60 師匠を求めて
草木を見掛けることのない大地。
それは比喩では無く、本当に雑草の一本すらないのだ。
不毛の地が、これ程までに生を否定する理由は何なのだろうか。
噂では聞いた事がある。何を植えても育たないと。
飽く迄も噂でしかないけど、色々試したり調べた人も居たみたい。でも、最終的には誰もが匙を投げたと聞いている。
そんな変化の無い土地に入り込んで一週間。
初めて変化を目にした時、大変な事が起こった。
「主様? 主様? 主様~~」
いつも冷静沈着なルーラルが、慌てた様子で師匠を探している。
彼女がその事に気付いたのは、僕が夕食を作っている最中だった。
ここ最近の師匠が何か考え込んでいるのは知っていた。
だって、彼の物憂げな表情を見れば直ぐに解ってしまう。
師匠はそれが不思議なようだけど、僕には解るのよね。いえ、恐らくは、ミララ、レスト、ルーラルの三人にも解ると思う。
「ルーラル、落ち着くの」
動揺するルーラルを見兼ねたミララが声を掛けるけど、彼女の耳には届かないみたい。
まあ、ルーラルは信者とも言えるくらい師匠を崇拝し、敬愛しているから仕方ないのかも知れない。
だけど、僕はそれほど心配していない。
何故なら、彼は今や神と言っても差し支えない存在だと知っているから。
だから、それを彼女に伝えてあげる。
「ルーラル、大丈夫よ。師匠の事だもの無事に決まっているわ」
「でも......」
僕の言葉で、彼女も師匠の凄さを思い出したみたい。だけど、少しだけ落ち着きを取り戻したものの、とてもジッとはしていられないという雰囲気だ。
「取り敢えず食事を終わらすのです。腹が減っては戦は出来ないのです」
空気を読まないレストの意見を聞いて、ルーラルが冷たい視線で彼女を突き刺す。
物言わぬルーラルの冷たい刃を受けたレストは、首を窄めたかと思うと一瞬にして豆柴に変身する。都合が悪くなると犬になって誤魔化すこの行動を、何とか矯正する必要があるわね。
ただ、彼女のいう事も一理あるので、僕達は食事を先に済ませる事にした。
食事を終わらせてテントの外に出ると、既に辺りは真っ暗だった。
空にはキラキラと己の存在を主張する星々が爛々と輝いている。
ただ、そんな星々の輝きを打ち消すかのような月の灯りがあるとはいえ、この暗闇の中で師匠を探すのは危険な気もする。
と言うのも、もし何かあったのならば、相手はそれ程の力を持った者である可能性があるから。
「こんなに暗いと探しようもないわね」
「マルラは冷たいの。ミーシャを心配してないの」
かっちーーーん!
僕が一言漏らすと、何時もの如くミララが突っ掛かってきた。
「心配してるに決まってるじゃない。でも、師匠の事を信頼してるから落ち着いているのよ。ミララのバカ」
「ぬぬぬ、今、バカって言ったの。マルラなんてぺちゃぱいなの」
ぐぎゃ! 僕が気にしてることをーーーーー!
「女モードに戻れば、ちゃんとあるもの」
「それだって、私よりかなり小さいの」
この娘、本気で逝かせて遣ろうかしら。
「いい加減にしなさい。今は、それ処では無いでしょ」
僕とミララの口喧嘩をルーラルが厳しい表情で叱責してくる。
それはそうと、彼女の後ろでクスクスと笑っているレストが憎らしい。
そんな遣り取りをしながら、神殿跡と思われる砂に変わりそうな遺跡を隈なく探してみたのだけど、何処にも師匠の姿は無く、結局、捜索は明日へと持ち越されることになったのだった。
ああは言ったけど、流石に昨夜はなかなか寝付けなかった。
やはり、師匠の事が気になってしまって、長い時間をゴロゴロとして過ごしたような気がする。
そんな深夜に、ルーラルがひっそりと泣いているのが聞えて、彼女の想いの深さに驚いてしまった。
ミララは豆柴となったレストを抱いて寝ていたけど、恐らく彼女も殆ど寝入ってはいないだろう。
「おはよう。直ぐに食事を作るから、それが終わったら直ぐに捜索を始めることにしようね」
目を覚ましたルーラルに告げると、彼女は暗い顔で返事をしてくる。
「そうですね。今更、慌てても仕方ないですからね」
その様子は、一晩でめっきりとやつれた気がする。
そんなルーラルにお茶を煎れて遣り、手早く朝食の準備を終えて二人の仲間を起す。
昨夜はなかなか寝付けなかったのだろう。常連のレストだけでは無く、ミララまでもが寝坊している。
結局、眠そうな二人を起して、さっさと朝食を終え、僕達は二人組になって、遺跡を調べる事にした。
調べれば調べるほど、この遺跡の規模が桁違いであることを思い知らされる。
建物が在ったであろう敷地は、王城と変わりないと言えるくらいの広さがあり、捜索に関しても、あまりの広さに難航している。
「ねえ、レスト」
「はい?」
私とコンビになっているレストに声を掛けると、彼女はきょとんとした表情で聞き返してくる。
「あなた、犬になって匂いとかで解らないの?」
「そ、そ、そうだったのです......」
どうやら、その事に思い至らなかったみたいで、彼女は少しガックリとしている。
落ち込んでる場合じゃないのよ。さっさと豆柴になりなさい。
心の声が聞えたのかは知らないけど、落ち込んでいたレストは暫くすると豆柴へと変身して地面をクンクンと嗅ぎ始める。
まあ、色々と言いたい事がある娘だけど、この豆柴の状態は本当に愛らしいのよね。
豆柴の仕草を快く眺めていると、レストが突然にその愛らしい顔を此方へ向けてくる。
「なに、なにか解ったの?」
レストの様子に、慌てて尋ねてみた。
「クゥ~~~ン(な~~~んにもなのです)」
ぐはっ! 全く役に立たないわ、この駄犬!
結局、不毛の地で不毛な時を過ごした僕とレストはテントの場所に戻り、ルーラルとミララのコンビと合流した。
「そっちは如何でした?」
浮かない顔をしているルーラルの問いに、首を振る事で答える。
それを見たルーラルは、更に沈んだ表情となっていく。
この人、完全に師匠依存症なのでは?
思わずそんな事を考えたのだけど、その隣にいるミララもかなりストレスが溜まってるようだ。
「レストは如何したの?」
落ち込んだミララに言われてレストが居ない事に気付く。
「あれ? さっきまでここに居たのだけど」
周囲を見回し、レストを探していると、行き成り地を揺るがす震動と共に破砕音が聞こえてきた。
「レスト?」
僕は慌てて、音のした方向へと走る。
すると、前方には戦乙女となったレストの後ろ姿が見える。
「如何したの、レスト」
僕が声を掛けようとした処で、ミララの問い掛ける声が先に投げかけられる。
「黒い霞が人間の形になって襲って来たのです」
彼女がそう告げると、破砕したであろう神殿の床から黒い霞が生まれ、数体の人型となっていく。
それを見た僕は直感で持ったイメージを口にする。
「悪魔だわ」
そう、僕はそれを見て、カルミナ王城地下で見た雄ヤギの悪魔と同じ臭いを感じてしまった。
そんな僕の横で、武装変化の言霊を唱えるミララの声が轟く。
「造王の名を以て命ずるの。屈強の衣なの」
すると、彼女は一瞬にして黒と紫の衣装に変わる。
いつ見てもいやらしい恰好だわ。かなりのミニスカートで、師匠でなくてもパンツが覗けそうだもの。
ミララの淫らな様相に批判的な感想を抱いていると、それに続くように、今度はルーラルが怒りをぶちまけるかの如く言霊を口にする。
「造王の名を以て命じます。不屈の衣よ。来なさい!」
これがまたミララに輪を掛けた衣装なのよね......
ルーラルがこの格好に変身し始めてから、師匠の視線が一気にルーラルに持っていかれているような気がする。
なによ、その胸を強調した衣装! 造王のバカ野郎~~~~~!
「造王の名を以て命ずる。旋風の衣よ」
この装備を造った造王に罵声を飛ばしながら、僕も武装変化の言霊を唱える。
すると、僕の恰好が四人の中では一番セクシー度の低い衣装に変わる。
これは、今度アルルへ戻った時に造王に変更要求を提示しないと。
既にロングメイスで数体の悪魔を葬っているミララに、後ろから襲い掛かろうとしている別の悪魔を僕のレイピアで切り裂く。
更に、次々と湧き出る悪魔をレイピアの錆にしていく。
まあ、血が出ないから錆にはならないだろうけど......
「それにしても、限が無いの」
「一旦引きましょう。レストの魔法で数を減らした方が良さそうです」
際限なく湧き出てくる敵にウンザリしたミララが愚痴を溢すと、ルーラルが即座に次の対応を伝えてくる。
「解ったわ」
「了解なの」
僕とミララがルーラルの指示に応答すると、彼女は即座に少し離れた場所に居るレストへと念話を飛ばす。
『レスト、思いっきりブチ噛ましなさい』
「それなら、オレの出番だな!」
ルーラルの念話を聞いたのはレストの筈だけど、思いっきりブチ噛ますというキーワードがトリガとなったのかも知れない。返事をしてきたのはレストの内に眠るガストだった。
「おりゃ! 喰らえ! 爆裂!」
てか、それしか知らないのかな?
彼女はまるで水を得た魚の様に、唯でさえ風化しつつある遺跡を次々と塵に変えていくのだった。
周囲に気を配る必要がない時のレストは、正直言って半端ない破壊力だ。
唯でさえ原型を留めていない遺跡が、最早、砂塵の状態にまで崩れ去っている。
これって、実を言うと割と大切な遺跡だったりして......
今更ながらに、レストの破壊っぷりに慄いていると、その惨状を見たミララがポツリと溢す。
「破壊者なの」
確かに、彼女のが言う通り、僕達ではここまで破壊し尽くすことは出来ないと思う。
そう言う意味では、レストの実力は桁外れだと言えるだろう。
ただ、そんな事よりも気になるのは敵の存在だ。
「それよりも、敵はどうなったのよ」
そう口にしながら状況判断の正確なルーラルへ視線を向けると、彼女は真剣な表情で辺りに視線を巡らせている。
だけど、敵は現れる様子が無いし、もう大丈夫じゃないかと思った時、ルーラルから警戒の言葉が放たれた。
「左の方向から敵が現れました」
彼女の言葉で、視線をそちらに向けると、レストが爆破した床の一部に穴が穿たれ、そこから黒い人型の悪魔が這い出てきていた。
「地下に降りられるの?」
湧き出る悪魔を見ながら、ミララは己が感じた疑問を口にする。
「どうやら、そのようですね」
「どうする?」
冷静に答えてくるルーラルへこれからについて尋ねると、「彼女は何を言ってるの?」とでもいうような表情で答えてくる。
「主様が見つからないのです。当然ながらあの悪魔を殲滅し尽くして、地下の捜索を行いますよ」
確かに聞く方が間違っていたかもしれない。
彼女の頭の中は、全てが師匠で染まっているのよね。
そんな事を考えながら、床に開いた穴から無数に現れる悪魔をレストに燃やして貰い、それを逃れた敵を僕とミララ、ルーラルの三人で倒していく。
どれくらいそうやって戦ったか覚えていないけど、お腹の空腹感からすると数時間は戦っているような気がする。
この感じからすると、そろそろレストが不満を述べてくる頃だわ。
「お腹が空いたのです」
ほらきた! 僕のお腹の感じからして、彼女が空腹を訴えない訳がない。
空腹感を持たないルーラルが少し顔を顰めるけど、彼女は周囲に視線を巡らせたあと、渋々と口を開く。
「解りました。この戦闘が終わったら、一旦食事にしましょう」
「やったのです」
ルーラルの言葉にレストが喜び、一気に気力が回復した所為か、彼女が放つ魔法の威力も上がった様な気がする。
その後も、早くご飯を食べたいレストは、異常な精神力を発揮して、あっという間に湧き出る悪魔を殲滅し尽くした。
それを目の当たりにした僕は、本当に食べ物の力とは偉大だと、今更ながらに痛感するのだった。
食事も終え、レストのお腹を満足させると、僕達は悩む事無く遺跡の地下へと潜り込んだ。
だけど、地上に湧き出た悪魔を散々と倒した所為か、地下で現れる悪魔の数は思ったより少なく、割と簡単に駆逐する事ができた。
それよりも問題なのは、遺跡の地下が想像以上に広かったことだ。
流石に、ここで班を分ける訳にもいかず、四人で行動する必要があるのだけど、地図も無ければ、初めての場所なので、思うように先に進むことが出来ない。
そんな時にミララが口を開いた。
「レスト、ミーシャの匂いを探すの」
いやいや、こんな所に師匠の匂いなんて無いでしょう?
ミララの言葉に内心で否定的な意見を述べた僕だったけど、レストは素直に豆柴となると必死に匂いを嗅いでいた。
「オン! オン!(こっち! こっち!)」
えっ!? マジで解るの?
レストの鼻を信用しない訳では無いけど、流石にこれはちょっと信じられない。
そう思って視線をルーラルへと向けると、彼女も僕と同感なのか、少し訝し気な表情をしていた。だけど、彼女は全く手掛かりがない現状を考えて、レストの鼻に賭ける事にしたようだった。
「レストの言う通りにしましょう」
その表情から不本意な感情が滲み出ている処をみると、彼女も苦肉の策と行った処なのだろう。
そうして暫くレストの言う通りに地下をどんどん進んでいき、行き着いた場所には大きな扉があった。
「ここなの?」
「オン!(そうなのです!)」
ミララの問いにレストが答える。
この二人って、実を言うと結構仲が良いのよね。
いつも二人して僕を攻撃してくるし......
まあ、今はそれ処では無いので、その件は棚上げしましょうか。
「マルラ、解除できますか?」
厳めしい巨大な扉を前にしたルーラルが、僕に視線を向けてくる。
「やってみる」
一応、師匠に解析と解除の魔法は習ってるから大丈夫だと思うけど、実際、この能力って魔力の強さが肝なんだよね。
そんな事を考えながら、解析の魔法を使ってみたけど、結果は呆気ないものだった。
「なにも掛かってないわ」
そう、物理的な鍵も、魔法的な鍵も、封印も、罠や呪いも、全く何も掛かってない。
それをルーラルに伝えると、彼女は頷きながら全員に告げた。
「準備は良いですか?」
「問題ないの」
「大丈夫よ」
「オン!(うん)」
ルーラルの問いに、ミララと僕が答えたのだけど、最後の返事が全く準備できてないように感じたのは、僕だけでは無いようだった。
「レスト、ちゃんと人化しなさい」
「レスト、あとでお仕置きなの」
「クゥ~~~ン(あう~~~っ)」
レスト、あんた、本当に本気でそれを遣ってるの? そのことの方が気になるわ。
レストのボケに全員が脱力したのだけど、気を取り直して扉を開ける事にする。
力自慢のルーラルとミララが、二人で扉を向う側へと押し開けると、その厳めしい扉が見た目から想像した通り重い音を立てながらゆっくりと開かれていく。
「ん? 祭壇があるの」
扉を開けたミララが中の様子を見て、即座にその事を口にする。
その言葉で、僕は即座に部屋の奥にある祭壇へと視線を向けると、そこにはカルミナ王城地下で見たのと同じ雄ヤギの像が置かれた祭壇があった。
だけど、カルミナ王城地下とは違い、周囲に子供の骨が山積みなんて事は無く、逆に何も無い空間だった。
てか、なんでここから師匠の匂いがする訳? ねえ、レスト!
そんな想いを込めて、レストへと視線を向けると、そう思ったのは僕だけでは無かったようで、ミララとルーラルも冷たい視線をレストに向けていた。
三人の冷たい視線を一身に浴びたレストはと言うと、即座に豆柴になるけど、その事を逆にルーラルに怒られている。
「なぜ豆柴になるのですか! 時と場所を選びなさい!」
「クゥ~~~~ン」
悲しそうな声を漏らすレストだけど、ルーラルは気にする事無く僕達に告げてくる。
「行きますよ。何時でも戦えるように準備しておいて下さい」
彼女も僕と同様に、あの像が動き出すと考えているのだろう。
全員が装備の状態を確認して頷きを返すと、彼女は盾を構えた状態でゆっくりと歩みを進める。
当然ながら、少し抜けた処のあるレストも人間に戻って付いてくる。
先頭のルーラルを追うように僕達が付いてくのだけど、祭壇と数メートルの距離まで来たところで、雄ヤギの瞳に光が宿った。
『こんな所まで来ようとはな。人間もなかなか侮れぬ。だが、うぬ等を始末すれば事は漏れぬわ』
勝手にブツブツと宣う雄ヤギだけど、カルミナ王城地下の祭壇で遭遇した時に比べると、全く脅威を感じない。
この部屋の状況からすると、生贄が無くてあまり力が出ないのかも知れない。
だけど、悪魔に掛ける情けはないのよ。
その言葉通りに、動き始めた雄ヤギの悪魔に向けて突進すると、行き成り剣技をお見舞いする。
「真空斬!」
僕の剣技が発動すると、奴はそれを避ける事が出来ずに左手の剣で受けようとする。
だけど、奴は僕の放った真空波の刃を止める事が出来なかったようで、剣もろとも左腕を切り飛ばされる事となる。
更に、そこへミララの炸裂技が叩きつけられる。
「メガクラッシャー!」
奴はそれを右手の短槍で受けようとするけど、全く力及ばず、真面に喰らってしまっていた。
どうやら、始めに感じた通り、全く力が出せない状態のようだわ。
「スパイラルアタック!」
「紅蓮!」
更に、止めとばかりに炸裂したルーラルの一撃でバラバラとなった処を、レストが容赦なく灰に変えた。
最早、苦痛の呻き声を発する暇さえ与えない程の連続攻撃だ。
これを喰らったら、これまで戦った魔神でも倒れるかもしれない。
戦闘が終わり、周囲を見回すと薄暗かった室内が、心なしか明るくなったような気がする。
「レスト、師匠の匂いはしますか?」
僕よりも早く周囲の確認を終わらせたルーラルが、すぐさまレストに問い掛ける。
ルーラルの言葉で豆柴へと変身したレストは、懸命に師匠の匂いを嗅ぎ分けている様子だ。
彼女は、暫く匂いを嗅ぎながらウロウロとしていたけど、最終的に部屋の壁に掛けられた大きな姿見の前で足を止めた。
「オン! オン!(ここ! ここ!)」
その声に、僕を含めた残りの三人が走り寄る。
「マルラ、調べられますか?」
行き成りそう言われても......一応は頑張ってみるけど......
僕は自信なさげにルーラルへ頷きを返して、解析の魔法を使ってみる。
その結果は散々だった......
「異次元と繋がってるけど......何所か解らないわ。それに僕の力では発動できないと思う」
すると、何を考えたのか、ミララが行き成りロングメイスを振り被っている。
「ちょ、ちょ、ちょ、何をする気なの? ミララ! 止めなさいよ!」
そんな僕の悲鳴に耳を傾ける事無く、ミララは叫び声を上げながらロングメイスを振り下ろした。
「ミーシャを返すの~~~~~! ギガブレイク!」
慌ててミララの暴走を止めようとしたルーラルだったけど、彼女のそんな行動も間に合わず、大きな鏡が割れたと思った。
ところが、そこで目にしたのは、鏡の破片が飛び散った光景では無く、大きな裂け目が出来上がっている状況だった。
それを焦った表情で見ていたルーラルが、何の前触れもなく狂ってしまった。
「ミララ、もう一発、思いっきり遣りなさい」
ミララはその声に頷くと、再びロングメイスを振り上げる。
ちょっと、ちょっと、ちょっと、あなた達、なにをトチ狂ってるのよ!
思わず叫んだけど、それは全く声になる事無く、無情にもミララのメイスは再び振り下ろされた。
「ミーシャ~~~! ギガブレイク~~~!」
もう終わったわ......てか、ミーシャ、ギガブレイクって、師匠を殺す気?
そんな僕の想いとは裏腹に、ルーラルは何を考えたのか、その巨大な裂け目の中に入って行った。更にミララもそれに続き、人化したレストまで入って行く。
ちょ、ちょ、ちょ、あんた達、完全に壊れてるでしょ?
僕はそんな仲間達の奇行に溜息を吐きながら後を追う。
先行する三人に続き、黙々と進んだ所で出口に行き着いたのだけど、そこは綺麗な花が咲くお花畑だった。
そんなお花畑の光景を眺めていた僕だったのだけど、視線を巡らしている内に驚愕する。
そう、そこには可愛い幼女に抱かれた師匠の姿があったのだった。




