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63 ライラの食べ歩き


 猫使徒とはどんなものかと思って遣って来たけど、全然大したことないじゃないか。

 あれなら、その辺で昼寝をしている猫と全く変わりがない。

 エルカのおばちゃんや脳筋虎娘のグルドアが酷い目にあったって聞いたけど、あれなら僕一人でちょちょいのちょいだよ。

 それなのに、なんでニルカルア様は直接戦うなっていうのかな?


 まあいいや、取り敢えず作戦は成功......してないけどね......


 奴等の足止めをする為に、仲間をさらおうとしたんだけど、あの幼女は何者なのかな?

 僕の封印結界をサラッと破っちゃって、頭にくるよホントに。

 でも、何とか足止めは出来てるから、あとはエルカおばちゃんに任せようかな。


『タルカロ! あんた殺すわよ』


 その声が......念話が聞えてきた瞬間、僕の背筋が凍り付く。てか、予定より早や過ぎるんだけど......


『ぎゃ! エルカねえちゃん、何時の間に?』


 折角、綺麗な海を眺めながら、出来立てのサンドイッチを食べてたのに、驚いて落としちゃったじゃないか。


 てか、エルカおばちゃんは、なんで怒ってるんだろうか。


『あんたね~、思ってることが独り言になる癖をなんとかしなさい』


 ぐあっ、またやってた? あっちゃ~~~! これは犯られるかも知れない......


『今も思いっきり言葉にしてるわよ』


 凄い形相で十歳くらいのエルカねえちゃんが僕をにらんでるや。とはいっても、中身はかなりの年増......いや、人間なら、とうの昔に墓の中だよね。


 そう、僕は思った事がそのまま口に出ちゃう癖がある。

 自分ではそんなつもりは無いので、治そうにも治らないのが現状だ。


 己の癖が治らない事に頭をもたげていると、エルカおば......ねえちゃんが問い掛けてきた。


『ところで、例の件はどうなったの?』


『取り敢えず、五歳くらいの少女と犬を封じ込めたよ』


『五歳くらいの少女? 犬はレストだと思うけど......誰かが幼児化の呪いでも掛かったのかしら......』


 僕の返事を聞いたエルカねえちゃんが、いぶかし気な表情で思考をめぐらせている風だ。


 どうやら、犬と一緒に居た幼女は、彼女の知らない者なのかもしれないね。


 暫く頭を捻った風だったけど、再びその幼女について尋ねてくる。


『どんな感じの子なの?』


『ん~、ニルカルア様に似てるかも?』


 その言葉で、彼女は更に考え込む。

 でも、更に熟考した挙句、まあいいわなんて言いながら、残りのサンドイッチを横取りしてきた。


『ああ! 僕のサンドイッチ......最後に食べようと思って一番好きなのを残してたのに......』


『あははは。タルカロ、あんた、その癖止めた方が良いわよ。好きな物は先に食べないと、こういう事になるんだから』


 ぬぐぐぐ、このババア! 自分が奪っといて何て言い草だよ! 地獄へ落ちちゃえよ!


『次にその言葉を吐いたら、メルの餌にするからね』


 やべ~~~~、また口に出てたみたいだ。

 てか、その尋常じゃない視線は止めて欲しいんだけど......

 あ、こら、このバカ星獣、舐めるなよ! 誰が味見しろって言った!


 エルカが連れている黒い星獣が、嬉しそうに僕の顔を舐め回す。

 その表情は、あたかも美味しいと言ってかのようだ。

 それにしても、エルカねえちゃんは何をするつもりなのだろうか。オークションに神器を出品するなんて、どう考えても正気の沙汰では無い。


『まあいいわ。あと、二、三人ほど閉じ込めてしまいなさい』


『ああ、分ったよ』


 返事はしてみたのだけど、実は半分も成功してないんだけどね......

 バレたら星獣の餌にされそうなんで、これだけは黙っておかなきゃ。


『じゃ、頼んだわよ』


『うん。分かったよ』


 冷やかな視線を向けてくるエルカねえちゃんに、その場凌ばしのぎの返事をすると、彼女はバカ星獣を連れて消えてしまった。


 本当に神出鬼没しんしゅつきぼつのババアなんだから。いてっ!


 突然、頭に何かが降ってきた。

 それが転がる音に視線を向けると、何処からか現れた石が転がっている。

 恐らく、僕の漏らした独り言を聞き付けたエルカが落として行ったのだろう。

 彼女は本当に困ったおばちゃんだ。







 ゴルド商工連合国に来るなり、仲間を攫われてしまった。

 実は思った以上に深刻な状態なのだ。

 というのも、攫われたのはライラとレストなのだが、そう簡単に連れ去られるような人物ではないのだ。

 どう考えても人外の仕業としか思えない。となると、ニルカルアの存在しか思い当たらないのだ。


「主様、少し落ち着きましょう」


 捜索そうさくを一旦打ち切った俺達は、街の中にある中堅の宿を取った。しかし、その簡素な部屋の中で落ち着きなくウロウロしている俺を見たルーラルが、少し困った表情で告げてくる。

 彼女にその表情を作り出させているのは、きっと、あの二人がさらわれた所為では無く、俺が落ち着きを無くしているのが原因だろう。


 ルーラルの言葉を聞いてもウロウロとする俺に、今度はマルラが嘆息たんそくしつつ口を開いた。


「ライラの事なら大丈夫ですよ。彼女は女神ですから、そう簡単に遣られたりしないと思いますよ」


「だ、だけど、その女神が攫われる事態ニャ。相手が異常なのかもしれないニャ」


 焦る気持ちが、マルラの発したなぐめの言葉を否定させる。


「ミーシャ、落ち着くの。こういう時はお風呂がいいの」


「な、何を言ってるんだミララ、今はそれどこ、こ、ここ、ろ~~~~ニャ~~~~」


「あ、ミララだけズルい。僕も行く」


「それでは、私もお供しましょう」


 慌てて逃げようとしたのだが、三人がかりで追い回された挙句、いつの間にか用意されていた風呂へ無理矢理連に連行される。


 ぬぬぬ! 既に風呂が用意されている......計画的犯行だ! 図ったな!


 心中で「お前達、これは謀反か!」と騒ぎ立てるが、ミララの生乳に挟まれて、泣く泣く湯船へと浸け込まれるのだった。




 温かいお湯が身体や心をいやす。

 しかし、猫に成ってしまった俺の心は、この温かいお風呂で癒える事は無い。

 でも、このふくよかなオッパイには、心が癒されるかもしれない......

 猫の姿でなかったら盛りがついたかも......


「あ、師匠、またルーラルのオッパイでなごんでる。悔しい~~~~~~!」


 いや、そ、そんな事は無いんだ。俺はライラとレストが心配で......


 マルラの指摘してきを受け、心中で必死に抵抗する。

 すると、大きな胸を揺らしながらミララが浴槽よくそうに入って来る。

 そうなると、ルーラルとミララに挟まれた状態となるのだが、幾ら浴槽が広いといっても、これでは満員電車のようだ。いや、天国とも言える。

 ただ、男の俺としては目の遣り場にも困るというものだ。


「ミーシャ、こっちのオッパイも甘いの」


 そう言って、ルーラルに抱かれる俺に手を伸ばすミララ。

 故に、本能的にミララのオッパイに前足を乗せてしまった。

 だが、間違っても爪とぎ何てしない。肉球で優しくモミモミするのだ。そう母猫のお腹を押すように。


 ところが、その行為を気に入らないと思う存在も居るようだ。


「きぃーーーーーーーー!」


 そう、俺がミララのオッパイを反射的に揉んだことで、マルラは反射的に発狂した。


 物凄い反応速度だ。もしかしてニュータイプか!? でも、もう少し空気を読んで欲しいのだが......


 空気を読めないマルラに溜息を吐いていると、ルーラルが話し掛けてくる。


「主様、こらからの行動ですが、如何なさいますか?」


 問題はそれなのだと、言おうとした処でミララが割って入った。


「私のエッチするの」


 はぁ? なんで、ここでエッチの話になるんだ?


 思わず、そんなツッコミを入れようとしたのだが、マルラが更に割って入る。


「駄目よ! 先に私とエッチするの!」


 いやいや、誰ともしないから......だから、そんなに裸を見せ付けるなよ。流石に欲情してしまうじゃないか! ああ、ダメニャ。そんな破廉恥な姿を見せるニャ~~~


 マルラがバスタブの縁に腰を下ろして俺に手を伸ばしてくるのだが、その姿がとてもなまめかしくて、思わず自制出来なくなりそうになる。

 だから、慌ててルーラルの胸に飛び付き、助けを乞う事にした。


「ルーラル何とかしてくれニャ」


 すると、ルーラルは一つ頷いてから二人の少女を諫めてくれた。


「時と場所を選びなさい。それと空気も読むのです」


 流石はルーラルだ。やはり彼女が居ると安心だ。


 なんて安堵していると、話には続きがあったようだ。


「それに、夜伽は私の方が先です。さあ、主様、人化してくださいまし。私を受け入れt下さい」


 な、何言ってるんだ! 今、空気を読めって言ってたのは嘘か! どの口が夜伽なんて言ってるんだ!?


 結局は全員のプレッシャーに負けて、親愛の情を込めて彼女達の胸を前足でフミフミマッサージすることで、今回は許して貰ったのだが、この調子だと貞操を奪われるのも時間の問題かもしれない。


 それはさて置き、問題といえばこれからの行動だ。

 何とか三人の求愛行動を押し留める事に成功した俺は、三人の女性の胸に押しくらまんじゅう状態となりながらも、これからについて考える事にした。


 本来ならば、直ぐにでもライラとレストを探したいのだが、あれだけ聴いて回って目撃者が居ないとなると、探す手掛かりすら見当たらない。

 その事から考えるに、物理的な移動では無く、魔法による移動によって連れ去られている筈だ。

 そうなると、もはやお手上げと言ってもよい状態なのだ。


 彼女達の胸の間で欲情するどころか、黙考を始めた俺にルーラルが助言の言葉を掛けてくる。


「ここはアーニャさんに相談してみては?」


 うあっ~~、その名前を口にするな~~~!

 確かに切羽詰せっぱつまってるけど、あの魔女とだけは連絡を取りたくない......


 どうやら、ルーラルも俺の心情を理解しているのか、彼女の表情も優れない。

 しかし、どうやらそれしか手が無いような気がする。でも、ライラの事をアーニャに知らせていないから、今更話すと何を言われるやら......

 唯でさえ仲間が攫われて焦っているのに、ここでアーニャに相談したら止めを刺されそうな気がする。


 三人娘のオッパイに挟まれている俺は、幸福と絶望の狭間でもがき苦しむのだった。







 街並みは全く変わってないのに、誰もいなくなってしまった。

 ミユキも、マルラも、ミララも、ルーラルも、いえ、仲間以外も誰一人としていない世界。

 でも、レストだけは居てくれた。それが唯一の救いだと思う。


「オン! オン! クゥ~~~~ン(あれ? あれ? 誰もいな~~~いです!?)」


 腕に抱く豆柴のレストが寂しそうにしている。

 わたしも心細いけど、ちゃんとレストを守る。


 それよりも、一体何が起こったのかな?


 確か、閉じ込められそうになったから、その力を跳ね返したんだけど、気が付いたら誰も居ない街になってしまっていた。


「オン! オン! オ~~~ン!(大丈夫! 大丈夫! あたしが居るのです)」


 レストは一生懸命にはげましてくれる。でも、彼女には悪いけど、ちょっとだけ不安かも。


 恐らく、誰か解らない人からの攻撃は弾いたから、自由に動けると思うけど......

 ああ、こういう時はルーラルの言葉を思い出して、一つずつ整理していこう。


 まずは、ミユキと合流する。

 次に......ん~、わかんない......よし、ミユキと合流するでいく。


「レスト、ミユキの匂いが分る?」


「クゥ~~~~ン(分からないのです)」


 やはり、この子はわたしが守ってあげないと......


 さて、ミユキを探すのはいいけど、これから如何しようかな。

 ミユキの行きそうなところを探すしかなさそう。


「ミユキが何処に行くか知ってる?」


「オン! オン!(宿! オークション会場!)」


 それだけでは全く解らない。

 何か良い方法がないのかな~。

 確か、あの空間でもミユキの匂いは解ったのだから、ここで解らない筈がないのだけど。


「クゥ~~~~ン(お腹空いた~~)」


 あら、またなの? レストってお腹が空くのが早や過ぎ。腹ぺこワンコにも困ったものよね。


 そんな事を思いつつ、周囲を見渡すと美味しそうな匂いと共に薄っすらと煙が登っている。この匂いからすると間違いなく食べ物だと思う。


 そう判断したあたしは、すぐさまレストに声を掛ける。


「ん~、でも、あれを食べようか」


 すると、レストは千切れそうな程に尻尾を振りながら、合意の声を上げてきた。


「オン! オン!」


 この子は本当に緊張感とか危機感がない。

 でも、とっても可愛いから大好き。


 結局はレストの欲求に従い、わたし達は誰もいない串焼きのお店に入り、何故か勝手に焼かれている肉串を取って食べる。


 確か、お金が要る筈だけど......誰もいないから良い?


 一応、誰もいない店の中で、ごめんなさいと謝りながら何本か食べたのだけど、とても柔らかくて美味しい肉だった。


 えっと~、何を考えてたんだっけ?

 あっ、そうそう、ミユキの匂いを探してたんだ。

 でも、なんか甘くて優しい良い匂いがしてきた。


 あ、あれだ!


 レストを抱っこしたまま、走ってはなを擽る甘い匂いの方向へ行く。すると、良い匂いを漂わすお店があった。そこには、確かお菓子という食べ物だと思うけど、それが沢山並べてあった。


 やっぱり店の人がいない。じゃ、食べてもいいよね?


 という訳で、レストと二人で甘くて美味しいお菓子をお腹いっぱい食べた。


 それは、最高の一時だったわ。ああ、確かこういう時は、快感かいかんっていうんだっけ? ミララがそう教えてくれたんだけど......まあいいわ。それより......そう、ミユキだわ。


 行く先々で色々な物を食べ歩きながら、わたし達はミユキを探すのでした。マル。







 アーニャは思いのほか冷静な言葉で俺を突き刺してきた。


 もう奴とは会いたくない......鏡越かがみごしでも遠慮したい......猫なのにトラウマになりそうだ。


 更に、鏡の向こうでミリアが煩いこと煩いこと、いつもの旦那節を高らかに歌っていた。

 もうあのアルラワ王国とは、俺に取って近寄ってはいけない国になりつつある。

 オマケに、あのロリババアときたら、散々チクチクと俺をいじめた挙句あげく、なんの助言も無かった。


 そう、奴が残した助言は、聞く必要があるとは思えない一言だった。


『放っておくしかないのじゃ』


 こんなことなら、連絡なんてしなければよかった......

 今度からは、困っていても絶対に連絡しね~からな~~~! ロリババア~~~!


 悪態を吐きながら、ライラとレストの探索に出掛けたのだが、俺の不機嫌さを知っている三人は全く口を開かないままだ。


 そんな俺の耳に、もうウンザリだというような声が届いた。


「まただ! また串焼きが無くなったぞ!」


 その声の発生源に視線を向けると、美味しそうな匂いを周囲にバラ撒いている焼き串屋のオヤジが騒いでいる。

 それを見た俺は、昔の事を思い出す。

 そう、それはレストと始めて出会った時のことだ。


 そういえば、飢えて道端に転がっていたレストに焼き串を盗んで与えたんだよな~。


 それほど昔の話では無いのだが、思い起こすと随分と時間が経っているような気がする。そんな当時の事を感慨深く思い起こしていると、マルラから声が掛けられた。


「師匠、やたらと食べ物が無くなった騒ぎを耳にしますね」


 ぼろ布のようだったレストの事を思い出していた処で、俺を抱くマルラから掛けられた言葉で、一気に思考を入れ替える。


 そう言えば、さっきは果物屋、その前はお菓子屋、その前はパン屋だっけかな?


『確かに、多いニャ。商業国とは、やはり治安が良くないのかニャ?』


 まあ、食べ物が無くなるくらいで治安が悪いと言うのはどうかと思うが、食べ物が無くなるなんて、あまり聞く話ではない。


「いえ、よくある事なら騒がないと思うのですが」


 俺からの念話を聞いたルーラルが指摘してくる。


 確かに、そう言われるとその通りだ。彼等は普段起きない事だから騒いでいるのだろう。

 そう考えると、何故か無性に気になってくる。


 もしかして、ライラとレストに関係があるのかも......そんな訳はないか......


 流石に、食い物が無くなったからといって、レストが関係していると考えるのは、彼女に失礼だろう。


 そう思い直して視線を巡らせていると、とあるお店に目が留まる。

 それは、何の変哲もない道具屋だった。

 しかし、無性に気になるのだ。そう、あのトアラと出会う切っ掛けとなった石の時のように、どうしても気になってしまうのだ。


『マルラ、あのお店に入ってみるニャ』


「あの道具屋ですか?」


「何かあるの?」


「主様がそう思うのなら、入るべきです」


 マルラとミララが不思議そうに首を傾げてお店を見ているが、ルーラルは即答で俺の言葉に同意してくる。


 そうして、その店に入ろうとした途端、物凄い爆発音と共に店の扉とガラスが吹き飛ぶ。


「えっ?」


「何事なの?」


 その出来事にマルラとミララが驚いているが、ルーラルは即座に俺を抱くマルラの前に立って周囲を警戒する。


 しかし、ルーラルの警戒を余所に、近所の者が出て来て苦言をこぼし始めた。


「またかよ!」


「いい加減にして欲しいんだけど」


「一体、何回爆発させれば気が済むんだ?」


「まあ、いつもの事だ。さあ、みんな仕事に戻った戻った!」


 近所の者の話からすると、食べ物紛失とは違って、これはいつもの事のようだ。

 てか、日頃から爆発とか、一体どんな奴が何を遣ってるのやら。

 店に入るのを諦めた処で、中から一人の男が出てくるのに気付く。


「けほっ、けほっ、ちょっと、調整を間違っちまった」


 それは、二十代後半の白衣を着た男で、まさにマッドサイエンティストを絵に描いたような男だった。


「あ~あ、また遣っちまった。これでまた修理代が......」


 男は自分に付いたほこり木屑きくずを払う事無く、肩を落として爆破でボロボロになった店を眺めている。


 その雰囲気からして、相当に落ち込んでいる様子だ。

 それに、よく見なくても、身体の彼方此方に怪我を負っているのが分かる。


『マルラ、癒してあげるニャ』


「はい」


 マルラにその男の怪我を治癒するように言うと、彼女はにこやかな表情で返事をしてくると、そそくさと男の近くに行き、透かさず治癒魔法を掛けた。


「おおおおお~~~~」


 マルラがその男を癒すと、男は己の傷が痛まなくなった事に気付いて感動している。

 しかし、暫くして癒しの魔法だと気付いたのだろう。

 こちらに向き直ったかと思うと、即座に礼を述べてきた。


「どなたかは知りませんが、本当に有難う御座います」


 このとんでもない出会いが、今後の行動に大きく影響するとは、この時点の俺達には全く予想すら出来ないのであった。


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