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14 犯人は誰だ?


 まるでお通夜の様な空気だ。


 宿に戻ったら思いっきり説教して遣ろうと考えていたのだが、既に全員がどんよりと沈み切っているので、怒る気すら起きなくなった。

 流石のレストですら、今回の件は反省しているようだった。

 何しろ賠償金が金貨百枚だったからな。

 マルカとレストがその金額を知った時、彼女が卒倒しそうになったのは、記憶に新しい出来事だ。


 結局、豚伯爵から巻き上げた路銀は、これで全て消費されてしまった。

 まあ、悪銭あくせん身につかずとは、まさにこの事だろう。

 抑々が泡銭あぶくぜになのだ。それが一瞬で消えて無くなるのも、また道理という訳さ。

 そうは言っても、全くお金が無いのは困るので、王都ガルドラで奪った宝石を幾つか売りさばいたのだが、これも泡銭であることを考えると、何時消えて無くなるか分かったものでは無いな。


 さて、そんな事よりも、もっと重大な問題があるのだ。

 それは言わずと知れた最弱モンスター最強伝説だ。


 自分で口にして、とても語呂ごろの悪いのが気に入らない。

 弱いのか、それとも強いのか、ハッキリしろと言いたくなる気持ちも理解できる。

 しかしながら、その原因は理解できないのだ。いや、その前に原因自体が解らないのだ。

 色々考えた結果、明日のダンジョンでは、ある検証を行う事にして、今夜はイジケモードにおちいった仲間をなぐさめる事にしたのだった。



 翌朝、前日と同じ時間に目覚めると、全員を叩き起した。

 と言うか、俺に与えられた時間は限られているのだ。

 ここで何時までものんびりと修行をしている訳にはいかないのだよ。


「みんな、起きるニャ」


 俺の声で全員が起きてくるのだが、その表情は一晩経っても暗いままだ。


 唯でさえ、最弱モンスターに負けて落ち込んでいる処に、あの戦争ごっこだ。

 きっと、冒険者をぎ倒している間は、鬱憤晴うっぷんばらしに丁度良かったのかも知れないが、その後の惨状さんじょうを改めて認識した彼女達の様子は、親の臨終りんじゅうでも見たような雰囲気だった。


 それよりも、一番拙かったのは、彼女達の余りの強さに戦慄せんりつしている冒険者達の面前で、全員が俺に土下座したことだ。

 その乱闘により、冒険者達の間で『炎獄れんごくの使徒』と呼ばれる存在が、一匹の猫に土下座しているのだ。

 俺は必死になって、顔を洗う振りで誤魔化そうとしたのだが、それが裏目に出たようで、『炎獄の使徒』の土下座を前にして顔を洗う猫というのが、冒険者達に更なる恐怖を植え付けたようだった。


 ああ、なんて事なんだ。この事件の所為で、それはそれは世にも恐ろしい噂が流れる事だろう。

 ドルガルデン王国では、凶兆としての象徴となったサバトラ柄の猫が、今度はアルラワ王国で何と呼ばれるのだろうか......

 考えるだけでも恐ろしい。俺は他のサバトラ柄の猫に何と言って詫びれば良いのやら。少なからず、母から始まり妹まで、計四匹の猫生を変えたに違いない。


 思わず溜息がれてしまったのだが、周りの溜息の方が凄すぎて、誰も気付かない状態なのだ......


「お前等、いい加減にするニャ。過ぎた事をクヨクヨしても仕方がないニャ。この教訓を次に生かすニャ。朝飯にするニャ」


 結局、みんなを奮起ふんきさせる為に、朝から奮発ふんぱつして豪華な食事を振る舞うのだった。







 人間とは、くも単純なのもだろうか。

 いや、それは食物が偉大だと言うべきか。将又はたまた、この者達が唯単に食い意地のかたまりであるだけなのか。

 結局のところ、朝から美味しい物をたらふく食べるとで、彼女達は何時もの調子を取り戻してしまった。


 色々と心配したのが馬鹿らしくなってきた......


 恐らく、この者達の悩みの殆どは、美味い物で誤魔化せるのではなかろうか。

 いやいや、それではこの者達が余りにも可哀想だ。ここは、美味しい食べ物が偉大だと締め括るべきだな。


 ということで、いつもの調子が復活した皆々は、ダンジョンへと向かったのだ。が、世の中には無法者むほうもの蔓延まんえんしているらしい。


「おっ、姉ちゃん達、オレと遊ぼうぜ」


「いいね~若い女は~~ククク」


「俺達がいい所に連れて行ってやるぞ」


「がははは、なかなか美味そうだ」


 目的地へと辿り着く前に、不快な存在と遭遇そうぐうした。

 不快は合わて四不快よんふかいであり、全員がゴツイ男なのは良いが、その臭いが最悪だった。


 絡んでくるのは良いが、風呂ぐらい入れよな! いや、絡んでくるな! いやいや、近付くな!


 毎度の様に絡まれる原因は、俺を除く全員が、か弱そうな少女幼女に見える所為だろう。

 その要因として、戦闘装備をダンジョンで装着している事が挙げられる。

 今度からミララにはフル甲冑で出歩いて貰う事にしよう。それで多少は緩和かんわされる様な気がする。


 しかしながら、既に俺達の噂が広まりつつあるのか、耳を澄ますと街路の陰からヒソヒソ声が聞こえてくる。


「あ、あいつ等、バカだな」


「ああ、命知らずとは奴等のことだ」


「あの炎獄にちょっかいを掛けるとは......」


「成仏しろよ」


 そんな野次馬の声を耳にしながら、俺は余り大袈裟おおげさにならない手段をチョイスする。


『メル、悪いけど、宜しくニャ』


 それだけで俺の意を察したメルが首肯する。


 すると、次の瞬間にはピコピコハンマーを持ったメルが一陣の風となる。いや、稲妻の如き閃光となると表現した方が的確であろう。

 一瞬にして、四不快は地面と一体化したように転がると、ヒクヒクと痙攣けいれんしていた。

 メルの攻撃は神速と形容するに値する程の速度だ。

 恐らく、四不快に起こった事象を説明できる者など皆無だろう。

 しかし、その事象を勝手に推測する事は誰にでも可能なのだと、改めて認識する事となった。


「おい、瞬殺だぞ」


「何も見えなかったんだが......何が起こったんだ?」


「猫だ! 猫が魔眼で〆《しめ》たんだ」


「あの猫、魔眼使いだったのか」


 マジか!? 俺は何もしてない。無実だ! 冤罪えんざいだ!


 心中で必死に弁解してみるが、それを声高らかに表明すると、更なる悪評が広まる事だろう。

 諦めの境地へとおちいった俺は、ミララに抱かれた状態で左右の肉球を合わせ、全国のサバトラ猫さんに何度も謝罪するのだった。







 そこは焼け焦げた臭いが充満した大広間だった。

 床には、穴が穿うがたれ、切り裂かれ、爆破され、挙句に焼け焦げている。

 この惨状を見ただけで、何が起こったのか推測できるというものだ。


 そんな有様を呈したダンジョン管理ロビーへと入ると、沢山の冒険者が作り出していた喧騒けんそうが一瞬にして静寂せいじゃくへと変わる。


 コソコソ話をする者さえ居ない静寂の中、俺達は何時も通りの調子で歩みを進める。

 俺達が受付に向かうと、恐怖の眼差しで俺達を注視してた者達が、一定間隔で離れて行く。それは、一歩進めば、一歩引くといった具合に、一定の距離を保つ事で、己が身の安全を確保する手段だと主張しているようでもあった。


 そんな光景を溜息混じりに眺めていると、何を考えたのか、マルラがズカズカと足音を鳴らして前に出る。


 その行動に、冒険者達は慌てて壁際まで逃げると、戦慄せんりつと恐怖の篭った視線をマルラに向けた。


 まるでおびえた子猫の様な冒険者達を見回すと、マルラはゆっくりと頭を下げてから口を開いた。


「昨日はごめんなさい。僕等もちょっと遣り過ぎたと反省してます。だから、これからは仲良くして下さい」


 どうやら、昨日の事件の謝罪のつもりなのだと思うが、冒険者達はピクリとも反応を示さない。

 もしかしたら、「甘言かんげんには踊らされないぞ」と思っているのかも知れない。


 そんな静寂の中、今度はレストが飛び出した。

 すると、冒険者達は必死に逃げ出そうと飛び上がる。

 レストはそんな彼等の事などお構い無しに、己の気持ちだけを吐き出す。


「ごめんなさいなのです。悪気は無かったのです。あの、あの、仲良くして欲しいのです。でも、襲わないで欲しいのです」


 彼女はかなり緊張しているようで、自分でも何を言っているのか理解していないだろう。だが、申し訳ないと思っているのは本心のようだ。


 ところが、冒険者達の反応はかんばしくない。いや、固まったままだと表現した方がよいかな。

 それもそうだろう。散々と爆破して冒険者を吹き飛ばしていた存在だ。そう簡単に彼女の言う事など信用できないだろう。だって、ガストの暴走については俺も信用していないから......

 しかし、二人は誠意を見せて謝罪したのだ。それに無反応なのは幾らなんでも失礼だと思う。


 折角、二人の少女が勇気を振り絞って謝っているのに......


 彼女達の遣った事を棚上げして、現在の冒険者の態度にムカついた俺は、少しかつを入れることにした。


「シャーーーー!フーーーー!」


 ミララの胸元から飛び降りた俺は、彼等の前にテクテクと進むと威勢よく威嚇する。

 どうやら俺の喝は、なかなかの威力を発揮したようだ。


 俺の鋭い眼光には、冒険者達が黙って何度も頷いている姿が映る。

 恐らくは、これからは仲良くやりましょうという事なのだろう。

 それを見たマルラとレストがホッと一息ついている。

 そんな安堵あんどする姿を見せる彼女達を微笑ほほえましく思いつつ、再び冒険者達を見渡す。

 彼等も少しは落ち着いたのか、動きを取り戻しつつあるようだった。

 まあ、俺の喝が効き過ぎて、引っ繰り返る者、泡を吹く者、などが多発していたが、それは見なかった事にしよう。


 こうして冒険者とも仲直りして、新たな第一歩を踏み出したのだが、この事で俺の株は更に下がったようだった。

 ただ、少なからずメリットも生まれた。

 それが何かというと、サバトラ猫が凶兆であるのは変りないのだが、サバトラ猫を虐待する者を抑止できたのだ。

 そう、この街では、サバトラ猫がアンタッチャブルな存在として君臨する事になるのだった。







 さて、気を取り直して、先に進めよう。

 今日は昨日の事象を検証するために、少し趣向を変えてみることにした。

 昨日は、全員でダンジョンに入ったのだが、最低級モンスターに撃退されてしまい、這う這うのほうほうのていで逃げ出した。しかし、俺一人で戦ってみるとそれは最低級をうたうモンスターで間違いなかったのだ。


『そこで、今日は俺とペアで入って貰うニャ』


 その言葉に、ルーラルが即座に反応を示した。


「主様、二人で大丈夫なのですか?」


 ルーラルの不安を払拭するために、にこやかな笑顔で首肯する。

 ん~、自分では和やかなつもりだけど、猫の表情って如何いう風に見えるのだろうか。

 そんな俺の疑問に答えたのは、賢者エルカだった。


「猫ちゃん、キモイ......」


 ぐあっ~~~! くそっ、なんでじゃーーーーー!


「ミーシャ、病気になったの?」


 更に、ミララがとどめを刺してきやがった......


 結局、俺の心のり所は、何処にも無いという事が証明されてしまった。


 それはさておき、まずはマルラと一緒に入る事にした。

 これについては、特に理由は無い。別にミララでも良かったのだが、甲冑の装着に手間が掛かるから、先にマルラと入ることにしただけだ。


「師匠、本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫ニャ」


 不安そうな面持おももちで、おずおずと足を進めるマルラは、昨日のことが脳裏から離れないのだろう。

 そんな彼女に優しく答えながら、俺は彼女を庇うようにして進む。

 すると、それほど時間を掛ける事無く一匹のプヨヨンと遭遇した。

 プヨヨンは俺達を見付けると、ぽよん、ぽよん、と跳ねながら近づいて来る。


「さあ、遣るニャ。ズバッと行くニャ」


「本当に遣るんですか?」


 俺の言葉に、後ろで縮こまっているマルラが、ビクビクしながら答えてくる。

 その意気地の無さと言ったら、流石の俺も表現しようが無い程だった。

 仕方がないので、喝をいれる事にする。


「駄目なら、もうダンジョンは諦めるニャ。俺が一人で遣るニャ」


 俺が切り札を口にすると、彼女は力強く立ち上がる。


「や、やります! あんなスライムなんて叩き潰します! え~~い! やぁ~~!」


 どうやら、余程、俺と一緒にダンジョンへ行きたいらしい。

 その事に疑問を覚えないでもないが、今は何時でも彼女のフォローが出来るように体勢を整える必要がある。


 しかしながら、俺の戦闘準備は無意味なものとなる。

 そう、彼女の一撃が簡単にプヨヨンを切り裂いたからだ。


「えっ? あれ? なんで?」


 どうやら、昨日はあれだけ手古摺てこずったのに、今日はいとも簡単に倒せたことで混乱しているようだ。


「よし、白だニャ。戻るニャ」


 未だに混乱しているマルラを引き連れて入口に戻り、今度はミララを連れてダンジョンの中へと戻る。



 今度も割と早くにプヨヨンと出会えた。

 甲冑姿となったミララの表情は見えないが、マルラと違って怯えている様子は無い。

 そんな彼女に、簡単な事だとでも言うように突撃の指示を送る。


「ミララ! サクッと潰すニャ」


「うん。分かったの」


 彼女はフルフェースの面を少し動かす事で了解の意思を示し、即座に突撃したかと思うと、魔法の力で加速させたメイスをプヨヨンに叩き込む。

 すると、「べちゃ」という潰れる音と共に、プヨヨンの結末が訪れた。


「ん? 弱いの! 偽物なの?」


 マルラほどではないにしろ、ミララもプヨヨンの弱さに疑問を感じたらしい。

 俺としては、問題ない事を確認できれば良いので、直ぐに戻ってレストを連れてくる。


 実は、レストの場合は他の者と違って、俺が一つの課題を課していた。

 それは、レストのままで戦えるようになることだ。

 これまでの場合だと、戦闘になると必ずガストが登場したのだが、ガストの長時間稼働が難しいと聞き、レストで戦うことの必要性を感じてしまったのだ。

 だから、俺の許可があるまでは、ガストを登場させないという約束だった。

 ところが、昨日の戦争ごっこでは、早速とばかりにその約束を反故ほごにしやがった......


「レスト、解っているよニャ」


「わ、解ってま......クシュン......オン! オン! クゥ~~~ン」


 何故なにゆえ、こんなタイミングで豆柴になるかな~~~。


 仕方がないので、俺の髭で悲しそうにうつむいている豆柴レストの鼻をくすぐる。

 はたから見ていると、犬と猫がじゃれ合っている構図だ。ちょっぴり恥ずかしい。


「クシュン! あ、戻ったのです。ありがとうなのです。ミユキ」


 唯でさえ二重人格という特異な存在なのに、それに付け加えて犬になる呪いとか、なんて面倒臭い体質になったんだ。

 まあ、豆柴で居る間は、見目もうるわしいので、実を言わなくても結構気に入っているのだが、戦闘となると話は別なのだ。


「さあ、来たニャ」


 豆柴になった事で手放してしまった杖を拾っているレストに、プヨヨンの登場を知らせてやる。

 その言葉でプヨヨンが現れた事を認識したレストは、すぐさま魔法を発動する。

 彼女の場合は、母の形見である『無詠唱の腕輪』があるので、即座に魔法の発動が可能なのだ。


「炎矢!」


 敵は一匹なのだ。だから範囲魔法である爆裂や焦土なんてもっての外だ。

 彼女が俺の教えた炎の矢を放つ魔法を発動させると、その矢はプヨヨンを直撃し、事も無く焼き尽くした。


「ありゃ? あうあう。これって、昨日と違う敵なのです?」


 これまでの二人と同様に、レストも疑問の声を上げるが、時間が勿体もったいないので次と交代させた。


 既にロビーで話し合っているのだろう。その所為か、ルーラルは特に怯えることも無く、プヨヨンを粉砕した。


 さて、ここまで来ると残るは二人。二者択一の問題と同じだ。

 だが、この時点で、俺は既に当りを付けていた。

 恐らく、メルが黒だろう。だって、エルカにモンスターを強化する力なんてある筈がないのだから。


「今度はメルだニャ。一緒に来てくれ」


 こうしてメルとダンジョンに入ったのだが、プヨヨンがこんなに強いとは......危うく俺も遣られる処だった。

 ということで、メルがダンジョンに入るとモンスターが強くなるという事象が判明したのだった。

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