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13 炎獄の使徒


 朝の喧騒けんそうは予想以上のものだった。

 通常であれば、誰もがやっと起きる時間であるはずが、既に街は活気で満ち溢れていた。

 恐らくだが、ダンジョンを持つ街の特色なのだと思う。


 室内にまで響いてくる街の騒がしさに、慌てて飛び起きた俺は、窓から街路の様子を見渡す。

 凄い。既に露店が並び、昼間程ではないにしろ、多くの買い物客が街路を行き交いしている。

 そんな人々を眺めながら、その活力に感嘆かんたんしていると、後ろから声が掛かった。


「人間とは本当にせわしないですね」


 その声の主は、本来の姿は美しいユニコーンであるルーラルだった。


「そうだニャ。やっぱり、猫が最高ニャ」


 思わずらした本音に、ルーラルと共にやってきたエルカが、透かさず喰い付いてきた。


「猫ちゃん。まるで人間だったみたいな物言いだよね」


 お前こそ、本当に八歳か? 余りにもかしこすぎるぞ。


 まあ、それには「ニャ~」とだけ答えて置いて、さっさと行動を始める事にする。


「ルーラル、エルカ、悪いけどみんなを起してくれるかニャ?」


 二人は了解の意を首肯で示すと、直ぐに行動に移る。


 暫くして、寝間着姿のマルラとミララが姿を現した。

 よく見ると、その後ろには、欠伸の止まらない豆柴レストとメルの幼女姿があった。


 全員が揃ったところで、直ぐに食事と外出の用意をするようにと伝え、俺は街の中心にある塔を見詰めるのだった。







 食事を済ませて宿の外に出ると、異様な視線の集中砲火を浴びた。

 それも仕方ない事だと思える。何と言っても、俺の連れは少女と犬なのだから。

 しかし、その視線は少女を舐め回すような不快なものでは無く、どちらかと言うと、忌避きひの視線のように感じる。

 そこで、ヒソヒソやっている者達の会話に聞き耳を立ててみる。


「おい、サバトラの猫だぞ」


「くそっ! 朝から不吉な!」


「アルラワ王国に来た途端、凶兆を目にするとは......今回の仕入れは失敗するかもしれん」


 ぐはっ! もしかして、その異様な視線は、俺が原因か? マジで? サバトラの所為?

 くそっ、指名手配書より、俺の悪い噂の方が先に届くとは......


 悲しみに打ちひしがれていると、ルーラルが問い掛けてくる。


「ガルドラで何を仕出かしたんですか?」


「いや、悪いのは全てガスト......レストなんだニャ」


 言い訳かも知れないが、全てはガストが城を炎上させた所為だ。

 心中でドロドロとした恨みぶしとなえていると、俺の身体が宙に浮いた。

 見上げると、ミララが抱き上げたようだった。


「ミーシャは悪くないの」


 更に、彼女は弁護しながら、俺の頭を撫でてくる。


 おお~~! 俺の救いはミララしか居ないニャ~~~!


 嬉しさのあまりに、彼女の胸に顔をうずめると、背後から鋭い視線のやいばが俺を貫く。

 もう、見なくても分かる。マルラがその透き通るような瞳から、全てを焦土と化す光線を発射している筈だ。

 ここは、顔を向けずに見ない振りをしよう。それが長生きの秘訣ひけつだ。


 結局、俺はミララの懐に非難したまま、目的の薬屋に辿り着いた。しかし、必要としていた万能薬の金額が、一本で金貨三枚もするのにはぶっ魂消たまげた。

 それでも、今後のことを考慮して十本ほど購入したのだが、それでも豚伯爵から頂戴した路銀は、それの三倍くらいは残っている。


 万能薬を無事に購入した俺達は、そそくさと人影のない街外れへと場所を移し、早速とばかりに、その効果を確認することにする。


「これで、師匠を取り戻せるんですね......」


 マルラが万能薬を感慨深かんがいぶかく見つめながら、意味不明な発言をする。


 それって、もしかして俺が胸の大きい女のを好むという誤解かな?

 まあ、それほど誤解という訳でも無いが、そんな理由でミララに抱かれている訳じゃないぞ? と、心中で弁解してみる。


「ワオ~~~~~~ン!」


 なんか元気に雄叫おたけびを上げている豆柴まめしばを見遣ると、エルカが万能薬をレストに飲ませようとしている処だった。

 だが、先に万能薬を飲み干したマルラから声が上がる。


「うわ~~~まず~~~~~~!」


 それに続いて、豆柴レストから悲鳴が上がる。恐らく、マルラと同様に万能薬の不味さからの声だろう。


「キャイン! キャイン! キャイン! キャイン! キャイン! キャイン!」


 おい、レスト! そろそろ止めてくれないか。

 まるで、俺達が子犬を囲って虐めていると思われるじゃないか。


 そんな一人と一匹だが、その効果は絶大だった。のかな?

 マルラの胸がみるみる大きくなっていく。いや、元に戻っていくと言った方が正確だろう。しかし、一定の大きさになると、その成長がピタリと止まった。


「あれ? まだ、元の大きさじゃないのに......」


 戸惑うマルラがいぶかし気な声を上げているが、もう一つの呪いに関して尋ねてみる。


「一人称は治ったかニャ?」


「僕ですか? あれ? 僕、ぼ、ぼ、ぼく......治ってな~~~~い!」


「やった~~~! 治ったのです。人間に戻れたのです。」


 俺の問いに悲鳴を上げているマルラを余所に、旧豆柴レストは見事に人間へと戻っていた。


 う~ん、非情に残念だ。誠に遺憾だ。豆柴のレストって超可愛かったのに......


 俺の心境とは裏腹に、人に戻ったレストは嬉しそうにしている。


「よかったのです~~~! あのまま犬だったら、如何しようかと思っ、はっ、はっ、ハックション!」


 しかし、喜びも束の間、そこには豆柴レストが復活していた。


「オン! オン! オン! クゥ~ン! クシュン! な、何で! あ、あれ?」


 豆柴に戻ったレストが抗議の声を上げていたが、再びくしゃみをした途端に人の姿へと復帰した。

 どうやら、くしゃみをすると入れ替わる体質となったようだ。


 この後も、色々と確認してみたのだが、結局、二人とも半分くらい復活という中途半端な結果となった。

 それを見た俺はマルラとレストには悪いが、今のままで十分に満足だと密かに喜びの声をあげるのだった。







 初めてこの街に来た時に感じた通り、あの塔はダンジョンの管理を行う場所だった。

 ただ、塔の中にダンジョンが在る訳では無く、地下ダンジョンの上に塔を建てたようだ。

 まあ、その辺りは如何でも良いので、塔の歴史が書かれた石碑せきひから視線を外す。


 その声が聞えて来たのはそんな時だった。

 嫌らしい笑い声と共に、一カ月は風呂に入っていないような臭いが漂う。


「おうおう、可愛い姉ちゃん達じゃね~か。何処に行くんだ?」


「俺達と一緒にあそぼうぜ。へへへっ」


「ダンジョンか? 俺達が案内してやるぜ。クククッ」


 下心一万パーセントの男達が俺達に絡んできた。とは言っても、俺は無視されているのだろうけど......

 そんな嫌悪しか感じさせない男達に、ルーラルが親切にも丁寧ていねいに答えている。


「有難う御座います。ですが、間に合っておりますので、下種は消えろ!」


 う~ん! 最後の方は良く聞こえなかったが......まあいっか。

 なんて軽く流したのだが、声を掛けてきた下種男三人には聞こえたのだろう。

 奴等は一瞬だけ何を言われたのか理解できないようだったが、直ぐに罵倒ばとうされたことに気付くと、食って掛かってくる。


「優しくしてやりゃ~いい気になりやがって!」


「さっさと犯して売っちまおうぜ」


「あ~~ん、売るのはまだ先だ。二週間くらいは楽しまして貰うさ」


 ヤバイ、俺は即座にレストへ念話を送る。


『暴れたら晩飯抜きだニャ』


『え~~~~~~っ』


 流石に、晩飯抜きは効いたのだろう。ガストが登場することは無かった。

 しかし、次の瞬間、かすむような速度で、三人の男の間を何かが通り過ぎた。

 驚くことに、その動きは疾風とも呼べそうな程の速さだった。それ故に、恐らく周囲の者達は何が起きたのかなんて、誰にも解らなかっただろう。


「あれ? この汚い人達、如何しちゃったの?」


 突然、倒れてヒクヒクと痙攣けいれんしている男達を見遣りながら、エルカが不思議そうな声を上げる。


 そう、絡んできた三人の男は、あっという間に倒されたのだ。

 その疾風が誰で、男達を倒したのが誰かというと、それは人間の姿に身をやつしたメルだった。


「臭いんよ。うるさいんよ。見苦しいんよ。早く消えて欲しいんよ」


 五歳児ぐらいの幼女姿となったメルは、ピコピコハンマーをクルクルと起用に回しながら、麻痺まひでヒクヒクする三人の男に毒づく。


 少女達はメルの所業だと解ると、喝采かっさいの声を上げていたが、ルーラルが時間の無駄だとばかりに、先に進む事を提案してくる。


「さあ、さっさと行きましょう。時間もあまりないのですから」


 ということで、慌ただしい周囲の視線を無視して、さっさと受付へと向うことにした。

 ダンジョンの受付に到着すると、嬉しいことに有益な情報提供とアイテムの販売を行っていた。

 そのことに喜び、まずはアイテムの購入を済ませ、その説明を受けた。

 一つ目は、パーティアイテムだ。

 これは俺の持っている知識には無いもので、恐らく造られてからそれほど年数が経っていない物なのだろう。

 これを各人が持つことで、同じパーティだと認識され、メンバーの位置情報を連携できる機能を持っている。

 更に、それをマップと組み合わせた情報として視認する事ができるのだ。

 それも、その表示方法は、この世界では考えられない程に先進的なもので、空中に映像が映し出されるのだ。だた、その表示サイズは三十センチ四方の大きさなので、精々が二十メートル範囲でしか確認できないのが残念なところだ。


 次に購入したのが、帰還転送きかんてんそうアイテムだ。

 これはパーティアイテムとの連携が可能で、パーティの代表者が使用すると、メンバ全員がダンジョンから帰還するというものだ。

 これは絶対に必要なアイテムだと考えて、速攻で買ったのだが、使用範囲はこのダンジョンに限られているとの事だった。

 因みに、パーティアイテムもこのダンジョンでしか使えないので、要らなくなったら買い取って貰えるシステムとなっている。

 その所為か高機能の割には、それほど高額なアイテムでは無かった。


 最後に購入したのは、階層マップとモンスター情報だったのだが......ここまで先進的な物だったのに、何故か手書きの紙媒体かみばいたいだった。

 それでも、あると便利なので即座に購入したのだった。







 という訳で、やって来ましたダンジョン地下一階。

 登場モンスターは、プヨヨンというスライムとマッシュと呼ばれるキノコの化け物なのだが、攻撃力が低く初心者向けのモンスターという。


 まあ、流石にこのモンスターに手古摺てこずることはないだろうと思い、そそくさと中へと進むと、そのスライムモンスターが現れた。


「えい!」


 初めてお目見えしたプヨヨンへ向けて、エルカが魔銃を撃ち放った。

 彼女が撃ち出した魔弾は、かなりの速度でプヨヨンへと向かう。


「あれ?」


 だが、彼女は見事にまとを外す。


 まあ、子供だし、しゃ~なしだな。少しずつ覚えればいいだろう。


 抑々、エルカに武器を渡したのだが、飽く迄も護身用であり、彼女を戦力として考えていなかったので、この結果に驚く事も無い。


 そんなエルカの攻撃を見たマルラが、俊敏と加速の魔法を併用してモンスターに襲い掛かる。彼女はその俊敏性を生かしてレイピアを突き出すが、簡単に避けられてしった。


「えっ? なんで?」


 会心の攻撃だと感じていたのだろう。その攻撃を避けられたマルラは、レイピアを突き出した格好で固まっている。

 流石に、これについては俺も予想外だった。

 というのも、マルラの攻撃はかなりのもので、決して下級のモンスターに避けられるような攻撃ではないと感じたからだ。


 少し怪しい雲行きになってきたと感じたところに、今度は人の姿に戻ったレストが魔法を発動させた。


「炎矢!」


 不思議そうに固まっているマルラの横でレストが、ガストになる事無くモンスターに杖を向けたのだが、炎矢は何故か弾かれてしまった。


「あり得ないのです」


 その光景を目にしたレストが、杖を振りながら不満を口にする。

 そう、確かにあり得ないのだ。これはどう考えてもおかしいのだ。

 低級モンスターが炎の魔法を弾くなんて、どんな異世界でもあり得ないだろう。


 すると、今度は私とばかりに、ルーラルが刺突攻撃しとつこうげき突貫とっかんするが、逆に体当たりを喰らって弾き飛ばされてしまった。


「「「ルーラル!」」」


 弾き飛ばされたルーラルを見て、マルラ、ミララ、レストが声をあげる。

 しかし、どうやら盾で防御はしていたようで、本人に怪我らしい怪我はなかった。


 しかし、こうなると流石に気を抜いたりできない。

 低級モンスターだと侮っていてはこちらが遣られそうだ。

 そのことを感じ取ったのか、ミララが気合の入った表情で前に出る。


「強いの!」


 甲冑で全身を包んだミララがモンスターの強さにうなるが、彼女はまるで甲冑など身に着けていないかのような動きでモンスターと対峙すると、両手で持つメイスを叩き付ける。

 しかし、無情にもその攻撃は地面をえぐり、土塊どかいを周囲にき散らすだけだった。

 そう、プヨヨンは、高速移動でミララの攻撃をけたのだ。


 その光景を目の当たりにして、俺達は完全に動揺してしまう。

 だってそうだろう。地下一階で一番弱いと言われるモンスターに全く歯が立たないのだから。

 てか、地下一階のモンスターって、こんなに強いのか?

 初心者向けだと言っていた筈だが、冒険者とはどんだけ強いんだ?


 余りの不自然さに頭を傾げていると、奥から次から次へとプヨヨンが現れた。


「ヤバイ、一旦、撤退てったいするニャ」


 結局、初心者向けのモンスターを一匹も倒せずに、ダンジョンから撤収てっしゅうする事になった。


 ダンジョンから慌てふためいて戻ると、周囲から嘲笑ちょうしょうの声が聞こえてくる。


「おいおい、お嬢ちゃん達がご帰還だぜ」


「くくくっ、ガキの来るところじゃね~つ~の」


「あははは、まだ三十分も経ってないぜ」


 行き成り絡んできた男達を倒した事で、周囲からの注目を浴びていた俺達は、帰還と同時に笑いのうずに巻き込まれた。


 仲間達は、全員がションボリと落ち込んでいる。

 まあ、エルカの攻撃が当たらなかったのは、腕の問題だから仕方ないとして、レストの炎の魔法を弾いたこと、マルラの攻撃を避けたことを考慮すると、敵は恐ろしく強い筈だ。

 この笑いの渦を起している奴等は、あのモンスターを簡単に倒せるのだろうか。

 どうにもせない。だって、笑っている奴等の方が、どう見ても強そうには見えないからだ。

 そこで、俺は己が力で確かめてみることにした。


『ちょっと、みんなはここで待っていてくれないかニャ。俺はちょっと確認したい事があるから、一人でダンジョンに入って来るニャ。ああ、直ぐ戻るから心配は要らないニャ』


 そう言うと、仲間達は全員が項垂うなだれたまま、ションボリと頷く。


『ルーラル、後は頼む』


『はい! 主様。でも無理しないで下さいね』


「ニャ~」


 ルーラルの忠告を軽く鳴き流して、俺はテクテクとダンジョンに入る。

 後ろでは、再び笑いの渦が巻き起こっている。


「おっ、今度は猫様が一匹で行くらしいぜ」


「てか、なんで猫やねん」


「何言ってるんだ。猫が戦える訳ないだろ」


 どうやら、猫が一匹で入るのがウケたようだ。

 まあ、笑いたければ笑うがいい。

 知らぬが仏とはこの事だと、笑い転げている奴等を心中で罵倒しながら先に進む。



 地下一階に入ると、俺達がトレインで連れて来たプヨヨンが八匹ほど居た。

 俺は人間体になる事も考えたが、それだと相手の力を確かめられないと判断して、猫のまま戦う事にした。


 眼前には俺達がトレインしてきたプヨヨンがポヨンポヨンと己が存在を知らしめている。

 そんなモンスターに油断する事無く襲い掛かる。


「ブチャ! ベチャ!」


 なんだこれ!? こいつら、めっちゃ弱いぞ!


 俺が魔法を使うまでも無く、猫パンチとキックで次々と始末できる。

 気が付くと、一瞬にして全てのプヨヨンを倒し終えていた。


「はぁ~~~~~?」


 余りの弱さに、思わず声が出てしまった。

 おかしい。これはおかしいぞ。何かが変だ。

 瞬殺しゅんさつしたプヨヨンから出た魔石を収納しながら、この不自然さについて思考してみたのだが、どれだけ考えてみても結論が出ない。

 結局、解らずじまいでダンジョンを後にしたのだが......

 ダンジョンから戻った俺は凍り付く。

 何故ならば、そこは悲惨な戦場と化してたからだった。







 それにしても、このオッサンはウザい。

 そんな事を考えながら、クドクドと何時までも嫌味を続けるオッサンを無視し、マルラに抱かれて丸くなる。

 こういう時に耳が良いというのは損だな。聞きたくも無いのにガミガミと煩い声が耳に付くのだ。


 現在の俺達はと言うと、ダンジョン管理を行っている職員から警告を受けている最中だ。

 そう、俺がダンジョンから出ると、大勢の冒険者と俺の仲間が戦争をしていたのだ。

 大袈裟おおげさだと思うかもしれないが、その有様は乱闘では無く、まさに戦場だったのだ。


 ことの発端なんて、大したことではない。

 そそくさとダンジョンから出て来た所為で、冒険者に舐められてしまった事が要因であり、俺の連れを与し易いと判断したバカ共達が、ちょっかいを出してきたのが原因だ。

 まあ、それは良いのだ。抑々《そもそも》、相手が悪いのだから。だが、怒られている理由は別にあるのだ。


 もう、誰でも解るだろう。そう、あなたの予想通り、破壊神が爆破しまくったのさ。

 その被害は甚大なるもので、ダンジョン入り口の大広間は、再起不能ではないかと思える程のものだった。


 しかしながら、余りにも長い説教、いや、嫌味で流石の俺も遂に堪忍袋かんにんぶくろの緒が切れた。


『マルラ、俺が言う通りに怒鳴り散らすニャ』


 念話でマルラに指示を出すと、マルラが俺の言葉を煩いおっさんに伝えた。


「抑々、相手の数を理解して言ってますか? たかが六人の女性相手に何十人もの男が攻撃して来たんですよ。自己防衛をして何が悪いんですか? それに、襲って来た男達を静止しなかったあなた方にも責任があるのではないですか? それとも、私達に黙って犯られろと言うのですか? 終いにはぶっ飛ばすぞこの野郎ニャ!」


 このおっさんは、俺達がこれまで大人しく聞いていた所為で調子に乗っていたのだろう。

 ところが、マルラからまくし立てられた上に、啖呵たんかを切られて一気に顔が青ざめ始めた。

 更に、俺が仲間に念話で『冷たい視線で突き刺せ』と指示を送ると、おっさんはその視線に耐えられなくなり、ガタガタ震え始めた。


「もう宜しいですか?」


 最後はルーラルが締め括って説教は終わりとなったのだが、莫大ばくだいな請求金額を提示されたので、半分だけを支払い。残りは襲って来た冒険者から請求するように言い含めた。


 この事件の所為で、俺達のパーティは、冒険者達から『炎獄えんごくの使徒』と呼ばれ、二度と嘲笑する者などいない存在となるのだった。

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