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泡沫になったけど……


「お食事処デザイア」には歌姫がいる。


一目では分からないが見るものが見れば目を剥くだろう逸品のハープを手にどこの国の歌とも知れない不思議な歌を歌い続けている。


歌姫の名はガリエル。


この界隈で知らぬもののいない有名人であるがその素性は闇に包まれている。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」


彼女の歌が終わると客の動きが止まる、そして一瞬の空白の後に拍手喝采が巻き起こるのだ。


「よっ!!世界一!!」


「やっぱりそんじょそこらの吟遊詩人なんかとはものが違うわなあ……」


「きゃー!!おねえさまー!!」


「うっとりしちゃう……枕元で歌ってほしいくらいよ」


それに対してガリエルは笑顔で手を振る。


なお彼女の定位置である椅子の上からガリエルが動いたことは一度もなく歌以外で声を発したこともない。


しかしそんなことを気にする余裕など聴衆にはない、ただ旋律に飲み込まれるのみである。


「(私に喝采を送るのは女の子だけでいいのに、男など滅べ)」


人々は笑顔の裏でこんなことを思っているなど露とも考えないだろう。


「〜〜〜〜〜〜〜〜♫」


彼女の歌をこの世界の存在は理解できない、使用する概念が違うからだ。


ただ音としてのみ受容するのだ。


しかし一緒に店にいる仲間たちはその歌詞が理解できる。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♬(愚かな半身、神の誤り、全ては男の創造から始まった。神は最初に女を創るべきだった)」


このように大抵はひたすら男憎しを歌い上げているが時たま誰かを狙い撃ちしたような歌を歌うこともある。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪(哀れな子不思議の子、ウサギも帽子屋も女王も全部まとめて手中に収めて。鍵を探して彷徨う迷子、あなたの道は閉じた籠)」


この時はメアが皿を十二枚とコップを5個破壊した。


その他にもごく稀にその場にいるメンバーのトラウマをえぐるような歌をいきなり歌い始め被害を出すことがある。


その際に激怒したメアがガリエルを問い詰めたがその時の記憶がないと言う。


スレプトを起こしてまで記憶を探ってもその記憶は無かった為不問となったが何時狙い撃ちされるか分からないために曲が変わる際には仲間内に緊張感が走るのだ。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♬」


曲が終わる。


すると今度は客がいそいそと荷物をまとめ始めた。


これはこの店に生まれた暗黙のルールである、当初は一日中居座る猛者も一定数いたのだが客の周りが遅くなる為に聴けない者が居座る者を追い出した事から2曲毎に店内の客を入れ替える決まりとなった。


一見の客に対しては周りのベテランがレクチャーするというのも暗黙のルールとなっている。


何度かの入れ替わりを経たときにガリエルの耳にある話が届いた。


「最近は物騒でいけねえや、この前の聞いたか?馬車が襲われた話」


「ああ、聞いた聞いた。なんでも馬車だけ残して人も物もなんも無くなってたっていうやつだろ?」


「実はな、その後男の死体だけ見つかってな。ひでえ有様だったそうだ」


「ひぇえ……怖え怖え……用心棒雇う金もねえしなあ」


「じゃあなんでここにいんだよ?」


「ばっかおめえ、これは英気を養うために必要だろうが!!」


「へへ、違いねえや」


「お食事処デザイア」が閉まるのは料理の材料が尽きた時である。フードの供給以上に料理を提供することはできないからという名目であるが実際には夜遅くまで客の相手をするのが面倒だからという極めて身勝手な理由であった。それと同じ理由で目に余るほど酔っ払った客などもつまみ出されることになる。


その他過去にあった嫌がらせや、圧力をことごとくはねのけてきた結果として「お食事処デザイア」は一種の中立地帯として機能し始めているほどである。


「(今日も終わりね、まだ歌い足りないわ)」


特別な理由がない限りガリエルはハープで媒介して言葉を紡ぐ。喋るたびに焼け火箸を突き刺されるが如き痛みを受けるのだ、これは限定的に言葉を取り戻した反動である。


特別な理由とは例えば男に恐怖を与えるためとか、酒が入ってハイテンションになっているとかでなければということである。


「こっちはあなたの曲が変わるたびに戦々恐々としているのだけれど?」


制服を脱ぎ捨てていつものドレスに戻ったメアが半目で言う。


「(しょうがないでしょう、無意識なのよ。歌に関してはどうしようもないわ)」


「男を呪ってるのもかしら?」


「(そっちは私の意思よ。男、しかも王子なんて皆滅んでしまえと思っているわ)」


「裏切られたから?」


「(違うわ、気に食わないからよ)」


「ふーん、そういうことにしておいてあげるわ」


メアの態度が気に入らないのかガリエルの足が尾ビレに戻る。


「(くらいなさい!!)」


跳躍とともに尾ビレは勢いよくメアの顔めがけて襲いかかる。


「甘いわ、お茶会のケーキよりもね!」


メアはそれを掴むと厨房へ向かって放り投げた。


「さばいてちょうだい!!今日はガリエルのソテーよ!!」


それをキャッチしたアッシュが呆れ顔でぼやいた。


「人魚のさばきかたなんて教わってねえがらできねえだよ?」


「三枚おろしでいいわ」


「それだらなんとか」


「(喰われる!?あなたたち半分くらい不死身なんだから私食べなくともいいでしょ!?)」


「はいはい、遊んでないで。もう夕餉の時間ですよ。今日はゴンさんがとってきた川魚です」


「僕がとってきました!!」


厨房から出てきたオツルがゴンの頭を撫でながら茶番を止める


「「「はーい(はーい)」」」


「ゴンさんはフードさんを呼んできてください、私はスレプトさんの様子を見てきます」


食卓に全員が集まると夕食が始まった。









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