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46 脅威《きょうい》


 辛気臭しんきくさい国だな。

 それは国自体が貧しい所為か、それとも国民の民度が低いのか。

 遠路遥々(えんろはるばる)カルミナ王国まで来たが、この国は本当に好きになれない。

 というか、敵愾心てきがいしんが強過ぎるような気もする。

 普段見掛けない者が街を歩いただけで、胡散臭うさんくさい者でも見るような視線を送って来る。


 まあいい。どうせ長居する気も無いし、用事さえ済めば直ぐにでも出て行くんだから。


「ちっ、抑々、エルカレアの奴がさっさと片付けないから、オレが出張る事になるだろうが。あの小娘といい、駄犬といい。全く使えない奴等だ」


 くそっ、あの小娘の所為で思わず独り言を口にしちまった。

 お蔭で周囲の奴等が奇異の目で見やがる。


「なんか用か? 用が無いならジロジロ見んなよ。狩っちまうぞ!」


 殺気を乗せたその一言で、オレを見ていた奴等が目をそむける。


 ふんっ、根性無し共め。

 それにしても、ニルカルア様もニルカルア様だ。

 りに選って、たかが猫如ねこごときを狩るのにオレを駆り出すなんて。

 あの方も焼きが回ってんじゃね~のか。って、これは失言だったな。

 神の怒りに触れて、自慢の尻尾を落とされたらたまんね~。


 さてと......カルミナ王国の王都へ来たのはいいが、例の猫はまだ到着していないようだな。

 一体何を遣ってんだ。さっさと来いよな。

 んっ、この鳴き声はピーコか。


 聞き慣れた鳴き声を耳にして、視線を上空へとむける。

 かなりの距離があるのか、その鳴き声も小さなものだが、オレの耳なら難なく聞き取る事が出来る。

 その聞き慣れた鳴き声を切っ掛けに、青く透き通るような空に視線を巡らせると、見慣れた鳥が気持ち良さそうに飛んでいた。

 奴の存在を認識したオレが左手を上げると、奴は直ぐに気付いて物凄い速度で降下してくる。

 奴はあわやオレに突撃してくるような速度で降りて来たが、少し手前で速度を落としてバタバタを羽をあおりながら水平にかかげた左腕に止まる。


 こいつはオレの相棒でピーコというのだが、とても目が良く、とても賢い。

 あのエルカレアが連れているクズ星獣よりはるかに使える奴だ。


「うむ、そうか、もう直ぐ着くんだな。よしよし」


 流石だな。ほれ、ご褒美だ。


 ピーコを腕に乗せたまま、オレが亜空間収納から出した餌を与えると、何度も突きながら嬉しそうに食べている。


「やっぱり、前が一番可愛いな。従者はやっぱりハヤブサに限るぜ」


 ハヤブサのピーコと話をしていると、周囲から再び奇異な視線を向けられるが、オレの殺気の篭った視線で射貫いきつつ威嚇いかくの声をあげる。


「ガルルル!」


 すると、一瞬でその視線を向ける者達が顔を背ける。いや、そそくさと何処かに消えていく。


 それも仕方ないだろう。何せ猛獣オレ相手の威嚇におびえないのはニルカルア様くらいのものだからな。


 それにしても、本当にウザい奴等だ。

 事が済んだら、全員をゾンビに変えてやるからな。ククク。

 それよりも、噂の猫をどうやって始末するかな。

 それを考えるのも楽しみの一つだな。


「アハハハハハハ。さ~て、猫を焼くか、煮るか、将又はたまた、猫せんべいにするか」


 糞つまんね~任務だと思ってたが、俄然がぜんヤル気が出てきたぜ。

 さあ、早く来な。糞猫!







 小さな子供は、とても可愛いと思える。

 それが、例え自分の子供でなくても、例え人間の子供でなくても、例えやんちゃな猫の子だったにしてもだ。


 いやいや、子猫、超かわええ~~~~~!


 なんて浮かれていると、早速、噂の子猫達の乱舞らんぶが始まった。


『パパニャ~~~』


『あそんでニャ~~~』


『ウンニャ~~~ン』


 子猫達が俺の背中に乗ったり、足にジャレついたり、尻尾を追い掛けたりしている。

 この子猫達は別に兄弟という訳では無い。

 それぞれが違う母親から生まれている。

 しかし、父親が不明なので、腹違いの兄弟という可能性は否めないが、俺でない事は確かだろう。

 それよりも問題なのは、この子達の母親が見つからないことだ。

 猫狩りに遭って死んだのか、唯単に育児放棄したのかは解らない。

 ただ、この子猫達の存在を知った俺は色々と悩んだ結果、暫くの間だけ面倒を見る事にしたのだ。

 ところが、何故かその子猫達から、俺はパパと呼ばれる事になってしまった。

 猫って、通常は母子家庭なのでパパの存在って無いに等しいと思ったのだが、この子供達はみんなが俺をパパと呼ぶ。


 決して、俺が複数のメス猫に産ませた訳ではないので、誤解しないで欲しい。


「クゥ~~~~ン」


 そんな俺の近くに豆柴レストが遣って来た。すると、子猫達が喜んで豆柴へと向かう。

 彼女はここでの人気者なのだ。

 抑々、猫と犬が仲が悪いと言うのは、人間が勝手に考えた事であり、彼等からすると種別による好き嫌いでは無く、脅威となるか否かの違いでしかない。


『ワンワンニャ~~~』


『モフモフニャ~~~』


『チチすうニャ~~~~』


 複数の子猫達にいじられまくる豆柴レストは、少し面倒そうな仕草をしながらも相手をして遣っている。


 そんなのんびりとした時間を過ごしているが、ここはゾンビが徘徊はいかいしていた死国の王城なのだ。

 俺達がそのゾンビの元を絶った所為で、今や誰も居ない廃墟はいきょとなった城を勝手に使わせて貰っている。

 というのも、カルミナ王国で狩られていた猫達を助ける計画を立てた時に、大量の猫を収容しても平気な場所として、ここを思い付いたのだ。

 その結果、今やここでは沢山の猫達が思い思いに暮らしている。

 玉座ぎょくざの好きな者、朽ちた王様のベッドが好みである者、中庭がお気に入りな者、そんな様々な猫達が住んでいる。

 ただ、出入りを制限していないので、街に出る猫もいるが、食事はこの城でしか与えていないので、あまり遠くには行かないようだ。


「さて、そろそろ行くニャ」


 俺がそう言うと、レストがのそりと起き上がる。


 現在いるこの場所は城のサロンであり、それを俺が人が居られるように手入れさせたのだ。

 だから、何百年も経ったボロボロの城内でも、この部屋だけは綺麗な部屋となっている。


 俺が立ちあがり、レストもそれに続いて起き上がると、彼女にしがみ付いてる子猫達が寂しそうに鳴いている。


『パパニャ~~~ン』


『どこいくニャ~~~』


『あ~~ん、さびしいニャ~~~』


 すまん、子供達よ。パパニャは色々と遣らなきゃいけないことがあるんだ......


 子猫達の悲しそうな声に後ろ髪を引かれ、自慢の白ソックス足を止めてしまう。

 すると、即座にミララが俺を抱え上げた。


「やっと捕まえたの」


 どうやら、子猫達から俺を引き剥がす機会を伺っていたようだ。

 だから、出発と聞いた途端に、容赦なく俺を抱え上げたという事らしい。

 ただ、実はこれには理由が在って、この場所での俺の単独行動は認められていない。

 というのも、ミララが俺を抱いたまま部屋から出ると、早速とばかりに苦言が聞えてきた。


『あ~ん、また人間のメスが抱いてるニャ~~』


『偶には私達の相手をしてニャ~~~』


『いけずニャ~~~』


 という具合なのだ。

 そう、俺が単独で行動すると、メス猫達の餌食えじきとなってしまうからだ。


 という訳で、メス猫を回避しつつ安全な場所を確保すると、何時もの面子めんつに声を掛ける。


「みんな揃ったかなニャ」


 その言葉に全員が頷くのを確認して転移の魔道具を取り出し、みんながその魔道具に触れた処で、魔力を注入して転移を発動させる。

 すると、視界が暗転して少し浮遊したような感覚のあと、俺達はカルミナ王国の王都まで、残すところ一日程度の場所へ転移した。


 そう、俺達は移動方法は多少変わったと言える。

 日中は死国で猫達の様子を見ながら休息し、夜間になると転移ポイントから空飛ぶ絨毯んで進むのだ。

 更に、街を見付ける度に追われる猫達を死国へと送り、街を半壊させて死国に戻る。

 これを繰り返しながら、カルミナ王国の王都へと向かっているのだ。

 まあ、俺達が寄った街では大迷惑だと思うが、それも猫を虐待するニルカルア教が悪いのだ。


 それは良いのだが、今のは空耳かな?


 聞き慣れた鳴き声を耳にして、自分の耳を疑ってしまう。ところが、もう一度耳を澄ましてみると......


『ふにゃ~~』


『うげ~~~』


『ぐあ~~~』


 どうも空耳ではないようだ。聞き慣れたお転婆三匹娘の声がしてきた。

 しかしながら、周囲を確認しても子猫らしき存在は見当たらない。

 首を傾げながら匂いを嗅ぐと、どうもレストから匂うような気がする。


「レスト、まさか子猫を連れてきてないよニャ?」


 その言葉に、レストはビックリした様子で首を横に振るが、その動作でレストの背中から何かが落ちた。


『いたいニャ~~~』


『ワンワンひどいニャ~~』


『にゃにゃにゃ~~~』


「あ、シロ! ミケ! クロ!」


 地面に転がる子猫を見て、レストが驚いた様子で名前を呼ぶ。


 てか、とても安直な名前だと思えるが、俺が名付けた訳では無い。


 さて、三匹の子猫だが、名前で分かる通り、白猫、三毛猫、黒猫なのだ。

 恐らく、レストの背中にしがみ付いていたのだろう。


「レスト、ちゃんとふるってこないと」


「レストが面倒をみるの」


 マルラが白猫を拾い上げながらレストに指摘すると、ミララは黒い猫を抱き上げ、責任の追及を行う。


「どうしましょうか、主様」


 ルーラルが残った三毛猫を抱き上げながら聞いてくるが、送り返すしかないだろう。


「直ぐに送り返すニャ」


 しかし、レストがそれを反対してきた。


「どうせ、明日の朝には戻るのです。一緒でも良いのですよ」


 その言葉につられて、マルラとミララも意見を述べてくる。


「そうですよ。師匠。連続の転移とか可哀想じゃないですか」


「私もそう思うの」


 結局は、三人娘に押し切られ、三匹の子猫を連れて行く事になったのだが、子供達の面倒は彼女達が見るという約束をさせたのだった。







 目の前には障壁に守られた王都の姿があった。

 転移と空飛ぶ絨毯の併用で、全体的にはそこそこの期間で辿り着いたのだが、今日は距離が中途半端な事もあって、夜が明けてから馬車を使用しての到着となった。


『パパニャ~あそぶニャ~~』


『ワンワン、ねたニャ~~』


『パパニャのおなか、きもちいいニャ~~』


 確かマルラ達が面倒を見る筈だったのだが、あの約束はどうなったんだ?


 そう、その約束は反故となったのか、三匹のやんちゃ娘達は俺の背中、腹、首元を占領している。

 その事を不満に思いつつも、子猫達が可愛いので文句も言えない。

 そんな葛藤と戦っていると、馬車の揺れが止まり、御者席からマルラの声が聞えてきた。


「師匠、カルミナの王都が見えましたよ」


 彼女の声を聞き、子猫達を置いて馬車から降りると、王都が一望できる小高い丘だった。

 そこから見る王都の様子は、あまり雰囲気の良さそうな街では無く、些かどんよりとした空気が感じられた。


 ここから街の様子が解る訳じゃないんだけど......


 自分自身でも如何いう原理でそう思うのかは解らないのだが、もしかしたら、使徒の察知能力なのかもしれない。

 そんな事を考えていると、御者台から降りて来たマルラが話し掛けてくる。


「思ったより小さいですね」


 街道から少し外れた小高い丘から街の様子を眺めているのだが、子猫のシロを抱いたマルラが感想を述べてきた。

 その言葉に乗っかるように、子猫のクロを胸に抱いたミララが過激な発言をしてくる。


「滅ぼすのには、その方がいいの」


 いやいや、滅ぼさないからな。

 どうも、ここ最近、ミララの発言が日増しに過激になっているような気がするが、一体何が原因なんだろうか。


「ん~。あの規模だと、少し魔力が足らないのですよ」


 ミララの発言を真に受けたレストが、子猫のミケを抱いた状態でアホな事を言い出す。


 いや、滅ぼさないって言ってるだろ!


「まあ、国を滅ぼす必要はありませんが、ニルカルアの教会は叩き潰しましょう」


 ルーラルは俺を抱き上げながら三人娘をたしなめているようなのだが、全く抑止になっていないような気がする。


 そんな俺達に、突然、話し掛ける声が降って湧いた。


「いや、それは無理だな」


 その声に、俺達は直ぐに戦闘態勢を取り、周囲を見回して声の主を探すが、何処にも見当たらない。


「クククッ、流石は猫だな。その鼻は飾りか?」


 そんな俺を見て、その正体不明の存在は嘲笑あざわらう。

 しかし、どれだけ神経をとがらせて探っても、何処かに居るようには思えない。


 何処だ。何処だ。この雰囲気は恐らく敵の筈だ。早く見付けないと、取り返しのつかない事になるかもしれない。


 しかし、必死にその声の存在を探すのだが、どうしても見つける事が出来ない。


『シールド!』


 そこで、即座に全員にシールドの魔法を掛けるが、脳内では他の事を考えていた。

 そう、俺は一旦退却する事を選択したのだ。


『魔法の絨毯を出すニャ。直ぐにそれで逃げるニャ』


『はい。了解です』


『これは拙いの』


『全く正体が掴めないのです』


『私の感覚でも掴めない敵なんて』


 俺の声に、何時もの順番で全員が答えてくるが、ユニコーンであるルーラルが驚きを露わにして、見えない敵の脅威におののいている。


 全員に指示を飛ばした後、俺は即座に絨毯を取り出したのだが、それは見えない斬撃によりズタズタにされてしまった。


 ちっ、くそっ! 貴重なアイテムなのに......てか、これは拙いぞ。


 その光景に、マルラ達は「絨毯が......」とか言っているが、それ処では無いのだ。


 これは厄介どころではなさそうだ。この敵はこれまでとは桁違いに脅威だぞ!


 そう感じた俺は、チラリとミララに視線をやる。

 何故なら、彼女はまだ甲冑を装備していないのだ。


「おいおい、早速、逃げ出す算段か? そりゃ~幾らなんでもツレないぜ」


 その正体不明の輩は、軽い調子で苦言を吐き出す。

 そんな敵の不敵な台詞にヤキモキしていると、ルーラルが咄嗟とっさに罵声を浴びせた。


「隠れて居ないで姿を現したらどうですか? 偉そうな事ばかり言ってる割には、自分はコソコソと隠れるなんて、本当は臆病者なんでしょ?」


 姿の見えない敵に業を煮やしたのだろう。彼女は挑発の言葉をぶちまけるが、そんな安い手に乗る間抜けでは無いだ......ろ......う......


「何だと~~~! この糞アマ~~~~~!」


 そいつは、俺の予想に相反して、思いっきり乗ってきた。


 この敵は、頭が弱いんだな......


 恐らく、戦闘以外に関しては脳が足りないのだろう。

 ところが、奴は俺達に衝撃を与えることに成功する。


「なに、こいつ」


「尻尾があるの」


「耳もあるのです」


「でも、その柄は......トラ柄?」


 何時ものマルラ、ミララ、レスト、ルーラルの順で、地面から浮き上がるようにき出てきた敵を見て驚きの声を出した。


 この場合、その驚きの様子も仕方ないだろう。

 なにせ、地面から湧いただけでも異常と言えるのだが、湧き出た敵が女であることもる事ながら、動物耳と尻尾を持つ獣系だったからだ。

 それも、耳の形や柄から察するに、どう考えても虎だ。トラ柄では無く本当の虎模様だ。

 虎娘を目の前にして、確かこの世界に獣人は居なかった筈だと考えていると、奴は不敵な笑みをたたえながら口を開いた。


「ああ、オレは虎だからな。そこの偽物とは違うんだよ」


 ぐあっ、偽物って言われた......確かに俺はトラ柄だが、それって偽物?


『師匠! ショックを受けてる場合じゃないですよ』


『ミーシャ、偽物だったの?』


『確かに......猫柄の虎とは言わないのです』


『主様、私は偽物でも構いません。主様をおしたいしております』


 おいおいおい! お前等な~~~! おっと、憤慨ふんがいしている場合じゃないんだった。


 マルラ、ミララ、レスト、ルーラルの念話を頭から追いやり、虎娘に向けて誰何の声を上げる。


「お前は誰ニャ」


 すると、その虎娘はニヤリと笑い、答える代わりに虎パンチを喰らわせてきた。

 当然ながら、その対象は俺なのだが、現状から言うとルーラルに抱かれているので、全く動けない......


「くっ」


 ルーラルは敵の動きに対して避けようとしたのだが、驚く事に相手の速さの方が勝っていた。

 その結果、彼女は俺ごと殴り飛ばされる事になる。

 かなりの威力を有した攻撃だったが、シールドのお蔭で何とか大怪我をする事無く済んだのは幸いだった。


 無論、パンチが直撃したのは俺の顔面だ。


 超痛いんだが......癒しだ。癒しの魔法だ。くそっ! 治れ~~~!


 そんな俺とルーラルは地面に転がるのだが、奴は直ぐにマルラに向かっていく。


 拙い、みんな子猫を抱いているし、奴の速さは半端ない。到底、対応できるものでは無い。


 ちっ、今の彼女達では太刀打ちできそうにないぞ! くそっ! 喰らえ!


 焦る俺は、瞬時に虎女に向かって飛び出すが、奴の動きの方が早い事に絶望し、即座にマルラに念話を飛ばす。


『マルラ、逃げるニャ!』


 ところが、奴は虎パンチを繰り出そうとしたのだが、突然、その手を止める。


「ちっ、子猫を盾にするとは卑怯ひきょうな奴等だ」


 どうやら、マルラが抱いた子猫のシロを見て躊躇ちゅうちょしたようだ。


 てか、成猫なら殴ってもいいんかい!


 何故、子猫に対して手を止めたかは知らないが、これはチャンスだと考えた次の瞬間、奴が動揺するような攻撃が発射される。


『パパニャをいじめるニャ~~~』


 その言葉を発したのはミララが抱いているクロだった。


『トラなんて、きらいニャ~~~~』


 次に鳴き出したのはミケだった。


『どっかいってニャ~~~~~』


 止めはシロだったのだが、その声を聞いた奴は、憤怒ふんぬんの形相となり地団太じだんだを踏んだ。

 その震動は地を揺らし、周囲の木々をも揺さぶっている。

 そんな虎女の力に危機感をつのらせていると、奴は不貞腐ふてくされた様な表情で吐き捨てる。


「ちっ、今日は見逃して遣る。だが、子供を盾にするとは許せん。次は絶対に始末して遣る」


 そう言うと、奴は現れた時の同じように地面の中に消えて行った。


 てか、地面の中に居るのに匂いなんて解るかボケ~~~!

 人の鼻を散々腐しやがって、お前の脳みその方が腐ってるだろ。

 まあいい。奴が何だったのかは解らないが、取り敢えずの危機は去った。

 しかし、奴は間違いなくまた襲って来るだろう。


『直ぐに死国に戻って対策を練るニャ』


 俺達は新たな脅威に震撼しんかんしながらも、子猫達を連れて死国へと戻り、今後の対策を練るのだった。

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