表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

なりそこないヒロインズ


ハッピーエンドがある。


バッドエンドがある。


物語には終わりがつきものだ。


しかし終わり方が一つでは少々味気ないとは思わないだろうか。


もしくは、終わった話で報われない者がその後どうなったかを考えたことはないだろうか。


ある世界線では人魚姫は泡から復活し、シンデレラは運命を掴まず、赤ずきんは狼に似た奇声生物と融合し、ツルは恩返しの前に銃弾に撃たれて堕ち、キツネはすれ違いの弾丸で一命を取り留め、美女は眠り続け、アリスは悪夢に飲まれた。


その他にもあらゆる物語にはifが存在し続けるのだ。


これはその1ページ。


ifが集まった世界の話。







ある部屋で男が必死の形相で逃げようとするが激痛によって倒れ込んだ。


「あら、逃げてもいいんですよ?その足では歩くたびにガラスを踏むように痛み、叫ぶたびに喉に火箸を入れられるようになりますけど」


青い髪をたなびかせた美女は痛む喉と足を無視して男へと近づいた。


彼女もまた男と同じ状態なのである。


ヒレではなく足を歌でなく言葉を発するには彼女は痛みを伴わなければならない。


そういう呪いだ。


「約束、守ってもらえますよね?」


約束、正しくいうなら契約。


破れば泡と消える絶対の戒め。


「んん!!んんんんん!!?」


男は痛みで喋れない。


女は笑う、背筋が凍るほどの美しさをたたえた微笑みが浮かぶ。


「ではこうしましょう、守ってもらえるなら二回頷いてください。そうでなければ一回です」


男は迷わず頷き。


泡と化した。


「うふふ、一回頷いた段階で約束を破ったことになるのに気づかないなんて……男は愚かですねやっぱり」


場所は変わって暗がりの路地裏。


一人の女を三人の男が守るように歩いていた。


女の身なりはよく男達もそれなりの装備をしている。


「どこだ……!?」


「あのメイドはどこに消えやがった!?」


「かひゅっ!?」


一人の喉が裂かれた。


「なにっ!?」


「いつやられた!?」


「ひっ……!?早く始末なさいあんな小娘一人!!」


高慢そうな女の金切り声の返答はない。


残りの二人の男もまた喉を裂かれて倒れ伏したのだ。


「そ、そんな……」


「おらの標的になったのが運の尽きだっただな」


音もなく女の命は絶たれた。


そこには裸足にメイド服、そして灰を被ったようなベールをした女だけが立っていた。


「はぁー、今でもわがんねえ。ひとごろしなんて家事の一環としてもいいもんだか。それもこれも王子さんがおらのことさ見っけてくれねかったせいだじゃ……はぁ……ガラスの靴なんて履くもんじゃねえべな……」


女の姿が変わり始める、メイドからなんの変哲も無い町の住人へ。


「かぼちゃの馬車は目立つからここじゃ使えねえべ……運ぶの面倒だなや」


四人分の死体を処理するために女はナイフを構えた。


「バラせばなんぼか楽になんべ」


町外れの林の中


ボロボロになった兵士くずれの用心棒達が逃げ込んでいた。


「どうなってんだこりゃあ……どこもかしこも罠だらけじゃねえか……迂闊に動けやしねえ」


「斥候の俺が見ても分からねえなんてありえねえ……一体何が起きてやがる……」


「待て……今すぐ狼煙を上げる。応援が来るまで待てばこっちの勝ちだ」


そう言って道具に触れた男の額に丸い穴が空いた。


「……ヒット」


はるか遠くにいる狼のような耳の生えた少女は血で染めたような赤いフードをかぶっていた。


彼女の手には硝煙を吹く一丁の猟銃、本来であれば届くはずもない遠距離からの射撃である。


「あと二人です、私なんかの誘導で誘い込めるなんて大したことないですね」


隣で目を細める女は雪のような着物を着ており白髪には黒がまだらに混ざっていた。


「……ツル……次」


「はいはい、特に周囲に変化もないので続けてやっても大丈夫ですよ」


「分かった……ファイア……」


二度の銃声で二つの命が消えた。


「これで終わりです、あとは他の人がなんとかしてくれる予定ですね」


地下深くに通じる扉の前で二人の女が立っていた。


一人は深い緑の髪に眠そうな表情が特徴的であるがそれ以上に服装がパジャマであるのが異様だ。


「ねーむーいーでーすー、帰っていいですかー?」


もう一人は血のような模様が走ったモノクロのドレスにを着ていた。鮮やかだったであろう金髪は傷んでおり少しやつれていた。


「お黙りなさい、そろそろ鍵が来る頃よ」


「えー、ごんちゃんはぁーもうちょっとーかかりますってー」


軽い着地音とともに明るい赤茶の髪に狐のような耳と尻尾を持つ子供が降り立った。


「取ってきたよ!!」


「ごんちゃーん、くうきよんでー。鍵返してきてー」


「ええ!?」


「起きながら寝言を言わないで頂戴。行くわよ」


「えー?行くのー?じゃあはい」


緑の女性が軽く扉を引くと鍵のかかった分厚い金属の扉は容易く壊れた。


「初めからそれをやってくれればすぐに終わるんだけれど?」


「んー、気分と眠気次第だねー」


「僕ってもしかして無駄骨……?」


「見なさい、ゴンが傷ついたじゃないの」


「ごめんねえー、でもとりあえず終わらせようよー」


「はあ……あとでちゃんとゴンに謝りなさいよ?」


「分かってるー」


地下深くにあったものは宝石や貨幣などが持ちきれないほど。これは今日壊滅することになった組織の資金である。


「じゃあ全部いただきましょう、やって頂戴」


「はーい」


緑の女性が手をかざすと瞬く間に落ちるように品物が消えていく。


「これで全部ね?速やかに撤退しましょう」


一夜のうちに闇ギルド【紅の残響】を潰した彼女らは同じ場所へと戻っていく。


その場所にはこんな看板があった。


「お食事処デザイア」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ