24 アルラワ王国での結末
その場を表現するなら、豪華の一言に尽きるだろう。
例え、それが奇抜であろうと、過剰な装飾で見るに堪えないものであろうともだ。
それはレーシアの乗っていた馬車と類似的な成金調と表現すべき様相を呈していた。
石の壁には赤と金を基調とした装飾が施され、更には過剰な程の壁画が施され、一つ一つは確かに素晴らしいのだが、それを全て集めた為に何もかもが台無しになっていた。
故人には悪いが、アルレシアン公爵といい、王様といい、あまりセンスのある人物では無かったようだニャ。
「師匠、如何したんですか? 残念そうな顔をして」
俺が心中でこの場の光景に遺憾の意を表明していると、俺を抱いているマルラが疑問の声を投掛けてきた。
『いや、良い物を沢山掻き集めて一つにすると、悪い物が出来るんだニャ~と思っただけニャ』
「そんな事はないですよ。問題はそれを行う者の感性でしょう」
マルラに念話で答えてやると、彼女の横を歩いていたルーラルが指摘してくる。
ああ、どうやら、仲間内にブロードキャストとしてしまったようだ。
いかんな。気が緩んでいる証拠だ。
そう、現在の俺達はアルラワ王国の王城、更には謁見の間に佇んでいるのだ。
とは言っても、俺はマルラに抱かれているだけなのだが......
さて、謁見の間の状況だが、緊急招集により沢山の臣下達が集まっており、玉座の前にはカール王子とレーシアが立っている。
目の不自由なレーシアをカール王子と二人で立たせるのは不安だという事で、レーシアの足元には豆柴レストが座り込んでいる。
ところが、その犬は何やら不服そうに転がっていた。
というのも、カール王子が豆柴レストを痛く気に入ったようで、頻りにちょっかいを掛けるのだ。
今も頻りに声を掛けたり、頭を撫でたり、尻尾を握ったりしている。
「ワンちゃん、ワンちゃん。可愛いね。しっぽもほら!」
「オン、オン、クゥ~~~ン(やめて、尻尾に触らないで~~)」
「こら、カール、ダメだよ。ワンちゃん嫌がってるよ」
「オン! オン!(そうよ! そうよ!)」
「え~~。レーシア姉様、このワンちゃんちょうだい」
「クゥ~~~ン(やめて~~~)」
「ダメよ。私の物ではないのだから」
「オン! オン!(そうよ! そうよ!)」
「ぶ~~~」
と、まあ、こんな会話が繰り返されている。
てな訳で、レストは現在の状況が気に入らないらしくて、不貞腐れているのだが、ここは見なかった事にした方が良さそうだ。
そんな豆柴から視線を外しながら、さっさと始めて欲しいと考えていると、まるで俺の苦言が聞えたかのように、玉座の段の下に居るアーニャが話を始めた。
「静粛に、本日はお忙しい中、よく来てくれたのじゃ。みなも知っての通り、ミルロッテ王が弑逆された事は知っておるじゃろ。現在はキンクス侯爵の独断でカール王子やアルレシアン公爵を犯人として処罰を下しておる状況じゃ。しかし、妾はそれが真実だと思えぬ。故に真偽の儀式を執り行う事にした」
アーニャの話で静寂化していた場内は、一瞬のうちに高鳴る拍手で埋まる。
どうやら、キンクス侯爵を怪しんでいる者、従いたくない者、煩わしく思っている者などが多く居るようだ。
そんな謁見の間をゆるりと見渡しながら、アーニャは話を続けた。
「そこでじゃ、今回の件で怪しい行動を執っていた者を幾人か連れて参ったのじゃ。カール王子の真偽の儀式と共に、その者達にも証言をして貰おうと思うのじゃが。反対の者はおるかのう?」
「異議なし!」
「そうです。裁きは公平であるべきです」
「アルレシアン公爵が王を弑奉るなんて在り得ない」
「是非とも、その者達も真偽の儀式に参加させてください」
アーニャの声に、集まった臣下達から次々と賛成の声が上がる。
彼女は和やかな表情で頷き、次なる段取りへと移った。
「では、真偽の宝珠をこれへ」
アーニャの声に、白薔薇騎士団の数人が大きな台とバスケットボールサイズの宝珠を抱えてくる。
なんともデカイ宝珠だな。てか、あれで真偽が解るなら、裁判なんて要らないじゃないか。それに、偽証も冤罪も、不正の起こしようも無い。是非とも日本に送って欲しいものだ。
そんな感想を抱いている内に、玉座の前に真偽の宝珠が設置された。
すると、アーニャが声を上げた。
「カール王子よ、こちらへ」
アーニャが声を掛けると、カール王子が頷いて前にでる。
「宝珠に手を当て、妾の質問に答えてくだされ」
「相分かった。なんでも聞くが良い」
カール王子が一気に王族仕様に変わったのに驚く。
これまでは唯の子供だったのに、今はとても堂々としている。
これが教育の賜物なのだろうか。
「カール王子よ。其方はミルロッテ王を弑奉らんとしたか」
「いいえ、どうして私が父を弑奉る必要がありましょうや。私は王子です。この国を継ぐ者が現王を弑逆するなど、なんの意味も無い」
いや、どんだけ教育すれば、こんな子供が出来上がるんだ? あの子供、レストやマルラよりも賢いぞ。
そんな俺の驚愕を余所に、集まった臣下達は歓声を上げている。
「そうだと思ったのだ!」
「抑々、話がおかしいのだ!」
「これは絶対に謀略だぞ」
カール王子の言葉を聞いた者達が次々に己の心境を口にする。
「静まれ! では、トルドル伯爵これへ」
昨日、レストに屋敷を爆破された伯爵は、白薔薇騎士団の者に連れられ前に出て来る。
「トルドル伯爵、宝珠に手を。では、同じ質問じゃ。其方はミルロッテ王を弑奉らんとしたか」
「わ、私ではない。キンクス侯爵の仕業です。私は反対したのです」
場内が一気に爆発したかと思う程の騒ぎとなる。
「この反逆者め!」
「なんてことを! 公正な裁きを与えるべきです」
「謀反には極刑を!」
「皆の者、静まれよ! 静まるのじゃ」
アーニャが厳しい表情で場内の騒ぎを収める。
彼女の一言で、憤怒の叫び声が瞬時に止み、静寂の時が戻って来る。
それを確認したアーニャは、トルドル伯爵に向かって質問を続けた。
「では、如何にしてミルロッテ王を弑奉ったのじゃ?」
「私はその場に居ませんでしたが、魔法でアルレシアン公爵を洗脳し、王を弑逆したと聞いております」
その言葉に、場内は手の付けようがない程の混乱と化した。
それも仕方あるまい。この国を預かる王とそれに付き従う権力者を合わせて謀略の手に掛けたのだから。
だが、その混乱は別の騒ぎで打ち消される。
「アハハハハハ。今更、真偽の儀式など何の意味も無いわ」
そこに現れたのは、偉そうに仰け反って笑い声を上げる男だった。いや、直ぐ後ろには目隠しをした怪しい男、更に、その後ろには大勢の黒装束達がいた。
どうやら、正攻法を断念して、謀反をクーデターに切り替えたようだな。
それよりも気になるのが、衛兵達が何をしていたかということだ。これだけ怪しい者達を易々と侵入させるのなら、衛兵が居る意味すらないと言えるだろう。いや、どういう理由かは解らないが、どうやら衛兵も向こうの味方になっているようだな。
「この謀反人が!」
「大罪人が何を偉そうに!」
「キンクス侯爵、貴方は極刑となるべきだ」
高笑いをする男、恐らく奴がキンクス侯爵なのだろう。
今回の真犯人を知った臣下達が奴に罵声を浴びせるが、奴は全く気にした様子もなく手を一振りする。
「ぐおっ!」
「ぎゃ~~~!」
「うあ、うあ、やめろ~~~」
奴の合図で飛び出した数人の黒装束が、罵声を浴びせた臣下達にカタールの刃を振り下ろしている。
くそっ、問答無用かよ。許せない。
『奴等を片付けるニャ』
「はい! 師匠!」
「お任せください」
「悪は滅ぼすの」
「魔弾、撃ち放題?」
「きゃっほ~~~暴れるよ~~ん」
「オン! オン! オン! クゥ~~~ン(あたしは? あたしは? だめなの? え~~~~)」
俺の号令に、マルラ、ルーラル、ミララ、エルカ、メルが頷きながら武器を取り出す。
ああ、豆柴レストには、待ての合図を送ってその場にお座りさせたままだ。
だって、あいつにここで魔法を放ったら、大惨事になるのは目に見えている。
すると、彼女はとても寂しそうに身体を伏せたかと思うと、両前足の上に頭を置いてイジケてしまった。
う~~む。可愛い。めっちゃ可愛いぞ! レスト。あとで美味い物でも食わせてやるからな。
「臣下の方達は私達の後ろへ! 喰らえ! ピアース!」
ルーラルが臣下の者達を誘導しながら、向かって来る複数の黒装束へむけて、ランスに付与されている魔法を発動させると、その衝撃波に貫かれて三人の敵が吹き飛ぶ。
すると、今度はその横から声が発せられる。
「今度は前のようには遣られないわ! 風刃!」
「ぐあっ」
「うぎゃ」
前回の戦闘で悔しい思いをしたのか、マルラが鋭い視線を投掛けながらレイピアに封じられた魔法を発動させると、二人の黒装束が切り裂かれ、呻き声を上げながら倒れる。
彼女はそれを確認する事無く、次々と向かって来る敵の攻撃をマンゴーシュで躱しては、レイピアで刺突攻撃を繰り返している。
それは、まさに鬼神かと思える戦いぶりだが、更なる敵が続々と彼女に群がってくる。
「お姉ちゃんに何するのよ! 後ろからなんて卑怯よ!」
そんなマルカの後ろから襲おうとしていた敵をエルカの魔弾が吹き飛ばす。
彼女の魔力では連射は利かないが、数秒に一度は魔弾を放てるのだ。とは言っても、五十発も撃てば弾切れだけどな。
エルカの攻撃に続いて、今度はくぐもった声がその場に響き渡る。
「討滅なの!」
フルアーマーのミララが、怒声をあげながら両手で持ったメイスで複数の敵を叩き飛ばす。
それは、華奢な彼女からは想像も出来ない攻撃なのだが、あの甲冑のお蔭で大いなる戦力となっている。
それに、どうやら俺の見て居ない処で、ミララ、マルラ、ルーラルの三人は模擬戦を繰り返していたようだ。そのお蔭か、日に日に強くなっているように思う。
三人の前衛達の成長ぶりに感心していると、既に言葉になっていない唸り声が上がる。
「ウラウラウラウラ! オラオラオラオラ!」
なんとも、五歳の幼女とは思えないメルの叫び声と攻撃速度に、敵も味方も硬直しているのだが、そんな事などお構いなしに、彼女はピコピコハンマーで次々と敵を叩き飛ばしていく。
それにしても敵が多い。
普段ならレストの魔法で粗方片付けることが出来るから、あまり気にした事がなかったが、彼女の殲滅力がないと多勢に対しては辛い戦いとなってしまう。
臣下の者達は、殆んどが玉座の方に集まり、敵は入口を固めているような状況だ。
これならレストの魔法が炸裂しても、味方が被害を受ける事は無いだろう。
そう考えた俺はレストの参入を決意するが、そこでロリババアの声が耳に入ってきた。
「雷!」
その声が聞えた瞬間に稲妻が宙を走り抜け、数人の敵を焼き焦がす。
流石は、大陸一の魔女と呼ばれるだけはある。
その威力といい、制御といい、どれを取ってもピカイチだな。
「さて、そろそろ終幕とするかニャ」
誰に聞かせるでもなく独り言を口にしたが......この騒ぎだ。誰も聞く者など居まい。
現在のところ多勢に無勢といった状況だが、数より能力で優っている仲間が優勢に戦っている間を縫って、本命の場所へと疾走する。
これで終わりだ!
心中で叫びながら、キンクス侯爵の顔面を猫パンチで殴り飛ばす。
流石に欲に塗れて丸々と太った男でも、俺の猫パンチを喰らうと砲弾の様に飛んで行く。
よし、これで終了っと!
『ルーラル、降伏勧告を出してくれニャ』
俺の念話にルーラルが頷き、大きな声で叫ぶ。
「キンクス侯爵は落ちた! まだ続けるのなら容赦はしない。冥府へと旅立つ積りがあるのなら掛かって来るがいい」
いや、だから、それは降伏勧告になってないっての! 今度から、こいつに降伏勧告させるのは止めるかな~~。だけど、効果てきめんだしな~。仕方ないよな......継続させるしかないか......
そう、ルーラルの恫喝が場内に響き渡ると、戦っていた敵の手が一斉に止まる。
やはり親分が遣られると終了なのは、どの世界でも一緒なのだろう。
あとは、転がっている者を片付けて、キンクス侯爵の処罰を決めたら終わりだ。
「流石じゃな。『炎獄の使徒』の噂は伊達ではないようじゃな」
玉座の方から感嘆するアーニャの声が聞こえてくる。
『あとは頼むニャ』
「そうじゃな。お主達はゆっくりと休むがよかろう」
戦闘を終わらせた仲間達も俺の傍へとやって来る。
これでやっとアルラワ王国の謀反も終幕の時が来たようだ。
そんな事を考えながら一息ついた時だった。
その声は俺の後方から聞えてきた。
「ふっ、唯の猫じゃないデシネ。だが、これからが本番なのデシネ」
その声は、目隠しをしていた怪しい男から放たれたものだった。
しかし、今更一人で何が出来るというのかな。てか、なんて語尾だ......デシネって......で死ね! なのか?
「負け惜しみニャ」
「くくくっ、それはどうかデシネ」
俺の発声に驚くことなく、その男はゆっくりと目隠しを外す。
その行動に、なにやら嫌な予感がするが、既に奴は目隠しを外し終えたところだった。
「さ~~、皆の者、我を見るデシネ!そして、この猫を始末するのデシネ」
この男は一体何を言っているのだろうか? 負けが決定した事で錯乱でもしたのだろうか。
しかし、次の瞬間、俺はその男の恐ろしさを理解する。
後ろからの殺気にその場を飛び退ると、そこにはメイスが叩き込まれていた。
見上げると、フルアーマーのミララがメイスを振り下ろしていたのだ。
『おい。ミララ、何をしている?』
ミララの正気を疑いつつも、焦った俺は必死になって念話を飛ばすが、ミララからは何の応答もない。いや、再びメイスを叩き付ける反応があった。
くっ、どうやら正気を失っているようだな。
ミララの精神状態を察していると、再び嫌な気配を感じて即座に飛び退く、すると今度はランスが地面に突き刺さる。
くそっ、ルーラルまでも......いや、マルラもか......
そう、飛び退る俺にマルラのレイピアが風切り音を上げて襲い掛かって来る。
すぐさまそれを避けるのだが、避けた先に魔弾が襲って来る。
ちっ、エルカもか!
舌打ちをしつつも周囲に視線を向けると、ミララについては不明だが、彼女達は全員が虚ろな表情となっており、その目は正気を保っている者の瞳では無かった。
恐らく、ここに居る者の全てが洗脳されたと考えた方が良さそうだ。
それにしても厄介だ。こいつらって、相当に腕を上げてるな。
このままだと、いつか遣られちまいそうだ。
しかし、それは何時かではなかった。
俺の背中にメルのピコピコハンマーが炸裂したのだ。
くそっ、このバカ星獣が! 今夜は飯抜きだからな~~~!
ぐはっ! 拙い! 身体が痺れる。あうっ、これはピコピコハンマーの効果か!
メルのピコピコハンマー攻撃を喰らって痺れたところに、ロリババアの雷が放たれて俺の身体を黒焦げした。
「ぐぎゃ~、あのロリババア......絶対にお前の齢を暴露してやる」
最早、ぼろ布と変わらない状態となった俺に向けて、無情にもミララのメイスが迫ってくる。
駄目だ。これはもう避けれない......ぐぎゃ~~~! うにゃ~~~~! いて~~~~!
「アハハハハハハ! これで終わりデシネ。なんと他愛もないデシネ。口程にも無い猫デシネ」
奴は勝利の美酒に酔ったように、ベラベラと口上を宣う。
てか、その口調と語尾が糞うぜ~!
「これで、この国は我の物デシネ。何もかも我の物デシネ。アハハハハハ! さて、まずは、その女共を頂くとするデシネ。なかなか良い女デシネ」
どうも、こいつは最低......いや、それ以下の人物のようだ。
まあ、このままでは終わらせないと言うのは、今度は俺の番のようだな。
「そうやって、キンクス侯爵も操っていたのかニャ?」
俺の声に奴が驚く。といっても、両目が潰れてしまって、殆ど奴の姿も見えないのだが......
「なんだ。まだ生きていたデシネ。なかなかしぶといデシネ。だが、死ねデシネ!」
奴はそう言って、ズタズタとなった俺を踏み潰す。
だがな、その程度で死ぬほど柔ではないのだよ。なんてったって俺は強化猫だからな。
「申し訳ないが、死ぬのはお前の方だニャ。あの世で懺悔するニャ」
ああ、別に、この男に対して申し訳ないとは思っていない。俺が申し訳なく思っているのは、癒しの女神であり、白の女神であるトアラに対してだ。
『癒しの女神トアラルア名を持って命じるニャ。我の命を救い賜えニャ!』
完全治癒の魔法を唱えると、俺の身体はみるみると治ってゆく。
それを目にした男が驚愕の声を上げるが、次の瞬間にはその声すらも止まる。
「悪いな。お前があんまり下種なんで、ちょっと本気で遣らせて貰うニャ」
「き、貴様、な、何者デシネ。猫が人間になるなんて......」
そう俺の身体は十五歳くらいの少年となっている。
それに見た目も超カッコイイぞ? なにせトアラが与えてくれたものだからな。ただ、身長が少し低いかもしれない......
「えっ? ミユニャが人間に?」
ぐはっ、どうやら目の不自由なレーシアだけは、この男の洗脳に掛かっていなかったようだ。
「ち、違う、違うニャ! 勘違いニャ! 気のせいニャ!」
ぐはっ、超カッコ悪い......いや、今はそんな弁解をしている場合ではない。
「お、おい、お前等、この小僧を始末するデシネ!」
その男は、再び俺の仲間達に命じるが、もう遅いのだ。俺がこの姿になったら、もう誰も捉えることは出来ない。
ちょっとだけカッコ良く決めている俺の後ろから、ミララのメイスが襲い掛かるが、俺の残像を殴り付けているようだ。
「ミララ、悪いニャ」
そう告げると、ミララに少し眠って貰う事にした。
といっても、流石に魔法を使っている余裕はない。だから、ちょっと吹っ飛んで貰った。
今度は横からランスを突き出してきたルーラルに謝る。
「直ぐ終わるからニャ。すまんニャ」
ルーラルの横に回り込み、彼女の腹に当身を喰らわす。
すると、今度はマルラが攻撃してくるが、それも躱して首筋に手刀をいれる。
「いい夢を見てくれニャ」
最後は、残り一人となった星獣のメルティだが、アイテムボックスからハリセンを取り出し、それで飛び掛かって来る彼女を叩き落す。まるでハエでも叩き落したような感じだ。というか、その攻撃を喰らったメルが、床の上で転がってピクピクとしていた。
「なかなか似合うニャ! メル!」
和やかな笑顔でそう言うと、頭上から稲妻が襲ってきたが、即座に取り出した左手の闇帝を一振りすると、その魔法が消滅する。
更に、後ろから魔弾が飛んでくるが、右手を一振りすると、魔弾が弾かれて燃えていた。
「き、貴様、な、何者デシネ!」
いや、もうこいつの相手は疲れた。悪いがサクッと逝ってもらおう。
そう決断した次の瞬間には、俺の右手が奴の両目を切り裂き、左手は奴の腹を切り裂いていた。
「俺か? 俺はお前を断罪する者ニャ。さあ、これで終わりだニャ。自分の罪を悔いるがいいニャ。あと......デシネニャ」
その言葉が終わると、奴の頭は炎に包まれ、身体は砂となって床に散る。
奴が死んだことを確認して周囲を見回すと、奴に洗脳されていた者達がぼ~~っと佇んでいる事を見て取れた。だが、その目は先程と違う光を映しているようだ。
さてさて面倒なことになったな。
魔力もそれほど沢山残っている訳じゃ無いし、少し頑張らないとな。
「ミユニャ? ミユニャなのね? どこ? ミユニャ」
「悪いニャ。ミユニャじゃなくて俺は悪の断罪者ニャ」
一人だけ正気を保っているレーシアが俺の事を探しているのだが、本当の事を言っても直ぐに忘れるので、適当な返事で終わらせて忘却魔法を発動させる。
『我が望むのは、有を滅する無による消却なり。忘却ニャ!』
流石に、謁見の間の全てに魔法を掛けるのはしんどい。
疲れを感じながらも、発動が終わると直ぐに猫に戻り、仲間の治療に向かう。
それにしても、今回の事件は本当に忙しかった。
猫の手も借りたいとは、本当にこの事なのだが、俺が猫の手だしな~~。
そんな如何でも良い事を考えながら、俺は床に転がる仲間に治癒魔法を掛けて行くのだった。




