6 千智side
映画を見た。
守と。
気になってしまった。
いや。
最初から気になっていた。
中学の頃、守が辛そうで、ーいまにの泣きそうな顔で、目を腫らしながら家の前で待っていた。
直ぐにどうしたのかと聞いた。
帰りに守の家で聞いた時、両親を亡くしたと言った。
でもそれだけではない事は私には分かった。
何か重大なことが抜け落ちている気がしたのである。
あの優しい両親が亡くなったことが信じられなかったのもあるが、何故、前日の夜に森に入ったりなどしたのか。
何度も聞いた。
それも数年間。
それでも守は教えてくれる事はなかった。
小さい頃から、私は守のことを見てきた。
だから分かるのだ、分かってしまうのだ。
私が困ってしまうようなことを守は言わない。
それも頑なに。
小さい頃にも一度あった。
私がいじめにあっていた時、守は私のいない所で隠された上靴を探してくれたり、落書きを消してくれたり。
更には私を虐めていた張本人にまで話をしにいき、揉めていた。
その時も何も教えてくれなかったが、子供だったのと、現場を何度か見たのもあり、聞く事はしなかった。
ただ、帰りに「ありがとう」とそれだけを言った。
私は守が大好きだ。
もうこの人以外あり得ないと、そう思っている。
なのに今、振ってしまった、別れてしまった。
別れたくなかった。
でも、守は何も教えてくれない、いつも、夕方までしか会ってくれない。
大学生になって、守の家に行っていてもそう言ったことがないのは、私に気持ちが向いていないからなんじゃないか。
そんな事を思ってしまう。
耐えられなかった。
私がこれ程までに守だけを見ていても、守は何か他の事を考えている。
今まで、元気に、守に好かれるようにと振舞ってきた。
辛い顔を出すものかと。
でもそれも今日、決壊した。
映画の主人公は彼女の事を 想い、打ち明けず、自分の気持ちを殺し、別れる。
そんなのは嫌だ、絶対に嫌だ。
私のことを想うなら打ち明けて欲しい。
確かめよう。
守は如何するのか。
正直言って怖い。
教えてくれないのであれば、それはもう別れるしかないのではないか。
別れたくない。
千智なら良いよと、千智は特別だよと言って欲しい。
だが、返答はいつもの通りだった。
「教えて」
そう願っても
「教えられない」
これしか返ってこなかった。
気づけば私は泣いていた。
別れる、耐えられない、そんな想いが勝手に自分の口から一気に出て行く。
私はそんな自分が嫌になり、ドアを勢いよく開け、走った。
今私は駅のホームまで付いたところだ。
大学生ほどの女性が涙を流して歩く姿に皆奇異な視線を向ける。
だが、当の私は気になる事もなくホームで涙を流す。
明日には恥ずかしくて悶絶しているかもしれないが、今はそんな事、如何でもよかった。
今からでも別れるなんて言った事嘘だと言いに行こうか。
ごめんなさいって言えば許してくれるだろうか。
なんで勢いであんな事を言ってしまったのか。
私は自責の念に駆られた。
電車に揺られながら後悔した。
途中、隣に座っていたお婆さんが、「大丈夫かえ?」と優しく聞いてくれて、ハンカチとティッシュをくれた。
「返さなくて良いからの」とも言ってくれた。
そんな優しい言葉に少し気が楽になると同時に、涸れかけた涙がまた溢れ出してきた。
最寄駅に着き、改札を超えた頃には涙も涸れ、ぼーっとしながら帰路を歩いていた。
端から見たら、お化けにしか見えない。
ツヤのあった整ったロングの髪は乱れ、俯いていて顔も見えない。
更には歩き方もゆっくり。
まるで某SA○AKOのようだ。
其れに夜である。
見た瞬間叫び、逃げ出しても不思議ではない。
駅のホームのガラスに目を向けたときの自分の姿には渇いた笑い声しかでなかった。
家に着いたら寝てしまおう。
今は何も考えたくない。
そう思っていた矢先に突然、背後から口を押さえられ、手を引かれた。
「!!」
「声を出すな!殺すぞ!」
男はナイフを私の眼前に突き出し、月の光を反射して見せた。
私は驚きの余り声も出ない。
いや、泣いた時に喉が枯れていたのもあるだろう。
とにかく叫ぶ事すらできなかった。
男の顔は少々引き攣りながらも気色の悪い笑みを浮かべていた。
以前守るがトイレに行っている間にナンパしてきた禿げずらのおじさんと同じ笑み。
(そんな・・・)
千智も馬鹿ではない。
今から自分が何されるのかわかる。
なのに、声が出せない。
助けて!その叫びすら喉に引っ掛かり出る事がない。
体も硬直し恐怖でどうにかなってしないそうだ。
一方男は。
「へっへっへ。おいおい、なんも抵抗しないのかよ。まさか千智が淫乱だったとはなな」
強姦犯罪者は勝手に都合の良い解釈をする。
それよりも千智は驚愕した。
この強姦魔は私の名前を知っている。
誰だ。
顔だけは見ようと思ったが、いかんせん街灯がなく、更には体勢的に顔が見れない。
それにマスクをしているようである。
男は私を縛り付け、目隠しをする。
(嫌だ、嫌だ、助けて!助けて!守!)
私は恐怖で半狂乱になっていた。
「てめえっ!暴れんな!刺すぞ!」
「・・・・ゃ・・・もる・・・」
「あああ!?」
「ひいっ!・・もる!・・た・・けてえ!」
必死に声を出そうとするが、どうしても出ない。
「守?守だと?まだあいつの事が忘れられねえってのかよ!クソッ!」
男は今まではまだ余裕があったのに突然釈変し、私の服をナイフで切りつけ、容易く破かれた。
その服は今日、守とデートに行った時、守と選んだ服だった。
守が離れていくような、私は一人になってしまうのだと、そんな風に感じた。
男は荒い鼻息を立てる。
ああ、私は穢れる。
守ともまだだったのに。
男の手が伸びて来る。
「GAOOOO!」
「は?ひいっ!なんでこんな所にこんなのがっ!」
獣のような声が聞こえた気がした。
走り去っていく音が聞こえる。
男は逃げ出したようだ。
しかし、私はいろんなことがあって疲れたのか、意識をそのまま手放してしまった。
でも意識を手放す直前、何処からか、いつもの匂いを感じた気がした。
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