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06:骨董品屋の防衛兵器

魔力の補給を済ませると、俺は骨董品屋「ダンジョンバサラ」へと足を運んだ。

ここはパシバの街に数多くある雑貨屋の中でも、一際”胡散臭い”店だ。

商店街の端にあるので人通りが少なく、おまけに表通りの裏路地にあるのでそもそも人が余り立ち寄らない店だった。

ただ時間を潰すのには丁度良く、変なものを沢山置いているので、俺はこの街に来てからよくここには立ち寄っていた。

俺は薄暗く、物が散乱する店の奥で、店の主人に訊ねた。

勿論、ラーギラの件で、だ。


「……ってな感じの盗賊なんだが、それっぽい奴を見た事ないか?」


人気は余り無いが、俺はここにラーギラが立ち寄った可能性は高いと見ていた。

ラーギラは仇名からもわかるように「盗賊」であり、手持ちの盗品を売りさばく為にどこかの店に寄るのは間違いないと踏んだからだ。

その為には、人が良く利用する表の店ではなくこういう、なるべく人が立ち寄らない裏通り店の方が都合がいい。

目利きの店の主人は盗品を見抜けると言われているから、仮に盗品だとバレても騒ぎにはならない場所を選ぶはずである。


「う~む……」


俺は店の主人に、ポーションカウンターのマスターから聞いたラーギラの件を話した。

いくつかラーギラが盗み出したとされる品の事もわかっていたので、それも話しながら。

骨董品屋の主人は、異様にデカイ眼鏡をかけた偏屈そうな爺さんだった。

最初は訝しそうにこちらを見ていたが、国家魔法公官の手帳を見せると、一転してどこか感心した目でこちらの話に付き合ってくれた。


「わしもラーギラとか言う奴の事は知ってはいるが、顔もわからんとなるとちょっとなぁ」


「そういや……顔はわからないが、目撃情報の中には”背丈が子供っぽい”って話があったな。多分、かなり背の低い奴だとは思うんだが」


「子供っぽいって、おたくよりもって事?」


「俺は……これでも年齢的にはちゃんとした大人だ。背は大人っぽくないかもしれないがな」


あくまでも年齢的には、だが。

現実の年齢は高校生なので、サバを読んでいるとも言える。

ただこの辺はPLプレイヤーとして、キャラ設定に準じて「やや大人」と言うべきだろう。

ちなみに今の俺「ニュクス」の年齢は設定上は”24”となっている。

背が低く子供のような見た目なのは、先天的な魔法使い特有の病気の影響である。


「そういえば子供の旅人が珍しく来たような気もするけどねぇ~……いちいち憶えてはないかねぇ」


「そうか……」


「そりゃ確かに来る人は少ないけども、憶えてるかどうかってなるとね。悪いね」


爺さんは眼鏡の横にあるネジを回しながら、鑑定中と思われる像を見ていた。

狐を象ったと思われるそれは、所々に剥がれかけた金箔が張り付いていて、ひどく痛んでいるように見えた。

眼鏡のネジを回すたびに、爺さんの目が大きくなったり小さくなったりしているので、どうやら倍率を調整しているようだった。眼鏡にそういう機能があるのだろう。

やがて狐の像を片付けると、今度は何か歯車のようなものを取り出し、錆を取り始めた。


「オヤジ、それ、何の部品だ?」


何かの機械の部品に見えるが、それにしてはやけに大きい。人間の頭ほどはあった。


「こいつか? こいつはな、パシバの”灯台砲”の部品じゃ」


「”灯台砲”?」


「パシバには国境に沿って壁があるじゃろ? そこにいくつか見張り用の塔があるんじゃが、それには大砲を備え付けた防衛用のやぐらがついてる。その中にある一番でかいのを”灯台砲”って言って、その角度を調整する部品がこいつなんじゃよ」


骨董品屋の主人は、得意げに巨大な大砲の絵を広げた。

背景には夜と石畳、そして砂漠の絵が描かれていて、その中央に大きなリクガメのような姿の大砲が鎮座していた。

これが話で言っていた灯台に設置されている「灯台砲」とものらしい。


「そういや壁があるにはあったが……防衛用の大砲なんてものが付いてたのか」


「こいつで街の最大最強の防衛施設の調子が決まるじゃぞ? ゾクゾクするもんじゃて」


「だが、なんでそんなモンがあるんだ?」


パシバの壁はちょうど砂漠と街を区切るようにできている。

俺はただ境界区切りのためだけかと思っていたが、防衛用の設備まで備えてあったらしい。

だがこんな荒れ地が領域を分ける戦いの舞台になるとは思えない。

ならば何故、防衛施設などあるのだろうか?


「それはな、”闇の巨人”たちを追い払う為に作られたからなんじゃ」


「”闇の巨人”……? なんだそりゃ?」


「その昔な、ここパシバからクログトの方にある砂漠地帯に”闇の力を自在に操る巨人”が住んでいたんじゃ」


店の主人が言うにはこうだ。

このパシバの街のクログト側、砂漠地帯には大昔「闇の巨人」なるものが住んでいたという。

彼らは黒い霧のようなエネルギーを纏った巨大な怪物であり、魔法や魔術が殆ど効果が無かった。

彼らは度々パシバへと攻め込み、略奪と暴虐の限りを働いていたという。

街は滅びるかと思われたが、ある時、街に通りかかった錬金術師と魔工学に長けた魔道具師が、その惨状を見かねて作ったのが灯台砲だった。

灯台には何千人、何万人もの魔力、気力の源子を込める事が出来るようになっており、街の人々はこれを使って町中の人間の力を集め、闇の巨人たちを追い払った。

いくら魔法や魔術に耐性があろうとも、想定外の強力な魔力を込められた攻撃を防ぐ事はできなかったというわけだ。

そして巨人たちが倒れた後も、灯台砲は今も防壁の上で街を守り続けているのだという。


「ありがちな昔話だな」


本当に、どこにでも転がってそうな昔話だ。

俺が退屈そうに言うと、少々不機嫌そうに爺さんは言った。


「わしゃは好きだね。老兵って感じがしていいじゃないか」


「老兵ね……いい加減隠居させてやった方がいいんじゃないか」


「じゃかましいわ!」


「しかし歯車を交換って、今も使われてるのか? そんな骨董品みたいなモン」


「いんや、防衛にゃ使われてない。街にはクログトとリハールの防衛官がやってきてるから、仮にまた闇の巨人なんてもんが攻めてきても使われることはないだろうさ。ただ……今はイベントで花火を打ち出したり、街の気温を下げたり上げたりする魔術式を打ち上げたりもしてるのさぁ」


「なるほど……」


「戦いは終わったが、仕事はしてるってわけじゃよ」


戦う事は無くなったが、やれる仕事はあるというわけか。

まぁ、確かに年寄りが好きそうな話ではあるな。

爺さんは歯車の錆取りを続けながら、言った。


「あんた、結構前からここに度々来てるようじゃが、あと何日ぐらいこの街に居るんじゃ?」


「う~ん。あとは捜索の仕事をやってここの派遣は終了だから、まぁ1週間ちょっとぐらいだな」


「ならいい。丁度1週間後に、この街の生誕祭で、丁度灯台砲の花火が打ちあがるから、都合がつけば見に行くといいぞい」


「1週間後、か……考えとくよ」


ルールブックに記載されていた事を思い出す。

1週間後。それは今、俺が参加しているパシバの街を舞台にしたシナリオの制限時間である。

これから何かが起こって1週間後には終わる。

その時にもしかしたら―――世界が破滅するかどうか、なんて事も決まっているのかもしれない。

そう考えると店の主人を能天気だな、と思ったがプレイヤーにしか先の事はわからない。

こう思うのは勝手な事なのだろう。


「あれ? あなた……」


そろそろ次の店へと行こうとしていると、入り口からミスカがやってきた。

公官の服装は、骨董品が並ぶ古臭い店ではかなり浮いた風に見えた。

二度手間になってもいけないので、俺はここで聞いた事を粗方話した。


「ってな感じで……俺なりにここの聞き込みはやったぞ。いちいち客の事は憶えてないってさ」


「……なんであんた、あたし達がラーギラを探してるって知ってんの?」


「あっ……」


言ってしまって口を滑らせたことを後悔した。

怒りの鉄拳が飛んでくるのを覚悟したが、ミスカは続いて言った。


「盗み聞き? どうやったの?」


「……実は……」


隠すのも無理そうなので、俺は空間接合の魔本が

あの図書館にうまい具合に配置されており、

それを使ってミスカ達の会話を聞いた事を話した。

すると、ミスカは大して表情を変えずに言った。


「ふぅん……で、あんた次はどこへ行くの?」


「え? あ~……この街の裏通りとか賭博場とか、ヤバそうな場所を重点的にやるつもりだ。どうやらそう言う所は調査されてないみたいだからな。ってか、盗み聞きはいいのか?」


「別に知られててもいい事だわ。全然手が足りてないし。それより、調査されてないってどういう事?」


「ちょっとこっちのツテでな。どういう風に街を調査してるか、聞いたんだよ」


正直、聞き込みを当てもなくやり続ける、というのは気が進まなかったが

ラーギラがこの街にいる可能性がある以上は、やるべきだろう。

それが仕事というものだ。

俺が店を出て歩き始めると、ミスカも行く当てがないのか、後をついてきた。

そして小さな手帳を取り出して、眺めながら言った。


「あなたって……こういう事ばっかりしてるの?」


ミスカは本のページを一枚取り出して、こちらへと見せた。

彼女が持っているのは「統合魔書」というもので、

色々な書類をまとめられる魔道具である。

ページを取り出して切り離したり、逆に書類や本を食わせてまとめたりできる便利なものだ。


「うん? いきなりなんだよ」


「あんたの経歴を見させてもらったわ。図書館の司書に、植物の採集とか……廃棄物処理、書類整理、住居調査。地味な仕事ばかりやってるのね」


「別にいいだろ。そういうのが臨時の職務領域ってやつなんだから」


臨時職員はアルバイトであり、基本的に雑用の仕事しか回ってくることはない。

無論、希望すればもっと難しい仕事をやる事もできるし、それで実力を認められれば

正規職員として採用されることもある。

だが俺は今の所、この”異世界”というものに慣れていない。

だから余り難しい仕事をやる気はないのだ。

それに何度か正規の採用試験は受けようとしたものの、会場に行く途中で事故を起こしたり

強烈な腹痛に襲われたりなど”妙な事故”が続き、受験は中々できなかった。


「あんた、召喚の門からここへ来た”召喚者”って話だけど、こんなものなの?」


「悪いがこんなもんだ。期待させて悪いけどな」


「珍しいから助けたけど、これなら……ほっといても良かったかもしれないわね」


「助けた……?」


「誰かに言われてないの? 門の前に倒れてたのを助けた衛兵の事。それ、あたしの事よ」


「あ……」


言われてみると、確かに女性であった気がする。

ただ、あの時は意識が虚ろでハッキリしなかったから憶えていなかった。


「それは……憶えてなくて悪かったな。礼を言うよ。ありがとう」


「いいわ。それより、前に来た召喚者は凄い力を持ってたって聞いてたけど、みんなそうじゃないのね」


「前? 俺の前にも召喚された奴が居たのか?」


「ええ。500年ぐらい前だけど。”オーバン戦乱”に参加してたって聞いたわ」


「オーバン戦乱?」


「あ、そうかアンタ知らないのね。ここへ来て日が浅いから」


「……仕事を憶えるのが忙しくてな。あんまり勉強できてないんだよ」


XYZの有名なリプレイやらプロのプレイヤーの名前などは知っているが、

この世界の今の歴史などは知らない。仕事を憶えるのと、

仕事のために使う魔法を勉強するのに忙しかったためだ。

俺が言い訳を呟くと、ミスカは溜息を吐いて話を始めた。


「リハールの一部でテロ組織の争乱が起きたの。犯人は召喚者で強力な”召喚”の魔力を持ってた。それは物体やら生き物やらを自由自在にメダルに封じ込めて”隷属”させる事ができるって強力なものよ。それでリハールとウィルネズに戦争を仕掛けた」


「ウィルネズって魔導世界か。ふたつ相手にすげぇな……」


「クログトは出身国だから直接宣戦布告はしなかったって話よ。ただ、クログトの援軍も容赦なく叩いたって話だから、事実上、すべての国と戦ったって言ってもいいわ。で、首謀者が”オーバン・ディスクス”って名前だったから、オーバン戦乱って呼ばれてるの」


「召喚者が相手ね……」


「彼と戦ったのも召喚者って話よ。相討ちになったらしいけど」


「……」


複雑な気分だった。

せっかく俺以外の召喚されてきた人間の話を聞けるかと思ったのに。


「じゃあ、召喚者って俺だけなのか?」


「他にも居るんじゃないの? あたしはよく知らないけど。ポータルからは別世界の色んなものが流れてくるって言うわ。ま、次元を渡る途中でボロボロになるらしくて、生き物は滅多に無いらしいけど。特に人間は」


「そうか……」


「だからあんた結構有名人なのよ。”ラグラジュの官庁で召喚者が働いてるらしい”ってね。あたしも召喚者が~って聞いた時は、どんな凄いヤツなのかな、って思ったわ。でも……」


ミスカは改めて手帳を見て(恐らくは俺の経歴だろう)、また大きく溜息を吐いて言った。


「やる事がこんな地味な仕事ばっかり。あなた、何の為にこの仕事に就いたの?」


「そりゃ、公官が一番……」


そこで俺は口が止まった。

一番……なんだっただろうか?


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