。女子供や老人は、そこに隠すことにする」

 藤堂さんは、布に描いた村の地図をテーブルに広げて指で示す。

 なるほど。

「それから、家畜小屋の周りに柵を作り、山羊などを放してコボルトを引きつける」

 なるほど、なるほど。

「佐藤さんは家畜小屋の中に隠れてコボルトが来るのを待つ」

 えっ。

「コボルトがやってきたら、小屋から飛び出して親玉のコボルトを槍で突き刺せ」

 えええーっ。

「ちょっ、ちょっと。待ってくださいよお!」

 思わず立ち上がる俺。

 聞き違いだろうか。なんか、とんでもないことを要求されたような。俺はスポンサーなんだけど……。


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