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28 死国の結末


 宝石を散りばめたような夜空の下、美しき少女達と浪漫飛行を楽しみ......

 なんて情景を語ってみたかったのだが、現在の状況はというと、張り出した雲の所為で何も見えない暗黒を彷徨さまよっているところだ。

 更には美しき少女というより、愛らしい豆柴が俺の上に乗っかりジャレている。


「こら! レスト」


「オウオウ! オウ~~~ン!(退屈、退屈、遊んで~~)」


 変に仮眠を取ったことで眠れなくなったレストが、豆柴状態で俺のふさふさの胸に頭を擦りつけてくる。


 仕方がないので複乳を肉球でナデナデしてやる。

 すると、豆柴レストが嬉しそうに舌を出したまま、黄金色の身体を擦り寄せてくる。


「羨ましい......」


「ぬぐ、ヤリ手なの」


 それを眺めるマルラとミララが恨めしそうにしているが、それに気付かない振りをしてレストの相手をしてやる。


 まあ、この処、レストには嫌な役を沢山させたから偶には良いだろう。

 それに、豆柴状態のレストは異様に可愛いしな。


 因みに、エルカとメルは爆睡モードだ。


「僕も犬の呪いの方が良かった......」


 レストと同じタイミングで呪いを受けたマルラはボソリと愚痴っている。


 てか、呪いに掛からないのが一番だのだが......


「それより、あの勇者、どうなったと思います?」


 ジャレつくレストをもてあそんでいると、それを微笑ましい表情で眺めていたルーラルが、素っ裸で放置した勇者について述べてくる。


「師匠にあんなことする奴なんて、ゾンビに食われたらいいのよ」


「同感なの」


「オン! オン!(そうだ! そうだ!)」


「まあ、仲間が直ぐに見付けてくれるだろうニャ」


 ルーラルの言葉を聞いたマルラが毒を吐いたかと思うと、ミララとレストが賛同している......のは良いのだが......


「レスト、よだれを俺の顔に垂らすなよニャ」


「クゥ~~~~ン(ごめ~~~~ん)」


 そんな事よりも、さっきからとても気になる事があるのだ。


「なあ、マルラ、この絨毯じゅうたんって前に進んでるかニャ?」


 高度も高くて真っ暗な状況ということもあり、地上の様子も分からなければ、前方も全く視界の利かない状況だ。


 それでもこの世界だと、他に飛んでいる存在が無いので、安心して絨毯を飛ばしてるのだが、俺のひげしきりにささやくのだ。全然進んでないぞって。


「実は、僕もさっきからそう思ってたんですよね」


 だったら、早く言えや! まあ、俺も似たようなものだから突っ込むのはよそう。


「如何いう事ですか?」


 それを聞いたルーラルが透かさず尋ねてくるが、そんなことは俺にも解らん。

 ただ、何かにぶつかったまま、全く進んでないような気がするんだ。


「解らんけど、もしかしたら結界のようなもの(・・)があるのかもニャ。マルラ、少し降りてみるニャ」


「了解です! 降下しま~~~す」


 俺の指示でマルラが絨毯を降下させるが、真っ暗で何も見えない。


「ゾンビは居そうですか?」


「絨毯の結界から出ないと臭いも解らんからニャ~。判断がつかないニャ」


 そうなのだ。絨毯に張ってある結界の所為で、視認以外に敵を検知する方法がないのだ。


「ちゃくり~~く」


「って、何も見えないのに、よく操舵そうだできるニャ」


 何事も無く着陸させるマルラに感嘆かんたんの声を上げると、彼女は嬉しそな表情で答えてくる。


「だって、障害物が目の前にあれば、流石に見えますよね?」


 う~む、唯の運だったようだ......てか、こえ~~~! 思わず尻尾が股の間に入ったぞ!

 まあ、それは良いとして、ここは何処だろうか。


 降下で木々の姿すら見えなかったので、恐らく平原のような場所だと思うのだが、こう真っ暗では皆目見当もつかない。

 しかし、絨毯から降りた途端に、周囲に立ち込める臭いを感じて危険を察知する。


「レスト! 焦土だニャ! どこでもいいニャ! ぶっ放すニャ!」


「オウ~~~~~~ン! (焦土~~~~~!)」


 って、豆柴状態じゃね~か! バカちん! ダメだ......こいつ......


 当然ながら、魔法なんて発動することも無く、嫌な臭いがどんどん強くなってくる。


「ちっ、ブチ噛ますかニャ」


『癒しの女神トアラルアの名において命じるニャ。不浄なる者を救い賜えニャ』


「浄化ニャ!」


 迫りくる危機を感じ、慌てて浄化魔法を発動すると、周囲に向けて光の波が広がって行く。しかし、視界が利かないので、どうなっているかさっぱり解らない。


「レスト、人間体に戻ったかニャ? 前方に炎壁を放つニャ! 何も見えんニャ」


「はい! お待たせなのです。炎壁!」


 レストが魔法を発動させると、辺りが一気に明るくなる。それは急激な変化で目が痛む程だったが、何とか周囲を確認することが出来た。


「な、なによこれ」


「多いの」


 その光景を目の当たりにしたマルラが驚愕し、ミララは一言だけ感想を述べている。


「どうしてこれ程までに? というか、主様の浄化魔法でかなりの数が減った筈なのに......」


 ルーラルはこの状況を不審に思ったのだろう。それが声に出ていた。


「うひゃ~~。これは魔力がもたないのです」


 流石のレストも、これには圧倒されたのだろう。


「直ぐに絨毯に戻るニャ」


 そう、視界にはゾンビの海原が存在したのだ。


 俺の言葉で全員が絨毯に乗り、すぐさま上空へと舞い上がったお蔭で、何とか事無きを得た。


 この数は幾らなんでもあんまりだ。戦える数じゃないぞ!


 思わず心中で現状について愚痴をこぼしたのだが、これからの事について思考を巡らせる。しかし、大した案も思い浮かばず、結局は消極的な対応を余儀よぎなくされる。


「明るくなるまで、絨毯の上で過ごすしかないニャ」


「そうですね。それにしても余りにも数が多いと思いませんか?」


 これからの方針を口にすると、透かさずルーラルが疑問を口にしたのだが、全く以てその通りなのだ。

 幾ら死の国とはいっても、こんなにゾンビが居るのはおかしいのだ。

 偶々、ここに集中しているのなら解るが、これまでの戦闘から考えても、ゾンビの存在する範囲が広すぎると思う。


「理由は解らんニャ。それに、明るくならないと何とも判断できんニャ」


 その答えにルーラルは黙って頷く。


 結局、真っ暗な夜空の下、絨毯の上で一晩を過ごす事になるのだった。







 夜が明けてみると、その惨状がありありと見て取れた。

 まるで、甘いものを探している蟻のようにゾンビが徘徊はいかいしているのだ。

 その数は半端ない。どうやったらこれ程に! と、思うくらいに居る。

 とはいっても、昨日は偶々大量に湧いている処へ降りたようだ。

 明るくなってみると、割と少ない所も見受けられた。


「アーニャさんの話を聞いた後でも、流石にこれは信じられませんね」


 眼下の状況を眺めているルーラルが感想を述べるが、全くその通りだと言えるだろう。


 ああ、アーニャの件だが、昨夜、絨毯で浮遊している間に手鏡を使って叩き起こし、色々と追加情報を貰ったのだ。

 その話では、死国となったのは凡そ五百年前なのだが、それ以降、神器を狙った者や近隣の国々が討伐に出向いては、ゾンビを増産してきたという話だった。

 ただ、隣国も当初は死国のゾンビを脅威と判断して、沢山の討伐隊を送り出したのだが、実を言うとゾンビはこの国の領土から出ないという事が解り、今では完全に放置されているとのことだった。


 あと、この曇り空も神器の産物らしく、一年中曇っているという。


 最後の問題だが、どうやら神器の力で空には結界が張られており、地を行くしかないと言う結論に達した。

 これについては、流石のアーニャも知らなかったらしく、申し訳なさそうにしていたのだった。


「という訳で、地を進む必要がありそうなんだが、現在の位置は確認できたかニャ」


「はい。地図と照らし合わせたのですが、あの街道を行くのが一番の近道みたいです」


 ルーラルに位置情報を尋ねると、彼女は事前に調べていたのか、直ぐに答えて来た。ただ、その街道を眺めたマルラがつぶやいた。


「ねえ、街道って、あの数メートル単位にゾンビが徘徊してるとこよね?」


 マルラの呟きに、ミララがポツリと一言だけ零す。


「死道なの」


 二人が嫌な表情で告げて来た通り、その道はゾンビに占拠されたかのような状態だった。

 あの道を進むのかと思うと、流石の俺も鼻をまみたくなるのだが、こればかりは仕方ないのだ。


「よし、全員、戦闘準備をして地に降りるニャ」


 最悪の条件だとは知りつつも、目的に向かうには他の方法が無い。故に、俺達は望まぬデスゲームへと脚を踏み入れることになるのだった。



 その戦いは、普通の戦闘のように剣戟けんげきの音がとどろくことは無い。

 武器で殴りつけると「ぶちゃ」という音が生まれ。

 剣で切り裂くと「ぐちゃ」という音になり。

 ダメージが大きくなると、「べちゃ」という音と共に地に倒れて行動不能となるのだ。そして、最終的にはレストの魔法に焼かれて、パチパチという骨が焼かれて発生する音だけだ。

 浄化魔法であれば、完全に砂となるので音がしないし、汚れることもない。

 だから、大軍が襲って来ると、誰もが俺に視線を向けるのだ。


「師匠!」「ミーシャ!」「ミユキ~~!」「猫ちゃ~~~ん」「ニャ~~ア」


「主様、お願いします」


『癒しの女神トアラルアの名において命じるニャ。不浄なる者を救い賜えニャ』


 俺の浄化魔法が炸裂すると、半径三十メートル範囲のゾンビが一瞬にして砂に変わる。


 というか、全員の俺を呼ぶ名前が違うとか、ちょっと在り得ないんだが......


 誰一人として同じ呼び方をしない事に些か疑問を感じていると、ルーラルが一掃された周囲を眺めながら近寄ってくる。


「流石は主様です。不浄の輩があっというまに片付きます」


 ルーラルは微笑みを見せつつ褒めてくるのだが、周りの者達はちょっと違う感想を持っているようだ。


「全部、師匠が倒した方が早いと思うんだけど」


「その方が綺麗でいいの」


「あたしの出番がないのですよ......」


「ダメよワンちゃん。臭く無い方がいいでしょ」


「腹減ったよ~~~~」


 マルラとミララは俺に全部倒せと言うし、レストは自分の出番が無くなると不平を口にするが、エルカにダメ出しされていた。


 ああ、腹ペコ星獣は放置で......


 まあ、マルラとミララの気持ちは痛いほどに良く解るのだが、そういう訳にもいかない事情があるのだ。


「悪いが、それだと俺も魔力がもたないニャ。それに何が起こるか解らないから、なるべく魔力を温存したいニャ」


 まあ、この日はこんな感じでゾンビ狩り......いや、移動をここまでにして、見通しの良い場所で野宿する事にしたのだった。







 徒歩で進行を始めてから二週間の時が経ち、視線の先には死国の王都があった。

 ただ、不思議なのは王都に近付くほどゾンビが減ったことだ。

 もしかしたら、戦争時に神器を発動せた所為で、殆どの者が王都から離れた場所でゾンビ化したのかもしれない。

 ただ、街中は当然ながら住民が居たであろう、よって、一般人のゾンビが多数いると思われる。


「とうとう、ここまで辿り着きましたね」


 マルラが王都を眺めながら感慨深く感想を述べる。

 確かに、ここに来るまでどれだけ腐肉にまみれたか解らない。勿論、俺の事では無い。


 俺はクリーンな強化猫だからな。


 その代わり、全員に聖属性付与の魔法を掛けてやり、戦闘が終わると浄化魔法を掛けてやった。

 ただ、八つ当たりのように湯船にけられたのは、あまり良い記憶では無いので忘れることにする。


「さて、これからが本番ニャ。全員、武器を出すニャ」


 全員に聖属性付与を掛け直して、これから王都へと突撃なのだ。


 時間的にも、まだお昼を回ったばかりなので、この先に進まない手は無い。

 まずは、小手調べと言うことで王都に入る事にしたのだ。


「また、腐肉塗れになるのね」


「いい加減、ウンザリしてきたの」


「この戦いが終わるまでは、絶対に豆柴に成りたくないのです」


「うちも、早く片付けて帰りたい」


「晩ご飯はまだかな~」


「私は主様が行く所なら何処までもお供します」


 マルラが愚痴を溢しながらレイピアを差し出すと、ミララ、レスト、エルカが続けて愚痴ってくるのだが、メルは昼飯を食ったばかりだというのに晩飯を所望しているし、ルーラルは忠誠を誓ってくる。


 そんな彼女達が持つ武器に聖属性の力を付与してやり、これから起こるであろう惨劇について予測を立てる。


 いや、きっと死ぬことの出来ない彼等にとっても、俺達の行いは幸せをもたらす筈だ。


 思い浮かべた予想を打ち払うかのように、己を鼓舞して先へと進む。


 まばらに登場するゾンビ達を蹴散らしつつ王都の門へと向かう。

 そのゾンビ達の装備からすると、恐らく、門を守る衛兵達の成れの果てなのだろう。


 既にサビきってボロボロになった装備を纏ったゾンビを横目に、王都を守る門を潜る。

 すると、早速とばかりにゾンビが現れたのだが......


 ゾンビの登場で、即座に立ち向かおうとしたマルラだったが、流石に攻撃を躊躇してしまった。


「こ、子供......」


 そうなのだ。とても悲しい事に俺の予測は的中した。

 そこには、子供や女性と思わしきゾンビが呻き声を上げながら、近寄ってくる姿があったのだ。

 その小柄なゾンビも、本来はとても可愛らしい女の子だったのだろう。女性のゾンビも、もしかしたら男の目を引く程の美女だったかも知れない。

 しかし、今やその面影は無く、見るも無残な状態となっている。


 拙いな。やはりマルラ達はこの光景に戸惑ってしまったな。

 さて、どうやって奮起させるかな......


 凍り付く彼女達の様子を眺めながら色々と考えてみたが、良い言葉が浮かばず、結局は事実を有りの侭に伝える事にした。


「マルラ、その子はもう生きてはいないニャ。油断すると全員が危険になるニャ」


 少し非情だが、マルラにそう忠告すると、彼女は押し黙ったまま頷いて、少女のゾンビを切り裂いた。


 悲痛な表情を浮かべてゾンビを切り裂くマルラを横目に、ミララも女性のゾンビをメイスで叩き潰しながら、神器の停止を宣言する。


「早く神器を止めるの」


 その後も、子供や女性、老人のゾンビが沢山出て来るのだが、兵士のゾンビは殆ど出てこない。


 やはり、戦える者はみんな戦場へと向かったのだろう。

 そんな事を考えながら、うじゃうじゃとき出したゾンビに浄化魔法を掛ける。

 すると、あるゾンビが身体を砂に変えながら、声を漏らしたような気がした。


「あ、り、が......」


 それを見て、マルラが動きを止める。


「今、お礼を言ったよね?」


「そうかもしれないニャ。でも、今は感傷にひたっている場合じゃないニャ」


「そうですよね。はい。絶対に神器を止めます」


 薄っすらと涙を浮かべたマルラが、俺の一喝にその涙を拭って誓いの言葉を口にする。


 そうこうしながら王城へと辿り着くと、殆ど無人とも言える状態だった。

 時折、現れるゾンビは侍女らしき存在ばかりで、ゾンビ化した警護の者すら出てこない。


 そんな城中を六人と一匹で先を急ぐように進む。


「もしかしたら、財宝があるかもしれないね」


 エルカが誘いのワードを唱えるが、マルラとレストは首を横に振る。

 どうやら、男化と犬化の呪いでりたのだろう。いや、もしかすると、この惨状を見てそれ処では無いのかも知れない。


 まあ、全てが終わったら宝物庫は押さえるつもりだが、今はそれに言及すまい。


「それよりも、神器ってどこにあるのかな?」


 城内を突き進んでいると、一番の問題をレストが口にする。しかし、それについては、既に予想がついていた。


「恐らく王様が持っているニャ」


 そう言って謁見えっけんの間に入ると、流石に衛兵のゾンビが登場する。


「やっ! えいっ! とうっ! 風刃」


「眠ってなの! マッスルアタック!」


 即座にマルラとミララが撃って出る。

 それに続くように、ワラワラと集まって来るゾンビへ向けて、レストが炎の矢を放ち、エルカが聖属性の魔弾を撃ち込む。


「炎矢!」


「聖弾!」


 レストの魔法を喰らったゾンビは燃え上がり、エルカの聖魔弾を喰らったゾンビは胸を打ち抜かれて体の半分が砂状になる。


「もういいニャ。みんな安らかに眠るニャ。浄化ニャ!」


 そう言って、俺が浄化魔法を放つと、謁見の間に居たゾンビが全て砂となって崩れ落ちる。

 恐らく大丈夫だとは思うが、念のために周囲を見回すと、もはや一体のゾンビも居なかった。


 俺の隣ではルーラルが悲痛な表情で何かを呟き、他の面々も神に祈っている様子だった。

 そんな中、俺はゆっくりと玉座に近寄ると、そこには一本の杖が転がっていた。

 先端に髑髏の意匠が施された物で、見るからに不気味な杖だった。

 恐らくは、これが神器なのだろう。

 どうやら、俺の浄化魔法は不死の術を展開していた杖の効力も奪ったと思う。故に、この国の彼方此方で徘徊していたゾンビも、これで全て土に還った事だろう。


 これが長きに渡った死国の歴史に終止符が落とされた瞬間となる。


 それを成した俺は、街の女子供を思い起こし、黙祷しつつ彼等彼女等の冥福を祈るのだった。







 この国の歴史に終止符を打った俺が、ゆっくりと髑髏の杖に近付く。

 そして、その忌々しい杖を腫物でも触るように左足を乗せようとした処で、人の気配を感じて振り向く。


「あら、バレちゃった!」


 そこに居たのは、アフォ勇者と一緒に居た盗賊のカルラだった。

 カルラは俺に見付かると、後ろ頭を掻きながら声を発した。

 それを見たルーラルは驚きの表情を隠すことができず、慌てて彼女に向けて言葉を発した。


「いつの間にここまで来たんですか?」


 しかし、彼女はルーラルの問いに真面に答えず、俺の事を指摘してくる。


「あははは、秘密~~! てか、猫ちゃん、あんた唯者じゃないね」


 しかし、俺は答えない。手の内は見せなくないのだ。

 それは向こうも同じようで、何かを企んでいるのは間違いなさそうだ。


 そう考えた俺は急いで神器を収納しようとしたのだが、俺の居る場所に何かが飛来する。それを即座に避けると、そこには矢が突き立っている。


 どうやら、何処かから俺の事を弓で狙っているようだ。

 次の瞬間、謁見の間の窓が割れ、そこからビキニアーマー女戦士ビアンカとアフォ勇者......名前......忘れた......まあいいか......が入って来た。


 どうやら、俺達は完全に付けられていたようだな。

 その方法は解らんが、上手い具合に利用されたようだ。


「おい! オレの剣を返せ!」


 入ってくるなり、アフォ勇者が怒声を上げたが、まるで居ない者の発言かのように無視した。


「ちっ、猫! てめ~だろ! オレの剣を返しやがれ」


 ああ、無視だ。ここは無視するのが得策だ。それよりも神器を早く回収しなければ。


 加速魔法を使用し瞬時に神器へと向かうが、再び矢が俺に向かって飛んでくる。

 それを避けると、今度はビアンカが投げたナイフが飛んでくる。


 くそっ、ウザい奴等だな。


 悪態を吐きつつもその全てをかわして、神器に向かったのだが、そこにはカルラが立っていた。


「猫ちゃん。悪いけど、これは貰っとくね」


 くそっ、この盗賊が! 何が正しき盗賊だ! ふざけやがって......


『ルーラル、警告ニャ!』


『はい!』


「何を考えているかは知りませんが、それは人が持つ物ではありません。直ぐに引き渡してください。そうでないと髪の一本まで消滅させます」


 相変わらず恫喝にしかなっていない警告だけど、今回に限っては満足だぞ。褒めて遣わす。いや、ご褒美にあとでオッパイをプニプニしてやるからな。


「はぁ~~ん! オレ達を消滅だと? やれるもんなら遣ってみやがれ! いたっ!」


「お前は黙ってろ! 悪いが真面にやっても勝てないんでね。ここは引かせて貰うよ」


 アフォ勇者の頭を叩き、ビキニ戦士のビアンカが逃走する事を告げてくる。


『逃がすニャ。特にカルラは拙いニャ。あの神器が他の者の手に渡るのは危険だニャ』


 俺の念話で、マルラが直ぐにレイピアを構え、己の心情を叫ぶ。


「逃がさないわ。こんな最悪の事態を引き起こす神器なんて、絶対に渡せない」


 更に、甲冑姿のミララが前に出て、カルラにメイスを向けて宣言する。


「悪しき心を感じるの。討滅なの!」


 だが、次の瞬間、カルラが黒い珠を俺達の前に放った。

 すると、真っ黒な煙が発生して、一瞬で視界が利かなくなる。


 くそっ、煙幕かよ!


「クシュン! オン! オン!」


 あっ、レストが煙幕の所為で豆柴に......


『みんな大丈夫か?』


 全員に念話をブロードキャストした時だった。

 俺の腹部に痛みが走る。


 ちっ、この暗闇でよく狙えたもんだ。


 そう、俺の腹には矢が刺さっていた。それにこの感覚は恐らく毒だろう。

 そうこうしていると、煙幕が引いて視界を取り戻すが、既に奴等の姿は綺麗サッパリ消えていた。


 そんな奴等を探し出すように周囲を見回していたマルラが、俺を見て叫び声をあげる。


「きゃ-----! 師匠----!」


 その声で俺の状態に気付いたレストが叫びながら駆け寄ってくる。


「オン! オン! オン! オウ~~~~~ン!(ミユキ、怪我しているのです。拙いのですよ。ミユキ~~~~~)」


 マルラとレストの声で俺の状態を知ったミララが、混乱した様子で駆け寄って来る。


「ミーシャ! 大丈夫なの? マルラ、今直ぐ治癒魔法を! 急ぐの」


 賢者エルカは俺の傍に立ち、あまり心配していなさそうな表情をしていた。


「猫ちゃん......でも、大丈夫だよね?」


 メルはといえば、エルカの隣にやってきて首を傾げている。


「ニャアなら、直ぐに治せるんだよね?」


 最後に、ルーラルがこの世のものとは思えない鬼相で宣言する。


「この報いは死をもって。必ず私が止めを刺しましょう」


 まあ、マルラ、ミララ、レスト、ルーラルは激怒しているのだが、エルカとメルだけは割と平然としていた。

 そんな二人を少しだけ薄情者と思ってしまう。


 しかし、それよりも......早くこの矢を抜いてくれないか? 流石に猫の俺には無理なんだが......今の状態でネットに流すと『矢猫』と呼ばれちまうぞ!


「マルラ、悪いが矢を抜いてくれニャ」


 マルラは心配そうな表情で俺のかたわらに跪くと、黙って頷いて言われる通りに矢を抜いてくれた。


『癒しの女神トアラルア名を持って命じるニャ。我の命を救い賜えニャ!』


 矢が無くなった処で、完全治癒の魔法を発動させて傷を治す。毒に関しても完全治癒で治るから、何の問題も無い。


 問題があるとすれば、神器を奪われたことだな。くそっ、大失態だ!

 この借りはさっさと返すべきだよな。それも特大のノシを付けてな!


 俺は女神トアラルアの名に懸けて、必ず神器を取り戻し、奴等に一泡ふかす事を誓うのだった。

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