56 その存在は
とても居心地が悪い。
つくづく思い知らされるのは、男とはいつも強気に見えても、いざという時に根性が無いことだ。
ああ、なんの事かさっぱりだろう。
簡単に言うと、目の前に裸の少女達が四人もいるのだが、全く手も足も出ないのだ。
いやいや、手も足も出てるのだが、何も出来ないだけだ。
何てことはない。何時もの入浴の風景なのだが、一つだけ違う事がある。
それは、俺が半人間体の姿だということだ。
猫の時は、あまり気にならなかったのだが、自分が人間体だと異様に気になってしまう。
そう、俺は猫耳、尻尾を付けた半人間体の状態で、マルカ、ミララ、レスト、ルーラルと共に温泉に入っている。
もし、この温泉の効果を知って入れば、きっと一緒に入る事は無かっただろう。
多くの者は、カルミナ王城に存在する怪しい地下を探索する事になった俺達が、何故こんな状況になっているかと思う事だろう。
それは大した理由はない。何だかんだで時間的に夕方となった所為で、探索を翌朝に持ち越し、地下通路は誰も入れないように封鎖することにしたのだが......そんな判断を下した時に、キルカからの申し出があったのだ。
「使徒様、この城には温泉風呂がありますので、是非ともそこで疲れを癒してください」
という訳なのだ。ただ、この王城温泉に滋養強壮や魔力回復の効果があると知っていれば、きっと一人で入った事だろう。
「でも、師匠、なんで半人間化したんですか?」
「わ、わからんニャ......」
半人間化した俺の左側で湯に浸かるマルカが尋ねてくるが、俺にも解らないのだ。
オマケに、変身時にはで無い筈だった語尾まで復活していた。
そんな俺の背後から大きな二つの胸を背中に当てるルーラルが耳元で囁く。
「魔力が過剰に回復したからではないですか?」
ヤバイ、とても危険な状態だ。とっても気持ちいいけど、超絶ヤバイのだ。その最終兵器を何とかしてくれ......
あまりの気持ち良さに、返す言葉も無く悶々としていると、俺の右側から声が掛かった。
「そんなことは如何でもいいの。この方が嬉しいの」
俺の右腕に大きな胸を当ててくるミララが、今まさに、俺に喰い付かんと言わんばかりの表情で、更に強く抱き付いてくる。
ヤバイっす。ルーラルとミララの柔らかい感触で、発情期が起こりそうな勢いだ。
かなり拙い事となっている現在の状況をどうやって打破するかと考えていると、今度はレストが余計な事を口走った。いや、それは言葉だけでは無かった。
「ミユキ......大きくなってるのです」
「こら、レスト、ど、ど、何処を握ってるんだニャ!」
俺の面前に座り込むレストが、ヤバい所に手を伸ばしている。
マズイ、マズイ、マズーーーーーーーーーイ!
猫の時は四人の裸を見ても欲情するなんて事は無かったのだが、何故か人間体になると異様に意識してしまう。
ささやかなレストの胸も、ほどほどのマルラの胸も、膨よかなミララの胸も、たわわに実るルーラルの胸も、とても魅力的に感じてしまう。
これって、猫の時に抑制された欲情が、人間になった事で解き放たれたのか?
この気分が起こる理由を考えていたのだが、大した結論を見出すことが出来ずにいると、ミララが艶めかしい表情でとんでもないことを口にした。
「ミーシャ、折角だから、契りたいの」
「いや、ダメだから、ダメだニャ」
上気した表情でミララが迫ってくる。
必死に否定しているのだが、後ろからはルーラルが抱き付いているので身動きが取れない。
「ルーラル、逃がしちゃだめよ」
「勿論です。こんな好機を逃す筈がありません」
こら、マルラ、何を考えてる。ルーラルも何の好機だ!?
「嫌がってる割には、凄い事になってるのです」
あう~、レスト、それを言うな。それは男の性なんだ。
いや、それより拙いぞ。このままだと四人の娘から貞操を奪われてしまう。
『あら、楽しそうな事をしてるじゃない。私も仲間に入れて欲しいわ』
その時だ。温泉の入口方向から可愛らしい幼女が現れた。
そう、水帝アクアの幼女体だ。
当然ながら胸はぺったんこだし、何を考えているのか、ツルツルの下半身を剥き出しにしている。
少しは隠せよ~~~! バカちん!
「ダメよ。アクアは最後。先に僕達からなんだから」
「そう、ちゃんと順番を決めたの」
「じゃんけんで決めたのですよ」
「こんなチャンスは滅多にないのですから、幾ら神とて邪魔しないで下さい」
マルラ、ミララ、レスト、ルーラルの四人娘がアクアに好戦的な態度で応じるが、アクアも負けていない。
『いいじゃない。そんなにケチケチしなくても。ミユミユなら若いから五人でも平気だと思うわ』
彼女はそう言って、湯船にザプンと飛び込んでくる。
チャンスは今だ。これを逃したら俺の貞操は......
そんな決死の想いで、アクアがお湯しぶきを上げて皆が怯んだ隙に、湯船から飛び出して逃げ出す。
後ろからは俺を呼ぶ五人の声が上がるが、足を止めたら最後だ。
俺は加速魔法まで掛けて、電光石火の勢いで走り去るのだった。
四人娘からの突き刺さるような視線に耐えながら、氷河期のような夜を過ごしたのは昨夜のことだ。
それでも、寝る時はマルラとミララが俺の争奪戦を始めたので、その隙を見て豆柴レストと一緒に床に入った。
その所為もあって、今朝はレストが絶好調で、マルラとミララが不満そうな視線を向けて来ている。
「あのニャ、そんなに喧嘩するなら、交代制にすればいいニャ」
俺としても、可愛い仲間達と寝ることに幸せを感じない訳でもない。
いや、正直に言うとオッパイは気持ちいいし安心できる。例えそれがレストの細やかな胸であってもだ。いやいや、豆柴であったとしてもだ。
ただ、毎日の取り合いの様相は流石に如何かと思う。
「そうですね。そうしましょう」
一番始めに乗って来たのはルーラルだ。
彼女は俺に関わる部分であまり自己主張しない。その所為で、恐らく俺と一緒に寝る事が一番少ない筈だ。
「あたしもそれが良いと思うのです。マルラとミララばかりズルいのです」
ルーラルに乗っかるように、今度はレストも賛同してくる。
その言葉を聞いたマルラとミララが反発するかと思いきや、二人は少しシュンとなって頷いてくる。
すると、突然、俺達の会話に割って入る存在が湧き出た。
『それなら、私もそのローテに入れて貰いましょうか』
そう、水帝アクアだ。ところが、参戦の声は他にもあった。
『水帝よりも、ウチの方がさきだギャ~』
そう、真っ白で綺麗な毛並みをした星獣ロロカことロロカーシャだ。
どうやら、二人も探索に同行するつもりのようだ。
『なによ。ロロカ! 私に逆らうの? ルッカに言いつけるわよ』
ロロカの台詞に水帝アクアが食って掛かる。
『うぎゃ、お母んに言いつけるのは無しだギャ~~!』
如何いった経緯かは知らないが、どうやら、ロロカと水帝アクアは顔見知りのようだ。
それは追々聴くとして、今は時間も押しているので、取り敢えずは出発だ。
「じゃ、行くニャ」
俺の号令と共に、全員が頷いて地下通路に続く薄暗い階段を降りていく。
すると、暫く進んだ所で、キルカの言っていたように不気味な空気に包まれてくる。
「マジでキルカの言う通りね」
「空気がおかしいの」
その事に気付いたマルラとミララが不気味な雰囲気についての感想を述べてくる。
その言葉に、ここに居るメンバーは頷くが、アクアだけは悲壮な表情で考え事をしている。
そんなアクアを訝しく思いながらも、俺は足を先に進めた。
それから暫く進むと、前方から怪しい人影がこちらに向かって来るのに気付く。
「敵ですか?」
その不審な存在を見て声を上げたのはルーラルだ。
ところが、現れた者はどうみても探索に向かった兵士の様に見える。
しかし......
「剣を構えてるわよ」
そう、マルカの言う通り、その兵士は行き成り襲い掛かってきた。
「殺しては駄目ニャ!」
その声で、思いっきりメイスを叩き込もうとしていたミララが動作を止め、俺の事を仰ぎ見る。
「どうするの?」
「気絶させるニャ」
今の彼女達なら造作もないはずだ。
そんな俺の予想通り、マルラがその兵士をレイピアの柄で殴りつけ、その兵士の意識を刈り取る。
それを見た俺が薄暗い通路に横たわる兵士に近付き、即座に治癒魔法を掛ける。
「レスト、少しだけ水を掛けてやるニャ」
「了解なのです!」
レストが俺の声に元気良く答えた途端、マルラは高速でその場を離れ、ミララは俺を抱き上げて一目散に逃げだす。
その事に疑問を感じていたのだが、レストの魔法が炸裂した後に理解した。
こいつは、少しという言葉を知らんのか?
「てへへ。失敗したのです」
舌を出して照れるレストは、あわや兵士が溺れるのではないだろうかと思える程の水をぶっ掛けたのだった。
その後、レストの魔法でずぶ濡れとなった兵士は正気を取り戻し、事情を聴いてみたのだが、何も覚えていないとの事だった。
もしかしたら、この空気の所為かもしれないと考え、俺はその兵士を転送のアイテムで上まで送り、先に進むことにした。
先へ先へと進む間に、更に数人の兵士を救助する。
通路は一本道で迷う事はないので、恐らく殆どの者を救助する事が出来るだろう。
ただ、それよりも気になるのが、救助した者達は全員が何かに憑りつかれているようだった。
しかし、俺達はこの空気を気持ち悪いと思えど、同じような現象は発生していない。
では、彼等は何が原因で意識を無くしたのだろうか。
「私達はみな使徒であり、神威を宿しています。もしかしたら、その違いがるのではないですか?」
訝し気にする俺に、ルーラルが助言してくる。
確かに、それは有り得る話だ。というよりも、それしか考えられない。
何故ならば、ここに来るまでに、彼等としか遭遇していないのだから。
「師匠、あそこに扉が」
マルラが扉の存在を教えてくれるが、誰が見ても解ると思う......
というのも、その扉は一本道の先にデンと構えているのだから。
まあ、それは良いとして、俺はテクテクと扉に近付くと解析の魔法で扉の状態を調べる。
どうやら、物理と魔法の両方で鍵が掛かっているようだ。
「解除するニャ。みんな戦闘準備ニャ」
俺の後ろで扉を眺めている仲間にそう告げると、即座に魔法の発動に移る。
『我が望むのは、何人たりとも妨げざる世界ニャ。解錠ニャ!』
魔法が発動すると、その厳めしく巨大な扉は、重々しい地響きと共に俺達とは反対方向へ自ずと開いて行く。
その途端、中に溜まっていたであろう瘴気が、俺達に襲い掛かって来る。
「何これ!」
「最悪なの」
「ケホッ! ケホッ! 苦しいのです」
「何ですか、この腐臭は」
余りの瘴気の濃さに、マルラ、ミララ、レスト、ルーラルが手で口や鼻を抑えて呻き声を上げるが、負傷している様子は無い。
しかし、その後方でロロカとアクアの二人がブツブツと話している。
『ここまで進んでるとは思わなかっただギャ』
『これは拙そうね』
どうやら、二人はこれが何かを知っているようだ。
しかしながら、俺の意識はそれよりも部屋の中に釘付けとなっている。
何故なら、そこには無数の骨が転がっているからだ。というか、転がっていると表現するのは些か適していないかもしれない。
「なによ!この骨の山」
「惨いの」
「酷すぎるのです」
「骨の大きさからして子供でしょうか」
驚く三人娘と違い、ルーラルはしっかりと観察した結果を口にする。
そう、その広い部屋の両脇は、子供らしき小さな骨で埋め尽くされていたのだ。
それは、一本の道の両サイドを人骨で壁を作ったような光景だった。
それでも、驚いてばかりもいられない。
俺は決意して、足を先に進める。
何故なら、その先には歪な像を祭る祭壇があったからだ。
「不気味なの」
まさにミララの言う通りだ。
その像は、禍々《まがまが》しい角を生やした雄ヤギの頭を持つ人の姿をしていた。
更に、その背中からは蝙蝠のような羽が生えている。
右手には歪な形をした槍を持ち、左手には鳥のような羽の生えた人の足を掴んでいる。
左手にぶら下げるように持っている人は天使を模ったものだろうか。
「悪魔なのです」
今まさに俺が口にしようとしていた言葉をレストが発した途端、突然、その像から不気味な笑い声が響いてきた。
『フフフフフフフフフ。ハハハハハハハハ。アハハハハハ~~~~』
その声は、背筋を凍らせる程の寒気を俺に感じさせる。
横目で見ると、四人の娘達も己の身体を両腕で抱いている。
『時は未だ満ちぬ。だが、あと少しだ。我が降臨した暁には全てを葬ろうぞ。故に、今はこれで済ませるとしよう』
笑いが収まると、本能的に嫌悪してしまうような声が響き渡った。
その声は、全てを滅ぼすと言うと、眼前の歪な像の目が赤く輝く。
次の瞬間、雄ヤギの形をした像の表面がヒビ割れ、中から現れた雄ヤギの悪魔が動き始めた。
「あ、骨が......」
その時、後ろに居たレストが突然声を上げる。
その発言が気になって後ろを仰ぎ見ると、部屋の左右に山積みされていた骨が蠢き、無数の骸骨兵が生み出されている処だった。
「やるニャ!」
現状を見て戦闘を回避できないと判断した俺がそう言うと、四人の娘がそれぞれの言霊を唱え始める。
すると、彼女達の姿が瞬時に戦乙女のものへと変化する。
ふむ。アニメの変身シーンみたいな時間が掛からなくて良かった。
彼女達の変身を眺めつつ場違いな事を考えていると、変身の終了と歩調を合わせたかのように、ロロカから念話が届く。
『骸骨兵はウチに任せるだギャ』
俺はロロカの心強い言葉に頷き、アクアに冷たい視線を向けて告げる。
「ちゃんと話を聞かせて欲しいものニャ」
ところが、彼女は俺の言葉に、悲しそうな表情で首を横に振るだけだった。
その様子からして、恐らく話せない事情があるのだろう。
もしかすると、いずれ分かる事なのかもしれない。
まあいい。今は戦闘を優先させよう。
こうして気分の悪い瘴気を放つ雄ヤギの悪魔との戦闘が始まるのだった。
いつの間にか、左に持っていた天使像を剣に変えた雄ヤギが、右手の短槍と共に振り回し、戦乙女となった四人の娘と戦っている。
後方では、ロロカの怒号が響き渡り、無数の骸骨兵を粉砕している。
雄ヤギとの戦いは死闘と言ってもいい程に熾烈な戦いとなっていた。
「真空斬!」
「メガクラッシャー!」
マルラが真空の刃を放つと、奴がそれを剣で切り裂く。
その隙にミララがロングメイスで粉砕技をぶち込むと、奴は短槍でそれを受ける。しかし、攻撃はそれで終わりでは無い。
「スパイラルアタック!」
気合の声を発したルーラルがドリルランスをぶち込むと、奴の腹に大穴が穿たれる。
完璧と言っても良い程の連携攻撃だ。
どんな相手が来ても、この連携攻撃を喰らったら一溜りもないだろう。
そんな力強い攻撃を見せた三人の成長に感心していたのだが......
「めぎょあ~~~~~~~~~~!」
雄ヤギ悪魔が部屋全体を震わせるかのような雄叫びを上げると、奴のどてっ腹に穿った大きな傷が速やかに治って行く。
「アイスソード!」
それでも、その治った傷へとレストが透かさず魔法を狙い撃つ。
すると、魔法で出来た氷の剣が治ったばかりの奴の腹に深々と突き刺さる。
ところが、奴が口から瘴気を吐き出すと、あっという間に溶けて無くなる。
「くっ、回復力が高過ぎるのです」
奴の回復力を見たレストが思わず愚痴を溢す。
「回復力が高いなら、バラバラにするだけよ! 喰らえ! 千手斬!」
心身ともに強くなったマルラがそう言うと、雄ヤギ悪魔の無尽蔵とも言える回復力を目の当たりにしても怯む事無く、目にも止まらぬ速度でレイピアを繰り出す。
その剣閃はあまりの速さで、沢山の腕で攻撃している様に見える程だ。
「ギガブレイク!」
マルラが雄ヤギ悪魔の左腕を剣もろともバラバラに切り裂いた処に、ミララがぶちかました粉砕攻撃が奴の短槍のみならず右腕をも粉砕する。
すると、マルラとミララの攻撃で無手となった雄ヤギ悪魔に、今度はルーラルが渾身の攻撃を叩き込む。
「ディサピアランス!」
その攻撃は恐ろしい程の威力を放ち、雄ヤギ悪魔を微塵に粉砕するが、そこへ止めとばかりにレストが叫び声を上げる。
「灰になるのです。紅蓮!」
次の瞬間、雄ヤギを囲んでいた娘達が、まるで蜘蛛の子を散らすようにその場から離れる。
ところが、そんな事など知らんわ! とでも言うように紅蓮の炎が燃え上がる。
それは、まるで巨大な炎の柱のようだった。
それは業火では済まされない程の燃えようで、かなり離れている俺の毛を燃やしそうな勢いだ。
ルーラルの攻撃でバラバラにされた挙句、レストの炎の魔法で焼き尽くされようとしていた雄ヤギから声が上がる。
『ぐあ~~~~! つ~~ぎ~~は~~~~~ぎゃ~~~~~~!』
雄ヤギの断末魔が響く中、俺はその存在について考えていた。
見た目は俺の知る悪魔そのものだが、その存在がこの世界にどう関係しているのか。そして、これからどう関わって来るのか。
更に、何故カルミナ王城の地下に祭壇があったのか。これは偶然なのか。それとも何かの因果関係があるのか。
俺の小さな頭の中では、その疑問が渦巻いている。
それに、先程の台詞からすると、これで終わりという訳では無いだろう。
この悪魔は、ここ最近の不可解な事象や問題に関係しているのだろうか。
もしかしたら、神器探しだけでは無く、全ての問題が繋がっていて、何らかの因果関係があるのかも知れない。
俺はそれを知るために、海国の王城を調べてみたいと考え始める。
『終わっただギャ。お腹空いただギャ』
その声に振り向くと、室内は歩く場所すらない程に骨で埋まっていた。
それを見た俺は無意識に魔法を唱えてしまう。
『癒しの女神トアラルアの名において命じるニャ。不浄なる者を救い賜えニャ』
すると、部屋を埋め尽くす骨が光の粒子となって消えていく。
『ありがとう』
『猫ちゃん、ありがとう』
『使徒様、ありがとう』
消えていく光の粒子からそんな声が聞えたような気がした。
「師匠、子供達が感謝してるみたいですよ」
「うん。みんな安らかに眠って欲しいの」
「次に生まれてくる時は、絶対に幸せになるのです」
「心から冥福を祈ります」
どうやら、聞こえたような気がした言葉は、俺の空耳ではなかったようだ。
その証拠に、仲間の娘達が各々の気持ちを吐露している。
『流石はトアラの使徒ね。こんな綺麗な浄化なんて、そうそうお目に掛かれないわよ』
『だって、ご主人様は癒しの神だギャ』
感嘆するアクアに向けてロロカが返事をするが、何故かその態度は自慢げだ。
この後、この祭壇をレストの魔法で粉砕し、扉を硬く閉じたあとに封印魔法で誰も入れない状態にして、今回の探索を終わらせた。
しかし、新たなる疑念が生まれる事となった。
そう、この世界には、これまでに知った神のみならず、悪魔の存在がある。
それがこの世界に一体どんな影響を及ぼすのか......
それを知らされない自分の立場に、如何しようもない程のジレンマを感じるのだった。




