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52 生まれ変わる者達


 このところは驚かされる事ばかり起こっている。

 まあ、人生とは......猫生とはそんなものだと言えば、確かにその通りなのだが。

 虎娘が現れたり、ニルカルアが現れたり、水帝が現れたりと予測できない来訪者も多い。

 しかしながら、何に一番驚かされたかと言うと、炎帝と闇帝の夫婦話だ。

 こればかりは、俺の想像を裏切るばかりで無く、全く思いもしない事実だった。

 奴等は、如何見ても水と油のように思えるのだが、実はとても仲が良いらしく、遠い過去では、他の神々からバカップル認定されていたようだ。

 そんな二人は、周囲の目を盗んでは、いちゃラブしていたらしい。

 それを聞いた俺は、炎帝があの厳つい声で甘えたり、闇帝があの冷たい物言いでデレたりしている事を想像して、つくづくこの世界は謎だらけだと思い知らされるのだった。


 それはそうと、現在の俺達は馬車に乗り、海国へと急いでいる最中だ。

 しかし、ここに全く予想だにしていなかった問題児が居る。


『だから、強くなるにはコツがあるのよ』


 その問題児が発した言葉に、マルラとミララが頷いている。

 何故かその問題児の膝上にいる豆柴姿のレストも、ハアハアと舌を出している。

 レストの格好については、その方が可愛いからという問題児の希望で、無理やり豆柴の姿へと変身させられているのだ。


『まずは、キャラを濃くする。あなた達はキャラが薄わ』


 いやいやいや、全く意味が解らん......変な事を教えないでくれる?


『猫ちゃんを見てごらんなさい。この全く猫らしくない猫を!』


 おい! なんで俺を引き合いに出すんだ! てか、俺のどこが猫らしくないんだ!?


『あの取って付けたような語尾、あの悲しい程に猫らしくない仕草』


 ちっ! 俺の事は如何でも良いだろう! そんな事はとっくの昔に自認してるんだ。大きなお世話だ。

 抑々、この取って付けたような語尾は、全てトアラの所為なんだぞ。


『だから、まずはキャラを確立しなさい』


「はい!」


「分かったの」


「オン!(分かったのです)」


 ツッコミどころ満載の台詞なのに、三人娘が納得の表情で頷きを返している。


 既に問題児が誰かはお解りの事だろう。

 そう、昨日の夕方に突然現れた水帝だ。

 しかし、何故その水色美女を問題児と呼ぶかというと、その理由は簡単だ。

 一つ目は、発言に問題が山盛りだから。

 二つ目は、魔力を使い過ぎたということで、幼児化してしまったから。

 この二つの理由で、問題児と呼ぶことにしたのだ。


 水帝に関しては、邪竜を長期にわたり封印していたことから、魔力の消耗が物凄い事になっているらしい。

 その割には、滝のような大雨を引き連れて遣って来たのだが、彼女に取ってあれくらいはお茶の子さいさいだとのことだ。

 そんな彼女は、現在五歳児くらいの姿と化している。

 まあ、水色の髪と瞳をした可愛い幼女なのだが、その発言は問題だらけだと言っておこう。


「なあ、アクア、聞きたい事があるんだニャ」


 アクアというのは、彼女の名前だ。

 といっても、正式な名前では無く、彼女自身が即興で命名したものだ。

 彼女曰く、水帝と呼ばれるのは、あまり好きでないらしい。


『なに? 今は忙しいのよ』


 いやいや、そんなアフォな事は教えなくていいから、俺の質問に答えてくれよ。


「いや、重要な話なんだニャ」


『もう~~、仕方ないわね』


 何が仕方ないのか、さっぱり不明だが、アクアは俺の質問を聞く気になってくれたようだ。


「邪竜って強いニャ? 俺達だけで勝てるかニャ?」


『強いに決まってるわよ。私が長年封印してきた程だもの。勝てるかよね? ちょっと厳しいかもね~。特に四人娘は相手にならないと思うわ』


 豆柴レストを抱いた五歳児アクアが遠慮なしにそう言うと、二人の娘と一匹の犬が項垂れ、馬車を引いていたルーラルの脚が止まる。

 彼女達の落ち込む気持ちは解るが、俺としては他に気になる事がある。


「抑々、どうして封印なんだニャ? 討滅とうめつできなかったのかニャ?」


 そう、色々と考えるよりも、本人に聞く方が早いだろう。


『ん~、それはね。ニルカのバカが邪魔をしたからよ』


 なんだと! そんな処にも奴が登場するのか。


 とても悔しそうにしているアクアが、レストの頭を撫でながら話を続ける。


『あと少しで倒せるってところで、ニルカが出張って来て後ろから襲って来たのよ。その所為で、私の力がゴッソリと持っていかれてしまったの』


 もしかして、あの黒球で遣られたのかな?

 いや、それはいい。それよりも、もしそうであるなら......


「俺達が行かなくても、アクア一人で倒せるんじゃないのかニャ?」


 抑々、アクアが倒せる相手だったのだ。

 だったら、今更以いまさらもって俺達が行かなくても事が済むのでは?

 ところが、アクアはそうしなかった。何故だ?


『今は無理よ。だって魔力がスッカラカンだもの』


 俺の疑問に、彼女はあっけらかんとした態度で答えてきた。


 なるほど、だけど、彼女のいう事が本当なら、四人を連れて行かない方が良い気がする。


「師匠、僕は行きます」


「ミーシャが一人で行くなんて許さないの」


「あたしも一緒に戦うのです」


『主様、お供させて下さい』


 黙考する俺の心情を呼んだのだろうか、四人の娘達が自分達を置いて行くなと伝えてくる。

 しかし、戦える程の力がないなら、彼女達を連れて行く訳にはいかないだろう。

 だって、アクアの台詞では、彼女達にとって邪竜との戦闘は勝ち目がないと言っているのだから。

 恐らく、出発前にアーニャが口にした台詞は、これを読んでの事だろう。


 彼女達の気持ちを聞き、再び黙考を始めた俺にアクアが声を掛けてくる。


『確か、昨夜に聞いた話では、造王のつちは手に入れてあるのよね?』


 彼女が言う造王の槌とは、アーニャが持っている神器だ。


「ああ、アルラワ王国の宮廷魔術師が持っているニャ。必要な時には渡すと言われているニャ」


 それを聞いたアクアは、何故かニヤリと笑う。


 う~む、嫌な予感がしてきたぞ。


『アルラワ王国へは、直ぐに行けるのかしら』


「ああ、転移のアイテムがあるから問題ないニャ」


 いよいよ嫌な予感が俺を包み込むのだが、目の前に居る幼女は少し思案した後に、これからの行動に関して告げて来るのだった。







「ダンニャ~~~~~~~~~ン」


 ほらきた! だから来たくないんだ。


 転移が終わった途端、白猫のミリアが俺に飛び付いてきた。

 かさずけるが、奴も加速の魔法を使って避ける俺に飛び付く。


 だから、抱き付くな! 舐めるな! こら、どこを舐めてるんだ!


 いよいよ過激さが増すミリアから逃げようとするのだが、彼女の想いの強さには勝てないようだ。


 てか、俺の股を舐めるのは止めなさい!


『何? この猫ちゃん。万年発情期?』


 アクアはそう言いながら、俺にからまる白猫ミリアを引きがす。


「ニャ~~、ダンニャ~~~~~~~ン!」


 抱き上げられたミリアは必死に抵抗するが、それを物ともせずに抑え込んだアクアが念話を飛ばしてくる。


『ミユミユはプレイボーイなのかな?』


 おい! ミユミユって誰だよ!


 てか、このミユミユは、アクアが勝手に命名した俺の呼び名だ。

 頼むから止めてくれと懇願こんがんしたのだが、笑顔で一蹴いっしゅうされたのだった。


「違うニャ。トアラが俺に呪いをかけてるニャ」


 その言葉を聞いたアクアは、ひらめいたような表情で頷く。


『なるほど、このトアラの香りってそれなのね。道理で甘い香りがすると思ったわ』


 どうやら、彼女も俺に掛けられた呪いに気付いたようだ。


「ん? 新しいお客......」


 そこへ遣って来たアーニャが声を掛けてきたが、その言葉が途中で止まる。


『アーニャじゃない。まだ生きてたの? もしかして、宮廷魔術師ってアーニャの事?』


「ぬぬぬ、す、水帝か、よもや水帝が来るとは......」


 ミリアを抱いたまま喜ぶアクアと対照的なアーニャの姿が興味深い。

 てか、アーニャ、お前は一体幾つなんだ? 既に、ロリババアをも超過してるんじゃないのか? ロリバアサンじゃね?


『あなた、一体何年生きれば気が済むのかしら』


「う、うるさいのじゃ。お前は少し黙るのじゃ。それより、これは如何いう事なのじゃ?」


 幼女化した水帝の存在に驚きつつも、アーニャは事の流れを尋ねてきた。


 という訳で、斯々然々《かくかくしかじか》とこれまでの流れを説明したのだが、それについては割愛かつあいさせて貰う事としよう。


「では、四人娘の装備を強化したいから、造王に会わせろという事か?」


『そうよ。アーニャのところに居るんでしょ。お爺が』


 どうも、アクアのいうお爺が造王なのだろう。

 それはそうと、アクアの話を聞いたアーニャの反応があまりかんばしくない。

 如何いった理由があるかは解らないが、どうやら、アーニャはアクアの意見に反対のようだ。


 暫く考えて込んでいたアーニャだが、突然、念話を飛ばしてきた。


『お主は、この娘達をどこまで巻き込むつもりじゃ? どう考えているかは知らぬが、この先に待つのは、想像を絶する程に過酷な状況じゃぞ?』


 突然の念話、突然の話題、突然の宣告に、俺は混乱してしまう。


 トアラからの使命が重大なものだとは理解しているが、実はそれほど過酷な状況におちいるとは考えていなかった。

 何故なら、決められた期間に神器さえ集めれば良いのだと思っていたからだ。

 確かに、ニルカルアが腐王の杖を手にしているのは問題だが、俺が頑張れば何とかなると思っている。

 しかし、アーニャはそう考えていないらしい。


『いいじゃない。もう使徒になってるんだし、彼女達はミユミユに何処までも付いて行く気でいるわよ?』


 アーニャの考えを聞いたアクアが否定的な言葉を送ってきた。

 どうやら、アーニャの念話は、俺だけでは無くアクアにも届いているようだ。


『それは、トアラがこやつに付加したフェロモンの所為じゃ。その所為で彼女達の人生は大きく変わったのじゃぞ?』


 そうだな。俺が彼女達と出会わなければ、こんな危険な事をしなくても済んだはずだ。

 もしかしたら、俺は彼女達に取っての災厄さいやくなのかもしれない。

 しかし、更にそれを否定する言葉をアクアが口にする。


『彼女達から色々と話を聞いたけど、恐らくミユミユと出会って無ければ、今頃この世には居ないわよ? 彼女達は自分達の窮地きゅうちを救ってくれたからこそ、ミユミユにれてここまで付いて来てるのではなくて? トアラのフェロモンも分かるけど、彼女達の想いは本物だと思うわ』


 アクアの言葉は俺の胸を打つものだった。

 いや、アクアの言葉に感動した訳では無い。

 四人娘の想いに感動しているのだ。

 いつも、暴れたり、大食いしたり、些細ささいなことで喧嘩したり、日頃から騒がしい娘達だが、思い越すまでも無く、俺に必要な娘達だと思える。

 彼女達は、いつも俺の心を救ってくれているのだ。


「俺にはトアラの呪いで、女性を引き付けるフェロモンがあるらしいニャ」


 突然の声に、全員が俺に視線を向けてくる。

 そんな中、俺は四人娘へとゆっくり視線を向けながら、続きを話し始める。


「もしかしたら、お前達もそのフェロモンに遣られているのかも知れないニャ。俺には解らないが、アーニャの話ではこれからもっと過酷な状況となるようだニャ。それは世界樹の実を口にしたお前達ですら死んでしまうかもしれないニャ。今なら普通に、いや、幸せに暮らせる環境があるニャ......」


 俺が話をしている途中で、マルラが突然に立ち上がって吠えた。


「師匠! 見損なわないで下さい。僕はフェロモンなんて関係ない。どん底の僕を救ってくれた師匠だから、いつも幸せを分けてくれる師匠だから......僕は絶対に師匠と離れない。それが死ぬ事になっても。絶対に」


 その綺麗な瞳から涙をポロポロとこぼしながら、マルラが己の気持ちをぶちまけると、今度はミララが立ち上がった。


「別にフェロモンでもいいの。あの時、私には何も無かったの。でも、ミーシャは家族を与えてくれたの。ちょっと煩かったり、騒がしかったりするけど、大切な家族を作ってくれたの。ミーシャを含め、誰一人欠ける事は許せないの。だから最後まで付いて行くの」


 仲間全員が家族だというミララの発言に、豆柴だったレストが人間体となって声を上げた。


「ミユキは勘違いしているのです。ミユキの居ないあたし達は、その時点で幸せではないのです。ミユキが何を言っても無駄なのです。あたし達は何処までの付いて行くのです。だから諦めるのです。これからもずっと一緒なのですよ」


 そう言うレストは、次の瞬間、豆柴に戻って俺に飛び掛かってきたかと思うと、抱き付いてペロペロと俺の顔を舐め始める。


「あ、レスト、ズルいわよ。今晩はゴハン抜きよ」


「レスト、後でお仕置きなの」


 その行動を見たマルラとミララがレストを罵倒するが、それに構わずルーラルが話し始める。


「主様、今更、私がここで主様をしたう気持ちを述べても仕方がないので、それはまたの機会にします。ですが、主様のお話は抑々が間違ってます。トアラルア様を救出しない限りは、主様の言われる幸せなど一時のはかない夢でしかありません。ですから、お気遣いは無用です。私達四人は常に主様と共に在ります」


 ルーラルの話が終わり、四人の意見を聞いたアクアが嬉しそうに微笑み、アーニャは苦虫を潰したような表情となる。


『ほらね。大人しくお爺を出しなさい』


 そんなアクアの一言で、あの恐怖の魔女アーニャが渋々と頷くのだった。







 転移でアルラワ王国から、元の旅路に戻った俺達だが、れ違う者達の表情が愈々深刻いよいよしんこくなものと化しているのに気付いていた。


「邪竜って海国の何処に居るんですか?」


『解らないわ。私が逃げ出した時には、まだ西の果てだった思うけど。この様子を見ると王都で暴れているのかしら』


 マルラの問いに、豆柴レストを抱くアクアは軽い調子で答えるのだが......


 かしら。じゃね~~、もしそうなら、大惨事だいさんじじゃないか!


 結局、アルラワ王国で何があったのか俺が知る事は無い。

 というのも、四人娘はアクアとアーニャに連れられて何処かへ行き、残された俺はミリアどころか、レーシアとクラリスまで参戦した争奪戦で大変な目にっていたのだ。

 ただ、戻って来た四人娘はとても満足そうにしていたので、何らかの進展があったのだろう。



 さて、海国との旅路だが、その後も逃げまどう者達と擦れ違いながら粛々《しゅくしゅく》と進んだ。

 そんな旅路の中で、逃げ落ちる者から邪竜の情報を得る事が出来た。

 彼等の話では、アクアの軽い物言いが現実化しているらしく、王都は大混乱となっているとの事だった。


「王都まで、あとどれくらいなの」


『ん~二日もあれば着くのではないかしら』


 ミララの質問に、相変わらず呑気のんきな声で答えるアクア。


 その言動は、まるで他人事のようだった。

 それについて言及すると、焦っても仕方ないし、という言葉が返ってきた。


 確かにその通りなのだが、幾らなんでも冷静過ぎるだろう。

 というか、神々から言わせると、その程度の事なのだろうか。

 まあいい。あのアフォ勇者、いつか、亡くなった者の数だけ殴り飛ばして遣る。


 そんな怒りを胸に秘めて、俺達は海国の王都へと急ぐのだった。



 海国の王都が見えてきたのは、アクアの言葉通りに二日後の事だったのだが、遠目から見ただけで、それがどれほど悲惨ひさんな状況になっているかを知ることが出来た。

 というのも、巨大な障壁に守られた王都全体が赤々と燃えていたからだ。

 そんな王都の方角から、この世の終わりを唄うかの様な咆哮ほうこうが届く。

 その咆哮は間違いなく邪竜のものだ。


「これは......」


 王都を見たマルラの感想は言葉になっていなかった。

 しかし、その表情は、唖然あぜんというよりも、怒りに満ちたものだ。


「速攻で退治するの」


 何故か、ミララは既にメイスを取り出していた。

 ただ、その手はブルブルと震えている。

 恐らく、恐怖では無く、怒りによる震えだろう。


「オン! オン! ワオ~~~~ン!(ダメ! ダメ! 許せないのです~~~~!)」


 アクアの膝の上から降り立ったレストが、四足で王都に向かって吠える。

 きっと、邪竜に向けた怒りの咆哮だろう。


『主様、もう少し進んだら馬車を仕舞いましょう。そして、今日中にあの邪竜を葬りましょう』


 馬車を引くルーラルが、これからの行動に付いて進言してきた。

 彼女の言葉には怒りを感じさせるところは無かったが、その念話で伝わってくる声には強い怒りがにじみ出ていた。


「そうだニャ。あんな邪竜なんてさっさと始末するニャ」


 みんなにそう声を掛けたものの、俺としては色々と不安があった。

 というのも、あの王都の状態をかんがみて、邪竜の強さは途方とほうも無いものだと判断できる。

 それ故に、四人の娘を連れて行くのが心配なのだ。

 ところが、そんな不安を抱く俺にアクアが声を掛けてくる。


『大丈夫よ。彼女達は生まれ変わったのだから』


 その言葉は喜ばしいのだが、俺の表情ってそんなに読みやすいのかな?

 いつもながら、その事に疑問を感じるのだが......


 そうこうしながらも、俺達は馬車を降りて徒歩で燃え盛る王都へと入った。

 そこには、既に人っ子一人いない。いや、人は居る。しかし、それは生無せいなきき者達だけだ。

 大人も、子供も、男も、女も、横たわるのは、既にむくろとなって物言わぬ者達ばかりなのだ。


 その様子にアクアが顔を顰めているが、何も言わずに足を進めている。

 しかし、四人娘は無言では居られないらしく、それぞれが己の感情を口にした。


「ああ、何てことなのよ。あの邪竜、絶対に倒してやるわ」


「絶対に許さないの。うろこサイズの肉片にしてやるの」


「言葉は要らないのです。奴をほおむるだけなのです」


「さあ、生まれ変わった私達の力を見せつけてやりましょう」


 最後にルーラルが宣言すると、王城を踏み潰し、彼方此方あちらこちらに向けて火を吐いている巨大な邪竜に向けて、四人の娘が走り始めた。


 俺もそれを追うように走るのだが、アクアは足を動かす事無く、滑る様にして進んでいる。何とも器用で便利な移動方法だ。


 そうして暫く走り続けた俺達は、邪竜が乗り掛かる王城へと辿り着いた。


 近くで見ると、その大きさに魂消たまげる。

 だって、全長が百メートルくらいは有りそうだ。

 そして、それが起こったのは、あれを倒すのは骨が折れそうだと思った時だった。

 突然、四人の娘が武器を片手に声を張り上げたのだ。


「造王の名を以て命ずる。旋風せんぷうの衣よ」


 そんな呪文を唱えたのはマルラだった。


「造王の名を以て命ずるの。屈強の衣なの」


 ミララはメイスを天に掲げ、そうのたった。


「造王の名を以て命ずるのです。魔女の法衣なのです」


 魔法の杖を両手で握り、レストが力強い声でつづった。


「造王の名を以て命じます。不屈の衣よ。来なさい!」


 右手にランス、左手に盾を持つルーラルが声を張り上げた。


 次の瞬間、四人は眩い光に包まれ、それが収まったかと思うと、それぞれが異なる意匠いしょうの装備をまとっていた。


 これが、のちに吟遊詩人達ぎんゆうしじんたちこぞって唄い、多くの人々を感動させる『四戦姫』が誕生した瞬間だった。


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