4
それから、千智は色々してくれた。
応援するという宣言通り、親に迷惑をかけない範囲であるが、援助をしてくれたのである。
そして一緒に頑張ってきて、俺は難関大学に合格、三年ぶりに千智とも同じ学校となった。
俺は、頭自体は悪くなかったので、先生と、千智からの指導のもと、仕事に勉強に、精を出した。
受かった時は張り詰めていた気が一気に解けて、その場で倒れそうになったものである。
学費も貯める必要があるために、本当に自分の時間など無に近かった。
朝起きて、2時間働き、学校へ行く。
通信制は基本昼頃までであるので、昼が終わると、17時頃まで働く。
これは人狼化しないためである。
土日は学校が無いので、基本的に朝の仕事をすませると家に帰れる。
だが、休日は、家に千智が来てみっちり勉強。
本当に時間がなかった。
でも難関大学に受かったから良しとしようか。
相変わらず俺と千智は仲が良い。
「守!そろそろ教えてよ」
「ダメ」
このやり取りは、あの両親の死を打ち明けた日からずっと続いている。
俺が何かを隠していることを察知し、毎日会うたびに聞いてくる。
本当に言ってしまいたくなる。
「ふふっ、でーと。久し振りだね」
「いつも学校であってるじゃ無いか」
「むう。それとこれとは別。デートは特別なの」
「そんなもんか」
俺がおかしいのかわからんが、そういうものなのであろう。
ともかく最近はこんな風に受験シーズンのように気を張り詰めることもなく、日々をのんびりと過ごしている。
今日はショッピングでもして、映画を見て、あとは家でのんびりと過ごすつもりだ。
それに今日はなんと、料理教室に通っているらしく、その成果を見せてくれるのだそう。
以前まではなんとも味のバランスが悪く、料理本を見ながらでないと調理もできない。
そこから、これ美味しそう!などどいってその間に焦がしてしまったりと、何とも微妙な味であった。
本当なら笑顔で食べてあげたいのだが、苦笑せざるをえない味であったのだ。
「良い服買えたなあー」
千智は手に下げた紙袋をぶらぶらと揺らしながら軽い足取りでまるで子供のようだ。
「じゃ、千智、映画借りて見ようか!」
「うん!」
この映画は中学の頃、あの打ち明けた日の図書室で待っていた時に読んだ小説が映画化したものだ。
俺は当時あのあとあの小説を返却期日が近づいていたので返却して、また来た時に借りようと思っていたのだが、借りられてしまい、あの後から続きが読めていない。
かなり前に映画化したのであるが、受験が終わってやっとみれるといったわけだ。
「そうだ。千智、ポップコーン買ってかない?」
「良いねそれ!覚めたら美味しくないからキャラメルと、ポップコーンの種?って言うのかな。あのパチパチのかってこうよ!」
「キャラメル!素晴らしい!やっぱわかってんね」
「ふふふー。もっと私を褒めよ褒めよー」
腰に手を当てドヤ顔で胸を張っている。
俺の心境といえば、千智かわいい。
ポップコーンとキャラメルを買って家へと向かう。
そして一息つくと、ポップコーンを作る。
夕飯は千智が作ってくれるので、ポップコーンは俺が作ると言って作っていた。
その間に千智はDVDをテレビ下のRS4に入れて再生の準備をしていた。
ソファーに二人でくっ付きながら映画を再生する。
もちろん出来たてホヤホヤ、更に溶かした熱々のキャラメルソースも掛かってよだれが垂れそうになるポップコーンをお供にしている。
「美味しいい!」
「うん!これは美味いな」
感想を述べながらも映画が始まる。
・・・・・
『おれの兄貴はやってはいけないことをした』
・・・・・
『おれといてはいけない、それがあいつのため』
・・・・・
『巻き込むわけにはいかねえよな』
・・・・・
この映画の概要は、兄が殺人を犯し、警察に捕まった。
当然ニュースでも報道され、主人公の弟は苦労を強いられる。
就職も出来ず、恋人はいるのであるが、打ち明けることはできない。
だから結婚する資格などないと自分を諌めていた。
この辺りまで進んだところで千智が何を思ったのか、真剣な表情でこちらに向き直っていた。
「ねえ、守は私に隠してること、教えてくれないの?ここまで頑ななのって初めてじゃない?何か重大なことなの?」
「だから千智。それは教えられないって何度も」
「なんで教えてくれないの?」
「それは・・・」
「ほら、今日もだ。なんの用事もないでしょう?守が何か隠してるのは分かってるの」
「・・・ああ。でも・・・教えられない。」
「もう私これ以上は無理。ねえ最後にもう一回聞く。何でなのか、教えて?」
「っ・・・。教え・・られない。ごめん。・・・ごめん」
「そう・・・。残念だわ・・・。私がどれだけ不安か分かってくれないんだね。信じているのももうしんどい。守が何か辛い思いをしているのは分かっても教えてくれなきゃわかんないよ」
「ごめん・・・」
「・・・そう。もういい。別れましょう。っ・・さようなら」
そう言った彼女、千智の顔は今にも泣き出しそうで、おれの胸はきつく、きつく、締め付けられた。
「あっ・・・。でもっ。・・・いや、さようなら・・」
そう言ったおれのの顔も同じようなものだったと思う。
俺の自宅の玄関のドアが閉まる直前、千智の頬の水滴が夕焼け色に光った。
ドアが閉まったあと、俺は呟いた。
「教えられないよ・・・。だって俺はーー」
「ーーー人狼なのだから」
宜しければ評価お願いいたします。