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32 心機一転


 エルカ達が逃げだし、静寂を取り戻した神殿には、俺の仲間である四人の娘が転がっている。

 六人だと思っていた仲間は、どうやら俺の勘違いだったようだ。

 仲間どころか敵だったことに衝撃を受けながらも、未だに起きない四人の娘達の下へと行くと、癒し魔法を順番に掛けていく。


 何時まで経っても目を覚ます様子が無いので、大怪我でも負ってるかと思いきや、大した怪我はないようだった。

 恐らくだが、この不自然な眠りはエルカ達の仕業のように思う。


 それはそうと、いい加減に焦れて来た俺は、マルラの頬を肉球でペチペチと叩く。

 ああ、俺は既にチャーミングな猫の姿へと戻っている。


「あ、し、師匠、おはようございます」


 何かを勘違いしているマルラが目を覚ますと、少女達は次々に覚醒し始めた。


「うっ、ここは、あ、主様、ご無事ですか」


 少し混乱気味だが、ルーラルは周囲を見回しながら、これまでの流れを思い出したようだった。


「あれ? ここって神殿なのですよね? クシュン! えっ、あれ? あれ? あれ?」


 くしゃみをした筈のレストは、己が豆柴に変化しない事を驚いている。

 

 いや、俺も驚いたわ。てか、あの豆柴にならない事を非常に残念に思う。


「ん? ミーシャ、大丈夫なの?」


 ミララは俺の心配をしてくるけど、俺としてはお前達の方が心配だぞ。


「あれ、エルカは? メルも居ない」


 一番初めに二人に気付いたのはレストだった。

 そこで、全員が目を覚ましたこともあり、エルカ達の事を教えて遣る事にした。


「ああ、思い出した。エルカって、私の......私......私......治った~~~~!」


 マルラはエルカの事を口にしようとして、自分の呪いが解けていることに気付いて喜び始める。


「む、胸も、戻ってる~~~! やった~~~! さあ、師匠、プニュプニュしてください。さあ、どうぞ!」


「マルラは煩いの。ちょっとだけ胸が戻ったからって、騒がしいの。それに、その大きさでも私には敵わないの。さあ、ミーシャ、私の胸をプニプニするの」


 胸の大きさが戻ったことが、そんなに嬉しいものかな? てか、なんでこの状況でお前達の胸をプニプニする必要があるんだ? 大体、ミララは鎧をきてるじゃね~か。

 それよりも、マルラ! エルカの話はどうなったんだ?


 マルラは自分の胸のサイズを確認して、嬉しそうに触れといってその胸を突き出してきたのだが、物の見事にミララから攻撃を喰らっていた。


「なによ! ミララなんて、一生鎧を着てなさいよ!」


「フフフなの」


 折角、胸が元に戻ったのに、それでもミララの胸の大きさに勝てない事を思いらされたマルラが罵声を浴びせ掛けているのだが、ミララは勝ち誇ったように微笑みの声を甲冑の中から漏らしていた。


 そんな事よりも、どうやら、レストとマルラの呪いが解けなかった原因もあの二人にありそうだな。


 マルラが己の胸を撫でているのを眺めながら、そんな事を考えていると、レストが困ったような表情でおずおずと話し始めた。


「実は、前からちょっと変だなと思っていたのです。エルカの言動はちょっと異常なのです」


 今更ながらにそんな事を言われても困るのだが......


「俺は、ここ最近、マルラとエルカが姉妹らしくないと思ったくらいだニャ」


 ああ、俺の語尾に関しては、猫に戻ったら元通りになっちまった。


「だって、姉妹じゃないですから。なんで私も妹だと思ってたんだろう」


「魔法なの」


 不思議そうなマルラにミララがボソリと突っ込む。


「でも、これで納得できました。あの勇者たちが現れた事に」


 ルーラル、その通りだ。エルカが何らかの方法で伝えていたんだな。


 ルーラルの台詞に頷いていると、続けてレストが声を張り上げる。


「あ~~! もしかしたら、メルの空腹発言も時間稼ぎだったのかもです。空腹になるタイミングがあたしと違うから、変だなと思ってたのですよ」


 それは......なんて答えればいいんだ?


 全員が冷たい視線をレストに送ると、彼女は「オン! オン! オン!」と言いながら頭を掻いている。

 その途端だった。レストは豆柴に戻ってしまった。


「オウン?」


 不思議そうに首を傾げる豆柴が異様に可愛い。

 レスト、お前はそれが似合ってる。一生そのままで居ろ!


「レスト! って、まさか、私の胸も?」


 豆柴のレストを見て、慌てて胸を抑えるマルラだったが、胸が小さくなることは無かった。

 すると、ミララがツッコミを入れてきた。


「僕って言ってみるの」


「嫌よ! 絶対に嫌!」


 マルラは必死に首を振って拒否する。

 しかし、マルラとミララが騒ぎ始めると、レストが元の人間に戻った。


「あ、ああ、理由は解らないのですが、自分の意思で戻れるのかもなのです。オン! オン! オン!」


 人間に戻ったレストが再び犬の鳴き声を真似ると、その姿が再び豆柴になる。だが、直ぐに人間に戻った。


「やっぱりなのです。犬の鳴き声を真似すると犬になって、戻りたいと思ったら人間に戻れるのです」


 理由は解らないが、豆柴のレストが居なくならなくて、とても嬉しいと思うのは俺だけだろうか。


「だから、きっとマルラもキーワードで変身できるのです」


「嫌よ! 抑々、変身する意味がないじゃない。胸が小さくなるのと、僕......ぎゃ~~~~! 胸が、胸が縮んだ~~~~! 戻って戻って! お願い! お願い! お願い!」


 一人称を表現しようとして僕発言をしてしまい、胸の小さくなったマルラが戻れと願うと、直ぐに元の大きさへと戻ったようだが、これは彼女の言う通り全く利用価値がないな。強いて言うなら唯の芸だ。


「エルカ! 絶対に許さないから!」


 胸が元に戻ったマルラが発狂して叫ぶのだが、俺達しか居ない神殿の中に響き渡るだけだ。


「それよりも、そうなると誰が向こうの手先か分かったものでは無いですね」


 ルーラルが的を得た問題を提示してくる。


「そうなんだニャ。アルラワ王国に戻ってよいかも判断できないでいるニャ」


「あ、そうか、アーニャさん達が敵である可能性もありますよね」


「ん~無さそうなの」


「如何してですか?」


 俺の言葉にマルラが同調すると、ミララがそれを否定してくる。しかし、それを不思議に感じたのだろう。レストが即座にその理由を尋ねてくる。


「ミリアのあの雰囲気は本気なの。でも渡さないの」


 あう......そんな理由かよ......


 ミララはミリアが俺に本気で惚れてるから、敵じゃないと考えているようだ。

 それは根拠としてはかなり弱いが、どの道、このまま逃亡する訳にもいくまい。

 だから、みんなに細心の注意を払うように告げて神殿を後にしたのだった。







 警戒しつつアルラワ王国に戻ったのだが、出迎えたのはアーニャの裏切りでは無く、ミリアのダイブだった。


「ダンニャ~~~~!」


 ミリアに関しては、もう、言及する気も起こらないのでスルーだ。

 そんな訳で、俺はミリアを引き摺りながら前に進む。


「にゃ~~~! にゃ~~~~!」


 てか、恐ろしい程の執念だな! 俺が強化猫でなければ、一歩も進めなくなる処だぞ!


 ミリアの執念に感服しながらも、まるで彼女が居ないかのように振る舞うのだが、彼女はしぶとく俺の身体にしがみ付いている。まるで母親猿が子ザルを腹に抱えているのを連想させる姿だ。


「なんて根性なの。負けられないの」


 それを見たミララが闘志を燃やしている。


 そんな輩を無視しつつ、ミリアを振りほどいてソファーに上ると、直ぐにミリアが追い掛けてきて隣に、というか、俺の上に乗っかる。


『ミリア、いい加減にするニャ』


『あ~ん、怒っちゃやだ~~、ね~ダーリン!』


 念話でミリアを叱り付けるが、全く堪えた様子が無い。それどころか、完全に俺が亭主扱いになっている。

 それに、今も周囲の目を気にする事無く、俺の口の周りを舐め回している。


 猫だとこういう行為が当り前なのかもしれないが、精神的に人間である所為か、どうも違和感を持ってしまうな。てか、こら、ミリア、舐めすぎ!


 ミリアの執拗な愛撫にウンザリして、彼女に軽い猫パンチを喰らわせていると、部屋の扉が開いた。


「お、良く戻ったのじゃ、して、どうじゃった?」


 どうやら、ミリアが何らかの方法で知らせたのだろう。アーニャは直ぐにやって来て結果の報告を急かしてきた。

 だから、急いで向かいのソファーに座るアーニャに対して、闘神のことは隠しつつもエルカ達の事を伝えた。


「そうか、あの幼子が使徒であったか。何やら嫌な臭いはしておったのだ。じゃが、これと言って不審な行動を執っておらなんだから勘違いかと思うておったが」


 アーニャは頷きながら、怪しいと思っていた事を告げてきた。


「して、これから如何するのじゃ? 直ぐに次の神器の場所へ向かうのか?」


 あれ? 神器を得たのかと、全く聞いて来ないぞ?


 アーニャの言動を不思議に思っていると、彼女から念話が飛んできた。


『心配するでない。妾は味方じゃ。というか、お主の先輩じゃぞ。妾はトアラルアの使徒じゃからのう。それにトアラルアの使徒はもう一人おるぞ。今は教えることが出来ぬがのう』


 俺は驚愕に目を見開くが......ミリアがウザい。


 だから、顔を舐め回すのは止めろって! 俺の顔がお前の涎だらけじゃないか!


 まるで、「これは私のものだから唾を付けとくわ」と言わんばかりに舐め回している。

 そんなミリアの愛撫に耐えていると、複数の冷たい視線が突き刺さるのだが、それには目を向けずにアーニャとの会話を続ける。


『それは本当なのかニャ? というか、証明する方法がないニャ』


『そう思うなら、妾のかたわらに来るがよいのじゃ』


 アーニャのその言葉を聞き、俺はミリアを振りほどいてテーブルをジャンプで越えると、アーニャの膝の上に座る。


 すると、アーニャは優しく俺を抱くのだが、その途端、彼女の中から声が聞えてきた。


『ミユキ? 元気に頑張ってる? 女の子を泣かしてない? ミユキは可愛いから引く手数多でしょ?』


『トアラ? トアラかニャ? 元気なのかニャ? 寂しくないかニャ......』


 その懐かしくも心が温かくなる声を聞いて、必死に話し掛けるのだが、思わず言わなくて良い言葉を発して、口を噤んでしまう。


 寂しくない訳がないのだ。あんな洞窟に一人で居たら寂しいに決まっている。


 しかし、彼女は泣き言なんて口にしなかった。


『私は大丈夫よ。アーニャと会えたのね。彼女は私の友達だから安心して手伝って貰いなさい......』


『あ、もう魔力が......』


 トアラの話の途中で、アーニャから魔力が足らないという言葉が告げられて、トアラとの会話が終わってしまった。


『この力の発動は、異常に魔力を使うのじゃ』


 アーニャが申し訳なさそうに頭を垂れる。


 いや、久しぶりに会話が出来て嬉しかったよ。


 腕輪から声が聞えて来た時は、彼女の声が聞こえるだけだったから、少しだけど話が出来てとても嬉しかった。


 そんな感動に心を揺らしていると、アーニャは話を続けてきた。


『妾はのう。トアラルアの伝言板なのじゃ。だから、妾自身がトアラルアと話をする事は出来ぬ。だが、こうやって他の使徒とトアラの会話をさせることが出来るのじゃ』


 そうだったのかと、感心しながら聞いていたのだが、アーニャが付け加えてきた。


『それにのう、この姿は世界樹の実のお蔭じゃ。まあ、残りはあと少しじゃから、あと三百年くらいしたら死ぬのじゃがな』


 いやいや、お前は何年生きれば気が済むんだ? 今でも、きっとウン百歳だろう~が。


 まあ、それは良いとして、それならアーニャを警戒する必要は無くなった。

 これは大きな収穫だ。今後の行動に多大なる影響をもたらすだろう。


「ミーシャ、何時まで甘えているの?」


 ミララは、俺がアーニャに抱かれているのが気に入らないらしい。

 彼女はいつの間にかアーニャの前に立っており、俺を無理矢理に引き剥がしてきた。

 しかし、アーニャはそれを気にする事無く、先程の話を続けてくる。


「ところで、話は戻るが、これから如何するのじゃ?」


「この街のダンジョンに行くニャ」


 アーニャからの質問に、今度は口籠くちごもる事無く答える。


「またどうしてダンジョンに行くのじゃ? 神器ならもうないぞ?」


 不審がるアーニャがその理由を尋ねてくるが、その訳は簡単だ。


「力が足らないからニャ。二人が抜けたのもあるけど、今回の戦いで力不足なのが分かったニャ」


 俺が発したアーニャへの返事に、四人の仲間が黙って頷く。

 それを見たアーニャは、少し嬉しそうな顔をして、俺の仲間達に告げる。


「そうか。ならば妾も黙っては居れんのじゃ。少し待つがよいぞ」


 そう言うと、アーニャは走って何処かへ行ってしまった。


 しかし、いつまで待っても戻って来ないので、そろそろ帰ろうかと思っていると、疲れた様子のアーニャが戻ってきた。

 彼女は、待たせて悪いと言いながら、ソファーにドサっと腰を下ろし、ふ~~と一息吐いてから話し始めた。


「これじゃ、みんなでこれを装着して頑張るのじゃ」


 そう言いながらアーニャはテーブルに五つのリングを転がす。


「これって、何だニャ?」


 俺の質問に、アーニャが良くぞ聞いてくれたぞ。とばかりに演説を始めてしまったので、この後の話は割愛して屋敷に戻る事にする。







 王都アルルの屋敷に戻ると、いつもの様に執事が迎えてくれた。

 執事の爺さんは人数が少なくなっている事をいぶかしんでいたが、俺が適当に答えるとかしこまりましたと言って頭を下げてきた。

 しかし、次の瞬間、まるで歓声かのような声が聞こえてくる。


「あ~~ん! ご主人様! お帰りなさいませ~~!」


「「「お帰りなさいませ~~~!!!」」」


 一人の侍女が俺を迎える挨拶をすると、残りの全員が口を揃えて挨拶を告げてきた。

 この侍女達だが、アーニャに聞いたところ、無類の猫好きを集めたらしく、その所為で俺を構いたくて仕方がないようなのだ。


 しかし、絶対に渡さないとばかりに俺を抱くミララの手に力が入る。


 いやいや、こんな所で闘争心を露わにするなよ。

 というか、俺が求めた猫生って、こんな筈じゃなかったんだけどな~~。


 俺は遠い目をして、のんびりと昼寝をいそしむ猫になるという望みが、何処に行ってしまったのか、何処で歩むべき道を違えたのかと頭を悩ました。


 その後、食事を摂っていつもの様に全員で風呂に入る。

 全員と言っても二人欠けているのだが、誰もそれを悲しむ者は居ない。逆に、四人とも彼女達のした事に義憤ぎふんを感じているようだ。


 全員が風呂に入った後、俺は会議室として使っている一室に四人を呼んだ。

 これから、明日のダンジョンでの鍛錬の話を含め、今後の作戦会議を始めるのだ。


 ああ、ダンジョンで思い出したが、アーニャから貰ったアイテムだが、恐ろしい発想から作り出された物だった。

 てか、あのリングもそうだが、これまでの魔道具も全てアーニャが作っているらしい。

 本人曰く、妾は魔法を使うより、魔道具を作る方が専門じゃからのう。という話だった。


 それはそうと、あのリング、いや、俺も右足に着けているだが、これは力を十分の一にする魔道具だった。

 その話を聞いた時、なんで力を抑える魔道具を付ける必要があるのかさっぱり分からなくて、アーニャに意味があるのかと尋ねた程だ。

 しかし、この魔道具は本来の力を抑える事で、本人の能力を飛躍的に向上させる物らしい。

 また、俺達の実力だとかなり深い階層に行かないと鍛錬にならないらしく、それだけで時間を食うという。しかし、これなら浅い階層でも力を付けられるという話だった。


 要は、メルティの時と同じ理屈だな。


「これで私達は強くなれるのでしょうか」


 アーニャから貰ったリングの事を考えていると、ルーラルが尋ねてくる。

 それを切っ掛けにして、次々と疑問の声が上がる。


「師匠、私達って普通に頑張っても先が見えているような気がするんです。私は非力だし、殲滅力があるのはレストだけですけど、彼女の場合も時と場所を選びますから」


「ミーシャ、もっと強くなれる方法はないの?」


 マルラが自分の力の無さを嘆いていると、ミララも強くなる方法を教えてくれと言う。

 俺は色々と考えた末に、二人に真面目な顔で......猫の真面目な顔......まあいい、真剣な顔で告げた。


「二人とも、不滅となって戦う気があるか?」


「不滅って、如何いう事ですか? 死なないということ?」


「それって、死ぬ事が無いということなの?」


 不思議そうに問い掛けてくるマルラとミララに頷いて、その後の話を進める。


「何故かレストはお腹を空かすが、ご飯も食べる必要がなくなるニャ。ルーラルを見ると解るニャ?」


「もしかして、ルーラルに与えた実を私達にも? 食べます! 頂きます。有り難く頂きます」


「食べるの。スーパーミルラエラになるの」


 食べると後に戻れなくなると伝えたが、二人はがんとして食べると言うので、遠慮なく与える事にした。


「な、なに、これ、力がみなぎってくる。あ、胸も少し大きくなった!」


「あ~~~~スーパーミルラエラになった気分なの」


 二人とも、世界樹の種を食べた途端に立ち上がり、漲る力や躍動やくどうする血の流れを感じ取るように身体を動かしている。


「凄い。今ならあの巨像を一撃で倒せそうなの」


 ミララは自分の手を開いたり握ったりしながら、そんな感想を述べてくる。


「私もよ。これならエルカとメルにギャフンと言わせることが出来るわ」


 マルラも自分の力を感じて己の心情を吐露とろするが、これではまだまだ勝てないだろう。

 それに、次の目的地も死闘になる事が予想されるんだ。

 こんなもので満足して貰っては困るのだよ。


「四人共集まってくれニャ。あ、ここに座ってくれニャ」


 ソファーの上に座り、前足を絨毯に向けてそう言うと、四人が俺の前で一列に並んで座った。

 それを確認した俺は、更に指示を出す。


「ルーラル、俺を抱えてお互いの額を合わせれくれニャ」


 その言葉に、ルーラルは迷わず俺の言われた通りにする。

 そして、彼女の額が俺の額に当てられると、俺は神力を少しづつ流し込む。

 すると、彼女は驚いてこれ以上は無いという程に瞳を見開く。


「こ、これ、これは、この力は、神の力ですか?」


「そうニャ。ルーラル、お前は今から使徒となったニャ」


 あまり多くを分け与える訳にはいかないが、少しなら問題ないと判断して、俺は四人を使徒とする事に決めたのだ。


「あ、有難う御座います」


 俺をソファーに降ろしたルーラルは、絨毯に深々と頭を下げた。


 この後、残りの三人を順番に使徒化して、エルカ達に対抗すべく仲間を強化する。

 その後も、亜空間収納や様々な魔法を伝授しながら、遅くまで魔法の鍛錬にはげむのだった。







 そこは以前に入ったダンジョンと大差ない見た目だが、出て来るモンスターは格段に強かった。

 あの時は、メルティの所為でモンスターが強化されるという問題があって、低レベルのモンスターが格段に強くなっていた。

 現在の場合は、それとは逆に、俺達の戦闘力が十分の一に落とされており、モンスター自体の強さは変わらないといった状態だが、根本的にこっちのダンジョンの方がモンスターのレベルが高かった。

 それでも、世界樹の種と俺から与えた神力のお蔭で、問題なく狩りをする事が出来ている。


「す、凄い、十分の一になってる筈なのに、以前よりも体が軽い」


 マルラがレイピアを振るいながら、己の力に感動している。


「風のように動けるの。攻撃も以前の三倍くらいの威力があるの」


 ミララも高速移動とメイスの攻撃を繰り返しながら、現在の力に歓喜している。


「氷槍! 今まで炎しか使えなかったのに......それに、この威力、凄いのです」


 これまで炎の魔法しか使えなかったレストが、新たな魔法とその威力におののいている。


「ピアースブレーク! これが使徒の力......主様が与えて下さった力......私は主様の血となり肉となって、この身を主様に捧げる事を誓います」


 臣下というより、完全に信徒と化したルーラルが、新たな攻撃スキルを発動させながら俺に祈りを捧げている。


 その~~~、目の前に居るのに祈りを捧げられるのはちょっと......


 四人は新しい力を手に入れ、歓喜の声を上げながらダンジョンで鍛錬に励むのだった。


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