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57 次なる目的地


 ここから見る景色は絶景だと思う。

 王城を囲む街並みが遠くまで見渡せる。


 この街は未曽有みぞうの危機にひんしたが、その災厄はゾンビ化によるもので、街の財産を失う事は無かった。

 いや、国民こそが国の財産だと言えるのだから、多大なる財産を失ったと言った方が適切だろう。

 それでも、多くの子供達が生き残ったのは、この国の未来を考えると大きな希望だといえるだろう。


 現在の俺はカルミナ王城の屋根の上に居る。

 何故こんな所に居るかと言うと、それは簡単なことだ。

 色々と頭の中を整理したいのだが、下に居ると様々な事が起こるのだ。


 例えば、キルカがむせび泣きながらすがって来るとか。

 例えば、ロロカにキャンディのようにしゃぶられるとか。

 例えば、シロ、クロ、ミケの三匹の子猫から揉みくちゃにされるとか。

 例えば、メス猫達が追い掛けて来るとか。

 例えば、四人の娘が俺の貞操を狙っているとか。


 まあ、そんな感じで、挙げ連ねると限が無い。

 普段なら、そんな事も大変ではあるが、平和な証拠だと笑って対応する事も出来る。しかし、今はとてもそんな気分ではないのだ。

 というか、ここ最近起こった事を整理したくて、一人で落ち着く場所を探したらここに行き当たったのだが、思いの外に落ち着く場所だったので、ついつい景色を楽しんでしまったのだ。


 という訳で、そろそろ本題に入ろう。

 神器を求めて東奔西走とうほんせいそうする中で、幾つかの疑念が生まれたと思う。

 まあ、本命の神器に関しては、予想以上と言っても良いほど順調に進み、あと二つを集めれば完了となる。

 しかし、一つはニルカルアが持っており、残りの一つは所在不明の状況だ。

 これについては、一旦、置いておくとして、残る問題は大きく二つだ。

 

 一つ目は、子供の件だ。

 子供が如何したと思うかもしれないが、俺には重要な事のように思える。


 まずは、ニルカルアがこの街をゾンビ化した時に、子供だけを対象から外したことだ。

 その真意は解らない。しかし、奴が子供をゾンビ化させなかった事には、何か理由があるような気がしてならない。

 それと、海国で子供だけが助かっていた件だ。

 ただ、俺が海国の王都を見た時に思った事は、邪竜が子供とそれ以外を選別して攻撃したようには見えなかった。しかし、子供だけが生き残る事となった。

 更に、ニルカルアの登場だ。となると、奴は海国王都の状況を把握はあくしていたのだと推測できる。

 ならば、理由は解らないが、ニルカルアが子供達を守った可能性もある。

 いや、俺はむしろそうでは無いかと踏んでいる。

 ただ、その事から言えるのは、ニルカルアには何らかの意図があって、出来る限り子供を殺さないようにしているという事だけだ。

 これに関しては、これ以上の情報がないので、一旦ここまでとするしかない。


 二つ目だが、悪魔の存在だ。

 この王城の地下には悪魔を祭る祭壇があった。そして、そこには子供と思わしき遺骨が山となっていたのだ。

 ところが、皮肉にもこの王都はも子供を残して滅亡した。

 恐らくは、無情にも生贄か何かにされたと考えて間違いないだろう。


 それと、海国だが、邪竜が想像とは違い真面な存在だったことだ。

 対峙してみて解ったが、無差別に人間を無慈悲に殺すような存在とは思えなかった。

 それでも、奴は王都を滅亡させた。更に、結果的には子供だけが残る形となった。

 そこで俺が行き着いた考えは、海国王城の地下にも悪魔を祭る神殿があるのではないかという疑念だ。


 これは、因数分解と同じ原理だと思う。

 イコールを挟んで海国とカルミア王国のじょうほうを入れていく。

 子供が生き残った。王都が滅亡した。悪魔の祭壇があった。

 すると、海国に悪魔の祭壇があれば、方法は違えど完全に同じ結果が残る。

 だから、俺は海国の王城を探索したいと考えている。

 そうする事によって、悪魔の存在がハッキリすると思う。

 更に、それがハッキリすれば、他国における悪魔の祭壇を暴く可能性が広がり、ニルカルアの攻撃目標が絞れるのではないだろうか。

 そして、それが解れば、トアラルアの封印との因果関係が見えてくるのではないだろうか。


 そんな思考にふけっている俺に向けて、女性の念話が届く。


『こんな所でどうしたのミユミユ』


 その念話は、その言葉の内容からすると、見るまでも無く近くに居るようだ。それに、この声は......


 俺の予測の答えを見せつけるかのように、その声の主である水帝アクアが俺を抱き上げて屋根の上に腰を下ろす。


 てか、こいつらが正直に話してくれたら、こんな事をグダグダと考える必要も無いのだが......


『ミユミユの考えている事を当ててあげましょうか』


 アクアはにこやかな表情でそう言うが、別に当てて頂く必要はないから、とっとと吐きやがれ。


『そんな不満そうな顔をしないの!』


 だって不満だらけだから仕方ないじゃないか! てか、みんな猫の表情をどうやって読んでるんだ?

 それはそうと、お前とアーニャ、ロロカ、炎帝に闇帝、みんなこの先何が起きて、如何するべきなのかを全て知ってるんだろ!?

 本当に歯がゆくて仕方ないぞ!


『ミユミユの気持ちは解るけど、私達も意地悪してる訳じゃないのよ。そういう制約が掛かってるの』


 アクアは申し訳なさそうな表情でそう言うが......


「誰との制約ニャ?」


 俺を抱くアクアを見上げながらそう尋ねると、彼女は俺の頭を優しく撫でながら黙って首を横に振る。


 どうやら、それすらも言えないらしい。

 しかし、俺は薄々気付いている。彼女達に制約を課し、彼女達の言動の自由を奪っているのは、恐らく、白の神であり、癒しの女神と呼ばれるトアラルアだ。


 トアラは一体何を考えているのだろうか。

 きっと、アーニャの力を借りて彼女と話しても教えてくれないだろう。

 まあいい。教えてくれないなら自分で調べるまでだ。


『ミユミユは、これから如何するつもり?』


 アクアは首を傾げながら俺に尋ねてくる。

 その水色の瞳は、俺の心を何処までも見通せるかの様に輝いていて......恐らく嘘を言っても、直ぐに気付かれてしまうだろう。


「海国王城を調べようかと思ってるニャ」


 だから、俺は正直に答える事にしたのだが、彼女はその言葉を聞いて少し思案する仕草をした。そして、閉じていたまぶたをゆっくりと開けると、静かに己の意見を述べてきた。


『ミユミユ、少し悪魔の事は忘れなさい。どうせ、そのうち嫌でも解るのだから、今それに時間を掛けるのは無駄だと思うわ。それよりも神器集めを優先した方がいいわよ』


 彼女の口調は柔らかいモノであったが、その言葉は拒否を認めない雰囲気を宿していた。

 結局のところ、彼女達は何も教えてくれない。ただ、はっきり言える事がある。

 それが何かというと、彼女達は決して嘘を言わないということだ。

 その事から考えると、彼女の言う通り、放って置いても悪魔の事はそのうち解るのだろう。


 アクアに優しく抱かれている俺は溜息を一つ吐き、次の行動の練り直しをするのだった。







 毎度のことながら、白猫の洗礼は実に鬱陶うっとうしい。


 くそっ! 顔中を舐め回しやがって! この後、嫌でも風呂に入れられる羽目になったじゃないか。


 というのも、マルラとミララが、ミリアに舐め回された俺を放置してくれないのだ。

 それにしても、これさえ無ければ、ミリアも可愛い白猫なのだけど......


「これ、ミリア、いい加減にせい」


「ダンニャ~~~ン」


 全く......処置無しだ......


 主のアーニャがとがめるのだが、俺に抱き付いて舐め回すミリアの耳には、全く届いていないようだ。


 そんなミリアを見たアーニャが溜息混じりに口を開く。


「いっそ、種付けしてやれば大人しくなると思うのじゃが......」


 いやいや、無理だから......勘弁してくれ。


 ということで、俺達はアルラワ王国の王城へとやって来た途端、何時もの行事となっている。

 俺としては、通話の手鏡で終わらせたかったのだが、彼女を呼び出したところ、「そういう相談は面と向かってやるものじゃ!」なんて言われてしまったがために、ミリアの涎塗よだれまみれとなるのを知りながらノコノコと遣って来たという訳でだ。


「それで、神器の在処ありかじゃったな。今、持っておる情報は三つじゃ」


 渋い顔をしつつも、アーニャが神器の情報について話し始める。


「一つはゴルド商工連合国じゃな。どうもオークションに出品されるらしい」


 その情報があからさまに胡散臭いと思うのは俺だけだろうか?


 そんな俺の疑念を余所に、アーニャは話を進めていく。


「二つ目はトール王国の宝物庫じゃな」


 これは、かなり拙いよな。俺達はあの国で恐ろしく嫌われてるからな。


「三つ目はパール王国のダンジョンにあるという話だが、これはかなり怪しい情報じゃ」


 いやいや、どれも怪しいから......


「という訳で、現在の情報で行動するならゴルド商工連合国じゃろうな~」


 確かにそうだが、トール王国の宝物庫にこっそり潜り込むという手もある。

 しかし、俺の心を読んだかのように、アーニャが付け加えてくる。


「トール王国の宝物庫に潜り込もうなんてもっての外じゃぞ? あそこならこちらから問い合わせれば真偽の判定くらいしてくれるからな。敢えてトラブルを起こす必要もないのじゃ」


 俺の考えはお見通しということか......先に釘を刺されてしまった。

 仕方ない。ここはゴルド商工連合国へ行くとするか。


 という事で、ゴルド商工連合国の位置を脳裏に呼び出し、どの経路で行くかを考え始めた処で、再びアーニャが話し掛けてくる。


「もしかして、死国に転移しようと考えて居らぬじゃろうな」


 ん? 思いっきり考えていたが、何か問題があるのだろうか。


「拙いかニャ?」


 すると、アーニャは肩を竦めて溜息を吐く。


「お主も、もう少し情報入手について考えた方が良いぞ。現在、あそこは戦場になっておるのじゃ」


「えっ? 何でニャ?」


「死国の死人が消えた事を知ったトルガルデン王国とドロレス傭兵国が、死国の王都で戦っておる真っ最中じゃ。まあ、糞とゴミの戦じゃから、両方が潰れてくれた方が良いのじゃが......」


 辛辣しんらつなアーニャの物言いは良いとして、確かに死国はトルガルデン王国から見たら南側に隣接した国であり、ドロレス傭兵国から見れば北側に隣接した国となる。

 だからと言って、あんな何も残っていない国を如何するつもりだろうか。

 財宝は俺が全部頂いたし、書物は全てアーニャがゲットしてる。故に、残るはガラクタばかりだ。

 まあ、宝物庫を開けてビックリするだろうな。フフフ。

 てか、その財宝もカルミナ王都の学校設立の件で、その殆どをキルカに預けたんだけどな。


 それはそうと、じゃ~、絨毯は無いし、馬車の旅になるのか。


 そう思いながら視線をルーラルに向けると、何が嬉しいのか解らないが、彼女は胸を張ってほこらし気にしていた。

 唯でさえ大きな胸がこんもりと盛り上がり、マルラの冷たい視線がそれに突き刺さっている。


 まあいい。馬車の旅でもそれほど時間が掛かる事は無いだろう。


 という訳で、俺はみっちりと風呂で洗浄された後に、ゴルド商工連合国へと向けて馬車で出発することになるのだった。







 長閑のどかなアルラワ王国の領地を進むと、行き成り赤土と砂で出来た土地に辿り着いた。

 王都アルルから馬車で二週間弱、ここからが不毛の地なのだが、これ程までにハッキリと生死の境界線が出来るものだろうか。

 以前に通った時は、空飛ぶ絨毯で通過しただけだったので気付かなかったが、その境界線はあからさまに明暗を分けていた。


「こうやってみると、不毛の地って不自然よね」


 俺の疑問は誰しもが考える事なのだろう。

 マルラがそれを証明するかのように、俺の感想を代弁する。


「そもそも、神々の戦で不毛となった筈なの」


 ミララが歴史書で学んだ知識を披露してくる。


 そう、この中で真面に勉学に励んだのはミララだけなのだ。

 当然ながら、目の前に転がる豆柴が勉強したとは思えない。

 マルラも抑々が行商人の娘らしく、勉学については全くと言って良い程に疎遠そえんだ。

 ユニコーンであるルーラルに関しては、説明すら必要ないだろう。


 それはそうと、話は代わるが、ユニコーンのルーラルなのだが、使徒化した時に人間体で定着したらしく、今や人としての姿が主となり、ユニコーンの姿が変身した姿となったらしい。

 それについて、更に述べると、マルラも僕っ娘で定着したらしく、今や完全に貧乳の姿が本物になってしまったとのことだ。

 そうなると、レストが豆柴で定着しそうだが、彼女の場合は何故か人間体で定着している。もしかすると、呪われる前に世界樹の実を食べた所為かもしれない。


『時間も頃合いですし、不毛の地に入る前に野宿しますか』


 ルーラルが言う通り、既に夕日が俺達を赤々と染めている。

 別に不毛の地に入ってから野宿しても良いのだが、何が起こる変わらない事を考えると、不毛の地に滞在する時間を極力少ないくしたいと思うのは、いつわりい人情というものだろう。


「そうだニャ。今日はここで野宿するかニャ」


 ということで、不毛の地との境界線となる場所にテントを取り出し、野宿の準備を始める。


 まあ、テントといっても、中は立派な1LDKだし、野宿といったイメージは全くないのだが......


 そんな室内にキッチンを出してやると、マルラが透かさず料理の準備を始める。

 今では、彼女も料理に慣れた事もあって、以前のような食べられない物を作ったりはしない。

 そう言う意味では、いちじるしく進歩していると言っても良いのだが、胸の話題になると切れるところは、未だに全く成長していないとも言える。


「クゥ~~~ン(お腹空いたのです)」


 空腹に耐えかねたレストが、か細い声で鳴き声を漏らす。


 てか、なんで豆柴になってるんだ? 少しは手伝って遣れよ。


「レスト、犬になってないで手伝いなさい」


 要らぬ一言が藪蛇やぶへびとなってレストに降り掛かると、彼女は渋々四足で立ちあがり、次の瞬間にはスルスルと人間体に変化する。

 まるで特撮映画を見ているようだ。


「は~いなのです......」


 こうして料理を作り、和やかな食事風景へと移行するのだが、それは良い。問題はその後なのだ。


「ミーシャ、お風呂に入るの」


 早速、ミララが俺を捕まえてしまう。


 この処、戦闘力が向上した所為か、やたらと俺を捕まえるのが上手くなってきた。


「あ~、ミララ、今日は僕が師匠を洗うのよ」


 いや、君等二人はいいから、変な処ばかり洗うし......


「ルーラル、ルーラル~~、ルーラル~~~~頼むニャ」


「はい! 主様」


 揉め始めたマルラとミララをスルーして、俺はルーラルに助けを求める。

 すると、彼女は満面の笑みでミララから俺を優しく奪い取り、隣の部屋にある風呂へと向かう。


「ああ~~~、またルーラル~~~!」


「ルーラル、ズルいの!」


「オン! オン!(ズルい! ズルい!)」


 俺を胸に抱くルーラルを見たマルラ、ミララ、レストがクレームを入れてくるが、レスト、お前は犬の状態で何を言ってるんだ? それじゃ、洗えないどころか、思いっきり洗って貰うつもりでいるだろ!?


 という感じで、まあ、いつものにぎやかな一時ひとときを終わらせて、俺はテントの外へ出る。

 と言うのも、一応は俺が番犬ならぬ番猫だからだ。


 一応、頭にスーパーを付けてくれ。そう、スーパー番猫ニャ!


 アホな事をのたまいつつ、テントの入り口前に何時ものマットを敷いて、その上で綺麗になった身体を丸くする。


 そんなリラックスした状況で、時折、尻尾をフリフリしながら不毛の地の夜を見渡す。

 すると、俺はあるモノを目にする。

 いや、それは目の錯覚かも知れない。

 そう、俺の鼻や耳には何の反応も無い。それ処か敏感な筈のヒゲにすら反応が無い。


 まあ、髭は良いのだが......


 それでも、その存在は俺の目に映る。

 その存在とは、人だ。いや、人である筈がない。俺の感がそう告げている。

 抑々、こんな所に人が居ること自体がおかしいのだが、それ以上に不思議な事は、その存在が人に見えて人の気配を感じさせないことだ。

 更に付け加えると、俺の視線の先に座り込んでいるのが、幼女であることが不自然さをよりいっそう際立たせている。


 その幼女は銀色の髪を長く伸ばしており、白い服を着ている。

 その表情はうつむいている所為で確認できないが、その雰囲気からすると寂しそうにしているのが解る。


 暫くの間、息を殺してじっと観察していたのだが、その少女は全く動く気配がない。

 ずっと、俯いたまま膝を抱いた状態で座り込んでいるのだ。

 そこで、俺は意を決して話し掛ける事にする。


『お前は誰ニャ?』


 まずは念話で尋ねるが反応がない。


「お前は誰ニャ?」


 今度は声に出して尋ねるが、全くピクリともしない。


 俺はゆっくりと立ち上がると、慎重に幼女へと向かって歩みを進める。

 そして、幼女との距離が一メートルくらいになった時だ。

 その幼女は俯いたまま、両手を広げる。

 まるで、こちらにおいでと誘っているかのように。


「主様、声が聞えましたが、どうかしたのですか?」


 そんな処で、突然、後ろからルーラルの声が聞こえてくる。

 振り向くと、彼女がテントから出て来たところだった。

 俺は透かさずルーラルに言葉を発した。


「いや、この幼女が......」


 ところが、その言葉を聞いたルーラルは不思議そうな表情で首を傾げる。

 まあ、この幼女を見て不思議に思うのは仕方ないと思いつつ、再び幼女へと視線を戻すと、そこには何も無かった。

 座り込む幼女の姿など何処にも無く、そこには不毛な大地だけが存在していたのだった。

 その事に不思議な気持ちで呆然としていると、突如、ルーラルの声が響き渡る。


「幼女とは何ですか? ま、まさか、主様は幼女趣味だとか? えっ~~~!」


「ち、ち、ちゃうニャ~~~~」


 素っ頓狂(すっとんきょう)な事を言い始めたルーラルに対して、必死で否定しつつも、俺はこれからの旅路に大きな不安を抱くのだった。

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