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23 お手伝い


 星が瞬く夜空を駆け巡る。

 偶にはこういうのも良いものだ。

 俺は飛行魔法と跳躍魔法を駆使して、建物の屋根から屋根へと舞いながら伝っている。

 流石にこのスピードだとミリアも負い付いてこれないみたいだ。

 時々振り返って見るが、俺の後ろを付ける者は皆無だった。


「私はどうなってるのですか? 宙を舞っているような感じなのですけど。でも、とてもフワフワして気持ちいいです」


 目の不自由なレーシアに取っては、このジャンプと飛行の組み合わせは、途轍とてつももなく恐ろしい感覚の筈だが、彼女は怯える事無く今の心境を語っている。


「今は空を飛び跳ねてるニャ」


 色々と悩んだが、この後の行動を決め、俺は彼女との受け答えをする事にした。

 まあ、暫しの空中遊覧だ。少しでも楽しんで貰おう。


「あなたは私を助けてくれたのですか?」


「偶々ニャ。ただの通りすがりニャ」


「どうして、語尾にニャが付くんですか?」


「......呪いニャ......」


 まさに呪いというのが相応しい。この語尾といい、フェロモンといい。トアラ......

 彼女の事は女神として親愛の情を持っているが、この二つばかりは勘弁して欲しい。


「ミユニャは大丈夫なんですか?」


「大丈夫ニャ。あれは強化猫ニャ」


「強化猫......」


 くそっ、絶句しやがった。カッコイイ筈なのに......


 そうこうしている内に屋敷へと到着した。

 後ろを確認してみるが、まだミリアは負い付いて来てないようだ。

 さて、残念だが楽しい時間もここまでだ。


「レーシア、悪いニャ。いつか話す事もあるニャ」


「えっ、どうして私の名前を?」


『我が望むのは、有を滅する無による消却なり。忘却ニャ!』


 自分の名前を知られていることをいぶかしんでいるレーシアに忘却の魔法を掛ける。

 その途端、彼女はボーっとした表情となる。

 これで俺の事も、助け出された時の事も忘れるだろう。

 少し寂しいが、俺の正体を知られる訳にはいかないのだ。


『あなたは誰? 何故、彼女を助けたの? どうして、私の旦那様と同じ匂いがするの?』


 レーシアに魔法を掛け終わった処で、ミリアが追いついたようだ。

 俺は振り返りながら問題の台詞に心中で言及する。


 てか、俺はお前の旦那じゃない! 何度言えば解るんだ! だが、まあいい。


『我が望むのは、有を滅する無による消却なり。忘却ニャ!』


 更にミリアの問いに答えず、彼女にもレーシアと同じ忘却魔法を掛ける。

 恐らく、俺とあの屋敷に辿り着いた処からここまでの記憶が消えるだろう。


 俺って悪い男なのかな?


 そんな事を考えていたが、玄関の向こうから音が聞こえて来たので、すぐさまその場から飛び去る。そして、庭の植木の陰に潜むと猫へと透かさず戻る。


 まるでスーパーマンみたいだな......


 確か、トアラは俺の事をスーパーキャットと呼んだけど、まさにその通りになってきた気がする。

 まあ、それは良いとして......屋敷の者が玄関先に棒立ちとなっているレーシアと寝転がっているミリアに気付いたようだ。

 

 俺もそろそろ戻るとするか。


 こうして俺は何事も無かったような振りをして屋敷へと向かう。


 屋敷に戻ると、こちらは何事も無かったのだろう。出掛ける前と同じ状態だった。

 ただ、レーシアが戻った事により、そこに存在する者達の賑やかさは、出掛ける前とは大違いだ。


「お嬢様、お嬢様、お怪我はありませんか? 本当に良かったです。お嬢様?」


「あ、あ、リリア? ここは? あれ? 如何して屋敷に? 夢でも見ていた......」


 喜んで抱きすがるリリアの言動に、レーシアは混乱したような言葉を漏らした。


「ミリア、ミリア、ミ~リ~ア~~! これ、シャキッとせんかい」


「ニャウ? ニャウン?」


 朦朧もうろうとしてうずくまるミリアにアーニャが叱責の言葉を投掛けるが、彼女も夢現ゆめうつつのようだ。


 これで、旦那話も忘れて欲しいのだが......


 そんな思いで足を進めると、行き成り抱き上げられた。


「ミーシャ、大丈夫なの?」


「し、師匠、心配しましたよ」


「主様、よくご無事で」


 ミララ、マルラ、ルーラルが俺を出迎えに来てくれたようだ。

 残りのメンバはというと、レストは完全復活したが、メルと一緒にバカ食いして寝ているそうだ。エルカについては、あの時から変わらず睡眠中だという。


 まあいい。これでひと段落だ。てか、一晩で働き過ぎだっちゅ~の!


 それに、侯爵邸も燃えている最中だろうし、敵が来ることも無いだろう。

 俺も少し休ませて貰う事にしよう。と、思いきや......


「ミーシャ、汚れてるの。お風呂なの」


「あ~師匠、僕も一緒に入ります」


 てか、何時だと思ってるんだ。もう朝が近いぞ......


 結局、ミララ、マルラ、更にはルーラルと一緒に風呂に入り、睡眠を取っていた処でアーニャに叩き起こされる事になるのだった。







 その部屋は、アルレシアン公爵邸の応接間だった。

 そこに、昨日から知り合った人々であるアーニャ、カール王子、ミランダ騎士団長、あとは人ではなく白猫ミリアが居た。


 恐らくは、これからについての相談なのだろう。

 というか、ここまで来たら、俺達はお役御免やくごめんのような気がするのだが

 大体、俺達はこの街にあるダンジョンを目的として来ただけだ。


「寝ているところに悪かったのう。じゃが、少し相談したい事があったのじゃ」


 アーニャがちっとも悪いと思っていなさそうな表情で話し掛けてくるのだが、俺としては嫌な予感しかしない。

 というか、アーニャの言葉に、何故かミランダが驚いている。


「えっ、この猫はアーニャ様の使い魔ではないのですか?」


「このサバトラ猫は違うぞ。妾の予想ではこの者達は噂の『炎獄の使徒』じゃろう」


「えええっ! あの災いを呼ぶという炎獄ですか? サバトラ猫なんて天変地異てんぺんちいを起すと言われてますよ」


 なんて言われようだ。天変地異......


 仲間に視線を向けると、全員がそっぽを向いている。


 まさか、全て俺に責任を擦り付けようと思ってるんじゃないだろうな。

 くそっ、ここは寝た振りだ。そうだ。猫なら当然だよな。では、早速......


『うにゃっ、やめろ、やめろって、ミリア~~』


 絨毯の上で丸まって寝たふりを決め込もうとしたら、ミリアがジャレついて来やがった。


「ダンニャ~~~~~~!」


 こら、勝手に旦那にするな。


「これ、ミリア、話が進まぬではないか」


「ニャ~~~ン、ダンニャ~~~~ン」


 アーニャがミリアを俺から引き剥がして連れて行く。


 ふ~っ、これで......ミララと目が合ってしまった......はいはい。分かりましたよ。

 俺は渋々、ソファーに腰掛けるミララの膝へ駆け上がった。

 すると、そんな俺を見たミララが喜びの表情を向けてくる。


 もういいや、諦めた。さっさと話を進めてくれ。


『で、何の話ニャ?』


「うむ。なかなかいさぎよいのじゃ。さて、本題じゃが、キンクス侯爵が裏で手回しをしているようでな。このままカール王子が戻って終わりという訳にはいかんのじゃ。そこで、この際、不穏分子を掃討しようと考えておるのじゃ」


 ふむ。それは普通に考えれば、そうなるだろう。

 何も無しに王を殺したり、王子を投獄したりなんて出来ないだろうし、単独の犯行とも思えないからな。

 それは良いとして、その口振りからすると、もうこの先を聞かなくても分かるのだが......


「そこでじゃ、妾達を助けてくれまいか」


 やはり、予想通りの展開となった......


 さて、如何したものか。お国の再建を手伝うと、かなりの足止めになりそうだ。

 だが、その時、俺の左足首に填められた腕輪が熱くなったような気がした。

 う~む、まるで俺に手伝えと伝えているかのようだ。


 まあ、トアラがそう望むのなら仕方ないよな......


 勝手にそう解釈した俺は、アーニャの頼み事を聞くことにしたのだが、彼女は俺達に何を遣らせる積りだろうか。その辺りはハッキリさせる必要があるだろう。


『それは分かったが、俺達に何をしろと言うのかニャ?』


「うむ。それなのじゃが、今回の件はキンクス侯爵の飼い犬である洗脳の魔法師が絡んでおる筈じゃ。ここ最近のアルレシアン公爵の様子はどうもおかしかったからのう。恐らくは裏で奴等が操っていたと考えるのが妥当なのじゃ。故に奴等を賭っ捕まえて『真偽の儀式』を行う必要があるのじゃ。そこで、遣るべき事は奴等の捕縛なのじゃが、こちらには手駒がなくてのう」


 真偽の儀式が何かは知らんが、要は奴等を捕らえるのに手を貸せということだな。

 アーニャの言わんとする事を先読みしていると、彼女が念話で話し掛けて来た。


『お主、どうせ神器を集めておるのじゃろ?』


 周囲の雰囲気からすると、どうも俺だけに念話を飛ばしているようだ。


 それよりも、アーニャの言葉からすると、どうやら彼女も物語を知っているらしい。あっさりと俺が神器を集めている事を見抜いてくる。


『こう見えても、妾は大陸一の魔女と言われた女じゃ。色々と役に立つ情報を持っておる。オマケにダンジョンで手に入れた神器も一つ持っておるからの~~~。お主の協力しだいでは、くれてやっても良いが......』


 くそロリババアめ! ダンジョンの神器も回収済みかよ。完全に餌をぶら下げられた状態じゃね~か。あ~解ったよ。やるよ。やればいいんだろ。


「ニャ~~~ン」


「そうかそうか、遣ってくれるか。流石は使徒様じゃのう」


 くっ、なにが使徒様だ。このロリババア、いつか泣かしてやる。


『悪いが、そういう事だニャ』


 俺は仲間達に念話でブロードキャストしたのだが、みんなの反応は想像と違い、喜びを露わにした歓声だった。


「オウ~~~~~ン! オン! オン! オオ~~~~~ン! (やった~~~~、みんなやっつけるのです)」


「師匠、そう言うと思ました。腕が鳴ります」


「謀略は許さないの」


「今度こそは頑張ります」


「猫ちゃん、うちも撃ち捲っていいよね」


「うちは、お腹空いた~~~」


 いつの間にかすっかり豆柴が板についたレストが吠えると、マルラ、ミララ、ルーラル、エルカが景気良く思い思いの台詞を口にする。

 ああ、腹ペコのメルは放置の方向で。


 結局、俺達はダンジョンに入る意味が無くなり、アルラワ王国の立て直しに手を貸す事となるのだった。







 百人の騎士達が整列している。

 全員が精悍せいかんな顔付......いや、可憐な顔付をしている。


「団長、白薔薇騎士団、百五名全員が揃いました」


「よし。では、勧告を出すぞ」


 軽甲冑を纏った女性がミランダに報告してくると、彼女は力強い声で次の展開を指示する。


 そう、これはミランダ率いる白薔薇騎士団なのだが、全員が年若い女性なのだ。

 嫁にも行かずに何をしているんだと言いたくなる光景だ。器量も悪くないし、引く手数多だろうに。


 まあ、そんな台詞を聞かれたら、焼き猫まっしぐらだろうけどな。


「それでは、お願いします」


 女性の在り方について考えていると、ミランダが俺に向けて頭を下げてくる。


 えっ!? 勧告は俺達が出すのか? それに後ろの女騎士達が不思議がってるぞ?

 まあいいか、じゃ、勧告を出せばいいのね。


『ルーラル、頼む』


「はい。主様。じゃ、レスト、宜しくお願いします」


「は~い。爆裂!」


 ミランダに頼まれて、俺が渋々ルーラルに勧告を頼むと、何故かルーラルはレストの起爆スイッチを押した。


 すると、次の瞬間には、貴族の屋敷の一部が爆音を鳴らして粉々になる。


 おい! 勧告を出すんだ! 誰が爆破しろと言った!?


「死にたくなければ、速やかに投降しなさい」


 俺の心中なんて知らぬとばかりに、ルーラルが事後勧告の声を張り上げる。


 てか、これって勧告ではなくて脅迫だろ!


 心中で彼女達に対するツッコミを入れていると、屋敷からは一人の男が現れた。


「うむ、トルドル伯爵で間違いないな」


「ああ、投降する。だから、家族には手を出さないでくれ」


 ミランダがその人物の確認を行うと、その男は怯えながらそう訴えてきた。

 最早、どっちが悪者か解らない状態だ。


「心配するな。騎士の名に誓って家族には手出しせん。よし、連れて行け」


 ミランダの号令で二人の女騎士が伯爵を連れて行く。

 こうして一人目の貴族の捕縛に難なく成功した。


 その光景を横目に、ルーラルが話し掛けてくる。


「でも、アルレシアン家の屋敷は大丈夫でしょうか」


『まあ、マルラ、エルカ、メルの三人を残して来たから大丈夫ニャ』


「だけど、マルラの不機嫌さは凄かたのですよ?」


 レストは俺がマルラに残るようにと告げた時の事を言っているのだ。

 確かに、凄い勢いで喰い付いてきた。


「大丈夫なの。猫なで声で一発なの」


 恐らく、ミララは飴を差し出せと言っているのだろう。俺という飴をな。

 まあいい。それについては、帰ってからにしよう。


『さて、次に行くニャ』



 結局、次の貴族の屋敷も、こいつらは一軒目と同様に爆破しやがった。


 しかし、ここの貴族は、一軒目とは少し違ったようだ。ある意味、最悪の選択をしたとも言えるのだが......


「お前等のような女に捕まって堪るか。逆に犯してくれるわ」


 玄関先に出た太った男がそう叫ぶと、玄関から私兵がワラワラと出てくる。


『出番だニャ』


 百人を軽く超える私兵を眺めながら、ミララとルーラルに告げる。


「待ちかねたの」


「愚か者は少し痛い目に遭った方が良いようですね」


 俺の指示を聞いたミララとルーラルがそう告げると、威勢よく私兵に向かって走り出す。


『レストはもう一発撃ったら待機だニャ。味方に当てないようにニャ』


「は~い。爆裂!」


 レストの爆裂魔法で、三分の一が吹き飛んだ。そこへフルアーマーのミララがメイス片手に殴り込む。


「えいなの!」


「ぐぎゃ~」


「ごばぁ」


 掛け声と共に振り回されたメイスで二人の私兵が吹き飛んだ。

 私兵たちは軽装なので、かなりのダメージを追っている筈だ。


「喰らうの!」


 おいおい、それはあんまりだろ。少し手加減してやれよ。治癒魔法で治るとはいえ、それは辛すぎるだろ。


「退きなさい! 己の悪行を悔いるがいい!」


 憤怒の声をあげるルーラルから一撃を喰らった私兵が、ランスで串刺しとなっているのだ。それも不運なことに三人が一度に串刺しとなっていた。


 おい! 言ってる事と遣ってる事が大違いだぞ。それだと、少しの痛い目じゃなくて、凄く痛い目に遭ってるぞ。


 それを見た他の私兵達がドン引きしている。


 そんな私兵達を尻目に、ルーラルは三人の私兵達を放り出すようにしてランスを抜くと、次の相手に視線を向ける。

 ルーラルに睨まれた私兵は、心臓でも止まったかのような表情をしたかと思うと、即座に走って逃げだした。

 それを見た彼女は次の敵に視線を向ける。

 だが、次の兵も逃げ出した。その次も、その次も、その次も、ルーラルに視線を向けられた私兵は次々に逃げ出すのだ。


 さっきの光景が余りにも衝撃的だったのだろうな。うむ。逃げた方が良いぞ。お前等!


 だが、貴族はそう思わなかったらしい。


「こら~! 逃げるな! 戦え!」


 その言動に少しイラッときた俺は、戦場となっている屋敷の庭をサクサクっと走り抜け、貴族の男に猫パンチを喰らわす。


「だから、逃げるゴバッ!」


 人に言う前に自分が戦えっつ~の。


 猫パンチを喰らった貴族は、その威力で錐揉きりもみ状態となって吹っ飛び、玄関の扉にぶつかって意識を失う。


『ルーラル、もう一度、降伏勧告を出すニャ』


 俺の念話に頷きで答えたルーラルが大きな声を張り上げる。


「子爵は拘束しました。今直ぐ戦いを止めなさい。止めぬと言うのならとことん思い知る事になるでしょう。あの世で!」


 だから、それは勧告ではなく恫喝どうかつだっつ~~の!


 俺の心の叫びを余所に、私兵達は一気に争いを止めた。それ程にルーラルの事を恐れたのだろう。

 まあ、それで戦いが終わるなら、それに越したことはない。

 俺は子爵邸の玄関先で猫座りしたまま、そんな思いに耽るのだった。







 既に夕方に差し掛かった事もあり、今日の捕縛作業は五件の貴族の邸宅を襲撃......いや、爆破して終了となった。


 あと残すはキンクス侯爵だけなのだが、俺が屋敷を燃やした事で何処に居るのか解らない状態なのだ。

 その事を考えると、安易に奴の屋敷を燃やした事が悔やまれる。


 ああ、因みに、屋敷を燃やしたのは通りすがりの正義の味方という事になっている。

 当然ながら、レーシアを助けたのもその人物であり、俺はのこのこと帰って来たことになっている。

 まあ、猫の俺としては格好悪い結末だが、正体を知られる訳にはいかないので、最良の結果だと言えるだろう。


「ただいま~~~お腹空いた~~~」


「ただいま戻りました」


「ただいまなの」


『帰ったニャぎゃ~~~~~』


 レスト、ルーラル、ミララの帰宅を告げる挨拶が続き、俺も帰った事を告げようとした途端にマルラから捕縛された。


「師匠、僕を除け者にして楽しいですか? 僕は寂しかったんですよ?」


『分かった、分かったニャ。今日はずっと一緒に居るニャ』


「本当ですか? マジですか? ずっとですよ?」


『ああ、ずっとだ』


「それはダメなの」


 マルラに飴を与えるつもりで譲歩したのだが、ミララの視線はそれは遣り過ぎだと言っている。いや、言葉で駄目だと出ていたな。


「いいじゃない! ミララはずっと一緒だったんだから。今晩くらいは僕に譲ってよ」


「うう......今晩だけなの」


 いや、そこで許可を出すのは俺の筈では?



 そんな遣り取りがありつつも、いつもの様に賑やかな一夜を過ごして次の日を迎えた。


 小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 久々にゆっくりと寝たような気がした。

 世界樹の種を食べて食事の必要は無くなったが、睡眠の必要はあるのだ。だから、睡眠に関しては余計に煩いのだよ。


「な、なんで、ミリアまでいるの?」


 だが、俺の静かな朝はその一言で終わった。


 そういえば、夜中にミリアが布団に潜り込んで来たような気がしたが、どうやら俺が寝ぼけていた訳ではないようだ。


「ニャ~~~」


 マルラは俺と二人限で寝られる事を喜んで居たのだが、朝になると俺一匹ではなく、ミリアが増えていた事に驚き、更には不満を感じたようだった。


「ミリア、ダメよ! 同じ猫でも師匠は譲れないわ」


「シャー! フー!」


「怒ってもダメなんだからね」


『二人とも、いい加減にするニャ』


 俺の声で、睨み合っていたマルラとミリアが視線をこちらに向けてくる。


「でも~~~」


「ダンニャ~~~」


 もう、呆れて物が言えないので、俺はさっさとベッドから降りて今日の段取りを聞く事にした。


「あ~~~~」


「ニャ~~~~」


 二人の不満そうな声を黙殺して、リビングに入るとソファーに座ったアーニャがお茶を飲んでいた。


『おはようニャ』


「おお、起きたようじゃな」


 アーニャの声を聞きながら、彼女の隣へと飛び乗る。

 そんな俺を彼女は楽しそうに眺めている。


「どうしたのじゃ、お主の方から近寄って来るとは」


『別に、ただ今後の事を知りたかっただけニャ』


「ふむ。それはそうと、何時まで念話を続けるつもりじゃ?」


『あまり周りに知られたくないニャ。念話だと相手を指定して話せるからニャ』


「まあ良いじゃろう。結局、キンクス侯爵が見つからん。じゃが、何時までも探して回る訳にも行かぬ。ということでのう、捕まえた者達だけで真偽の儀式を行うつもりじゃ」


 ふむ。前にも思ったが、『真偽の儀式』ってなんなのだろうか。

 裁判みたいなものか? それって信憑性に欠けると思うだが。


「ふふふ。そう心配そうな顔をするでない。大丈夫じゃ。真偽の儀式では『真偽の宝玉』が使われる。これを手にして嘘は言えぬのじゃ。それに、その結果は確かな証言として扱われるからの。キンクス侯爵がどれだけ逃げようと無意味じゃ。という事で、今日は王城に向かうぞ」


 この話を聞いて、この一軒が終わりを告げると思い、俺は安堵の息を吐き出すのだった。

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