70 不在のレスト
ふあ~! 良く寝たのです。
「オン! オン! オン!(お腹空いたのです。ご飯はまだなのです?)」
あれ? 誰も返事しないのです......おかしいのです。いつもならマルラが溜息を吐きながらご飯の用意をしてくれるのに......あれ? 何で私は一人でいるのです? ああ、そういえば張り込みをしてたのです......
あたしはそこで凍り付いてしまった。
何故なら、周囲から怪しまれないように豆柴になったのは良いけど、ついつい睡魔に負けてしまったからなのです。
恐る恐る周囲を見渡すのだけど、星の輝く夜空と月明かりがほんのりと明るくする街の様子だけが目に映る。
これは拙いのです。完全に寝過ごしたのです。
月明かりが照らす商会の建物を見遣ってそう思う。
何故ならば、完全に灯りがなくなり、どうみても完全に寝静まっているように見えるからだ。
どうしようなのです......これは完全に飯抜きコースにされるのです。やっと盗み食いの件を許して貰ったのに、行き成りこんなチョンボとか......ミユキどころか、ルーラルやマルラ、ミララからも酷い目に遭わされるのです。
人生最大の恐怖を感じつつ、これからの事を思案する。
しかし、考えても考えても良案が浮かんでこない。それどころか何も思いつかない。
こうなったからには、最早ここに居ても仕方ない。
そうなると、ミユキのところへ戻るのが得策だと思うのだけど、彼が何処に居るかも解らない。
さて、困ったのです。如何すれば良いのですか......あっ、そうだ!
途方に暮れていたのだけど、その時、あたしには名案が思い浮かんだ。
そうなのです。ミユキの匂いを辿ればいいのです。では、早速......クンクン! あれ? あれ? 全然匂わないのです......おかしいのです......
名案を実行してみたのだけど、何故かミユキの匂いが全くしなかった。
もしかして、離れているから?
そう考えたあたしは、ミユキと居た場所まで戻る事にしたのだけど、そこへの道が解らなくなってしまった。
そう、所謂、迷子という奴だ。
この齢で迷子とか......最悪なのです......
それでも、その場に居ても仕方ないので、深夜の街中を心細くなりながらもテクテクと徘徊し始めた。
どれくらい街中を歩いただろうか、殆ど彷徨うかのように徘徊していると、街路の片隅から話声が聞こえてきた。
『めっちゃカッコ良かったニャ~』
『あんな旦那が欲しいニャ~』
『稀に見る当りだったニャ』
『あ~、あんな雄が他にも転がってないかニャ~』
『無理無理、あの神々しさは、その辺りの駄猫じゃ無理ニャ』
その声はどうやらメス猫達のものだったが、その話のネタが妙に気になった。
あれって、ミユキの事なのです?
『あの~』
あたしは藁にも縋る思いでその猫達に声を掛けたのだけど......
『ニャによ! 犬ニャ!』
『犬なんてお呼びじゃないニャ!』
『オマケに小娘ときてるニャ』
『しっし! あっちへ行くニャ!』
メス猫達は取り付く島も無い程に、あたしを邪険に扱ってきたのだけど、ここで引く訳にもいかないので、尻込みしながらも意を決して問い掛ける。
『もしかして、今話してたのはサバトラ猫のことなのです?』
すると、彼女達は一瞬にしてその態度を変えた。
『もしかして、あの方を知ってるのかニャ?』
『もしそうなら、紹介してニャ』
『本当? 紹介してくれるのニャ?』
『なら、ウチもお願いニャ』
メス猫達は、あたしがミユキの知り合いだと知ると、続々と群がってきた。
よし、これならミユキの情報を得られそうなのです。ここは彼女達の機嫌をとるしかないのです。
『もちろんなのです。今は少し逸れてしまったのですが、彼の元に辿り着いたらみんなを紹介するのです』
こうしてあたしはミユキを売る事で、彼の進んだ先の情報を得る事になるのだった。
これって、後で怒られるのです?
真っ暗な牢屋の中は、今や俺を始めとしたトアラルアの使徒と彼女の分身であろうライラのみとなった。
寝ている子供達を起し、転移のフープで全員を保護したのだ。
その宛先はカルミナ王城であり、日中の重労働を終えてやっとのことで休息を得ていたキルカを叩き起した。
それに関してはキルカに申し訳ないと思ったが、アルルの屋敷ではアーニャに何もかもが筒抜けなので、仕方なく彼に後事を託すことにしたのだ。
それでも、キルカは嬉しそうな表情で、必ず子供達を守ると言ってくれた。
本当に良い奴だよな。こういう男が王様になるべきだよ。まあ、一応、今はこのカルミナ王国の王様だけどな。
キルカの快い対応を思い起こしながら、俺の周囲に集まってきた面子を眺めた。
彼女達もここの状況を知り、憤りを隠せないようで憤慨した様相を呈していたが、この後、その元凶を討つとあって血気盛んになっていた。
しかし、今更ながらではあるが、俺はある事に気付いてしまった。
『レストはどうしたニャ?』
そういうと、全員が沈黙で返してきた。
くそっ! 奴め......
どうやら、俺の悪い予感は当たったようだ。
恐らくだが、レストは何処かで油を売っているのだろう。いや、盗み食いしたり、惰眠を貪っているかもしれない。
『まあいいニャ。奴は後でこってりと絞ってやるニャ』
『それが良いと思います』
『一週間くらいは断食でもいいわね』
『いや、食べなくても死なないの。だから半年くらいは食事抜きなの』
俺があげた怒りの声に、誰もレストを庇う事無く、ルーラル、マルラ、ミララが容赦のない言葉を伝えてきた。
『レスト、かわいそう』
それを聞いていたライラがポツリと溢していたが、それを聞かなかった事にして、俺は全員に作戦を伝えた。
といっても、特にこれといった作戦がある訳では無い。
ただ、ライラだけはどうしても守りたいのだ。
というのも、彼女がキレると大変な事態に発展するからだ。
下手をすると、この辺り一帯が不毛の地になる可能性だってあるのだ。
それ程に彼女は異常な力を持っているのだ。
『ロロカ、悪いけどライラの護衛を頼むニャ』
『任せるだギャ! 不浄な奴等なんて指一本触れさせないだギャ』
ロロカが本望とばかりに応じてきたのを見て、俺は安堵しつつも全員に号令を出す。
『じゃ、行くニャ!』
すると、全員が沈黙しつつも決意の表れた面持ちで頷いてきた。
それを確認した俺は、スタスタと最奥の扉の前に行くと、解析魔法を発動させて扉の状況を確認すると、即座に解錠の魔法を唱えた。
『我が望むのは、何人たりとも妨げざる世界ニャ。解錠ニャ!』
扉の解錠が終わると、即座に俺の前に立っていたルーラルとミララがその扉を押し開ける。
二人が扉を押すことで、重苦しい音と共に扉が開かれると、中から不審者を咎める声が聞えてきた。
どうやら、扉を開けただけで俺達の侵入に気付いたようだ。
しかし、階段や牢屋と同じように、部屋の中も真っ暗であり、敵の存在を察知する事はできるものの、正確な部屋の状況を確認する事は叶わなかった。
「何者だ!」
「おい! 侵入者だ!」
「直ぐに排除しろ!」
「誰だ? つけられたのは」
「今はそれどころじゃね~」
誰何の声や俺達を葬り去ろうとする声が聞こえる中、即座にライラへと念話を飛ばす。
『ライラ、頼むニャ』
『うん。分かった。明るくな~れ!』
俺が念話で彼女にお願いをすると、彼女は即座に魔法を発動させた。いや、それが魔法であるかどうかも分からない。唯の創造かもしれないのだ。
彼女の声と共に、室内には煌々と光を放つ珠が生まれ、これまで見えなかった室内の様子が隅々まで見渡せるようになった。
そこで気付いたのは、予想通りに悪魔を祭った祭壇があり、その正面には例の悪魔像が鎮座していた事だ。
ただ、その時、マルラから悲痛な声が上がった。
「な、なんてことを......許せないわ」
俺は彼女が言っている事の意味に気付く。
そう、祭壇の前には胸に剣を突き立てられた子供の姿があったからだ。
その光景に、見ているこちらの胸も裂かれるような思いとなるが、ミララが更に声を上げた。
「酷い......人間の所業では無いの」
ミララの声を聞き付け、彼女の視線の向く方向を確認すると、そこには子供の遺体が山となっていたのだ。
カルミナ王城の地下にあった祭壇の間では、沢山の骨が山積みとなっていたが、ここでは未だ骨になる事無く腐敗する遺体が山のように積まれていたのだ。
『許せないニャ。今回は遠慮する事はない。全力でやるニャ』
『了解しました。奴等を塵に変えましょう』
『絶対に生かしておかないわ』
『砂粒ほどにもこの世に存在させないの』
怒りに震える俺が、全員に容赦する事はないと言うと、ルーラル、マルラ、ミララが般若の形相で答えてきた。
どうやら、彼女達の堪忍袋の緒も切れたらしい。
それでいい。今回は慈悲など要らない。子供達よ。せめて安らかに成仏してくれ。
尊い命を失った子供達に視線を向け、俺は胸中で燃え上がる炎のような気持ちを抑えながら子供達に向けて浄化の魔法を唱える。
『癒しの女神トアラルアの名において命じるニャ。不浄なる者を救い賜えニャ!』
すると、山積みとなっていた子供達の遺体が、次々に砂となって消えていく。
『ありがとう』
『使徒様、ありがとうございます』
『感謝します。使徒様』
『ああ、なんて安らぎなんだ』
『ポカポカするね』
『心が軽くなった』
『もう痛くないよ』
遺体が砂となって消えていくその時、魂の珠とも呼べそうな小さな光の珠が俺の周りをグルグルと周り、口々に感謝の気持ちや安らいだ気持ちを伝えてきた。
『みんな成仏してくれニャ。次はもっと良い人生を送れる事を祈ってるニャ』
その光景が気に入らなかったのか、黒装束達が俺達に罵声を浴びせてきた。
「何勝手に成仏させてんだよ!」
「それだと主様の供物にならんだろうが!」
「くそっ! あの猫の仕業か!」
「噂の使徒という奴だな」
「ちっ、ここが見つかるとは......」
「気にすんな! 全員始末して供物にすればいいんだ」
「そうだな。やっちまうぜ!」
口々に罵り声をあげる黒装束は、何処からか両手に武器を取り出すと、即座に襲い掛かって来ようとする。
その数は全員で二十一人であり、その中には俺の聞き覚えのある声もあった。
『どうやら、商会の遣いも居るみたいだなニャ。でも、遠慮はいらんニャ』
それは、この街に入門した時に現れた商会の遣いで俺達を招待しようとした者達だ。
しかし、そんな事は如何でも良いのだ。今解っている事は、ここに居る者達は生かしておけないという事だけだ。
俺の心の内が伝わったのか、怒りを露わにしたマルラが声を上げた。
「あなた達は、絶対に許さないわ! 造王の名を以て命ずる。旋風の衣よ」
その声に合わせて、音楽が奏でられたりはしないし、変身シーンに時間を裂いたりもしない処が実に現実的だ。
マルラが命じると即座に衣装が戦乙女の物となる。
まあ、マルラは良いだろう。ちゃんとスパッツを穿いてるしな。だが、この後が......
「お前達のような輩は、この世界から消滅させるの! 造王の名を以て命ずるの。屈強の衣なの」
ミララがそう口にすると、俺の前にミニスカ乙女が現れた。
いつ見ても、この角度からだとパンツが丸見えだ。いや、これも大目に見よう。許容範囲というやつだ。一番の問題が残ってるんだ。
「悪は滅します! 造王の名を以て命じます。不屈の衣よ。来なさい!」
鬼武者のような表情を作ったルーラルがそういうと、ドレスアーマーというよりは、ビキニアーマーと呼べそうな如何わしい様相となる。
「おお! すげ~~」
「殆ど下着じゃね~か!」
「あれ、食べていい?」
「だめ! オレが喰う」
ほら、邪な心を持った奴等が涎を垂らしているじゃないか。ルーラル、今度アルルへ行ったら造王に頼んでもう少し何とかしてもらおうよ。
「いいな~。ライラもあんなのが欲しい......」
ルーラルの淫靡な装いを見たライラがその美しき瞳をキラキラと輝かせている。まるで、少女漫画の瞳のようだ。
てか、ライラには早いからね。ダメだからね。もっと大人になってからにしようね。
心中でライラにダメ出しをしつつ、向かって来る敵に視線を向ける。
そこでは既に変身し終わったマルラがレイピアで敵を突き刺していた。
「ぐおっ!」
胸を一突きされた男は呻き声を上げて倒れるが、即座に別の敵がマルラに襲い掛かる。しかし、彼女は宙を掛けるように一瞬で敵の背後に回り込むと、その黒装束の頭にレイピアを突き刺した。
「ぎゃ~~~!」
「まだまだ、こんなものでは許さないわ」
敵を死に至らしめながらも、マルラは怒り冷めやらぬ表情で戒めの言葉を叩き付ける。
そんなマルラの右側では、ミララが巨大化したメイスの攻撃を唸らせている。
「喰らうの! 痛みを知るの。子供達の痛みを己に刻み込みながら滅びるの」
容赦のない言葉を放ちながら、次から次へと黒装束を殴り潰していく。
流石に、ミララの本気を喰らって原型を保つのは難しいようだ。
黒装束は悲鳴や呻き声をあげる事すら出来ずに、身体を潰される音を撒き散らす。
しかし、それでは終わらないようだ。
「土に還りなさい。そして悔い改めるのです。スパイラルアタック!」
ルーラルが断罪の言葉を放ちながら、向かって来る黒装束にスキルを発動させると、その敵だけでは無く、マルラやミララが打倒した敵まで巻き込んで吹き飛んで行く。
本当に情け容赦なくやってるな。あれでは、間違っても生き残る事はあるまい。
それ程までに憤りを感じているということだろう。
これは己が行いが己に帰ってきたのだ。そう自業自得という奴だな。
あっという間に殲滅されていく敵を眺めつつ、俺は死にゆく黒装束に弔いの言葉では無く、戒めの言葉を送るのだった。
やはりと言うべきか、一般人と使徒の戦いは一方的なものだった。
ほんの少し、戦闘における感想を抱いている間に、その戦いは終焉を迎えた。
今や物言わぬ骸と化した黒装束たちから視線を外し、俺の下へと戻ってくる仲間を見遣る。
それぞれが可愛らしかったり美しい少女なのだが、それと相反するかのような戦闘能力を発揮したのにも拘わらず、誰一人として息を乱す者は居なかった。
「お疲れさまニャ」
「疲れてないけどね」
「この程度のせんとうなら、なんの問題もないの」
「ありがとう御座います」
俺が労いの言葉を掛けると、マルラ、ミララ、ルーラルがそれに答えてきた。
まあ、マルラやミララが言う通り、この程度の戦闘でもはや疲れたりはしないだろう。
だが、どれほど簡単な行為であっても、働いた者に労いの言葉を伝えるのは当たり前のことなのだ。
言葉とは相反して、嬉しそうにしている彼女達を見て心暖かくした俺は、祭壇の前に横たえられた子供の前に足を進めた。
そこに横たえられた少女を見て、温かくしていた心が凍り付くのが分る。
そう、その少女は既に息絶えていたのだ。
何とか助けたいと思ったのだが、既に遅かったようだ。
少女の見開かれた瞳に向けて前足を差し出し、そっと彼女の瞼を降ろしてやる。
「痛かったろうニャ。苦しかったろうニャ。帰りたかったろうニャ......」
少女の無念の想いを想像しながら、俺はルーラルに声を掛けた。
「ルーラル、剣を抜いて遣るニャ」
「はい!」
ルーラルは躊躇う事無く前に出ると、透かさず少女の胸に刺さった剣を抜く。
それを見た俺は、ゆっくりと魔法を唱える。
「癒しの女神トアラルア名を持って命じるニャ。この者の命を救い賜えニャ!」
すると、少女の胸の傷がみるみるうちに治癒していく。
しかし、彼女が再び瞼を変える事無い。
それを知っていて掛けた完全治癒魔法だ。
そう、生き返る事はないが、せめて痛々しいその傷を治してやりたかったのだ。
無残な傷が治癒し、そこに寝ているかのように横たわる少女を見て、胸中で騒めく心を抑えつけていると、俺の視界が高くなっていく。
どうやら、誰かが俺を抱え上げたようだ。
それに驚く事無くゆっくりと振り返ると、俺を抱き上げた者の顔があった。
その顔は悲し気な表情で俺に問い掛けてきた。
「ミユキ。なんでこんな事をする人達が居るの?」
「解らないニャ。ただ、俺達はこの像の存在を悪魔と呼んでいるニャ。恐らく、この少女......いや、この部屋にあった無数の遺体は全て悪魔の生贄になったのだろうニャ」
本当の理由なんて解らない。これは飽く迄も俺の憶測だ。ただ、その考えが間違っている可能性も低いだろう。
俺を抱くライラは、その話を聞いて悲し気な表情を厳しいものへと変化させたかと思うと、力強い声で己の気持ちを伝えてきた。
「こんな事をする人達は、わたしが滅ぼす」
恐らく、彼女は彼女で憤る気持ちがあったのだろう。しかし、彼女にそんな事をさせる訳にはいかない。
故に、俺はライラに向けて首を横に振りつつ宣言する。
「駄目ニャ。ライラはそんな事のために力を使ってはいけないニャ。だから、俺がこの世界からこの悪魔とその遣いを殲滅するニャ」
「でも......ミユキだけに......」
彼女は俺に汚れ役をさせるのが嫌だったのだろう。俺の台詞を聞いて言いよどむ。
しかし、ライラに心配ないという声が上がった。
「大丈夫よ。師匠一人にそんな事をさせられない。だから、僕が殲滅する」
マルラが薄い胸をトンと右手で叩きながらそういうと、負けじとばかりにミララが大きな胸を張って声を発した。
「ミーシャの行く手を遮るものは、私が全て叩き潰すの。だから、ライラは何も心配する必要は無いの」
やや危ない台詞ではあるが、ミララがそういうとライラの表情が少しだけ明るくなる。
そんなライラの頭を撫でながらルーラルが告げた。
「わたくしも如何なる時も主様と共に在ります。故に、ライラが気に病む事はないのです」
すると、ルーラルに撫でられていたライラは、納得の表情で頷いてきたが、どうやら言いたい事があるようだ。
「でも、わたしも一緒に行くからね」
どうも、自分も共にあると言いたいのだろう。
彼女の気持ちを感じて嬉しく思っていると、のっそりと身体を起したロロカが俺の前に遣ってきた。
『ご主人様、ウチも一緒に行くだギャ。もうあの城での留守番も飽きただギャ』
どうやら、ロロカも付いてきたいらしいが、それについてはキルカと相談する必要がありそうだ。
いや、その前にやることがあるんだったな。
「じゃ、悪魔を倒すニャ」
そう、これまでの経験からすると、目の前の像には悪魔が潜んでいる筈だ。
因って、その悪魔を葬るべく仲間にその事を告げたのだが、その途端、想像もしいなかった事態が訪れた。
「もう勝った気でいるのか?」
「甘い甘い、人間は本当に甘いな」
「これしきで我らが死ぬと思ったか?」
「いやいや、擬態がボロボロだぞ」
「本当に、人間とは脆弱な生き物だな」
「あの程度の攻撃でこの有様とは......」
「じゃ、そろそろ本気でやるか」
「はぁ~、疲れるんだよな~」
「うっせ~、やるんだよ!」
「あいあい! やりゃいいんだろ」
屠った筈の遺体が動きだし、口々に人間の悪口を言い出したかと思うと、気怠そうな事を口にしつつも、身体をグニャグニャと蠢かせ始めた。
それはまるでSF映画の特殊撮影でも見ているかのように、人間の身体がグチャグチャをグロテスクに蠢いたかと思うと、まるでモンスターかと見紛う姿に変貌した。
「よっしゃ、これで準備万端だ」
「変身! 完了!」
「これからが本番だ」
「久々にこの姿になると、スッキリするな」
「あ~人間に擬態するのも楽じゃないぜ」
「てか、この姿で戦うのも久しぶりだな」
「ああ、そう言えば虎娘が尻尾を巻いて逃げて行って以来だな」
「あ~、あの口ばかり達者な娘な」
「さて、今回はどれくらい楽しめるかな」
「えっ!? こんな奴等、瞬殺だろ! 瞬殺!」
「おいおい、瞬殺なんてするなよ。楽しみが減るからな」
奴等は、それこそ悪魔というが相応しい姿となったかと思うと、各自が好き放題に発言していた。
奴等の台詞にあった虎娘という言葉も気になったのだが、俺は誰何の声を上げる事にした。
「お前等は何者ニャ? 人間じゃないのかニャ?」
猫である俺が喋っているのを見て不思議がる事も無く、奴等の中の一人が代表して口を開いた。
「フフフ。オレ達は悪鬼だ。そう悪魔に使える僕だ! さあ、お前達も悪魔様の贄になるがよい」
不敵に嘲笑を向けながら、その者は自分達の事を悪鬼だと言う。
そんな奴等の姿は、肢体がある以外はとても人間には見えない。
まさに、悪魔や悪鬼というのが相応しい姿であり、奴等が発する威圧感はそれが弱者では在り得ないと訴えかけてきていた。
『これは気を引き締めないと拙いかも知れないニャ。みんな初めから全力でやるニャ』
奴等の発する気から唯者では無いと判断した俺は、即座に仲間へと念話を送る。
すると、その念話を聞いた仲間が真剣な表情で頷きで返してくる。
恐らく、彼女達にも現状の厳しい事態が理解できているのだろう。
故に、隙一つ無い構えで奴等に対峙しているのだ。
そんな彼女達を見て安堵しつつも、こんな時に限ってここに居ないレストに呪詛ともいえる言葉を送るのだった。
レスト、お仕置きニャ~~~~!




