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このまま最後まで毎日投稿です。
朝日が昇り、辺りはまだ静かではあるが、朝が来たことを告げる。
俺はやっとのことで泣き止み、家には静寂が訪れた。
まだ、少し思い出すだけで、涙腺が緩む。
「俺にはしなくちゃいけないことがあるんだ。そろそろ切り替えろっ俺っ!」
自らを鼓舞して、父さんを探す為、森へと向かう。
樋熊がまだ健在で、父さん達が殺られていた場合、危険であるが、俺はそんな思考をしている自分に嫌気がさしながら、振り払い、父さん達が勝っているに決まっている。
そう思い込むことにした。
一つ分かった事であるが、人狼は月が出ている時は、強制的に狼化してしまう。
然し、日中でもできない事はない。
昼頃が一番弱く、日の境目辺りが一番強い。
そして、満月に近づく程に強く強靭な肉体と化す。
それでも俺は人狼である事がばれてはいけない為に人状態で全速力で駆け抜ける。
森に差し掛かり、昨日の地点まで一気に木々を抜け、走り出す。
昼間なので、完全なる人狼では無いが、半狼化し、索敵能力や野生の勘、身のこなし、速さ等が狼に近づく。
昨日の父さん達が戦闘をしていた場所に近づく程に、異様な雰囲気が漂う。
それは、嗅覚が狼の域に達しているからこそ、その生臭く、鼻をつくような血臭を嗅いだから、もしくは野生の勘か、辿りつくまではわからない。
「そんな・・・」
辿り着いた俺は壮絶で、哀しくも遣る瀬無く、然し尊敬できるような光景に絶句し、息を詰まらせた。
「父さん・・・」
其処には三頭の死体。
二頭は二足歩行と思われる狼のようなものーー人狼である父さんと、リーダーの江川さん。
対して父さんの鉤爪が喉の辺りに突き刺さっている巨獣ーー昨日の樋熊である。
リーダーの江川さんは父さんよりも長く戦闘を行っていたため、道半ばで力尽きたのか、それともそのもたれ掛かっている巨木に叩きつけられて絶命したのかは判らない。
然し一つだけ分かることがあった。
父さんは、リーダーはまだ生きていると信じ、相当に不利であるにも関わらず、リーダーを背にこの巨獣を前にして守りながら戦い抜いた。
もし、リーダーを見捨てていれば、樋熊はリーダーを餌と判断し、逃げ延びていたかも知れないのにだ。
その証拠にリーダーは食い散らかされることもなく、もがき苦しみながら死んだような様子は無い。
そして見事、樋熊の首を掻っ切り、絶命させたのだとこの光景が伝えていた。
俺は、「俺がいればっ・・・」と一瞬思ったが、それ違うと思い首を横に振った。
俺があの時母さんを運んでいなければ、父さん達も戦いづらかった。
それに、絶対に後悔していたであろう。
助ける事は叶わなかったが、母さんをあの時助けることが出来る可能性があったのは、俺のみだった。
「父さん・・・俺、一人になっちゃったよ」
そういった俺は、何故か涙が出てこなかった。
胸の内からこみ上げて来るものはあったが、それは昨夜の様なものではない。
悲しく無い訳ではない。
悲しく無いはずが無い。
でもそれ以上に、自分の父さんの生き様が、信念が、最高に格好良かったのである。
どれだけ狭く苦しく、そして険しい道であっても、自分が守りたいもの、守るべきものを守る。
可能性が一粒でもあるのならーー否、可能性など無くとも、彼は、父さんは己の信念を貫き通し、更には可能性さえも創り出し、それを掴んで見せた。
体格が二周り、いや、数倍の大きさの巨獣相手に、疲弊した状態で一矢報いる可能性など無かった。
その可能性を創り出すことが、己の命を絞ることであっても、躊躇わなかった。
そんな父さんが堪らなく格好良かったのである。
それは、いつも優しい父さんとのギャップもあった。
だがそれさえも格好いい、そう思った。
テレビや小説に出て来るヒーローなどとは一線を画する格好よさであった。
俺は感動した。
この涙は、複雑であるが、単純明快だ。
悲しみ、不安、感動、いろんな感情が、入り混じっていても、この涙が表す事は唯一つ。
希望の涙である。
そこで、あの千智の言葉が脳を駆ける。
『大切な人を守れるようにってつけてくれたんだと思うな!』
俺はこの瞬間、中学生にして、信念を見つけた。
この衝撃的で絶望的な出来事は、それを深く、心の芯まで届くくらいに根付かせた。
だがこの出来事は悲しいだけではない。
悲しみと一緒に両親は希望も与えてくれた。
そんな両親に俺は感謝する。
「俺、父さんみたいになりたいって思った。絶対に、父さんみたいに、大切な人を守れる様になるよ!」
その日から、俺は変わった。
守るという事はどういうことか、それを考え、いつも大切な人に優しく、そして強く守ってあげられる存在を目指して。
父さんを目指して。
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