煙草と口づけ
カラン
ドアを開けると懐かしいドアベルの音がした。
待ち合わせの喫茶店の中に入ったけど、君はまだ来ていないようだ。
ウエイトレスに待ち合わせだと言って、テーブル席に案内してもらった。
カラン
ドアが開いて入って来た人に手を挙げて合図をする。
そばに来た君はコートを脱ぎながら言った。
「悪い。待たせたか」
「ついさっき来たところよ」
私は君に笑いかけた。
君は向かいの席に座った。
ウエイトレスが水を持ってきたので、二人してコーヒーを注文した。
「さてと、久し振りね」
「ああ。お前も元気そうだな」
その言葉に私は顔をしかめそうになった。
だけど無理やり口元に笑みを浮かべた。
「まあね」
「ところで煙草を吸ってもいいか」
「ええ。どうぞ」
煙草とライターを取り出して1本咥えると火を点けた。
フーと煙を満足そうに君は吐き出した。
2回吸って吐いてを繰り返すと、君はタバコの火を消した。
「それじゃあ、やるか」
「ええ。同窓会の幹事になるとは思わなかったけどね」
「俺もだよ。相手が優子で助かったけど」
昔と同じ名前の呼び捨てにドキリとする。
「それは私も同じよ。圭介なら無茶言えるもの」
「おいおい。二人で幹事なんだからな」
そうして前の幹事から渡された資料を出して話を詰めていく。
先生の手前往復はがきで案内を出すけど、メールでも知らせることにした。
一通り決め終ると君はまた煙草に火を点けた。
だけど何かに気がついたようにすぐに灰皿に煙草を押し付けた。
「なあ。指輪はどうしたんだ」
「なんのこと?」
「1年前の同窓会の時にしてただろう。石のついたやつ。それで結婚間近だって聞いたんだけど」
「ああ、そういえばそうだったわね。あれはなくなったのよ」
「なくなった?」
「あー、ごめん。言い方が悪かったわ。無しになったのよ」
「無しって?」
「だから、結婚を取りやめたの」
「どうしてか聞いてもいいか」
「まあ、よくある話よ。彼が浮気してその相手が妊娠したのよ」
「それはまた・・・」
そう言って君は言葉に詰まったようだ。
「気にしないで。私の男を見る目がなかっただけだから」
そう言って笑ったら、君は眩しい物でも見るように目を細めた。
そしてまた煙草を取り出すと火を点けた。
「そういう圭介はどうなの。可愛い彼女がいるって聞いたけど」
私の言葉に君は煙草をくわえたまま私のことを見てきた。
「何?」
視線に耐えられなくなってそう言ったら、君は煙草をつかむと灰皿で消した。
「別れた」
一言だけ言ってジッと私のことを見つめたきた。
段々と居心地が悪くなってきて視線をそらした。
「優子。このあとは何か予定でもあるのか」
「特にはないけど」
「じゃあ飯でも食いにいかないか」
そういって笑った君の笑顔は昔の様にやさしいものだった。
私と君は喫茶店を後にした。自然と手を繋いで歩いていた。
君と別れる時口づけをした。高校の時の様に触れるだけの口づけ。
違うのは君の唇から煙草の匂いがしたこと。
これもある曲からインスピレーションを貰いました。
わかる人がいるかしら?