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なりそこないヒロインズ 2


「それでは今回の成功を祝いまして……かんぱーい!!」


一仕事終えた彼女達は打ち上げを開催するのが通例であった。


今回乾杯の音頭をとったのはオツル。


正式にはおつるが正しいのだがこちらの発音に合わせた結果オツルとなった。


『かんぱーい!!』


それぞれが好きな酒を持ち杯を掲げた。


泡から復活した人魚姫ガリエルはラム酒


ガラスの靴を持った王子に見つけられず家業の暗殺を極めたアッシュはエール


狼に似た地球外生命体と融合し凄腕の猟師になったフードはワイン


恩返しできずになぜか罠の仕掛け方をマスターしたオツルは清酒


銃弾を華麗に回避した盗人狐ゴンは甘酒


眠りっぱなしの美女スレプトは林檎酒(シードル)


悪夢だった不思議の国の中で支配権を勝ち取ってしまったメアはシャンパン


一息にそれぞれが杯を空にした。


「ふー……このために生きてる感じするわ」


「随分と親父臭くなったものね、元姫なんだからもっと品良くならないのかしら」


「いつの話してるのよ、そんな昔の話忘れたわ。あなたも髪の手入れくらいしなさいな。傷んでるわよ?」


「これがベストコンディションよ。悪夢の制御も楽じゃないの。あなただって無理して喋らなきゃいいじゃない、喋るたび痛むんでしょう?」


「言ったわね?」


「ええ、言ったわよ」


両者がテーブルを挟んで取っ組み合いになった。


しかし他の5名はそれを気にも留めない、ガリエルとメアの諍いなど日常茶飯事だ。


メアがガリエルの尾びれビンタを食らおうがガリエルがメアのトランプの兵隊に殴られようが次の朝にはすっかり回復して店に出る。


なんの問題もないのだ。


「今回も楽勝れしたねー?あっという間にフードさんがパンパーンって終わりれすよー」


「んだなあ、あんまり簡単なもんでびっくりしただなぁ……ひっく!」


誰もいない方向を向いて喋るオツルと顔が真っ赤なアッシュ。


二人は酒が好きだが圧倒的に弱い。


たいがいは勝手に飲んで勝手に潰れている。


「ねえねえ、今日は何人撃ったの?」


ゴンがフードに話しかける。


目がキラキラと輝き尻尾はブンブンと振られている。獣仲間のフードにゴンはよく懐いているのだ。


「……十人くらい……」


「すごいや!!フード姉ちゃんの弾は避けられそうにないなあ」


「……私がゴンを撃つ……?」


みるみるうちにフードの目に涙がたまり始める。


「ぐす……そんなこと……そんなこと……ぜったいに…ない……!」


「わわっ!?泣かないでフード姉ちゃん!」


フードが泣き上戸なのも十二分にあるが、ゴンがフードを好きなのと同じくらいフードもゴンのことが好きなのだ。


「ゴン……こっち来て」


「うんっ!」


小柄なフードであるが、それ以上にゴンは小さいすっぽりとフードの腕の中に収まった。


「……はふう……」


「ふわあ……あったかいなあ」


そのままゴンは眠りにつき、それを追うようにフードもまた微睡みの中に沈んだ。


そして最後の一人スレプトはというと。


一杯を飲み干した瞬間に眠りに落ちていた。


彼女の生活の九割以上は睡眠でできている。


夜が更け。


そして明ける。


朝日が昇るとともに仕事の時間が始まるのだ。


一番最初に動き出したのはゴン、フードの腕の中から名残惜しそうに抜け出すと店の近くに掘った井戸へと向かった。


次に起きたのはアッシュ。


回るのが早いの以上に酒が抜けるのが早いためにすっかり回復した様子で惨状の片付けを始めた。


伊達に王子様から見失われた後も家事に専念していたわけではない。手際は一流のそれと言っていいだろう。


次はフード。簡単に銃の細部を手入れすると店を出て森へと向かった。彼女の本職はスナイパーではなく猟師である。


彼女自体は肉を食わないが獣は大嫌いである。獣にとっての死神のごとく一撃で仕留めてきた肉は上質だ。


次はオツル、彼女はきっちりと酒を引きずっているがノロノロと厨房へと入り仕込みを始めた。恩返しの志半ばで倒れたとはいえ家事全般と機織りはマスタークラスである。


なぜか自らを苦しめた罠に対してもマスタークラスなっているのかは誰も知らない。その話をしようとするとオツルの瞳からハイライトが消え瘴気を身に纏うのだ。


この場に有識者がいないために判断がついていないが妖怪や怪異に関係したものがいたならばその状態のオツルは確実に大妖怪クラスの化け物であると太鼓判を押すだろう。


同時に起きたのはメアとガリエル。


数時間前の大ゲンカなど無かったかのように身なりを整え地味な制服を着る。


あまりにも釣り合わない質素な服であるために逆に着用者を印象付けてしまうほどである。


なお、メアが接客担当でガリエルは客引きとしてハープを奏で歌を歌っている。


もちろん人魚の歌なので呪歌であるが洗脳には至らず違和感を感じても気にしなくなる程度の軽いものである。


そしてスレプトは。


アッシュに担がれて店の奥へと押し込められた。


彼女は基本的に寝ている。しかも無理やり起こそうものなら大暴れする、故に寝かせておいて起きそうな頃合いで最大限利用するしかないのだ。


たちの悪いことに起きているスレプトの性能は彼女たちの中でも抜きん出ているのでそう邪魔者扱いできない現状がある。


そうこうして「お食事処デザイア」の扉は開かれた。














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