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43 不審な者達


 高い高度から夜空を眺めるのが大好きだ。

 頭の直ぐ上に星があるようで、前足を伸ばせば届きそうな気がする。

 ただ、使命を果たさねば、この夜空を楽しむどころの話では無くなるかも知れない。

 今もそれを防ぐためにも、神器を探して大陸北西端にある海国へと向かっている最中だ。

 今回の情報もアーニャから貰ったものだが、彼女曰く、現在解っている情報はこれが最後らしい。故に、残りの神器に関しては、手探りで探して回る必要がある。

 しかしながら、トアラから聞かされている期限は四年だ。

 ところが、気が付けば、トルガルデン王国の北東にある小さな街から出立して、既に一年になろうとしている。

 しかし、現在において俺の手元にある神器は五つ。


 一つ目は、トランデストの豚伯爵が付けていた風神の指輪。

 奴はこれで風の魔法を使っていたようだが、アーニャに調べて貰ったら、禁忌の風魔法を使用できる神器だと言うことが解った。恐らく、豚伯爵は上手く使えなかったか、適性が低かったのかも知れない。どちらにしろ、大事になる前に奪えて良かったと言える。


 二つ目は、トルガルデン王国の宝物庫から奪ってきた氷王の杖だ。

 この神器の効果はというと、氷の禁呪を発動させる恐ろしい杖だ。

 そして、これの適正者であるミララは、それを利用しようとしたトルガルデン王族の謀略ぼうりゃくによって、家族を皆殺しにされてしまった。

 そういった経緯から、ミララはこの神器に拒絶反応を示している。


 三つ目は、想定外の拾いものだった。

 というのも、ウエルーズ王国のアフォ勇者が持っていた剣が聖王の剣と呼ばれる神器だったのだ。

 奴がウチの娘達に夜這よばいを掛けてきたところを猫パンチで眠らせて奪ったものだ。

 当然ながら、奪う時には神器だなんて思ってもみなかった。しかし、俺が左前足を乗せた時に、トアラから貰った腕輪が輝いて気付いたというラッキーな逸品だ。


 四つ目は、死国の神殿に居た闘神が、己が身を窶した六角棍だ。

 なんとも戦い好きな魔神だったので屈服させるのに苦労したが、俺が勝利した途端に従順な神器となってしまった。といっても、恐らく俺の言う事しか聞かないだろう。


 五つ目は、アルルのダンジョンに封印されていた神殿で入手してたものであり、俺が使用している闇帝の弟だという巨大な鎌の形をした神器だ。

 これが、やんちゃな小僧で、転移させられたり、記憶を封印させられたりと、大変な目に遭った。


 それ以外に、手に入れてはいないが、近くにある神器が二つ。


 一つ目は、アーニャが持つ造王の槌という神器で、どうも彼女はこれを使って強力な魔道具を作っているようだ。

 彼女曰く、必要な時には必ず渡すから、それまでは使わせてくれとの事だった。


 二つ目は、クラリスに同化している雷神の竪琴という神器だ。

 同化については、その対処をアーニャに頼んでいる処だが、例のロリババア発言以来、奴の所には近付いていないので、どうなっているかは不明だ。


 最後に、所在は解るが入手するのにひと手間掛かりそうなのが二つだ。


 一つは、ウエルーズ王国のアフォ勇者達に横取りされた腐王の杖という神器で、特定範囲の者を死人化させるという恐ろしいものだ。

 死国で入手寸前だったところを横取りされてしまったのだが、その依頼元が評判の悪いウエルーズ王国だけあって、なるべく早く奪い返したいと考えている。


 二つ目は、今向かっている最中の神器で、水王のほこというものらしい。

 これも一筋縄ではいかないだろうが、何とかするしかない。


 という訳で、七つの神器は集まっているのに等しい状況だ。

 ただ、残り四つの消息が全く分からないのが問題だと言える。

 それの調査もアーニャに頼んではいるのだが、ガセネタが多いらしくて本命に辿り着けないのらしい。

 だから、最悪はガセで有ろうが無かろうが虱潰しらみつぶしに当たるしかないかも知れない。


 さて、今回の人員だが、何時ものメンバと言えば解るだろうか。

 マルラ、ミララ、レスト、という仲良し三人組とその監視役のルーラルだ。

 ロロカも付いて来たいと言っていたのだが、いつウエルーズ王国がクラリスを狙って来るか分らないので、彼女に付いて貰っている。

 あと、クラリスの護衛として、ビアンカを雇い入れている。

 彼女も働き先が見つかって良かったと言っていたので、特に問題ないだろう。


「主様、今回の移動はエルカ達に勘付かれてないでしょうか?」


 神器について考えていると、ルーラルが今回の旅における懸念について問い掛けてきた。


「恐らく大丈夫だと思うニャ。向こうも人手不足になってる筈ニャ」


 そう、アーニャに対して暴言を吐いた結果、俺はお城に近寄れなくなってしまい、時間を持て余してしまったのだ。

 だから、みんながダンジョンから戻る約一カ月の間、王都アルルに入り込んでいるウエルーズ王国の諜報部隊狩りに精を出していたのだ。


 その結果、出て来る、出て来る。

 まるで、台所の黒い悪魔のようにゾロゾロと出て来るのだ。

 そんな黒い奴等を次から次へと芋づる式で拘束して、アルラワ王国へと引き渡したのだ。

 ということで、恐らくだが、現在の王都アルルにはウエルーズ王国の諜報部隊が一時期的に存在しない状態となっているだろう。

 そんなこんなで、アルラワ王国のお偉方は、感激の悲鳴を上げて俺に感謝していたそうだ。


「師匠、結局のところ、何人くらいを捕まえたんですか?」


「ん~、五十人から先は数えてないニャ」


「ミーシャ、頑張り過ぎなの」


 ルーラルに答えると、マルラが拿捕した人数を聞いて来たが、俺もあまり覚えていないのだ。

 だから、有りのままを答えると、ミララが不服そうな顔でたしなめてきた。

 恐らく、自分も参加したかったのだろう。


「それはそうと、ルーラルは寝ていた方がいいんじゃないの?」


「いえ、私は平気なので......」


 空飛ぶ絨毯じゅうたんの操作をするマルラが何時までも起きているルーラルに助言するのだが、どうやら、彼女は絨毯で空を飛ぶのが怖くて寝られないらしい。

 まあ、ここは助け船を出して遣ろう。どうせ、そろそろ深夜過ぎだし、海国までは数日掛かるのだし、焦って無理をする必要も無いのだ。


「今夜はここまでにするニャ。マルラ、絨毯を降ろしてくれニャ」


「えっ、まだ、朝まで時間がありますよ?」


 今日の移動をここまでにすると伝えると、マルラが否定的な意見を述べてきた。

 しかし、疲労が蓄積していると言う理由で押し切る事にした。


「いや、初めから無理をすることないニャ。それにお前達もダンジョンから戻ったばかりだから、少し休むニャ」


「は~い!」


「主様......ありがとう御座います」


 その言葉に、マルラは素直に応じ、ルーラルは少し恥ずかしそうでもあり、嬉しそうなでもある表情でポツリと礼を述べてくるのだった。







 晴れ渡る大空、そう言えば、この世界に来て雨が降る事が少ないような気がするけど、そこは余り深く考えないようにしよう......


 一夜明けて、現在の俺達はというと、懐かしき馬車でアルラワ王国とロートレール共和国の国境付近の街道を進んでいるところだ。


「ねえ、師匠、このあと海国までどの経路を通るんですか?」


 引き手がルーラルなので、全く必要のない御者台に座るマルラが、今後について尋ねてくる。


「ん~、このままロートレールに入って真っ直ぐ突き進むニャ。カルミナ王国には気を付けろってアーニャが言っていたニャ」


 豆柴状態のレストのお腹を肉球でペチペチしながら返事をすると、今度はミララが尋ねてくる。


「ミーシャってレストの複乳が好きなの?」


 いや、これは俺が好きな訳じゃない。


「違うニャ。こうするとレストが喜ぶニャ」


「オン! オン!(違う! 違う!)」


 何故か、レストが必死になって弁解するが、それよりも気になるのは。


「なんで豆柴になってるニャ?」


「クゥ~~~~ン」


「豆柴にならなとミーシャが相手をしてくれないからなの」


 俺の質問に、レストが悲しそうに鳴いたかと思うと、ミララが真実を語ってきた。


 うむ。そんなつもりは無かったが、要は相手をして欲しいのだな。

 てか、それほどレストをないがしろにしたつもりはないのだが、俺が淡白な所為かもしれない。


 レストに対する今後の接し方について悩んでいると、再びマルラが質問を投掛けてきた。


「変身といえば、師匠の人間化は何なのですか?」


「気になるの」


「オン! オン!(そう! そう!)」


 マルラが人間化の事を聞いてくると、ミララとレストも興味津々(きょうみしんしん)といった表情で見詰めてくる。


 ああ、レストの場合、犬顔なんで良く解らないけどな。


 てか、どう答えたら良いものだろうか。

 魔法で人間化になってると言えば良いのかな?

 そうか、ルーラルと同じだよな。


「ん~、ルーラルみたいなもんだニャ」


 その答えに、三人が少しがっかりしたような表情となる。

 しかし、今度はミララが問い掛けてくる。


「どっちが本当の姿なの?」


「猫ニャ!」


「クゥ~~~~ン(ざんね~~~ん)」


 何故か、悲しそうに鳴くレスト。


 なんでそんなに悲しそうなんだ?

 俺は猫で居る事を気に入っているんだが?


「師匠、今、変身してみて下さい」


「嫌ニャ」


「ええ~~~~っ、即答で拒否ですか~~~~」


「残念なの」


「クゥ~~~~ン」


 変身しろと言われても、あれって魔力を異常に使うんだぞ。用も無いのに変身なんて出来るか。


「師匠、ちょっとだけ、ちょっとだけで良いですから」


「無理ニャ」


「けち~~~~っ、師匠のけち~~~~!」


 何と言われてもダメなんだよ。


『主様、そろそろ、定期確認じゃないですか?』


 マルラの要求を突っぱねていると、ルーラルが定期連絡の事を思い出させてくれた。


「そうだったニャ。ルーラル、ありがとうニャ」


『どういたしまして』


 ルーラルに礼を言い、即座に鏡を取り出すと、そこには急いで連絡しろという文字が浮かび上がっていた。その事から察するに、どうやら何かが起こったようだ。


 俺は急いで手鏡に手を乗せてロリババア......おっと、失礼。手鏡に向かってアーニャを呼びだしてみた。


 すると、彼女は即座に応答してきた。


『やっと確認しおったか、もっと早く確認せぬか。それで、今はどの辺りじゃ?』


 う~む、行き成り愚痴からのスタートだった。

 しかしながら、諫言耳に逆らうという事で、彼女の苦言をサラッとスルーして本題に突入する事にした。


「今はロートレールとの国境付近ニャ。それが如何したニャ」


『それがのう。困った事に、どうやらカルミナ王国がトール王国に宣戦布告したらしいのじゃ』


 ふむ。それはそれは大変そうだね~。でも、俺には関係ないよね。


 という訳で、先制攻撃で釘を刺すことした。


「どちらの国にも行かないから大丈夫ニャ。俺達の使命は神器を集めてトアラを解放する事だからニャ~~」


 ところが、流石はロリババア。簡単に引き下がる気は無いようだ。


『それは良く理解しておるのじゃ。だがのう、死国で見つかった書物で解った事じゃが、どうやらトール王国に神器がありそうなのじゃ』


 ぬぐぐぐ......アーニャの笑い声が聞こえてきそうだ。てか、勝ち誇った様な声色で話してきたしな......でも、ここであっさりと負けを認めるのもしゃくだよな。


 いつまでも白旗を上げない俺に業を煮やしたのか、アーニャが続けて話し掛けてくる。


『あの国の王妃は、レーシアとカール王子の叔母なのじゃ。手助けすれば、きっと神器の捜索にも手を貸してくれるじゃろうな』


 ぐあっ、止めを刺されたかもしれない。いや、ここまで言われてノーと言える者は、愚か者でしかない......


「解ったニャ。行けばいいんだニャ。向こうには話を通して置いて欲しいニャ」


『そうかそうか。良かった良かった。お主の事だからこころよく受けてくれると思うておったのじゃ』


 何をいけしゃあしゃあと、このロリババアが!


『何か言うたか? 口は災いの元じゃからのう。神器が無くなったりしたら困るじゃろうな~』


 ぐはっ、ロリババア発言に歯止めを掛けるつもりだ。くそっ、くそっ、この悪魔め!


「もう、用は終わったのかニャ?」


『ああ、今の話が全てじゃ。それでは良い連絡を待っておるのじゃ。フフフ』


 ぬぐぐぐ、最後は含み笑いで終わらせやがった。


「ロリババアなんて死ねばいいのニャ」


 俺は通話を終わらせるなり、荷台中に暴言を轟かせるのだった。







 アーニャの連絡で、進路をアルラワ王国の北にあるトール王国へと変更したのは三日前の事だ。

 現在は、既にトール王国の領内であり、それほど標高の高くない山岳地帯の上空を飛んでいる。

 まあ、その山岳地帯をそれほど高くないとは言ったが、おおよそ人の通るような場所ではないと思える程には、険しい山であると断言できる。


 そんな、山岳地帯の上空を飛んでいると、突然、マルラが戦争参加について尋ねてきた。


「師匠、僕達も戦争に参加するんですか?」


 その表情は、心做こころなしか不安そうな心情を写し出しているように思う。

 だから、俺は即答して安心させて遣る事にした。


「いや、戦争に参加するつもりはないニャ」


 そう、アーニャの話では宣戦布告があったという話だったが、戦が始まるまでには数ヶ月の時間が必要となるだろう。

 だから、出来るなら戦を起させること無く、終決させる方法を考えるつもりでいるのだ。


 どうやら、マルラはその言葉で安堵あんどしたようだ。

 ところが、今度はミララが尋ねてくる。


「どうやって戦争を終わらせるの?」


 いやいや、流石に、それは俺にも解らんよ。


「まずは、トール王国に行って情報を貰ってからだニャ」


 そんな曖昧あいまいな回答を返した時だった。


「主様、地上に小さな光が移動しています」


 視力の良いルーラルが、地上での様子に疑問を持ったのか、即座に異変を知らせてきた。

 そう、こんな深夜に明かりを点けて移動するというのは、この世界において、ある意味で通常ではなと言えるのだ。

 それも、こんな人里は外れた山の中だ。どう考えても真面な事ではないだろう。


「マルラ、少し高度を落として貰えるかニャ」


「はい!」


 マルラに頼んで少し高度を下げて貰ったのだが、俺の目では良く解らない。

 ただ、明かりを持っている者の恰好が黒っぽいことやその者達の動きが俊敏である事が解るくらいだ。


 その後も、かなり高度を下げて様子を伺ったのだが、俺達の方が後方だった所為か、奴等が俺達に気付く事は無かった。


「主様、ここは既にトール王国の領内です。更に、この方向は王都がある方向ですね。それに街道を通らずに、こんな山奥を通るなんて普通ではありません」


 ルーラルの指摘は、確かにその通りと思えるが、さて如何したものだろうか。

 その怪しい者達への対応を考えいると、さっきまで眠たそうにしていたレストが意見を述べてきた。


「相手は五人なのですよね? 本人達に聞いてみるのが一番なのですよ」


 確かに、それも一理あると言える。

 珍しく真面な意見を述べたレストを尊重して、マルラに降下の指示を送る。


「マルラ、奴等の進行方向に回り込んで降下するニャ」


「着替えるから少し待って欲しいの」


「ええ~~っ」


 すると、ミララが戦闘準備をしたいと述べてくるのだが、気がはやるマルラがジト目で異を唱えてきた。

 それに気を悪くしたミララが、マルラに攻撃的な発言で返す。


「胸が小さいと心も狭いの」


「きぃーーーーー! 心と胸の大きさは関係ないわよ!」


 ミララの毒舌に、マルラがムキになって抗議するが、その裏でレストが笑っている。


「クスクス」


「なに笑ってるのよレスト! 僕よりも小さい癖して」


「がーーーーん!」


 どうやら、レストの笑いは藪蛇やぶへびとなったようだった。


「いい加減にしなさい。大きな声を出すと見つかりますよ」


 最終的に監視役のルーラルが事を収めるが、こいつ等はいつになったら空気を読めるようになるんだろうか。俺としては胸の大きさよりも、そっちの方が大切なのだが......


 これから怪しい者達と一戦交えるかもしれないというのに、全く緊張感のない三人娘を見て、溜息を吐きながらそんな事を考えるのだった。







 その怪しい者達は全員で五人だった。

 近くで見ると、その怪しさは更に強調されたような気がする。

 というのも、全員が黒装束で武器を携帯しているからだ。

 更に、暗闇であるのにも関わらず、俺達の存在に気付いた様子だったからだ。


『どうやら、手練れのようだニャ。気を抜かないようにニャ』


 俺の注意を喚起かんきする念話に、全員が首肯で応じる。


 本当は、誰何すいかからスタートさせるつもりだったのだが、どうやら奴等はヤル気満々のようだ。

 何故そう判断したかというと、奴等は俺達との距離を計ると、短剣やナイフを片手に散開したからだ。


『取り敢えず、殺さないようにニャ』


 敵に合わせて仲間達が散開するのを見遣り、みんなに念話で伝えたのだが、行き成り女性の悲鳴が聞こえてきた。


 ん? うちの仲間が遣られたのか?


 直ぐに悲鳴の下方向へと急行したのだが、そこにはランスを持つルーラルが立っていた。


「どうやら、この者達は女性のようですね」


 ルーラルがそう言いながら、黒い覆面を脱がすと、そこには綺麗な女性の顔があった。

 一体如何いう事かと訝しんでいたのだが、暫くすると、ミララが二人、レストが一人、マルラが一人、といった具合に、全員が黒装束を引き連れて来たのだが、覆面を脱がすと全員が女だった。


 これは一体如何いう事なのだろうか。

 首を傾げたまま黙考していると、再びルーラルが話し掛けてきた。


「何を聞いても全く答えようとしませんね」


『仕方ない、このままトール王国へ連れて行くニャ』


「それしかなさそうですね」


 結局、その五人の女達をロープでグルグル巻きにして、トールの王城へと向かったのだが、この事が原因で大問題になるなんて、この時は全く以て思いもしなかったのだった。


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