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10:源子脈坑道へ

騒動は負けたミノセが大半を支払う事で合意し、また俺が騒がなかった為、カジノ側も余り強く追及はしなかった。


「さて……それじゃあ、ラーギラの件について話してもらうわ。一応言っておくけど、逃げようなんて思わない事ね」


「……わかった。わかったよ」


ミノセは観念したような口調で話し始めた。


「あんたらが言ってるラーギラとか言う奴と会ったのは、宝飾品店に居た時だ。付き添いの子に腕輪を買ってあげたくてさ」


「宝飾品店? パシバの?」


「ああ。中央通りにあるだろ? 大きな店が。あそこで品物を選んでる時にサモンカードをやる相棒を探してるんだけど……って誘われたんだよ」


「カードの相手をそんな場所で探してたの? 何で……?」


俺はそういう話について、聞いた事がある事を横から答えた。


「金持ちを相手にパートナーを探すって話は聞いた事がある。サモンカードは普通にやると金が結構掛かるからな。ただ……何でそんな話を受けた? 全く見ず知らずの相手と、よく組む気になったな」


「何でもどうしても欲しいものが賞品になってるとかで、サモンカードで一度優勝したいとかいう話だったよ。”滴る水の欠片”だったかな? 確か。でさ、同じクラスの賞品にレアな腕輪もあって僕の方も丁度いい機会だからと思ってさ。やる事にしたんだよ」


「滴る水の欠片……?」


「ナンキロウって北限の街で採れる永久氷河の結晶よ。水魔法をすごく強化する触媒になるはず」


ミスカが説明すると、何となく事情が繋がった。

確かラーギラは天候魔術の術式を持っていたはずだから、それを実際に使うために

別の道具が欲しくなったのだろう。

で、それがカジノの賞品になっていたからゲームで実際に取る為にミノセと組んだ、という所だろうか。


「なるほどね。それでゲームに参加したがったのか」


「それはいつ頃になるの? 後、組んだ後にラーギラはどこへ行ったか知らない?」


「組んだのは1ヵ月位前だったかな。行き先は……わからないよ。そこまではね。ただアイツ、しばらく街に居るとか言ってたな。あと、どこかで働いてる風だったけど……」


「働いてる風?」と俺が訊ねると、ミノセは言った。


「アイツ宝飾品店に来てたんだけど、大荷物をカートで運んでて、何か品物を卸しに来てる感じだったよ。同じ建物の別の店かもしれないけど」


それ以上の事は知らない様だったので、聞き込みはそこで終了となった。

俺はミスカと共にパシバの宝飾品店へと向かう事にした。

この街には貴金属を専門に扱う店は少なく、中央通りにある大きな店というと一つしかない。

持っていたゲーム用のカードを店に再び預け、俺はそこへと向かった。


「……行っちまったか……なんだったんだアイツは」


「アイツは運営殺しだよ、兄ちゃん」


ニュクスたちの姿が見えなくなって、呟くようにミノセが言うと初老の男が言った。

先ほどの賭けで稼いだらしく、高そうな葉巻を加え、満面の笑みを浮かべている。

ミノセが男へと訊ねた。


「運営殺し?」


「あのニュクスはサモンカードで勝ちまくって、しまいにゃ運営が潰そうとしたんだけど、それすらも倒して”大金をかけるギャンブルはやらないでくれ”って泣きつかれた奴なのさ。あいつ自身は金が欲しくてゲームやってるわけじゃないみたいだけどな」


「そ、そんな奴だったのか……道理であんな無茶苦茶な倍率が掛かるわけだ」


「このカジノには、顔パスで入れる特別な奴が何人がいるんだが、金持ちと町の有力者を除くとアイツだけさ。何も持たずにここへ降りて来れるのは」


「……しばらくカードは止めとくか」


ミノセは手元に残ったゲーム用のカードをテーブルに粗雑に放ると

飲み直すべくカウンターへと歩いて行った。



パシバの街を夜の帳が包み込んでいく。

砂漠と荒野の中間にあるこの街は気温の変化が大きく、昼間はうだるような暑さだが、夜は凍えるような寒さとなっていく。

とはいえ魔法使いやら魔術師というのは、気温の変化も自前の魔力防壁である程度防げるらしく、街中で寒さ対策に厚着をしている人間はさほど多くはない。


「うう……寒いぜ」


俺のような属性魔法のヘタな奴はこういう寒暖の差には強くない。

だから、そういうのを防御する意味で身体には外套を羽織っている。


「う~ん……」


カジノでの騒動の後、俺たち二人はレオマリと合流した。

そして宝飾品店が入っている建物の店に、片っ端から聞き込みを掛けていた。

そして、とある食料品店で話を聞いていた時、店主から有力そうな情報を掴んだ。


「子供の旅行者か。確かに最近、雇ったけどな」


「どんな奴だ?」


「ちょっと前に雇った奴なんだが……宿代を稼ぎたいってんでな。遺跡荒らしみたいな格好と言えばそんな感じだ。金には困ってるようには見えなかったが」


「それじゃあ、早速探させてもらうわよ」


ミスカはそれを聞き次第、食料品店の中へと入っていった。

大きめの店内では大勢の人が働いており、探すのは面倒そうだ。

それを見て、店主はミスカを呼び止めようとしたが彼女はさっさと入っていってしまい、声が届かなかった。

レオマリがそれを見て訊ねた。


「何か伝えることでもあったんですか?」


「いや、あいつまだ出勤してないんだ。もう少ししたら来るはずなんだが」


「ええ? まだ来てないんですか?」


それを聞いて俺は「しめた!」と心の中で発声した。

これを利用すれば、ミスカよりも先にラーギラと接触する事ができると確信したからだ。

俺は店主に訊ねた。


「そいつはどっちの方向から出勤して来るんだ?」


ニュクスが訊ねると、店主は指を左手の方向を指差して答えた。


「あいつは……こっちからだよ。砂漠側の道からだ。”源子脈の穴”を通ってくるとか言ってたね」


「”地下源子脈”か……」


「源子脈」というのは純源子というものが流れている場所のことを言う。

世界には人間と初めとして生き物に源子と呼ばれるものが流れている。

精神を司る魔力源子やら生命力を司る気力源子やらだ。

それを操って人や魔物は魔力を使うのだが、それらはこの世界全体にも流れている。

生き物が死を向かえ、土へと還ると源子は世界へと溶けていき、やがて大きなひとつの巨大な流れとなっていく。

そんなあらゆる源子が組み合わさった”星の血”とも呼べるものを”純源子”と呼ぶのだ。

色んなものが混ざってるのに”純”なんておかしいかもしれないが、こう呼ばれている。

そしてそれは、とんでもない危険物質である。


「厄介な場所を通ってくるもんだ」


純源子はとんでもないエネルギーを持っている。

余りにも強すぎる為、迂闊に触れてはいけないものなのだ。

現実で言うところの核物質やマグマのようなものを思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。

魔法使いは仮にマグマの中に入っても、火の力を極めた奴ならば普通に潜って行けるが、純源子は勝手が異なる。

限りなく純粋な力が、普段は見えないが集まって物質化し液体となったもの。

それは、近づいただけでも肉体が壊死して崩壊していくほどなのだ。


(あれには、あんまり近づきたくはないもんだ……)


物質なら殆どのものが腐食して劣化していき、あっという間に土や塵へと還る。

しかし―――同時に膨大なエネルギーの源である純源子は、街などの施設維持に

とても有用なものでもあるので、この純源子が流れる鉱脈の近くに大型の街や都市が作られることが多い。

恐ろしく危険なものではあるのだが、基本的には地下深くを流れている為、

扱い方さえちゃんとしていれば、そこまで危険視はしなくても問題ないのである。

ただ街によっては源子脈まで続く空間がある場合もあり、そういう場合は源子脈の方に

周囲にエネルギーを漏らさない為の防御壁やら退避用の地下道などが設営されている。

ここパシバにも、地下にそういった源子脈を遠目で見る事ができる坑道があるのだろう。


「まぁいい。行ってみるか……あ、そうそう。さっき入っていった魔女には、この事はすぐには伝えないでおいてくれないか?」


「へっ? でもあの人も同じ公官じゃあ……?」


「あー……えっとな、俺はちょっとそいつに個人的な用があるんだ。だから先に会いたいんだよ」


「はぁ……わかったけど、そんな長くは隠し通せないぞ? もし、雇ってるあいつがあんたらの言ってるように指名手配犯で、下手に匿ってると思われて、公官に目付けられたら溜まらないからな」


「聞かれなかったら答えなかった、って言えばいい。店を調べつくしてから聞きに来るだろうから、適当にあいつから逃げまわっててくれ。30分ぐらいは稼げるはずだ」


ニュクスが言うと「わかりました」とだけ言って店長は店の中へと戻っていった。


「個人的な用、って……何ですか? ニュクスさん」


「レオマリさん。ちょっといいですか」


俺は手短にレオマリに事情を説明した。

自分が召喚者であり、そして同じように召喚者であった人間を探している事。

そしてラーギラが恐らくその人間ではないか、と疑っている事。

そしてミスカを会わせるとラーギラに逃げられてしまう可能性が高いと思っている事。


「……とまぁ、手短ですが。こういう事情です」


「……なるほど。そういう事ですか。それなら私も協力します」


「えっ? 協力してくれるんで?」


「はい。私もミスカさんを少し、連れまわせそうならやってみます」


意外な申し出だった。

彼女は真面目だから、こういう事には目を瞑ってくれても

協力まではしてくれないと思っていたが……。


「あ、ありがとうございます!」


「それにしても……あなただったんですね。”召喚者”って。話には聞いていたんですけど」


「ミスカも言ってましたね。な~んか噂になってるとか……」


「はい。とにかくここは私が何とかするので、行っちゃってください」


俺はレオマリの言葉に返事を返すと、店主に言われた方向へと駆け出していった。


「”あの人も”だったんですね……」


レオマリの呟いた一言は、ニュクスには聞こえなかった。


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