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~ 第九話  サリーの葛藤 ~

 ここ数日、アルトはずっと落ち込んでる。なんとかしてやりてぇけど、掛ける言葉が見つからねぇ。どうしたもんかなぁ……。



 あの日、アルトが殺されるかもしれねぇって情報が入ってきたのは、本当に突然のことだった。一匹のゴブリンが、泣きながら俺たちにその情報を伝えてくれたんだ。


 俺にはゴブリンが何を言ってるのか分からなかったから、傍に居たオークを捕まえて何があったのかを聞いた。たまたま字が書けるオークが居てくれてよかったよ。


 ゴブリンから情報を受け取ったオーク達は、すぐにアルトを助けるために森に入ろうとした。


 もちろん、俺だって黙ってられねぇ。アルトには集落から出るなって言われてたけど、そんなこと言ってる場合じゃねぇからな。


 ……今思えば、おっかねぇことしてんな、俺。


 こんな森の深いところにナイフ一本で出て行くなんて、冷静に考えたらとんでもねぇや。でも、あの時は怖いとか考える余裕がなかったんだよ。


 アルトがすでに襲われているとすれば、声なり戦闘音なりが響いているはずだ。そう考えた俺は、耳を澄ませながら必死に走った。どこをどう走ったかすらもう覚えちゃいない。


 ただ、神様は俺に微笑んでくれたみたいだ。


 聞こえて来たのは叫び声。殺し合いの時の声だ。


 冒険者なんて仕事をやってれば、何度か聞いたことがある。人間だろうが獣人だろうが魔獣だろうが、誰かを殺そうとする時の声なんざ対して変わらねぇ。


 全力で駆けて来た脚に、さらに活を入れる。


 目に入ってきたのは大量のゴブリンと、それに囲まれているオーク。


 恐ろしい光景だった。あんな数のゴブリン、見たことがねぇ。冒険者としての判断をすれば、文句なしに撤退だ。


 だけど、ゴブリンのうちの一匹が、ナイフを持ってアルトに突っ込もうとしてるのを見て、身体が勝手に動いた。気付いた時にはもう、ゴブリンに向かってナイフを投げてたんだ。もう目の前で、仲間が死ぬのだけは嫌だった。


「アルトっ! 大丈夫かっ!?」


 とにかく大きな声を出す。俺の声を聞いて、他のオークが助けに来てくれるのが狙いだ。


「おーいっ! アルトがいたぞーっ! ここだぁぁっ!」


 叫びながら一気にアルトの近くまで走る。


 俺の姿を確認したらしいゴブリンが、一斉に叫びだした。とんでもねぇ数だ。そいつらが、間違いなく俺を殺そうとしている。アルトが近くにいなければ、身体がすくみあがっちまってたと思う。


『ぶぎゃ、ぷぎゃ!』


 アルトが何かを言ったのと同時に、俺を抱きかかえた。その大きな身体の隙間から、ゴブリンが一斉に石を投げてくるのが見える。


 ヤバいと思うと同時に、アルトが俺を抱きしめる力が強くなった。俺を守ろうとしてくれていたのは間違いなかった。


 この時点で俺は後悔したんだ。


 あぁ、俺はアルトの足を引っ張っちまってるって。


 そっから先のことはよく覚えてねぇ。振り回されてる間にいつの間にか気絶しちまってたからな。ほんと……情けねぇや。


………

……


 気付いた時、俺はオークの集落に寝かされていた。


 慌てて周囲を見渡すと、そこにはちゃんとアルトの姿もあって、俺は安心して泣いちまったんだ。だって、あれだけたくさんのゴブリンに囲まれてたんだぜ? よく生きてられたよ。


 でも、せっかく生き延びられたってのにアルトはなんだか落ち込んでる様子だった。俺にはオークの表情が完璧に読みとれるわけじゃねぇけど、それでも落ち込んでるのは伝わってきた。


 特に、ゴブ造さんっていうゴブリンの長老が若いゴブリン達に殺されたって話を聞いてからは、酷い落ち込み方をしていた。それこそ、声を掛けることすら(はばか)られるほどに。


 どうやらアルトは、ゴブリンを皆殺しにしちまったことを気に病んでるらしい。もっとちゃんとゴブリン達と話し合ってれば、こんなことにはならなかったのにって。


 ただ……俺にはそうは思えねぇ。


 だってアルトは、ゴブリンに対して出来る限り気を遣ってたじゃねぇか。人間の女である俺を引き渡さない代わりに、なんとか他のことで満足してもらえないかって、ずっと考えてたじゃねぇか。


 そんなアルトの努力を全部無視して、殺そうとしてきたのはゴブリン達だ。言っちゃ悪いが、自業自得としか思えねぇ。


 っていうか、そもそもゴブリン達はなんで「自分達は人間の女を貰えて当然だ」みたいに思ってるんだ? 自分で倒したわけでもねぇのに。


 オークが人間と戦い、人間の女を捕えた。だとしたら、その女はオークの獲物じゃねぇか。それをゴブリンに引き渡すかどうかなんて、オークが決めることだろ?


 ちなみに、オークが人間の女を引き渡す代わりに、ゴブリンからなにかお返しを渡すということはなかったみたいだ。アルミンやグレゴールに確認した。


 つまり、だ。


 今まで恵んでもらっていた獲物が、今回からは恵んでもらえなくなった。ムカつくから殺す。それが今回ゴブリン達がやったことだ。


 ……ただの逆ギレじゃねぇか。


 そんな理由で命を狙って、返り討ちにあって全滅した。どこに同情する余地があるよ? と俺なんかは思っちまうんだ。


 でも……落ち込んでるアルトにそんな言葉は掛けられねぇよなぁ。


 ゴブリンを殺して落ち込んでる奴に、「あんな奴ら、殺されて当然だろ!」みたいなことを言っても、慰めになるどころか神経を逆撫でしちまうだろ?


 アルトの優しいところは、俺も大好きだ。


 だけど、その優しすぎる性格が、かわいそうだなとも思っちまう。


 ったく……早く元気になってくれよな! アルト!


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