9ーー完
間違いを思い知らされ、大切な事を二つ、胸の内に刻まれてから数年の時がたった。
俺は大学に通いながら、いくつも資格を取り、見事公務員試験に合格した。
これは定時で上がれるという俺としては一番重要なものだ。
だが、俺は公務員になってから、満月の夜でなければ人狼化をコントロールできるようになってきた。
千智はと言うと人狼化状態のもふもふな俺を気に入ってしまい、いつも抱き枕にも枕にも背もたれにも使われている。
俺はクッションか!と突っ込みたくはなるものの、千智が幸せそうなので、仕方ないかとも思う。
どうやら千智は大の動物好きらしく、俺はもうずっと人狼化させられている。
完全な狼だと不便なので、顔は人間だ。
丁度、スリムな着ぐるみの頭部分を取ったような、と言えばわかりやすいだろうか。
一応千智が動物が好きだということは知っていたが、動物園に行きたいなんて事は聞いたことがなかったので、普通に好き、程度のことかなと思っていた。
でもそうではなく、アレルギーだったらしく、次の日に高熱が出てしまうため避けざるをえなかったらしい。
でも俺はアレルギー反応がでず、存分にもふりたおしてくるというわけだ。
まあ余談はさておき、俺は現在、25歳。
そろそろ覚悟を決めてもいいのではないだろうか。
と言うか、もう自然に同居してしまっている。
そう、プロポーズをしようとおもうのだ。
だが、いかんせん俺にはその辺りの事は分からない。
だから俺は友人に頼る事にした。
その友人は少々お高いおしゃれな料理店を経営していて、なんとプロポーズの場を作ってくれるとの言質を得た。
ちなみに名は樋口。
飲食店では御法度だが自分がオーナーであるために、整った髭を生やしている。
なんともカッコいいナイスガイだ。
俺はまず、樋口からの提案で、少々高めのスーツ専門店へと向かい、千智に選んでもらう。
それからも何かと千智に予感させる。
もしかしたら、と思わせるような行動を千智にわかりやすいように、且つさりげなく見せる。
そんな事を積み重ね、ついに来た本番。
段取りはこうである。
飲食店である以上お客様への配慮は必要である、だが、今回は少々の迷惑を考慮しながらもうまく回す事を優先する。
まず、ウエイトレスの方々が、周囲の客にサービスと称して俺がプロポーズすることが書いてあるメモ帳を一緒に置く。
次に、準備が整ったら俺の所にも、メモ帳の付いたサービスドリンクが来る。
最後に、音楽が変わり、俺たち以外の照明を一段階暗くする。
そこに合わせ、俺は千智にプロポーズすると言う段取りだ。
俺は千智をディナーに誘い、緊張しながらも店の席で千智を待つ。
千智に選んでもらったスーツをしっかりと着込み、そのポケットにはしっかりと宝石の付いた婚約指輪が入った箱が入っている。
心臓が今にも爆発しそうだ。
そんな中、千智がやってきた。
しっかりと化粧をし、いつもよりも綺麗に見える。
「珍しいね、こんなところに誘ってくれるなんて」
「ああ、ちょっとね、はは」
ドギマギする俺に千智はふふっと笑い目の前の椅子に腰掛ける。
「・・・・」
「・・・・ま、まあ食べなよ」
「そ、そうだね・・」
なんとなく千智も身構えていて思うように言葉が出ていない。
当たり前だ、そうなるためにこんな回りくどい事をしたんだ。
ある程度食も進み、俺達の席にサービスなるドリンクが来た。
いよいよだ。
だが、勇気が出ない。
何をしているっ!いうんだ俺!
俺は顔を上げ、千智の顔を見る。
周りの視線がこちらを向いている事が嫌でもわかる。
「千智」
「はい」
「大事な話が、あるんだ、一回しか、言わないから、よく、聞いてね」
「うん」
千智はもう嫌でもわかっているだろう。
俺の言葉を待ってくれている、その気持ちが千智の目から伝わって来る。
俺はポケットから箱を取り出し千智にその中身を見せた。
「千智、俺は、千智が大切だ。何に変えても大切なんだ。千智は俺の全てだ。いつまでも一緒に、なんでも一緒がいいんだ。俺と、結婚して下さい!」
俺の人生の最大目標にして生きる意味。
此処まで何年の月日がたったのか。
近所の幼馴染から始まり、中学の頃にはもう付き合っていた。
俺は千智だけを見てきた。
千智でなくてはならない。
一緒にいたいのは千智。
他の誰でもない。
25年の人生の、いや、これからの人生。
その全て込めた、一世一代の覚悟。
千智はそんな俺に、少々目に涙を潤わせ、笑顔になって、泣きそうな声で。
「よろしくっ!お願いしますっ・・・!」
音楽がクライマックスを迎え、拍手喝采の嵐がこの会場を包む。
幸せになれよ!あついねえ!おめでとう!
色んな声が聞こえてくる。
それが実感させてくれる。
「千智」
「守」
俺たちは、周りの歓声に応えるかの様に唇を重ねた。
●●●
あれから3年が経った。
結婚式では、中学時代からの友人や、親戚を呼び、とても幸せで楽しく、一生記憶に残るだろう素晴らしい式をあげてもらった。
今でも鮮明に思い出せる。
それはさておき、素晴らしいニュースがある。
俺たちの間に一人目の子供が生まれたのだ。
可愛すぎて、俺は仕事から帰ってきたらずっと面倒を見ている。
所謂、育メンってやつかも知れない。
女の子で、 名前は玲愛。
アザレアの花からとった。
愛されて幸せになってほしい。
俺と千智の様に。
愛されるのは幸せだ。
だからこの名前をつけた。
玲愛に構いすぎて、時々千智の機嫌を損ねてしまうのだが、夫婦生活は良好の一文字だ。
「千智、結婚してよかったな」
「何言ってんの、そんなの当たり前」
「そうだなっ」
「あー、あー、ぱっぱー、まっまー」
玲愛が俺たちをパパママと呼んだ!
「おい!千智!今!」
「うんうん!でもパパに負けたのには残念かなあ」
そんな事を言い合いながら俺たちは笑った。
俺は思う、何時までもこの笑顔が絶えない様に。
守るんだ、千智を。
そして玲愛を。
いや、支え合ってお互いが守り合うんだ。
何時までも。
お付き合いありがとうございました。宜しければ評価お願いいたします。




