66 予定外の激突
ジェノとの話を終え、フロリアン商会の拠点を後にした俺達は、エルロスの店へと向かっている最中なのだが、現在の俺は彼女の願いについて考えている処だった。
「師匠、子供が誘拐される事件が頻発してるって......もしかして......」
ジェノから貰った情報にあった幼児誘拐事件について思考を巡らせていると、マルラがそれについて言及してきたのだが、彼女の言いたい事は最後まで聞かなくても分かる。
それは、カルミナ王城の地下にあった祭壇を思い出せば、誰でも考え付く事だろう。
悪魔の仕業か......ただ......
彼女と同じ事を考えていた俺だが、一つ気になる事があるのだ。
「悪魔が街を闊歩して誘拐するの?」
俺が持つ疑問をミララが先取りするように口にした。
だよな。悪魔が街をうろついているなら、少しくらいはそれらしい情報が得られると思うんだよな。
「やはり、狂信者がいるのではないでしょうか」
ルーラルの言葉に耳を傾け、結局はそこに落ち着くのかと溜息を漏らすことになる。
カルミナ王国における祭壇については、キルカに協力して貰って出来るだけ情報を集めてみたが、結局は悪魔についての情報は得られなかった。
そこで思い至ったのは、崇拝する者達による犯行ではないかということだ。
というのも、あの祭壇自体を作ったのも当然ながら悪魔本人ではあるまい。
故に、信者がいる筈なのだ。
ただ、今回については事情が違うような気がするな......
そう、幼児誘拐は飽く迄も情報であって、今回の願いは別のものなのだ。
ジェノから聞かされた話は、なんとエルロスが誘拐されたとのことだった。
それ故に、俺達にこの街からさっさと出て貰いたかったジェノは、己の意に反して俺達に頼み込むことになってしまったのだ。
それにしても、俺達は災厄かニャ......
その心中に吐露した筈の言葉は、思わず声に出ていたようだ。
「師匠、気にしては駄目ですよ」
「ミーシャは悪くないの」
ルーラルに抱かれた俺が溜息と共に愚痴を溢したのを聞き付けて、マルラとミララが必死にフォローを入れてくる。
「そうですよ。食べ物が無くなるのも、レストの所為であって、決して主様の所為では無いのですから」
ルーラルも必死にフォローしてくるのだが、彼女の言葉は俺をグサリと貫いてくる......だって、俺達が来なければ起きなかった事だし......
「そうよ。トルガルデン王国の王城を燃やしたのもレストだし」
「そうなの。トール王国の王城を爆破したのもレストなの」
「そうでしたね。アルラワ王国にある東の街で暴れ回ったのは、あなた達三人でしたよね」
更に様々な事件の下手人の名を挙げるマルラとミララだったが、ルーラルの発言で黙り込んでしまった。
そんな落ち込みモードの俺達の目の前で、小さな男の子がコケる。
それを見たマルラが、すぐさまその男の子を起そうと足を進めるのだが、その瞬間、理由は解らないが俺の中で警笛が鳴らされた。
『マルラ、待つニャ!』
子供に近寄るマルラに念話を送ると、彼女は直ぐに足を止め、驚いた表情で振り返る。
しかし、次の瞬間、路面に俯せとなっていた子供がマルラに飛び掛かって来る。
その子供の行動は、攻撃というより抱き付くといった様子だったが、その表情は相手を陥れんとする邪悪なものだった。
そんな子供の行動に、マルラが捕まってしまったかと思って焦りを感じたのだが、間一髪で彼女は後ろに飛び退っていた。
「軽率なの」
「だって......」
マルラの行動をミララが窘めているが、今のは気付かなくても仕方ない。
それにマルラの子供を思う気持ちの方が大切だ。
ただ、この嫌な臭いは覚えていて欲しいと思う。
そう、奴が放つ糞神の臭いだ!
『ニルカルアの使徒ニャ』
恐らくは彼女達も気付いていると思うが、一応念のために伝えておく。
彼女達に念話を送りつつも、臨戦態勢でその子供を警戒していると、マルラに飛び付くのに失敗して再び地に転がった子供から笑い声が聞こえてきた。
「クククッ、流石はトアラルアの使徒という訳か。僕の攻撃を避けるなんて、ゴミのような奴等だと思ってたけど、なかなかやるじゃないギャフ」
気が付くと、その子供の背中にミララが足を乗せている。
どうやら、最後まで言わせたくなかったようだ。
「お子ちゃまの出る幕じゃないの」
更に、辛辣な言葉を吐きつつ、ドカドカと足を踏み直す。
どうやら、ここ最近のニルカルアによる無法の所為で、かなり鬱憤が溜まっている様子だ。
しかし、周囲からの視線がマズイ。
というのも、如何見ても大人が子供を虐めているようにしか見えないからだ。それが例え見掛けだけの子供であったにしてもだ。
『ミララ、ここは場所が悪いニャ。ふん縛って人気のない処まで連れて行くニャ』
こうして口程でもないニルカルアの使徒を、ことも無く捕らえることに成功するのだった。
こうやって改めて街を眺めると、また違った印象を持つことが出来る。
そんな感想もそこそこに、ゴルド商工連合国の首都を一望できる丘の上まで移動した俺達は、目の前に五歳児くらいの男の子を転がす。
少し哀れとも思わなくも無いが、どうせ見た目通りの年齢ではないし、碌でも無い事ばかりやって来ているのだから、全く遠慮する必要は無い。
「如何いうつもりで俺達を襲って来たニャ?」
泥まみれになっている子供に、遠慮なく問い掛ける。
ところが、その子供はニヤリと笑うだけで何も答えようとしない。
そんな子供をルーラルがお仕置きとばかりに尻を叩く。
「あうっ、痛い! 痛いよ~! 止めてよ!」
「子供の振りをしてもダメです」
ルーラルも見た目に騙される事無く、ロープでグルグル巻きの上、更には拘束魔法を掛けられた子供のお尻を容赦なく叩いている。
「名前は何て言うニャ。目的は何ニャ。答えないなら尻が腫れるまで叩くニャ」
些か使徒との戦いとは思えない低レベルの遣り取りだが、動けない相手に卑劣な仕打ちをするのは気が引けるので仕方ない。
尻叩きが卑劣かどうかは、各人の価値観によるだろうけど......
「わ、わかったよ。分かったから。もうお尻を叩かないで」
シクシクと涙を流しながら、その子供がギブアップ宣言すると共に、ゲロゲロと自白を始めた。
「僕はタルカロ。お前達の足止めをするように言われている。でも、それ以上は知らないんだ」
ベソを掻いた子供が鼻を啜りつつ涙を拭っている。
その雰囲気から、その子供が嘘を言っている様には見えない。
それでも、相手はニルカルアの使徒だ。こちらも油断する訳にはいかない。
「じゃ、うちの二人を襲ったのはお前かニャ?」
「そうだけど......」
肯定はしたものの、どうも様子がおかしい。
「だけど、どうしたニャ?」
再び問い質してみたのだが、答えが返ってこない。
何か言えない事があるのだろうか。
「さっさと答えないと、座れなくなるくらい引っ叩くニャ」
「あうあう、えっと、異次元結界に閉じ込めようとしたけど、逃げられちゃったんです」
どうも、失敗した事を知られたくなくて、モゴモゴとしていたようだ。
てか、お前が失敗した所為で、幽霊騒ぎになってるんだぞ!
それに、沢山の飲食店に迷惑を掛けてるのが解ってるのか?
まあ、全てはレストの所為だけど......
心中でやや八つ当たり気味に吠えつつ、次の質問を試みる。
「子供達が誘拐されているのもお前達の仕業かニャ?」
「誘拐? 知らないよ。僕はそんな事はしてないし」
タルカロはブンブンと首を横に振りつつ、自分じゃないと言い張る。
「嘘だったら、尻が無くなるまで叩くニャ」
念のために脅しを掛けてみたのだが、彼は両手で尻を抑えて否定してくる。
「絶対に違うよ。僕じゃないよ!」
その焦りようからすると、どうやら嘘ではなさそうだ。
となると、もうこの子供には用が無くなったと判断できそうだ。
きっと、これ以上聞いても何も得るものはないだろう。
『どうやら、下っ端で何も知らないようだニャ』
『では、どうしますか? このまま野放しにする訳にもいかないでしょ』
俺が念話でちょろい尋問の終了を告げると、ルーラルがこの子供の処遇について尋ねてくる。
それに頭を悩ませた俺は、最終的にアーニャに押し付ける事に決めた。
偶には、奴も爆弾を抱えて右往左往すればいいのだ。
そう考えて、ほくそ笑みつつルーラルに念話を送る。
『アーニャの処へ送るニャ』
すると、ルーラルでは無くマルラが慌てた様子で念話を飛ばしてきた。
『あっ、待って。先にライラ達を元に戻さないと』
そうだった。コロっと忘れていたぞ。
マルラの念話で、その事を思い出した俺は、ここに居ないライラに必死で謝る。
しかし、次の瞬間、それも儘ならない事態となってしまった。
「ごめんね。猫ちゃんにあげる訳にはいかないのよ」
懐かしい声が聞えた途端、黒い獣がタルカロを掻っ攫う。
その行く先には、十歳くらいの少女が立っていた。
そう、エルカだ。いや、その隣には虎娘も居る。いやいや、その後ろにはアフォ勇者御一行まで揃っているじゃないか。
「この前の屈辱を晴らさせて貰うぞ」
現在の状況を把握していると、虎娘......確かグルアダっていったかな? 奴が怒りの形相で睨み付けてくる。
しかし、今更以て奴に負ける気がしないのだが、奴は勝てる気で来ているのだろうか?
そんな疑念を感じながらも、今まさに、ニルカルアの使徒とトアラルアの使徒が激突する戦いが始まろうとしているのだった。
小高い丘から見る風景は、とても心が洗われる思いだわ。
頬を撫でる微風も気持ちいいし、靡く草花の動きも美しいと思う。
ただ、今はそんな風に自然を鑑賞している場合では無いよのよね。
だって、間抜けなタルカロが捕まっちゃうし、もう、予定が大狂いだわ。
偉そうなことを言う割には、この子の格好ときたら、まるで芋虫だわ。
その様子はちょっとだけ笑えるけど、現状は笑えない状況なのよね......
抑々、神器の情報を流して、この国に誘い込んだのはこちらの作戦なのだけど、まさか、このタイミングで戦うとは思ってもみなかった。
全ては、目の前に転がる芋虫......いえ、タルカロが悪いのだけど。
だからニルカルア様から直接的な接触は避けろと言われてた筈なのに。
なにしろタルカロの戦闘力は皆無に等しいのだもの。
それを、寄りにもよって猫ちゃんの前にノコノコと姿を現して捕まるとは......もっと尻を叩いて貰った後に助ければ良かったかしら。
それでも、星獣のロロカは居ないし、戦闘狂魔法使いのレストも居ない状態だから、まあまあなのかな。
ただ、猫ちゃんに本気を出されると拙いから、さっさと事を進める必要があるわね。
『キャサリン、タルカロの縄を解いてあげて。アイリーンはあの子に掛かっている魔法の解除をお願いするわ』
『はい。使徒様』
『畏まりました』
キャサリンとアイリーンがタルカロの拘束解除に勤しむのを横目で見ながら、時間を稼ぐことに専念する。
「猫ちゃん、久しぶりね。元気にしてた?」
私の物言いに、猫ちゃんが嫌そうな顔をしている。
相も変わらず、感情が直ぐに解る猫だこと。
「何しにきたニャ」
「あら、ご挨拶ね。久しぶりに会ったのだから、もう少し嬉しそうにしてくれても良いじゃない」
「何を言ってるよの。私達を騙しておいて」
「裏切りは許さないの」
あらあら、マルラとミララまで怒ってるのね。
まあ、それも仕方ないとも言えるし、弁解する気もないから、あの二人は放置プレイとしましょう。
「偽物! 今日こそはこの前の雪辱を果たすぞ!」
「いえ、返り討ちにします」
あちゃっ~、虎娘のグルドアが息巻いてるわ。オマケにルーラルがとっても切れてる様子だし、拙いわね。
こちらは、タルカロの準備が整うまで、何とか時間を稼ぎたいのだから、少しは大人しくしておいてよ。この脳筋虎娘。
今、向かって行ったら、この前みたいに、猫ちゃんからバラバラにされるわよ? 本当に、頭が悪いんだから......
『タルカロ、どう?』
『もう少し早く来てくれないかな。お尻が痛いんだけど』
『それは、自業自得よ。それよりも、さっさとなさい。あなたの力が無いと絶対に勝てないのだから』
『えっ? あの猫がそんなに強いの?』
『ニルカルア様から聞いてないの? 猫ちゃんが本気を出したら、あなたなんて瞬殺よ! しゅ・ん・さ・つ!』
『ひょえ~~~! い、急ぐよ』
『お願いね』
私の台詞を聞いてビクビクし始めたタルカロに、下準備をお願いしてから、再び時間稼ぎをする。
「ところで、猫ちゃん。クラリスは元気にしている?」
「知らないニャ。知ってても教えないニャ」
あはは、相変わらず嘘が下手ね。笑っちゃうわ。でも、そのちょっと抜けている処が可愛いのよね。
彼がトアラルアの使徒でなければ、是非とも手元に欲しいくらいよ。
「おい! 何時までウダウダ遣ってるんだ。さっさとやるぞ!」
ああ~、もう! この頭の悪い虎娘を連れて来たのは失敗だったかしら。
それでも、彼女が居ないと戦力的に辛いのよね。
何と言っても、うちで一番戦闘力があるのだから。
だけど、それをバラバラにしちゃう猫ちゃんの力は半端ないわ。だから~、今日は猫ちゃんには蚊帳の外に居て貰おうかしら。うふふ。
『おばちゃ......お姉ちゃん、準備が出来ました......』
このヤンチャ坊主が、また禁句を口にしようとしたわね。帰ったら、歩けないくらいに尻叩きをしてやるんだから。
でも、まあ、それもこれも、まずは猫ちゃん達を始末してからね。
じゃ~、始めようかしら。
「猫ちゃん、覚悟はいい?今日の私達は一味違うわよ」
「どれだけ味が変わろうと、全て残飯行きニャ」
さて、悪いけど、今日は猫ちゃん達がゴミ箱に入る番よ。
私は不敵な笑みを浮かべつつ、猫ちゃん達にメルを嗾けるのだった。
どう考えてもおかしいと思う。
普通に考えて、奴等が勝てる筈がないのに、なんでエルカはあれ程までに強気なのだろうか。
ライラとレストに関しては、あの子供がしくじったようだから、人質になっている事は無いだろうし......一体、どんな策を弄しているのだろうか。
訝しく感じている俺に向けて、エルカは嫌らしい笑みを浮かべながらメルを嗾けてくる。
『今日は、姉様が居ないから、そう簡単に遣られたりしないよ』
そうだった。こんな事ならロロカを連れてくれば良かった......どうも、メルはロロカに敵わないようだからな。
「メル、甘いですよ!」
襲い掛かって来るメルに向けて、素早く前にでたルーラルはランスを突き付ける。
『えっ!? 速い!』
メルはルーラルの動きに驚いて即座に反転するが、避け切ることが出来ずに軽傷ながらも傷を負う。
「喰らえや!」
しかし、その後ろから即座に虎娘グルアダが襲い掛かってくる。
これには流石のルーラルも避ける事が出来そうも無い。
「ルーラル!」
思わず、駆けだしながら叫んでしまったのだが、虎娘の攻撃がルーラルに当たることは無かった。
「遣らせないの」
その理由は、少し舌足らずな声を耳にしたことで直ぐに分かった。ミララがルーラルのフォローに回ったようだ。
ところが、次の瞬間、俺の後ろに気配が生まれた。これは以前にも感じた気配だ。
「糞猫! 今日こそ!」
振り向かずとも解る。確かカルラと呼ばれる盗賊少女だった筈だ。
奴は俺の後ろから、黒い手に握ったダガーで襲い掛かって来る。
しかし、俺は避けたりしない。何故なら、もう一つの気配を察知していたからだ。
「師匠に手を出すなんて許せないわ」
そう、疾風となったマルラが、カルラに襲い掛かってたのだ。
以前は、力の足らなかった三人だが、今では虎娘とさえ対等に戦っている。
それを見ると、三人とも良くぞここまで成長してくれたという想いで胸が熱くなってくる。
「ちっ! 何、こいつ!」
マルラの攻撃を紙一重で避けたカルラは、慌てた様子で距離を取る。
そう、うちの面子は、以前とは違うのだよ。
心中で満足しつつ少し胸を張りって、エルカに対して自慢げな態度を取る。
すると、やはり向こうには、こっちが成長している情報がなかったようだ。少し想定外だというような表情をしていた。
「人数も違うし、ここはサクッといくニャ」
何時までも相手をしてやる気も無いので、俺がさっさと人化して終わらせようと声を上げた処で、エルカはニヤリと笑みを零した。
「そうはいかないわ、猫ちゃん。あなたは強過ぎるの。だから、今日は見学してちょうだい。タルカロ!」
「は~い! 神聖包囲~~~! っと」
エルカが右手を振ると、さっきまで芋虫のようになっていたタルカロが魔法を発動させる。
それを見た俺は慌てて結界を張るのだが、全く攻撃がくる様子は無い。
それもそのはず、奴が放ったのは攻撃魔法では無かったからだ。
「師匠、これは?」
直ぐに俺の傍へと遣って来たマルラが問い掛けてくるが、俺にも何が何やら分からない。ただ、解る事は、さっき居た空間とは違うのだということだけだ。
「この空間は嫌な臭いがしますね」
「周りを囲まれてるの」
マルラに続いて戻って来たルーラルとミララが、周囲を見回して感想を述べてくる。
そう、彼女達の言う通り、先程までの丘の上と違って周囲の景色が真っ黒に変わっている。オマケにニルカルアの臭いがプンプンしてくる。
「油断するニャ。本気で行くニャ」
そう告げた俺は、即座に人間化を行う......
「あれニャ? あれれニャ?」
「師匠、如何したんですか?」
焦ってオロオロする俺を見たマルラが、怪訝な表情で尋ねてくる。
そんな中、かなり焦っている俺は、後ろ足で座ったまま前足で拝むような仕草をしてしまう。
しかし、そんな事など気にしていられない俺は、慌てている理由を三人に告げる。
「人間化が出来ないニャ」
「えっ?」
「ほんとなの?」
「でも、今の仕草は可愛いです。主様」
俺が事態の説明をすると、マルラとミララが驚いて声を上げるが、ルーラルだけがうっとりとした表情を浮かべている。
おい、ルーラル、空気を読んでくれ。早く現実世界に戻ってきてくれよ!
幸せそうなルーラルを見ながら、更に焦りを募らせていると、ニヤニヤしていたエルカが笑い始めた。
「あははははは。猫ちゃん。変身しないの? さあ、早く変身してみてよ」
ぬぐぐぐぐ......どうやら、俺が変身できないのは、あのタルカロとかいう子供が発動させた魔法なのだろう。
高笑いするエルカは、早くも鬼の首でも取った気でいるようだ。
ところが、そえを遮る声が轟く。
「主様の人間化を封じただけで勝ったと思うなんて......笑止です」
そうルーラルが高らかに宣言すると共に、エルカの笑いを吹き飛ばす。
「そうね。今の私達なら師匠の手を借りるまでも無いわね」
「ミーシャ、今日は大人しく見ているの」
ルーラルの宣言に続き、マルラとミララが頼り甲斐のある言葉を口にしたかと思うと、力強い足取りで俺の前に立つ。
三人の決意と意気込みを感じた俺は、全てを彼女達に任せようという気になってしまう。
「そうだニャ。今日はお前達の力を見せる番だニャ」
「「「はい!」」」
俺の言葉に珍しく三人の返事が重なると、彼女達は言霊を唱え始める。
「造王の名を以て命ずる。旋風の衣よ」
マルラが元気いっぱいに言霊を唱えると、緑色を基調としたドレスアーマー姿に変わる。勿論、某アニメの様に一旦裸になったりはしない。
「造王の名を以て命ずるの。屈強の衣なの」
マルカに続いて、ミララが言霊を力強く詠うと、俺の位置からはパンツ丸見えの黒と紫のドレスアーマーに変身する。
「造王の名を以て命じます。不屈の衣よ。来なさい!」
最後にルーラルが命じるかのように言霊を口にすると、彼女は超絶セクシーなドレスアーマー姿となる。
「うひょ~、あれはオレにくれよ!」
ルーラルの戦闘着を目にした途端、アフォ勇者が鼻の下を伸ばして欲情を曝け出した。
「あの男だけは間違いなく始末するニャ」
その事に怒り心頭となった俺は、思わずアフォ勇者の抹殺命令を出す。
すると、三人の娘達が、勿論だとばかりに頷きで返してくる。
「さあ、見せてやるニャ」
俺の掛け声と同時に、美しき戦乙女たちが目にも止まらぬ速度でエルカ達へと向かって行く。
驚くエルカを余所に、マルラ、ミララ、ルーラルの戦いの舞が今始まろうとしていたのだった。




