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36 その時、僕達は


 時間は少し遡る。


 見るも無残な廃墟となった神殿。

 そこでは、闘神の時に続いて魔神がその姿を現した。

 それは、かなり成長したとはいえ、僕等の実力では倒すことが出来そうに無い強敵。

 その魔神は、僕達が全力を振り絞って投じた攻撃を意とも容易く受けきると、何気ない一振りの衝撃波で全てを吹き飛ばした。

 勿論、僕も例外ではなく、その衝撃はを避ける事も出来ずに吹き飛ばされてしまった。

 でも、以前の僕等とは違うのだ。

 そう、闘神の一撃で気を失ったあの時とは。

 だけど、嫌が応にも感じてしまう。僕達では敵わない敵だと。こんな強大な敵にどうやって立ち向かえばいいのかと。

 そこで生まれた感情は、死ぬ事に対する恐怖では無く、敵わない事への悔しさと、己の弱さに対する失望だった。


 しかし、その魔神は、恐怖では無く悔しさに打ち震える僕達に襲ってくる事は無かった。そう、奴の向かった先は師匠が着地した場所だ。


 思わず、僕は師匠の窮地に声を上げる。

 更に、僕の周囲でもレスト、ミララ、ルーラルの三人が師匠の名を叫んでいる。

 そんな僕等の叫び声を余所に、魔神が巨大な鎌を振り下ろした時、身も凍る程の恐怖を感じてしまった。

 それは、師匠を失ってしまうという恐怖だ。

 だけど、僕等が師匠の力を見誤っていた事を知ることになったのはこの時だった。


 駄目よ! やめて!


 思わず叫んだ瞬間、魔神の巨大な鎌は意とも容易く弾かれ、奴はその巨大な身体を仰け反らせていた。


 僕は唖然としてしまった......


 恐らく、レスト、ミララ、ルーラルも同じだと思うけど、それを気にする余裕が無い程に、驚愕してしまったのだ。

 何故ならば、そこには僕と同じくらいの体格をした少年が立っていたからだ。


 あれは誰? 師匠は何処?


 師匠を探さなければと思いながらも、あの少年から目が離せない。

 左手の短剣を振り切った状態で、右にも同じような短剣を持った黒髪の少年。

 その横顔は、年若く見える。僕達と変わらない年頃みたい。

 更に、その顔は可愛らしくもあり、格好良くもある。でも、その鋭い目付きは戦いの厳しさを知った者の眼差しだった。

 ただ、その雰囲気や立ち姿が、何故か猫である筈の師匠を思わせた。

 それは、別に猫背と言う訳では無い。匂い、そう匂いなのだ。


「師匠?」


 戦闘中であるのにも関わらず、思わず声を掛けてしまった。

 だって、それが師匠だと直感的に解っても、その光景が信じられなかったから。

 ミララやレスト、ルーラルでさえもその光景に驚愕し、師匠であることを確かめるように声を発していた。


 だけど、戸惑う僕への指示で、師匠である事を認識する。


「マルラ、全員に治癒とシールドを」


「は、はい! 師匠!」


 その口振り、その声、その態度で直ぐに理解した。

 語尾に『ニャ』が無いけど......これが師匠の本当の姿なのだと。


「かっこいい......」


 それに、思わずそんな言葉を漏らしてしまうほど、師匠の強さは隔絶していた。

 魔神を事も無く遣り込める師匠の強さは、僕達から見ても異次元のものだった。


「強いの......もう、ジンジンと感じちゃうの」


「あれこそがミユキの本当の姿なのです? 惚れたのです......」


「あ~、主様、私の主様、このルーラルをあなたの下僕に......」


「な、何を言ってるのよ、あなた達! 師匠は僕と結ばれるんだからね」


 ミララ、レスト、ルーラルがうっとりとした表情で心情を漏らしている三人にツッコミを入れるのだけど、彼女達は僕の言葉が耳に入らない程にメロメロになっていた。


 そんな僕達四人の熱い視線を浴びながらも、師匠は魔神を蹂躙するが如く攻め立てる。

 右手を振れば相手の腕が切り裂かれて燃え始め、左手を振れば相手の足が砂となって崩れてゆく。

 超絶した力だった。在り得ない程の力だった。信じられない程の力だった。


 きっと、これまでも、この力で僕達の窮地を救ってきたんだよね。

 今なら解る。僕等はずっと師匠に守られてきたのだと。

 そんな想いで、僕の両目に涙が浮かんでいる間も戦闘は続いている。


 ハッキリ言って、戦闘は一方的だった。

 あがなうことの出来ない脅威きょういを前に、僕達を簡単に吹き飛ばした魔神が、手も足も出せずに呻き声を上げている。


 すると、何が如何なったのかは解らないが、魔神は黒い炎となって更なる力を手に入れる。


「なに! あれ!」


 魔神が黒き炎のかたまりとなり、異様な神威を放つと、その力に恐怖を感じてしまった僕は、思わず声を漏らしてしまった。


「拙いの......あれは異常なの」


「あたし達も加勢した方がよいのです」


「分りました。私が壁になります」


 僕が驚きの声を漏らすと、ミララ、レスト、ルーラルも危機を感じたのか、即座に師匠の加勢に向かおうと思ったのだけど、そんなタイミングで師匠からの声が掛かる。


「みんな、下がるんだ」


 その言葉に戸惑ったのだけど、ルーラルが声を発した。


「ここは主様に任せましょう」


 それを聞いたミララとレストは黙って頷く。勿論、僕も同じように頷いた。

 何故なら、もはや僕達の出る幕では無いのだと悟ったからだ。


 師匠の指示に従い、僕達は直ぐに距離を置いたのだけど、その次の瞬間、師匠は短剣では無く一本の刀を手にしていた。更に尋常じんじょうでは無い神威を撒き散らし始めた。


「なんなのあれ!? あの魔神どころの話じゃないよ」


 師匠の神威に驚いてそんな声を上げると、即座にミララとレストが声を漏らした。


「神なの。ミーシャは使徒では無くて、神そのものなの」


「物語どころでは無いのです。神の降臨なのです」


「あ~主様、主様、私は、私は......」


 う~む。もはやルーラルは言葉になっていない......


 今や神と呼ぶべき存在となった師匠は、黒い炎の塊となった魔神を意とも容易く切り裂かれていく。


 そんな師匠は、僕達では到底辿り着けない程の神威を放ち、黒き炎の塊となった魔神を淡々と微塵に切り裂く。

 すると、いつの間にか師匠の前には一本の大鎌が宙に浮かんでいた。

 それを見た師匠は躊躇ちゅうちょする事なくその大鎌を手にするのだけど、次の瞬間、師匠は光り輝く塊に包まれてしまった。


「流石なの、ミーシャ。光り輝いてるの」


「ミユキって輝く猫......少年だったのですね」


「ああ、私の主様。その美しい光の如き存在」


 いやいや、そういう問題なのかな?

 もしかして、あれってヤバイんじゃないの?


「ねえ、あんた達、感動している場合じゃないわよ。あれって拙いんじゃないの?」


 危機感が無いどころか、両目をハートマークにしているミララ、レスト、ルーラルに警告するのだけど、彼女達は現在のところ、マイワールドに浸っているみたいだ。


「マルラ、あげないの。ミーシャは私のものなの」


 現実に戻ってきた途端、ミララは独占欲を発揮し始める。


「ダメなのです。ミユキはあたしと生涯を共にするのですよ」


 溜息が出てきそうだわ。だって、今はそれ処じゃ無いと思うんだけど......


「もう、あなた達は! 今はそれ処じゃないでしょ! それに師匠は僕と結婚するの」


 気が付くと、僕の一言で師匠争奪ししょうそうだつの大混乱におちいる。


「あっ!」


 そんな最中、ルーラルの声で視線を彼女と同じ方向へと向けると、そこには何も無かった。いえ、誰も居なかった。


「し、師匠!? 師匠!」


「み、ミーシャ? ミーシャ~~~!」


「ミユキが居ないのです。居ないのですよ」


「あ、ああ、主様!」


 争奪戦を途中で放棄ほうきして、全員が師匠の居た場所へと走り出す。

 だけど、辿り着いた場所、師匠の居た場所には何も無かった。

 サバトラ柄の毛一本すら残って無かった。


「み、みゆき~~~~~! あ~~~~~~~~ん」


 その声に視線を横に向けると、レストが座り込んで泣き始める姿があった。


「い、いたっ!」


 そんなレストの頭を速攻で叩いてやった。


「止めなさいよ。縁起でもない。師匠の事だから大丈夫に決まってるじゃない」


「だ、だって、だって~~~~! え~~~~ん!」


 僕の叱責に、レストは再び泣き始める。

 これが僕より年上だと思うと、本当に情けなくなる。


「大丈夫よ。ミーシャはこんな事では死んだりしないの」


「如何してそう思うのですか?」


 レストの肩に甲冑の手を置きながら、ミララがそう確信を持ったように宣言すると、透かさずルーラルがその根拠を尋ねてくる。

 すると、ミララはその甲冑を少しモジモジさせた後、決断したように宣言した。


「だ、だって、まだ私と結ばれてないの」


 はぁ~~? 何言ってんの、このアホ! てか、甲冑モジモジも気持ち悪いんだよ!


「もう、ミララ、ボケるなら他でやって!」


 あまりのアホらしさに、思わず突っ込んでしまった。


「むう! なにがボケなの?」


「だって、それって、唯の願望でしょ」


「貧乳は黙ってるの」


「むっか~~~~~~~~~~!」


 ミララのアホな願望を指摘して遣ると、貧乳ネタで逆襲を喰らってしまった。


 くそっ、まだまだ大きくなるんだからね。そして、師匠に~~~~~! いたっ!


「妄想は他でお願いします」


 ううう、ルーラルに怒られてしまった......


「兎に角、主様が死ぬはずありません。というのも世界樹の種を食べてるのですから、死ぬ事はないのです。ですから、私達がここから脱出する方が先決です」


 うむ。確かにその通りかな。


 ルーラルの意見に納得していると、彼女はそのまま話を続けた。


「ただ、残念な事に、全ての魔道具は主様が持ってます」


「がーーんなのです! 食料もなのですか?」


 今日一番の衝撃を受けた様な表情でレストが尋ね、ルーラルは厳しい表情のまま黙って頷く。


「無理! 無理! 無理! 食べないと死んじゃうのですよ」


「死にません! 私も数ヶ月食べてませんが、未だに生きてます」


「いや~~~んなのです! お腹が泣くのですよ~~~!」


「黙りなさい! 騒ぐと余計にお腹が空きますよ!」


「......」


 最終的には、騒ぐとお腹が空くという言葉でレストは沈黙した。

 だけど、その顔は世紀末を目の当たりにしたような表情だったのが可笑しくて、思わず笑いそうになってしまう。

 そんなレストを尻目に、ルーラルは「行きますよ」と言って歩き始め、僕達は直ぐに彼女の後を追い、廃墟となっている神殿と反対方向に歩いている。


 ルーラルを見遣ると、も自信有り気に歩いているのだけど、何かの確信があってこっちに進んでいるのかな?


「ルーラル、なんでこっちに歩いているの?」


 彼女はその問いに、愚問だと言わんばかりの表情で答えてきた。


「神殿の正面がこちらに向いているのです。入口がこちらにあるのは当たり前でしょう」


 うは! そう言われるとそんな気がする。

 確かに、建物の正面じゃない方向に入口を作るなんて、一般的だとは言えないものね。


 そんな彼女の考えはズバリ的中した。

 だけど、そこが悪夢の門だと知れば、誰も入ろうとは言わなかっただろうね。







 辿り着いた先には、光の鏡があった。

 鏡というのは比喩だけど、そこには人が丸々写せるくらいの光の壁が存在していた。


「これって、向こうへ行けるの?」


「多分、ここに来た時の様に転移するのだと思いますよ」


 僕の問いに、ルーラルは頷きながら答えてくる。

 その様相は、間違いありませんと言っているかのようだけど、その自信はどこから?


 彼女のるぎない自信の根拠を知りたいと考えていた処に、有無も言わせずそこへの突入合図が発せられた。


「じゃ、入りましょうか」


 ルーラルが皆に声を掛けると、そこでミララの待ったが掛かる。


「指輪を元に戻した方が良いの」


「そうですね。ダンジョンに戻るなら、その方が良いでしょうね」


「少しでも強くなって、ミユキに追いつきたいのですよ」


 ミララの意見は理解できる。

 ルーラルやレストは変身した師匠に感化されているのだと思うし、鍛錬のためには指輪をした方が良いのだろうけど......ただ、この先に何があるか解らないのに、能力に制限を掛けるのは怖い気がする。


「ミララ、向こうに出てから装着しない?」


 慎重派の僕が意見を述べると、透かさずミララが喰い付いてきた。


「ビビってるの」


 ぬぐぐぐぐぐ!


「根性無しなの」


 ぐがががががが!


「胸が小さいと、肝も小さいの」


 ガオオオオオオオオ!


「ちょっと、ミララ! 僕が黙ってるからっていい気になって! 遣ってやるよ! ふんっ」


 思わず、挑発に乗ってしまった......どうも、胸の事を言われるとカチンとくるのよ。特に、豊満なミララに言われると......


 一応、全員一致の意見でアーニャから貰った指輪を装着し、みんなで頷き合ってから光の壁に突入する。

 すると、辿り着いた先では物の見事にモンスターが待ち構えていた。


「こ、これは......」


「小型だけど、竜なの。ちょっと可愛いの」


「小型って、それでもあたし達の三倍はあるのです」


 僕の声に続いて、ミララとレストがその光景の感想を述べている。


「いけない。みんな一旦戻りま......」


 危険を感じたルーラルが戻ろうと言い掛けたけど、僕達が抜けてきた光の壁は、こちら側から見ると存在しないものだった。

 そう、振り返った先には、唯の壁があるのみだったのだ。


「ちっ、仕方ない! レスト、氷の壁よろしく」


「はい! 氷壁!」


 僕の指示で、即座にレストが氷壁を作って竜と僕達の間をへだてた。


「我が望むは、この者達の盾となる力。シールド!」


 氷壁で時間を稼ぎ、全員にシールドの魔法を掛ける。

 この魔法は、僕の適性が一番高かったから、いつからか僕の役目となっている。


「ありがとうなの」


 いつも突っかかってくるミララが素直に礼を言って来るけど、今は呑気のんきに喜んでいる場合では無いのよね。


「私が敵を引き付けます」


 ミララが突撃しようとした処で、ルーラルが透かさず自分が敵を取ると言う。

 これは何時もの戦法なので、全員がその言葉に頷く。

 そうやって戦闘準備をしていると、レストが作り出した氷壁魔法のタイムアウトとなり、竜が襲ってくるのだけど......


「増えてる......」


「マジなの?」


「いつの間に増えたのです?」


「ちっ、なんとか私が引き付けます」


 僕の驚きに、ミララが続き、レストが首を傾げているけど、ルーラルは覚悟を決めたようだ。


「「ギャオア~~~~~~~!」」


 いつの間にかに二体となった竜の咆哮が響き渡った。

 それが戦闘の合図だったかのように、竜たちはこちらに突進してくるのだけど、すぐさまルーラルが前に出て、スキルを発動させる。


「ブレイクスピア!」


 彼女のランスから繰り出された衝撃波を喰らった片方の竜が、吹き飛ばないまでもその場に転がる。

 彼女は更にもう一体に向けてもスキルを発動しようとしたのだけど、レストの魔法の方が早かった。


「氷槍!」


 レストが作り出した氷の槍は、標的を違う事無くもう一体の竜へと突き刺さ......突き刺さらなかった。


 なんて丈夫なのよ、あの氷の槍が竜の身体にぶち当たって砕けたよ。

 それを見たレストも目が点になってるじゃない。

 いえ、そんな事を言っている場合じゃないわね。

 僕もミララを見習わなきゃ。


 そう、ミララは全く驚くことなく、氷の槍を喰らった竜へとメイスを打ち付けていた。

 その攻撃は見事に竜の足へと炸裂さくれつして、敵の動きが鈍くなる。

 それを確認した僕は、その竜へ向けて透かさずスキルを発動させる。


「いっけ~~~!ギロチン!」


 そのスキルが発動すると、竜の頭上から鎌鼬かまいたちの雨が降る。だけど、竜の硬さは半端ないようで、それほど効いているとは思えなかった。

 しかし、そこへミララが止めとばかりにスキルを発動させる。


「ファイナルスマッシャー」


 彼女が渾身の力でメイスを振り下ろすと、衝撃波の余波がこっちにまで遣ってくる。

 でも、その一撃で一体目を倒せたみたい。

 もう一体については、ルーラルが懸命けんめい牽制けんせいしているので、直ぐに応援に行く必要がある。


 僕は一匹目がキラキラと光の粒子に変わるのを確認して、ルーラルの下へと向かおうとしたのだけど、後ろからレストの叫び声が聞こえてきた。


「地食い!」


 レストが珍しく地属性の魔法を発動させる。いや、これが始めてかもしれない。

 彼女の魔法が発動すると、地面がくぼみ、無数の地槍ちやりが生まれて、竜を串刺しにしたんだけど、危うくルーラルも串刺しになりそうになっていた......


「レスト~~~~~!」


 珍しく、ルーラルからの怒りの咆哮ほうこうが上がると、レストは戦闘中なのに速攻で豆柴になっていた。


 ......なんて卑怯なやつ!


「これで終わりなの」


 そんな声が聞えてきたかと思うと、レストを観察していた僕のそばをミララが疾風しっぷうのように走り抜けていく。


「マッスルアタック!」


 地槍で串刺しとなっている竜の肩口に、ミララがメイスで渾身の一撃を喰らわす。

 すると、竜は咆哮では無く、悲痛な叫び声を上げた。


「クゥオオオ~~~~~~~~ン」


 よし! これで終わりだよね。


 周囲を見回すと、ルーラルが額の汗をぬぐい、ミララがメイスを杖代わりにして息を整えている。


 レスト? ああ、あの駄犬ね。僕の足元にジャレついてきてるよ。


 だけど、ここでホッとしたのは早計だったみたいだ。

 大きな通路の奥から、地を揺るがす震動と何処までも響き渡るような足音が聞こえてくる。


「まさかとは思うけど、さっきの叫びって仲間を呼んだのかな?」


「この振動からすると、どうやらその様ですね」


「この程度なら問題ないの!」


「オン! オン!」


 僕の質問にみんなが答えてくるけど......レスト、あんたは早く人間に戻りなさい!


 ところが、僕達の予想は見事に裏切られる。

 震動と足音が止まった時、僕達の目の前には、さっき倒した竜の五倍は有ろうかという巨竜の姿があった。


「ど、ど、どうやら、仲間では無くて......親が来たみたいだね......」


 全員が僕の言葉に答える事無く、黙って親竜を見詰めている。


 う~~~ん、どうも子供を殺されて怒っているようだ。

 これは本気で戦わないと勝てないような気がするんだけど......

 そんな僕の心境と同じ思いだったのか、即座にルーラルからの指示が飛ぶ。


「直ぐに指輪を外しなさい」


「無理なの」


「クゥ~~~~ン」


 焦った様子のルーラルから出た言葉をミララは即座に否定する。

 そう、彼女は鎧を纏っているのだ。

 指輪を外せと言われて、はいそうですかという訳にはいかない。


 巨竜を目の前にして、こんなアホな遣り取りをしている自分達に、僕はただただ絶望という言葉を噛み締めるのだった。


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