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55 黒より白が好き


 美しき神殿。

 細部にまで刻まれた彫刻が、唯の柱ですら芸術品に変えている。

 これをほどこした人の技術と精神、美しき物を愛する心、どれを取っても素晴らしいと思えるわ。

 わたし達は力ある故に、これ程までの努力を行わない。

 それは、この世に在るもの全てを美しいと思っているからかも。

 だから、わたし達は何も造り出そうとしない。


 いえ、そうではないわね。


 わたし達の力が強大過ぎて、何かを造り出すと、この世の調和が乱れてしまうから。

 神と自分で言うのは、少し気が引けるけど、神の力とはそういうものなの。

 だから、わたし達は出来る限り力を使わないようにしている。


 でも、そうもいかない事態になりそうね。

 

 そんな未来を見てしまった......

 わたしもそれを見たかった訳では無いの。

 ただ、見えてしまったのよ。

 一体誰がわたしにこんな力を授けたのかしら。いい迷惑だわ。


 わたし達は、気が付いた時にはこの世界に在った。

 自分の名前も初めから認識していた。

 そう、わたしはトアラルアという名前だったわ。

 それは、まだ、人間も居らず、動物も居らず、ただ在るのはこの大地と海だけだった頃の話だけど。

 気が付くと、わたし以外の神々が生まれ、次に植物や動物達が生まれ、最後に生まれたのが人間と呼ばれるわたし達神々に似て非なる存在。


 そんな世界をより良くするために、わたし達は様々な事してきたわ。

 だけど、その多くは神々が介入する事で裏目裏目となっていく。

 要は、神々は黙って見守っていろという事なのかしら。

 全てをこの世界における自然の摂理に任せろというこのなのかしら。

 だけど、それでは人間だけでなく動物達も含め、全ての生き物が辛すぎるわ。

 だから、出来るだけ助けてあげたい。力になってあげたいの。


 そんなわたしの想いを裏切るかのような予知夢が見えてしまった。


 さて、どうしましょう。

 ここはまず、あのバカップルに相談しようかしら。

 でも、目の前で惚気られると、少し気分が悪くなるのよね。

 ああ、先にアーニャに相談しましょう。

 神々でもなく、人間でもない少女だけど、彼女なら良い知恵を出してくれるかもしれないわ。

 ただ、あの子、全く成長しないのよね~。

 だから、本当の歳も分からないし......本当はお婆ちゃんだったりして。フフフ。


「ア~~ニャ~~~! どこかしら~~~」


 声を掛けても返事が無いわ。


「仕方ないわね。じゃ、ミーナ、一緒に探しに行きましょう」


「ナ~~~!」


 わたしは、とても賢く可愛いサバトラ猫のミーナを抱き上げて、アーニャを探しに歩き回るのだった。







 海国の王都は悲惨としか表現できない状態だった。

 多くの建物が潰されたり焼け落ちたりしている。

 しかしながら、その最たる建物は王城かも知れない。

 邪竜が踊る様に踏み付けた挙句あげく、炎でこんがりと焼き溶かした所為で、それは最早ただの残骸としか言えない姿をていしていた。

 いや、姿と呼ぶ事すらおこがましい(・・・・・・)のかもしれない。


「師匠、王城に行くんですか?」


 そう尋ねて来たのは、緑を基調としたドレスアーマーを身に付けたマルラだった。

 その様相はとても可愛い姿であり、本人も気に入っているようだ。


「悪いけど、マルラは空から生存者の確認をして欲しいニャ」


「了解です。じゃ、行ってきますね」


 俺の返事に元気よく答えたマルラは、一気に空へと駆けあがって行く。

 その様は、まるで風の妖精のようだ。


 俺を売って一攫千金いっかくせんきんなんて言っていた娘が、今では空駆ける少女か。


 マルラが空を飛ぶ姿を感慨深かんがいぶかく眺めていると、今度はミララが話し掛けてくる。


「ミーシャ、この格好はどう?」


 そう尋ねてくるミララは、にこやかと言うよりも意味深いみしんな笑みを浮かべている。


 如何と聞かれても......パンツ丸見えだし......

 なんか、裸よりもエッチだよね......


 そうなのだ。地に座る俺からミララを見上げると、下着が丸見えなのだ。


「戻ったら、マルラのような半パンにして貰うニャ」


「それはダメなの」


 俺の進言に、ミララは即座に否定の言葉を投掛けてくる。

 その気持ちが分からず、ついつい尋ねてしまったのだが、それが失敗だった事を直ぐに知る事になる。


「何でニャ?」


「だって、下着が見えた方がミーシャが喜ぶの」


 いや、喜ばないし......ちょっとだけ、ドキドキするけど......


「いや、抑々、一緒に風呂にも入ってるし、喜んでないニャ」


 少し、誤魔化しながらも答えると、ミララの表情が一気に曇る。


「私の下着を見たくないと言うの?」


 ヤバイ、目が座ってる。どうやら俺は回答を間違えたようだ。


 結局、ミララはミニスカートを止める事はなかった。

 と言うのも、ルーラルの衣装が衝撃的で、ミララのミニスカートがかすんで見える程だからだ。


「主様、この格好は少し恥ずかしいです」


 本人が言う通り、これはドレスアーマーではなく、ビキニアーマーの間違いだろう。

 それも真っ白な衣装に金色の刺繍ししゅうがあしらわれて、とても清楚せいそな雰囲気なのだ。

 しかしながら、その帯面積の少なさから、清楚と淫靡いんびが混ざり合い、とても魅惑的みわくてきな格好となっている。


「ミーシャ! ルーラルばかり見ないの」


 ルーラルの格好に釘付けとなっていると、ミララが釘を刺してくる。

 最早、今の俺は釘バットみたいな状況だ。


「それよりも、レスト、水魔法で火を消してくれないかニャ」


「オン! オン!」


 振り向いた俺の視線の先には、可愛い衣装を着た豆柴の姿があった。


「にゃ、ニャんで豆柴になってるニャ」


 ヤバイ、思わず噛んでしまった......


「ミーシャがルーラルばかり見て相手にしてくれないからなの」


 うぐっ、マジか? そんなつもりは無かったのだが......


「クゥ~~~~ン」


 寂しそうに鳴くレストに近寄り、可愛い豆柴の頬をペロペロと舐めてやる。

 すると、次の瞬間、レストが人間体となって勢いよく叫ぶ。


「よっしゃ~~~~! じゃんじゃん消すのです~~~~~!」


 復活したのは良いが、レスト、お前もパンツが丸見えだからね! いや、ここはで言うべき言葉は違うな。

 レスト、お前に黒いパンティはまだ早いからな。それに、俺は白の方が好きニャ。


 そんな俺の心の声を聞く事の出来ないレストは、まるで水帝アクアのお株を奪うかのように大雨を降らせて回るのだった。







 あれから三週間の時を掛けて、瓦解がかいした海国王都で生存者の探索を行った。

 その結果、三週間の時を掛けた事に見合うだけの成果があった。

 凡そ二千人以上の生存者を助けることが出来たのだ。

 これはとても喜ばしい事であり、喝采かっさいすべき事だと言えるだろう

 しかし、大きな疑問も生まれてしまった。

 それが何かというと、生存者の全てが子供だったからだ。

 初めのうちは、助けた子供をみて嬉しく思っていた。

 ところが、その数が十人、二十人、三十人となっていくうちに、不思議に思い始める。

 それも当然だろう。子供だけが、いや、子供しか助かってないなんて不可解ふかかいだ。

 そう思いつつも、助けていく内に確信する。

 これは、何らかの力が働いていると。いや、誰かは知らないが、故意に子供だけを守ったと。

 だって、二千人に及ぶ生存者の全てが子供なんて不自然だ。

 それでも、子供だけでも助かるのは喜ばしい事だ。

 故に、俺はその疑問を仕舞しまいい込み、子供達をカルミナ王国へと転移させた。


「主様、そろそろ探索も限界かと思います」


 全く疲れた様子を見せないルーラルがそう進言してくる。


「そうだニャ。キルカとも話があるし、そろそろ切り上げるかニャ」


 当然ながら、死者の埋葬まいそうを行っている暇はない。

 生存者の救出だけで精一杯なのだ。


『みんな、戻るニャ』


『はい! 師匠』


『了解なの』


『はいなのです』


 念話で全員に告げると、直ぐに返事が戻ってくる。

 綺麗なドレスアーマーの衣装をなびかせる彼女達が戻って来たのを見計らって、カルミナ王国の王都へと転移するのだった。




 勝手知ったる我が家といった風に、カルミナ王城の中を闊歩かっぽすると、擦れ違う者達が例外なく頭を下げている。


 う~む、なんとも居心地が悪くなってきたな~。


 そんな想いを胸に秘めたまま、四人の娘と共に謁見の間へと入る。閑散かんさんとした謁見えっけんの間にドンと置かれた玉座には、何故かロロカが乗っかっていた。

 更に、そんな彼女の上には、シロ、クロ、ミケという三匹の子猫がいる。


 一体如何した事だと思いつつ、室内を見回していると、どうやらロロカ達も俺の存在に気付いたようだ。


『ご主人様だギャ~~』


『あ、パパニャ~~』


『あそんでパパニャ~』


『パパニャ~お腹空いた~~』


 ロロカ、シロ、クロ、ミケの順で声を上げるが、俺はそれよりもこの状況が気になった。


「ロロカ、キルカはどうしたニャ?」


 疾風しっぷうごとく群がって来た子猫達から揉みくちゃにされながら、俺はロロカにそう尋ねる。


『キルカなら、執務室しつむしつで仕事に追われてるだギャ』


 それを聞いた俺は、「あ~王様になんて成らなくて良かった~」と心底思ってしまう。


 その後、三匹の子猫を背に乗せたロロカに案内されて執務室へ訪れたのだが、今度は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 だって、キルカのやつれ様が物凄かったからだ。


「あ、使徒様、邪竜を討伐されたと聞きました。流石は我が主たる使徒様です」


 俺を見止めたキルカは、慌てて俺の前に遣って来るとひざまずく。


「いやいや、キルカにも苦労を掛けてるようだニャ。申し訳ないニャ」


 ほんの一、二カ月でゲッソリと痩せたキルカの姿に罪悪感を抱きながら、労いと謝罪の言葉を掛ける。


「いえ、これも使徒様の従者としての務めですから。それに使徒様にそう言って頂いて本当に嬉しいです」


 キルカは、ほっそりとなった頬に喜びの涙を流している。


 そんなキルカの姿を見遣って、その気持ちはとても嬉しいのだが、少し引いてしまった......


「それはそうと、例の件はどうなってるニャ?」


「あ、あれですね。もう準備できています。というか、既に子供達を通わせていますよ」


 ここ最近、子供ばかりが生き残る出来事が立て続けに起こったが故に、俺はある計画を立てた。

 キルカはその計画が順調であり、既に開始している事を伝えて来たのだ。


「正式な建物は、大急ぎで建てている最中ですが、人員の方が整いましたので、後宮を利用して開始しました」


「そうか、ありがとうニャ。やっぱりキルカに任せて良かったニャ」


「あ~、有り難きお言葉」


 その後、海国の話を説明し、執務室を後にした俺達は、その足で後宮へと向かった。


「はいはい! 三です」


「はい。良く出来ました」


 後宮に入った途端、子供達の声と大人の声が聞こえてくる。

 とても賑やかで楽しそうだ。


 そう、俺が作らせたのは学校だ。

 これからの社会を担うために、子供達に色々な知識を与えようと思ったのだ。

 というもの、今更、貴族だ、王族だ、支配階級だ、なんて必要ない。

 地位なんて関係なく、自分の遣りたい事を見付けて欲しいのだ。


 どうやら、今の教室は幼年組らしい。

 文字や言葉、簡単な計算を教えているようだ。


 更に足を進めると、今度はもう少し大きな子供の集まる部屋があった。


「さあ、みなさんはどんな大人に成りたいですか?」


 大人の女性がそう言うと、子供達が次々と手を上げる。


「はい! ミト君」


 大人の女性が、必死に手を上げる一人の少年を差すと、その少年は勢いよく立ち上がって叫ぶように宣言した。


「はい。僕は、使徒様のように人を助ける事のできる大人になりたいです」


 少年がそんな宣言をすると、周囲の子供達から歓声があがる。

 まさに、部屋が爆発しそうな程の喝采かっさいだった。


「そうですね。使徒様はとても様々な力をお持ちです。ですが、何よりも素晴らしいのは、困っている人、弱っている人、いえ、人に限らず動物に至るまで、救いたいと思うその気持ちです。ですから、皆さんも力に目を向けるのではなく、清き心を持てる大人になりましょうね」


 素晴らしい言葉だと感じた。

 力が不要だとは言わない。しかし、心なき力は、唯の破壊でしかない。力なんて所詮しょせんは、手段でしかないのだ。

 清き心があって初めて力が役立つのだ。


 この教師も生徒も本当に素晴らしいと感嘆かんたんしていると、後ろから俺達を呼ぶ声が上がる。


「使徒様~~~! 大変です~~~!」


 その声の発生源はキルカだった。

 振り返り、声を上げるキルカを見遣ったのだが、次の瞬間、各部屋から子供達があふれ出て来た。


「使徒様だ~~~!」


「使徒様、ありがとう」


「ありがとうございました。使徒様」


「使徒様、可愛い~~」


「うきゃ~、うちにも使徒様を抱かせて~~」


「ヴァルキリア様だよ。綺麗ね~。あたしも大人になったらヴァルキリア様のような女性になりたい」


 いやいや、こんな女の子になったら大変だぞ? 凄く暴れるんだぞ? てか、うお! ひげを引っ張るニャ~~!


 感謝の声を上げる者。

 俺を抱き上げる者。

 俺を取り合う者。

 俺の仲間の娘達に憧れの視線を向けて群がる者。


 もう、大変な状況となっている。


「こらこら、使徒様が困ってますよ」


「君達、悪いね。少し使徒様とお話があるんだ。さあ、授業に戻るんだよ」


 教師らしき女性が制止の声を上げると、キルカが子供達に言い聞かせる。

 まあ、子供とはどんな世界でも元気でヤンチャなのだと感じながら、この場を後にしたのだった。







 キルカに連れられて執務室に入ると、そこにはソファーでお茶を飲む幼女の姿があった。

 そう、水帝アクアだ。

 彼女は邪竜の討伐が終わった時点でカルミナ王都に戻ると言い出し、救出には全く手を貸してくれなかったのだ。


 彼女が雨を降らせればもっと早く終わっただろうに......


 恐らくは、俺からの追及ついきゅうを逃れるためだとは思うが、もう少し協力しても良さそうな気がする。

 そんな彼女は、少し退屈したような表情で、俺に手を伸ばす。


「ミユミユ、いらっしゃい」


 しかしながら、その手をはばむかの様にミララが俺をさらう。まるで、さっきの子供達のようだ。


 まあいい。女の戦いは男が首を突っ込むと大変な事になるからな。俺は知らん振りを決め込もう。


 そんな俺の姿に哀れみの視線を向けながら、向かいに座ったキルカ話し始めた。


「実は、この城の整備を行うために、各箇所の確認を行っていたのですが、その時に怪しい地下通路を見付けたようです」


 まあ、城に地下通路なんて、ごく当たり前で何を驚くのかと思ったのだが、彼が続けて話してきた内容を聞いて、ただ事ではないと感じ始める。


「何度も探索の者を送り出したのですが、誰一人として戻って来ないのです。それと、そこへ向かうと気分を悪くする者が続出して、奥へと向かえる者は極僅ごくわずかとなってます」


 ふむ。どうやら、その怪しげな地下の探索を俺に願い出たという訳だな。

 まあ、子供達も沢山いる王城だし、その件に関しては何とかする必要があるだろう。


「解ったニャ。俺達が見て来るニャ」


「本当ですか。そうして頂けると助かるのですが......使徒様、本当に申し訳ありません。我らに力が無いばかりに」


 とても申し訳なさそうにするキルカに、俺は慰めの言葉を掛ける。


「キルカにはキルカしか出来ない重要な事があるニャ。何も気にする必要はないニャ」


「使徒様、有難う御座います」


 涙を浮かべんばかりの表情で、キルカが感謝の言葉を述べてくる。


 こうして俺達はカルミナ王城の地下探索に向かう事になるのだった。

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