31:魔なる盗賊の王(4)
全てを吐き出したラーギラは、言った。
「僕はみんなと同じ人間じゃないんだ。だから人間が到底やらないような事をやっても、別にいいんだろう? なぁ?」
俺はそれを聞いて、かける言葉が見つからなかった。
余りにも―――悲惨すぎる。
心が完全に折れてしまうような出来事の後で、こうすればよかった、と言うのはただ残酷なだけだ。
「ラーギラ……お前には、同情する。そうなっても仕方ないと思う。だが―――」
間違っている。そう頭ではわかっているが、とても言葉が続かなかった。
俺が同じ境遇に置かれたら、同じことをやり返さない強さは無い。
人は、そこまでみんな強くも聞き分けも良くない。
ラーギラは頭を振りながら言った。
「お前も……結局はあいつらと同じだ。自分の事を完全に食う側で、上に立っていると思い込んでいて、自分の糧になるならどうなろうが構わないと思っている。ただの傲慢で無関心なゴミどもの一人だ。僕は……そんな奴には負けない。僕はやっと翼を手に入れたんだ。空を飛ぶための、美しい翼を。もう僕は、地面を這いずり回るイモムシじゃない……全てを乗り越えて、僕のための新しい世界を見るんだッ!!」
「くっ!!」
空から稲妻の雨が降り注いできた。
俺はそれを回避しながら、ミスカへと向かった。
ラーギラもだが、まずはミスカを助けなければならない。
(とにかく、先にミスカを……)
しかし、無傷では行かないだろう。
ラーギラもそこは完全にわかっている。
近づこうとする度、自分の影を伸ばしてこちらに触れてこようとしている。
俺は―――覚悟を決めた。
「っ!」
「捕まえたッ!」
ミスカに一気に肉薄し、シールドを破壊する。
そして背後に回ってがっしりと身体に腕を回してから、胸ポケットの部分を調べた。
ラーギラはそこを逃さず影で捕まえてきたが、もう俺は逃げなかった。
これしか、ミスカを助ける方法はない。
『解析中……能力を奪取できる確率がアップしました。コピーの精度が上昇しました。奪取の確率がアップしました』
システムメッセージのようなものが、ラーギラの方から聞こえてくる。
その度に心が不安で押し潰されそうになるが、構わずに魔術式を探した。
やがて式が描かれたメダルを見つけると、俺はミスカを抱きしめたまま、魔力を込めた。
「雲誕!!」
メダルが激しく発光すると、蒸気が凄まじい勢いで周囲に噴出し、空へと昇っていく。
そしてあっという間に夜空が雲で満たされた。
俺はそれを確認すると、水を放つ魔力を同じようにメダルへと込めた。
「成水!!」
水色のエネルギーがメダルから放出されると、街のみならずこの周囲一帯に雨が降り注ぎ始めた。
雨を浴びると、ミスカは膝をついた。
俺は力が抜けた彼女を抱えたまま空へと飛びあがり、ラーギラから距離を取った。
そして、空中でミスカの首の下あたりから生えてきた植物の芽を俺は引っこ抜いた。
途端、ミスカは糸が切れた人形のようにぐったりとしてしまった。
「よし……これでとりあえず、大丈夫なはずだ」
俺は近場に居たガダル達とレオマリからも種を抜き取った。
そして5人を無理やり抱え、攻撃が来ても大丈夫なように安全な地下へと隠した。
ラーギラが追ってくるかと思っていたが、意外にも事が済むまで追撃は無かった。
ラーギラの居た場所まで戻ってみると、その理由は明らかになった。
「凄い。凄いよこれは。今まで何百何千もの能力を見てきたけど、こんなに凄いものは初めて見たよ……!!」
「……そりゃどうも。その様子だと、能力を解析中だったか。それとも、もう奪られちまったって事か?」
「自分の目で……確かめてみるといいよッ!!」
ラーギラが身体から虹色の光を放出し始めた。
そして、こちらへと肉薄してきた。先ほどより素早い。
俺は攻撃をガードしたものの、一発でシールドにヒビが入った。
「くっ……!!」
攻撃力も、スピードも上昇している。
どうやらミスカを助ける時に影に掴まり過ぎたらしい。
だがこちらから反撃の魔弾を放つと、同じように相手のシールドにもヒビを入れることが出来た。
(パワーは同程度か……!?)
「ちっ、外側だけだとやっぱ弱いな……!」
「外側……? どういう事だ?」
俺はラーギラと距離を取ってから、訊ねた。
ラーギラは苦々しげに言った。
「……能力ってのはな。骨格があるんだよ。大きく外側と内側に分かれていて、それはまるで絵を描くかのように成立している」
「??、どういう事だ……?」
「ゲームでさ、例えば火耐性って能力があったとするだろ? レベル1、レベル2とかがそれにはある。火属性の攻撃を10%、20%とか防ぐって感じだ。今の僕は……例えるならレベル0.1とかの状態なんだよ。能力としてはお前のものをコピーは出来たけど、完全じゃあないってわけだ」
俺はそれを聞いて、ごくりと唾を飲み込んだ。
まだつまり、俺には勝機はあるという事だ。
しかし同時に―――確実に能力を学習されて行っているという事でもあった。
「いやしかし……まだ大枠の部分だけしか取れてないのに、この強さ。本当に強いね。ニュクス。君のこの能力は。まるで……そう、人間核融合炉って所か」
「核融合炉?」
「要するに原子力の発電炉のことさ。架空のものだけどね。君の能力は、言うなれば純源子を身体の中で魔力のエネルギーに変換し、それを身体中に巡らせる……だから太陽の如き力を持ったまま動くことが出来るんだ。僕の持っている攻撃能力、スピード、防御の全てをこれひとつで兼ね備えている……こんなものがあれば、確かに自信を持って前にも出て来れるわけだ。しかし―――君はまだこれを完全に使いこなしていない」
「何……?」
「色んな能力を使ってきた僕ならわかる……これの使い方が……! 君はまだ10%も力を引き出せていない。見せてやるよ……! これの本当の価値ってものを!!」
ラーギラは地面に亀裂を走らせた。
そして水の魔法を使い、地面から純源子を自分の元へと吹き上がらせてきた。
彼が大きく深呼吸をすると共に、空へと飛び散っていく虹の光が集まっていく。
ラーギラの身体へと光が集まり、彼の全身に巡っていく。
やがて光はどんどん強くなり―――強烈なフラッシュが一瞬、世界を照らした。
「さて……ここからが本番だ」
「なっ……!?」
閃光が終わると、光の中からラーギラが現れた。
だがその身体は先ほどまでとは全く変わっていた。
ニュクスのように身体自体が発光するものではなくなり、周囲に光の粒子が舞っている。
そして―――身体からは様々な形状の結晶が生えていた。
肩、膝、そして手を覆うように虹色の結晶があり、頭からは王冠のように生え揃ったものが顔をのぞかせている。
まるで、結晶の国の王のような姿だった。
「素晴らしい、本当に最高だよ……! 美しく、繊細でありながら、最強で絶対的。そして唯一無二の姿……!! これこそが、僕に相応しい姿だ!」
ラーギラは今までにないほどの笑顔でいた。
まるで今までずっと欲しがっていた玩具を手に入れた子供のような、あどけない笑顔だ。
だが、それはひどく邪悪なものを孕んでいるようにも見えた。
ニュクスにはその危険さも至近距離に居て痛いほどわかった。
(まずい……ッ! さっきとエネルギーのケタが違う……!!)
「さぁ……!! 残りも全部たいらげてやるからね……ッ!!」
ラーギラが瞬間的に目の前へと現れた。
そして、目にも止まらない速さで結晶の拳を打ち込んできた。
「が……ッ!!」
「まだ一発……そらそらそらそらそらそら!!」
シールドは何の意味もなさなかった。
俺は瞬く間に何十発、いや何百発という連続の拳を喰らって、天高く飛ばされた。
そして俺が雲に届くかという所まで飛び、失速した時には既にラーギラは空へと先回りしていた。
「おおおおおッ!!」
結晶の拳が更に巨大化し、それに俺は叩き落された。
墜落と同時に、地面深くへと身体が埋められ、街全体が地震に襲われたように振動した。
何とか地上へとはい出ると、空へと浮かんだラーギラが高笑いを浮かべ、言った。
「いい! いい!! 本当に素晴らしい!! これなら行ける……ちゃちな精霊神程度じゃなく、魔神や高級神も食える!! あの魔女王ジャスティナや、魔導神の奴等も僕のモノにできる……!! 正真正銘、この世界の神にだってなれる!!」
「なら……俺はそれを、阻止しなくっちゃあな」
ラーギラは地上へと降り、ゆっくりとこちらへと向かってきた。
完全に勝利を確信した顔だった。
何せ、大枠だけではあるものの同じ「純源子使い」の能力を手に入れたのだ。
そしてラーギラには他の奪った能力もある。常識的に考えれば、勝利は揺るがないだろう。
俺とラーギラは両手を絡み合わせ、力比べをする格好になった。
「さぁ、最後だ……! お前の心臓をぶち抜いて、能力の残り全てを頂く……!!」
「……さっきは言えなかったが、やはり言わせてもらう。ラーギラ、お前は間違ってる……!!」
「何……!?」
「お前の境遇には、同情する。お前がそんな風になってしまった事も、仕方ないとは思う。だが……お前は、間違ってる……!!」
「そうかい。それで負けてちゃあ、世話ないんだよッ!!」
ラーギラの掛け声で、更に万力のように力が込められた。
だが、俺はそれに屈する事は無かった。
逆にラーギラの方を渾身の力を込めて押し返していく。
「なんでだ……!? なんで僕の方が押し負けて……ッ!? 馬鹿な、僕の方が吸収した量は多いはずなのに……!!」
「正直言うとな。俺は力を抑えてたんだ。爆発しそうなぐらい身体に力が漲っていたからな。お前のその姿を見て……俺も少しだけ、力を開放する事にしたよ。お前の不完全な能力には、負けねぇ!!」
「不完全だって……!? 何を言ってるんだ。僕の能力は、完璧だ。間違いなんて一つもない!!」
「じゃあ、その目から流れているものは何なんだ」
「えっ……!?」
ラーギラは自分の頬を伝うものに、言われてから気付いた。
彼が手を当てると、暖かいものが目から流れ落ちていた。
それは、涙だった。
「お前は気付いているんだ。自分で大切なものをどんどん壊している事に」
「うるさい、うるさい……うるさいうるさい!! これは、悲しいからじゃない……!!」
「嬉しいようには……とても見えねぇよ。お前の表情は、笑顔が張り付いているだけだ。お前の心は……いくらやっても満足できない悲しみで溢れてるんだ。だから……俺も全力でお前を止める……!! お前自身も助ける為にな!!」
ニュクスの身体から発される光が、一層激しさを増した。
そして二人での至近距離での殴り合いとなった。
それは、確かに言ってしまえばただの殴り合いだった。
だが―――極限の魔力のぶつかり合いだった。
「おおおおおっ!!」
「そらそらそらそらぁっ!!」
強烈な一撃が相手に届くたびに、純源子によって質量も防御力も増加しているために恐ろしく重い力が地面を通して地震となって響き渡った。
その魔力には千変万化の純源子が込められているため、身体が動くたびに炎が、濁流が、稲妻が発生した。
ありとあらゆるエネルギーの爆発と奔流が起きた。
それは、まるで爆発し続ける巨大爆弾同士が、自分のすべてをかけて縄張り争いをしているかのような凄まじい攻防だった。
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やがて二人の放たれたエネルギーは巨大な結晶となって、付近へと散らばり始めた。
同時に、まずニュクスが力尽きた。
「ぐああっ!!」
エネルギーの爆発に弾き飛ばされ、思わず膝をつくニュクス。
息を切らせながら、ラーギラは今度こそ勝利を確信した。
吸収したエネルギー量こそ多かったものの、オリジナルは手強かった。
しかし、最後にはやはり経験の差がモノを言ったのだ。
『能力を吸収しています。完成度上昇。能力を適合させています……』
「ハァ、ハァ……もうすぐ、能力のコピーも完全に終わる。僕の、勝ちだ……ッ!!」
ラーギラは腕にエネルギーを集中させ、魔力の嵐を撃つ格好になった。
あの状態で魔力の大爆発を至近距離から受ければ、間違いなく、街ごと消し飛んでしまうだろう。
ニュクスは満身創痍の中、立ち上がったものの、勝てる見込みは相当に薄かった。
「最後のメッセージと同時に、消してやるよ……!!」
『能力を完全に修得しました。新能力「純源子使い」を―――』
「勝った……! 死ねェッ!!」
『こ、ピー、でき……ませ、た……コピー、修得……修、と、く……!』
「えっ……?」
ラーギラが力を発動させようとした瞬間、逆に身体の結晶が砕け散った。
そして彼の身体から純源子の力が消えた。




