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俺の大切な 人。
千智。
俺とは幼稚園の頃からの仲だ。
小学中学と一緒で家も斜め向かいの家とかなり近い。
家の大きさは断然千智の方が大きい。
性格はお嬢様では無いが、千智も一端のお嬢様なのである。
毎日一緒に登校しているので、近所ではお熱いカップルで有名だ。
今日はあの出来事から土日を挟んで月曜日。
昨晩も少し涙腺にきたので、少しまだ目が赤いか。
気づかれなければ良いが。
「おはよう!守!」
千智に家の前で待っていると、家のドアが開き千智のおはようが聞こえた。
「ああ、おはよう」
俺も微笑を浮かべて返す。
すると、むっとした顔になって俺の顔を覗いた。
「なんかあったの」
気づかれたかっ。
だが、男としての矜持で平静を保つ。
「なんもない」
すると千智はさらにむっとして。
「なんもなくないでしょ」
やっぱり千智には敵わない、俺は千智に嘘はつけないんだ。
なんて思いつつ、俺は観念した。
「すみません色々ありました」
「それでよしっ。じゃあ帰り私の家に来て話聞くね」
「いや、俺の家にしよう」
「そう?わかった」
何と言っても下校時間から話を聞いてもらってては夜になる。
千智に人狼の姿を見せるわけにはいかない。
だから自分の家なら外に出なくてもいいので問題がない。
学校での友人達には、目が赤いことなど気づかれず、先週までの通り、つまりいつも通りの学校生活を送った。
放課後は、基本的に図書室で待ち合わせだ。
人気者の千智は何かと忙しく、遅くなる事も多い。
1時間以上遅れるようなら事前に連絡を入れてくる。
今日は連絡がなく、数十分のうちに来るだろう。
だから今日も、図書室で待っていた。
この学校の図書室は理事長が大の小説好きらしく、小説の蔵書が半端ではない。
本は時間を忘れさせてくれて、他の事も考えなくていいので、好きだった。
この千智を待っている読書時間も好きである。
俺は現在、中盤まで読んでいた小説の栞の少し前から読み出す。
・・・・・
『おれの兄貴はやってはいけないことをした』
・・・・・
『おれといてはいけない、それがあいつのため』
・・・・・
『巻き込むわけにはいかねえよな』
・・・・・
図書館のドアの開く音が聞こえてきたので、栞を挟んで、本を閉じる。
視線をドアの方に向けると千智であった。
「ごめん!また遅くなった。帰ろっ!」
「気にしないでいいって。おう!」
少々続きが名残惜しかったが、また今度読もう。
今は千智との時間を楽しむことに専念することにする。
「千智、あのコンビニにオススメのアイスが出たんだけど食べてみない?」
「なにそれ気になる!どんな奴?」
大の甘い物好きの千智はすごい勢いで顔を近づけてくる。
体も少し当たって、何時もこれにどきっとしてしまう。
これの為では無いが、千智の為に美味しそうな新作の甘い物のチェックはかかさないのである。
無いったら無い。
俺自身も甘い物とすっきり目なコーヒーを合わせて飲みながら本を読む時間が好きであるのだ。
「チーズのアイスなんだけどね。抹茶が混ざってて、カカオのビスケットがしたに入ってて抹茶風味のチーズケーキみたいなアイス」
「何それ絶対美味しいじゃん!」
今にも飛び跳ねそうな勢いでテンションを上げ、目を輝かせる。
そんな姿に可愛いな、と幸福感を味わう。
「美味しかったああ。あーこれはやばいですぞ守どの。美味しすぎますぞ!五つ星!」
なんと今回のアイスは俺の超一押しだったのだが、まさか千智から五つ星評価が出るとは思わなかった。
因みにキャラがおかしかったのはスルー。
自宅に到着。
俺はリビングに千智を通した。
「おばさんいないみたいだけど、入ってよかった?」
「問題無いよ」
二人でテーブルを挟んで座る。
俺はお茶を出して、一息つく。
「で、何があったの?守」
「っああ、ちょっと長くなる。お茶でも飲みながら聞いてよ」
俺は事の顛末を話した。
もちろん人狼に触れる事なく、である。
葬式は人狼の臨時集会を昼間に嶋田さんの家で開かせて貰い、済ませたのであるが、千智には、森で熊に襲われたと言った。
喰われて酷い状態だったと解釈してくれるだろう。
嘘さえつかなければ、恐らく千智には気づかれない。
いや、何としてもバレてはいけないのである。
千智を守るために。
人狼である事を明かすという事は、千智を危険に巻き込む事と同義である。
だからこそ教えるわけにはいかないのである。
「そう、辛かったよね、ごめんね、一緒にいてあげられなかって」
「いいんだよ。千智は今こうして聞いてくれた。それだけで十分だよ」
「でも私はいつだって守の力になりたい」
「ありがとう。いっぱい力になってるよ。今だって聞いてもらえて嬉しい」
千智は一瞬訝しむような表情を見せたが、そっか、と言ってこの話題は取り敢えず終わった。
「これからどうするの?通信制高校に通いながらフリーターでもしようかと思うよ」
「そんな!一緒の高校がいいよ」
「仕方ないさ。貯金が底を着けばこの生活もおしまいだ」
「じゃあ私のっーー」
おれは千里の言わんとすることを手で制する。
恐らく私の家に来るか、私のお父さんに何かしてくれないか頼む。
そういった内容なのでは無いかと思う。
しかし、お嬢様である千智の交際相手として、それでは相手の親に誇る事はできない。
「いい。おれはこうするって決めたんだ」
「でもっ!・・・いや、わかった、じゃあ応援はさせて。精一杯手助けはさせて。」
「うん。頼むよ!」