7 平太side
今にしてみれば、平太は、名の通り平均的な人間だった。
だが、極普通の、ではなかった。
身体はスラリとしていながらも、特に鍛えていなくともそこそこに筋肉もある。
更には運動神経も抜群。
小学、中学と、学校1に人気者だった。
自分は特別だと思っていた彼は自分の名前に納得がいかず、嫌いであった。
だが、順調だった中学校生活で、上手くいかないことが出てきた。
それは思春期に入った時だ。
その人物が横を通り過ぎた瞬間、平太は目を奪われた。
長い黒髪が靡き、鼻をくすぐるシャンプーの良い香りが香る。
そう、平太は恋をした。
それも、千智に。
それから、平太はどこまでも一途であった。
千智が困っていたらさり気なく助ける。
LIMEで毎日連絡し、それとなく好きだと伝われば良いな、という程度にアピール。
名前で呼んでよ!だから俺も呼んで良いかな?
といった内容を送り、見事名前呼びを手に入れた。
可愛い絵文字で返ってくる。
時には恐らくは照れている様な絵文字まで返ってくる。
平太は、千智は自分のことが好きなのではないか。
もしそうでなくとも、告白すればいけるのではないだろうか。
そんな事を思っていた。
そして、告白しよう!そう決断した。
手紙を送り、読んだはずである時刻に「待ってるね」とLIMEした。
放課後の夕日が入り込む時間。
最高のシチュエーションを設定し、二人きりになる。
「何かな?えっと、平太、くん」
大好きな千智に何重にも美化フィルタが掛かり、今の平太には世界一の美少女に見えている。
「あ、あの!千智、さん!俺と、付き合ってください!」
告白をした。
最高のシチュエーションで。
自分に気持ちが向いている確信を持って。
イケる!イケる!
心の中はそればかりで、喜色一色である。
当然頭を下げた平太の顔はにやけている。
端から見れば、喜色では無く、気色悪い。
すると、千智意を決したかの様に口を噤み、返答の声を発する。
「ご、ごめんなさい!」
お願いします!
が来ると思っていた平太はその言葉が瞬時に入って来なかった。
よって、千里の手を掴んでこう言ってしまう。
「此方こそおねがいし・ま・す?・・・あれ?今なんて?」
「だっだから、ごめんなさい。私好きな人が居るんです」
平太は頭が真っ白になった。
まるで状況が飲み込めていない。
「な、なんでさ!俺の方が良いだろう?そいつなんて奴だ?」
「うえ!?えっと守です」
守とは平太からすればただの陰気なクラスメートでしか無く、名前と存在くらいは知っている程度であった。
それは自分が一番だと平太が思っていて、周りが全員ジャガイモにしか見えないだけで、守も相当なイケメンである。
「守う??あんな奴が?いやいや、あれは無いだろう、俺の方が良いだろう?」
「嫌です!離してください!痛いです!私は守が好きなんです!」
平太はいつの間にか千智の腕をきつくつかんでいた。
瞬間、平太に悪の囁きが。
(良いじゃねえか。どうせ俺の物になんねえならっ。)
平太は手を掴み上にあげ、もう一方の手で口を押さえる。
「てめえっ!ちさとになにしてやがる!」
平太の頬に重い拳が入る。
「守!」
「大丈夫か?千智!」
「うん!何もされてない!」
「そうか、よかった・・・」
無防備な状態で吹き飛ばされた平太は脳が揺れたらしく、「てめえが守るかあ!ぶっ殺してやる!」と言いながら殴りかかろうとするがうまくバランスが取れない。
平太の脳内は怒り狂い、脳も揺れ、正常な思考が出来ない。
「おい、てめえ、平太とか言ったか。これ以降俺の千智に近づいてみろ。こんなもんじゃすまねえからな?あ?」
「ひいっ!」
その日、校舎前にパトカーが止まっていて、平太は強姦未遂の容疑で強制送還された。
平太はそれから判決が下り、数年間懲役を経て、外へ出た。
「やっと仕返しが出来る。俺の人生無茶苦茶にしやがって」
それから平太は仕事もせず、親のスネをかじりながら、千智と守のストーキングを始めた。
すると或る日、守の家から別れる!という声と、涙を流しながら駆けていく千智を見た。
「なんて事だ。大チャンスじゃねえかっ!今回はヘマなんてしねえ。なんと言ったって千智の家の近くに改造した倉庫があるんだからよお。はっ!」
鼻で笑い飛ばしながら、いつもの如く、しかし今日は千智一人をストーキングする。
千智のマンションの最寄駅で降り、付ける。
(もう少しで計画地点だ。)
平太は計画地点に入った所で睡眠導入剤をたっぷり湿らせたガーゼで千智の口を塞ぎ、鼻も抑える。
そうする事で息をしたとき、薬品が一気に体内に入り込む。
続いて手を引き、倉庫へ引きずりこむ。
声を出すなとナイフを突きつけるのも忘れずに。
手枷を付け、足枷もつけ、目隠しも付ける。
(ははっ!完璧だ。それに見事に抵抗をしなかったこいつまさか淫乱なのか?)
「へっへっへ。なんも抵抗しねえのかよ。まさか千智が淫乱だったとはなあ」
着々と準備を進めていく。
するとおれが言葉を発した後に暴れだした。
暴れてもそうそう外れるものでは無いが、脅しておいたほうが良いだろう。
何しろここは防音で、扉は大きなハンマーでも無い限り破る事は不可能だ。
「てめえっ!暴れんな!刺すぞ!」
「・・・・ゃ・・・もる・・・」
「あああ!?」
「ひいっ!・・もる!・・た・・けてえ!」
うまく聞こえなかったが何を言っているのかはわかった。
「守?守だと?まだあいつの事が忘れられねえってのかよ!クソッ!」
(お前がふったくせにまだあいつなのかよ。あー、ムカついたわ。いいか、もうやっちゃおう。)
平太はナイフで切り付け服をたやすく破る。
すると眼前の光景に卑下た笑みを浮かべた。
するとドアの破壊音が聞こえた。
「GAOOOOOOO!」
「は?ひいっ!なんでこんな所にこんなのがっ!」
それは現実にいてはならない普通の狼よりも巨大で二足歩行の化け物だった。
俺は逃げ出した。
何故か追いかけてくれる事はなかった。
心底安堵した。ああ、狼に食われる事はなかったのだ。
裏路地を超え、大通りに入ろうとした時。
眼前には黒白の車両。
天辺には赤い光がくるくると回り、周囲に反射している。
おれはあれがバレるはずが無いと踏んでいたのでスルーした。
すると手を掴まれた。
カチャッ。
手錠を付けられる音がした。
なんで。
「はあ!?なんですかこれ?」
「その血は何かな?」
「血?」
平太は自分を見ると、千智の血が服についていた。
頭に血が上った時、少し千智を切ってしまったのである。
(ああ。)
平太は全てを理解した。
「またか、、、。」
その声は夜の街の喧騒に掻き消され、誰の耳にも入る事はなかった。
判決。
無期懲役。
実質的に生涯懲役である。
二度に重なる強姦未遂罪に続き、殺人未遂にさえ及んだ凶悪犯罪者はそう、判決を下された。
平太は平均的な人物であった。
容姿端麗、成績優秀、文武両道。
しかし人生の果ては牢屋の中。
人の人生は全て合わせれば平均的。
その典型例。
それが平太。
宜しければ評価お願いいたします。