幕間 アルト、馬と友達になる。
本日二話目です。ご注意ください。
アルト=バイエルン……ただいま難題に直面中です。
目の前にいるのは、四体の馬。それも日本の競走馬みたいなスタイリッシュな姿ではなく、世紀末な漫画に出てきそうなムキムキマッチョな馬である。はっきり言って、怖い。
しかし、どうやらお相手は俺以上にビビっているらしい。デカイ豚にビビる、デカイ馬。我が事ながらシュールである。
どうしてこうなった……。順を追って説明しよう。
………
……
…
「アルト殿にお願いしたい件が、ある程度決まりました」
ジョンさんとサリーちゃんが帰ってから、さらに一か月後。月に一度の定期対談会の最中に、ハリソンさんがそんなことを言い出した。
――なにをするの?
「はい。アルト殿には、ある種族との交渉役をお願いしたいのです」
なんでも辺境伯家の領地には、オーク以外にも言葉が通じない種族がいるらしい。しかも、こちらはほとんど人型をしているそうだ。
現状、特に敵対をしているわけではないが、かといって交流があるわけでもない。ただ、高い技術を有する種族らしく、可能なことならば交流を持ちたいということらしい。
「オークの皆さんは、我々人間の言葉、オークの言葉、そしてゴブリンの言葉を理解出来る。ならば、その種族の言葉も理解出来るのではないかと考えた次第です」
なるほど……リスニングの天才、オークの出番というわけだな? まぁ聞き取りだけっていうならゴブリンでも同じことは出来たんだろうけどさ。
「もし、アルト殿が彼らの言葉を理解出来れば、それを筆談にて我らに伝えていただくことが出来ます。つまり、今まで出来なかった交渉が可能となるのです」
もしかしなくてもさ……それって交渉役じゃなくて、通訳じゃね?
まぁいっか、お仕事が頂けるだけよしとしよう!
俺が内心のプチツッコミを自己処理している間に、ハリソンさんが話を続ける。
「そこで、アルト殿に一つ、お願いしなければならないのです」
『……?』
「アルト殿。馬を馴らして頂きたい」
※
ってなわけで今にいたる。
なんで馬を馴らす必要があるかって? 馬車に乗るためだそうだ。
なんでも俺がお仕事に行く先は、ゾルデギルっていう山地らしい。これが俺達の集落からはなかなかに遠いとのこと。徒歩ではしんどいらしい。
なので現在、辺境伯家では俺でも乗れるような超巨大な馬車を特注で作ってくれてるらしい。オークな俺が今後も活動していくための必要経費だそうだ。……お金持ちって、金の使い方が気持ちいいよな!
ただ、馬車を用意してもらったところで、馬が怖がったらどうしようもない。俺が馬車に乗ろうと近づいた瞬間、馬が暴れ出しでもしたら、大変な事態になってしまう。
『ぷぎゅぶひゅぷぎょ。ぶぎゃ、ぶひゅぷぎょ』 (怖くないよー。豚さんは、優しいんだよー)
なので、オルブライト様のところの調教師さんの指導のもと、馬に対して豚が猫なで声で話しかけているわけだ。動物が多すぎて、なんのこっちゃ分からないな。
ちなみに場所は、いつものメアリーちゃん在住の村をお借りしている。だいぶ俺達オークに慣れて来た村人さん達だが、それでもオークが馬に話しかけている光景には驚いているようだ。
「アルト殿。馬がこのように身体を震わせていたり、耳をピクピクと動かしているのは怯えている証拠です。焦らず、ゆっくりと慣れていってもらいましょう」
了解ですぞ、教官殿!
馬よりも先に教官殿がオークに慣れてくれたこと、大変ありがたく存じます! ……最初に俺を見た時、涙目だったしな。
しかし、馬か。
ニンジンとかあげたらなんとかならないかね? 目の前にニンジンぶら下げたら走るって言うじゃん?
まぁ、あれだな。まずは餌を食べて貰えるくらいにまで、俺に慣れてもらわなきゃ始まらないな。
そおーっと、馬に向かって手を出してみる。
そーっと、馬たちが三歩ほど後ずさりする。
先は長そうだな。
◇ ◆ ◇
通常、馬が人間に慣れるまでには数日の日数を要するという。
しかし、アルトの場合はオークの巨体が災いしたのか。四頭全ての馬がアルトに慣れてくれるまでにおよそ一週間を要した。
ただ、馬は賢い動物である。
一度慣れれば非常によく懐いてくれるし、相手の顔も覚えることが出来る。相手が人間であろうとオークであろうと、その顔を識別し覚えることが出来るのだ。
アルトが辛抱深く馬に接したこともあり、最終的には四頭の馬全てがアルトに心を開いた。
こうして、アルトがゾルデギルへと向かう準備は、着々と進んでいくのであった。
これにて、本章は終了です。
少し書き溜めのお時間を頂き、また次の章が書き終わり次第、投稿していきたいと思います。お待たせすることのないよう、頑張って書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
それではまた、次のお話で。
香坂蓮でしたー。