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16 ダンジョン最終日


 今日でこの街のダンジョン攻略も終わりを迎える。

 結局、十日間の攻略で地下四階まで到達した。

 このダンジョンが地下五十階まである事を考えると、情けない結果のように見えるけど、メルの影響でモンスターが強化されてしまっている事を考えると、物凄い成果だと言えると思う。


 だけど、他の冒険者さん達の事を考えると、ちょっぴり不憫ふびんな気もするのです。


 そう、私達の所為で、この十日間の被害者が物凄い事になっているから。

 あたしも詳しくは知らないけど、ミユキが言うには被害者数が四ケタに上ったらしい。

 だけど、それも終わりを告げる。

 ミユキ曰く、そろそろ怪しまれるニャとの事で鍛錬も今日で最後なの。

 ただ、ダンジョンに入ってる目的が、私達の鍛錬のためだから、別にここで長居をする必要はない。

 飽く迄も初級向きのダンジョンだから、という理由だけだったのだけど、それも今では全く意味を成していないと思う。

 だって、メルの影響を受けたモンスターって超絶強くなるのだから。


「こら、ぼ~っとするニャ! 敵が来たニャ!」


 ミユキの声で現実に引き戻されてしまったのです。

 折角、一人語りをやってたのに......


 そこにはミユキが言うように、三匹の熊モンスターが現れていた。

 本当はミユキ一人で倒せるのだろうけど、ああ見えてミユキって結構優しいの。

 本人は厳しい積りでいるようだけど。


 これって所謂、ツンデレというやつなのです。


「炎壁!」


 取り敢えず、一度に三匹はキツイから、炎の壁で二匹を足止めする。

 どうやら、ミユキもあたしの攻撃が気に入ったようで、満足げに頷いている。


 うひひひ。彼に認められると、ちょっぴり嬉しいのですよ。あひゃ。


 と言うか、彼って本人は悲観してるけど、結構可愛いのですよ。

 ただ、猫ぽく無いのは事実なのです。如何見ても、人間が猫に化けてるとしか思えないのです。それも変な話なのですよね。猫が人に化ける話はよくあるけど。


「炎矢!」


 よっしゃ~、直撃! これは痛かった筈なのです! あっ! 当たったのがミユキだったのです。 やっばっ~~! 後で説教されてしまうのですよ......


「レスト~~~~~! しばくニャ~~~~~!」


 あちゃ~~、やっぱりバレた......あうあう、晩ご飯が抜きだったら......

 まあ、ミユキのことだから、きっと許してくれるのですよ。


 あ、ミララの凄い攻撃が入ったのです。熊の頭が潰れちゃったのです。エグイのです~~! 完全にスプラッタ状態なのですよ~。


 スプラッタは、あんまり得意じゃないんだけど......って、もう解っちゃったかな?

 実はあたしは転生者なのよん。

 まだ、ミユキには内緒だけどね。


 あたしが転生したのは十六年前。

 気が付くとこの世界に転生してたの。

 ただ、想定外だったのは、転生した先には既に人格が在ったみたいなの。それがガストさんなんだけど。

 どうやら、あたしはガストさんの身体に割り込んじゃったみたいなのよね。

 でも、ガストさんは、面倒臭いという理由であたしに譲ってくれてるのよ。

 一度、何が面倒なのかと尋ねたら、生きるのが面倒だと言ってたわよ。

 なんて贅沢な人なのよ。生きたくても生きれない人が沢山居るのに......


 実はあたしもその一人だったのよ。

 あたしは日本に生まれたのだけど、真面に学校すら行ってない。

 幼い時に発病して十六で他界するまで、その殆どを病院で過ごしたのよ。

 もう、最悪なんてものではないわよ。

 だから、今は最高なのよ。特に同じ転生者のミユキが居るしね。


 そういえば、ミユキの事なんだけど、直ぐに転生者だって気付いたよ。

 彼なんて、もう、バレバレよ。言葉の端々で直ぐに解ったわ。

 それにミユキなんて、どう考えても日本人の名前だよね。

 あと、転生する時のカタログで猫が在ったのを見たからね。

 初めて会った時からピ~~ンときたわ。


「よ~し、そろそろ戻るニャ。早くしないと被害が怖いニャ。あ~あと、レストは飯抜きニャ!」


 ぐあ~~! フレンドリーファイアの件を根に持ってるわ。


「あ、ミユキ、わざとじゃ......くしゅん! オン! オン! クゥ~~~ン」


 あちゃ~、また豆柴になっちゃった。


「オン! オン! オウ~~~~~ン!(エルカ、エルカ、はやく~~~~~)」


 あたしが急かすと、エルカが面倒くさそうに猫じゃらしで鼻をくすぐってくる。


「くしゅん!」


 よし、復帰したの......です。って、「のです調」で話すのも疲れるわ......

 如何でもいいけど、この体質が早く治らないかな~~!

 豆柴も嫌いじゃないんだけど、足が短くなって歩き難いんだよね。

 それに、ミユキに複乳がバレちゃったし、オマケに舐められちゃったし、ちょっとだけ気持ち良かったけど...... でも、それは内緒なのよ。


 あ、またミユキが溜息を吐いてる。えいっ!


「如何したニャ。珍しいニャ」


 あたしがミユキを抱き上げると、彼があたしの顔を見上げてくる。

 うひゃ~~~。超絶可愛い~~~! 絶対、一家に一匹は必要でしょう。完全に癒しキャラよ。


「ううん。いつもマルラとミララに取られてるのです。だから、偶には良いのです」


 彼は特に不審に思うことも無く、あたしの胸に頭を埋める。

 めちゃめちゃ可愛いよ~~~!

 でも、複乳は舐める癖して、人に戻ると舐めてくれないのよね。

 彼ってもしかして複乳好きなのかな? それはそれでちょっと楽しいかも?



 ダンジョンから出ると、ロビーは人でごった返していた。

 でも、怪我人というよりは、これからダンジョンに入るといった雰囲気なのよね。

 周りの状況を確認していると、ミユキからの念話がブロードキャストされる。


『どうやら、俺達が昼間にしか入らないから、夜が安全なことに気付いたんだニャ』


 あ、そういうことか。夜は普通のダンジョンになるんだ。

 それもそうなのです。私達は日中しかダンジョンに入らないから、夜にモンスターが強化される事はないんだわ。


「お疲れ様でした。これが今日の買い取り金です」


 マルラが渡したドロップを換金係がお金に代えてくれた。


 ああ、魔石に関しては換金かんきんしていないと思う。

 確か、使用用途があるという事で、ミユキが取っておこうって言ってたから。

 まあ、どちらにしろ、あたし達からしたら、大した金額ではない。

 なんと言ったって、私達はこの世界最強の窃盗団なんだから。


 あちゃ~。ミユキが不審がってるのですよぅ。


 ミユキって変な処で感が良いのよね。女の気持ちには鈍いくせに。


「えっ!? 炎獄さん達は、この街を出るんですか?」


 今度はパーティアイテムの買取をして貰っているのだけど、驚いていると言うよりは、喜んでいると言った方がしっくりくる表情で、ダンジョン管理職員が問い掛けてくる。


 まあ、これだけ恐れられたら仕方ないよね。って、全てガストさんの所為なんだけど......ひいてはあたしの所為?


 マルラが上手に受け答えしてるのです。

 きっと、念話でミユキが指示を出しているのですね。

 これで、このダンジョンともお別れか。

 ちょっぴりだけ、寂しい気もするけど、次の街が私達を待ってるのです。張り切って行きましょう。







 にぎやかな声が響き渡る。

 お酒を飲む人達が多い所為か、喧騒けんそうの止む事のない室内。

 そんな中で夕食を食べている。


 ここは宿屋の一階にある食堂なの。

 現在のメンバは、ミユキとルーラルを抜いた五人。

 いえ、四人と一匹なのかな? でも、今は人の姿でいるから五人で間違いない。

 あ、一匹はあたしじゃないよ。メルことメルティのことだよ。


 それにしても、中堅の宿屋にしては、ここの料理は美味しい。

 この鳥のモモ焼きなんて最高なのよね。

 あ~、このピザモドキも美味しい。いえ、このパエリアみないなのも味わい深い。

 どれも最高に美味しいのよ。


 それなのに、マルラとミララはいつもの睨み合いを始めてしまった。


「断っておきますけど、師匠は僕と生涯を共にするんですからね」


 マルラはお酒も飲んでないのに、紅潮した顔で宣言する。


 猫と生涯を共にするって......男を作る気がないのかな?


 だけど、ミララも負けてはいない。


「ダメなの、ミーシャは私とずっと一緒なの。誰にも渡さないの」


 ミララって、普段は無口なのに、ミユキの事になると饒舌じょうぜつになるのよ。

 あなた達、ご飯が冷めるよ。勿体ないじゃない。

 それに、最後に勝ち取るのは、あたしなのですよ?


 そんな眼差しで二人の事を見遣ると、マルラからお小言を貰ってしまった。


「レスト、食べ方が日に日に汚くなってるわよ」


 うぐっ、どうやら藪蛇やぶへびだったみたい。

 確かに、ここ最近のあたしの食べっぷりは、自分でも尋常じゃないと思い始めた。


 何故、こんな事になったのかな? あのひもじい(・・・・)時期の反動なのかな?

 そうね。沢山食べるのは良いけど、行儀の悪いのは拙いかも。

 それこそミユキに嫌われてしまうかも知れない。


「でも、二人とも、さっさと食べないと食事の時間が無くなるのですよ。それに、明日からは、また旅になるのだから、しっかり食べた方が良いのですよ」


 いつまでも睨み合っていた二人も、流石に明日から旅だと聞くと、食事の大切さを理解したみたい。


 まあ、こうやっていがみ合っていても、別に仲が悪い訳じゃないし、いざとなったら助け合うのだから大したものね。

 逆に言うと、調和を乱すようならミユキに嫌われる事になるんでしょうけど。


 二人も落ち着いたことだし、やっと食事に集中できると思った処で邪魔が入った。

 というか、この人達って、あたし達の事を知らないみたいね。


「お~ねえちゃん、しゃくをしてくれよ」


「その後も頼むぜ。ヒヒヒ」


「女ばかりで寂しいだろ。俺達が遊んでやるぜ。ククク」


「俺達はアルルじゃ、ちょっと名の知れたパーティだからよ。俺達と遊べるなんて光栄だぜ。アハハハ」


 どうやら、アルラワ王国の王都アルルから来たみたい。


 てか、如何でも良いけど、臭くて堪らないんだけど......料理が不味くなるから何処かに消えて欲しい。

 内心で感想というか、ののしり声を上げていると、別の方からコソコソと遣り取りする声が聞こえてくる。


「アルルから来たんだってよ。知らなくて当然か。だが、今日が命日になるかもな」


「確かに。炎獄にちょっかいを出すなんて、一溜ひとたまりもないぜ」


「てか、飛び火する前に店をでるか」


「賛成だ。巻き込まれたんじゃ、溜まったもんじゃねぇ」


 どうやら、あたし達の事を知っている人達が噂をしてる。

 それは良いのだけど、こんな所で爆裂を放つ訳にも行かない。もし、そんな事をしたら、今夜の寝床が無くなるじゃない。


「おい! 無視かよ!」


「怯えてるんじゃね~か? ククク」


 いや~、馬鹿に付ける薬が無いとはこの事よね。

 無視された方がよっぽどマシなのに。

 あ、マルラの表情が怪しくなってきた。多分、堪忍袋の緒が切れる寸前だわ。


「臭いから消えて下さい。食事が台無しです」


 あ~ぁ、言っちゃった。確かにその通りなんだけど。

 そうだ。ここはメルに頑張ってもらおう。


 あたしが名案だとばかりにメルへと視線を向けると、彼女は満腹になった所為か、既に船を漕いでいた。


 あちゃ~~~。こんな時にオネムですか。如何しよう。まだ、食べ物が沢山残ってるのに......


「な、なんだと~! もう一回言ってみろ」


「舐めやがって~! 乳も真面まともに無い癖しやがって!」


 ま、拙い! それは禁句なのに! あ~~あたしの料理が~~~~!


 男達に対する恐怖では無く、料理が吹き飛ぶ不安に駆られていたあたしの目の前で、マルラが疾風のように動いた。

 次の瞬間には、二人の男の首に筋には、レイピアとマンゴーシュが突き付けられていた。


「死にたいなら、初めからそう言って下さい」


 普段は優しいマルラが、般若の形相で男達に啖呵たんかを切っている。

 剣を突き付けられた二人の男は、硬直したまま声も出ない様子だけど、残りの二人が襲い掛かって来た。


 だ、だめ、あたしの料理が......お願いだから止めて~~~!


 あたしの心の叫びが高らかに上がる中、ミララが脇に置いていたメイスを振り回して二人の男を吹き飛ばした。


 あああああ、やっちゃったのです。絶対にミユキから怒られるのですよ。あたしは関係ないからね。いえ、ここは一皿でも持って逃げ出すべきよね?


 そう考えた時には、全てが終わった時だった。

 マルラに剣を突き付けられていた男が、テーブルを蹴飛ばした。


 その男、殺しても問題ないですよね? 良いですよね? やっちゃっても良いですよね!


 あたしのスイッチが入った時、エルカが冷静な声で忠告してくる。


「三人共、やるなら外に出た方がいいよ。ここで暴れたら、あとで猫ちゃんに殺されるよ」


 その言葉を聞いた野次馬たちが、ドン引きしていた。

 これでミユキの悪名が更にとどろくんだろうな~って、今はそれ処じゃないのです。

 あたしの食事を台無しにしたゴミ共に制裁を喰らわす必要があるのよ。


「あなた達、少し外に出て欲しいのです。あたしの料理を台無しにした報いを受けるのです」


 こうしてこの街で最後の夜に、盛大な花火を打ち上げる事になった。

 ごめんなさい。ミユキ! でも、悪いのは全てあいつ等なの。

 怒るんなら、あいつ等にして欲しいのよ。


 結局、あたしたち炎獄の使徒は、この街から追放処分となるのでした。

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