~ 第六話 再会はトレンディドラマのように ~
本日二話目です‼
では、どうぞっ!
交渉は難航した。なんたって、お互い身の安全がかかった交渉だ。落としどころを見つけるのはなかなかに難しい。
というか、そもそも大前提として言葉が通じない。俺の文法力は、幼児に毛が生えたようなもんだ。いやぁ、参った参った。
結局、こちらとしてはまず武器を捨てることを了承した。武器……いつもの斧だな。相棒よ、必ず拾いに戻って来るからな?
あと、ハリソンさんとジョンさんに、抜刀したまま案内してもらうという条件も飲んだ。何か変な事をしたら、即座に斬る、ということだ。
正直、かなり妥協はしたほうだと思う。こちらは丸腰で、相手は武器を構えている。しかも強いらしい。自分で言うくらいだからな。
オークの皮膚の防御力を考えれば、一太刀で殺られることはないとは思うけど、戦いになったとして勝てるかどうか。さっきから心臓がバックバクです。
でも、相手方もまた、妥協してるんだと思う。
結局、俺とグレゴールの二人で行くことを認めたんだからな。いくら丸腰とはいえ、クソデカいオークと行動を共にするのは怖いと思うぜ?
「まもなく、村に出ます」
いやぁ……ここまで人間の村に近づいたのは初めてだよ。苦節……何年目だ? まぁいい。人里デビューだ! 気分は初めて東京に出て来た若者だぜ! 東京だよ、おっかさん!
初めて森を出た田舎者の目に飛び込んできたのは、色彩の統一された不揃いなサイズの家々。まぁ、サイズが不揃いに感じるのは、日本のニュータウン的な街並みを見て来たからこそのものだろう。
現代日本人知識で推測するに、壁はおそらく土で塗られており、漆喰で白く化粧されている。屋根は木だな。雨水が漏れないようにぴったりとはまっている。
……思った以上に、家がちゃんとしていた件。少なくとも、俺ん家みたいな縄文スタイルの家がない。それどころか、なんかちょっとオシャレ。
ふんっ! いいもんね! 良く出来てるけどこの家、俺たちオークには小さいもんね! ドアとか、身体が入らないもんねっ! 縄文ハウスは、俺たちでも余裕のあるビッグサイズだもんねっ!
「あっ!アルトさーん!」
おぉっ! リリーちゃん! 元気そうでなによりだ!
相変わらず笑顔がまぶしいぜ! なんだか、負け惜しみを言っていた自分が恥ずかしくなるぜ! 素直に敗北を認めるぜ! ……参りました、人間様。
リリーちゃんは全く勢いを緩めないまま、俺にダイブしてきた。イケメンな俺は、当然その小さな身体を受け止めてそのまま軽く一回転する。うーん、トレンディ。
しかし、この子はやっぱりすごいな。肝が据わってるよ。
だって、俺の隣にはスーパービッグモンスターなグレゴールがいるんだぜ? ついでに言うなら、剣を抜いてピリピリしてる人間と犬までいるんだぜ? 普通は躊躇するだろ。
「アルトさん! お久しぶりですっ!」
『リリーちゃん、ひさしぶりー』 (ぶぶぎょ、ぶごふご)
「はいっ! 会いたかったです」
はい、確認しましょう! 言葉、通じてないんだぜ? 意思さえ通じれば、コミュニケーションは取れるってことだな。
そんな俺たちのハートウォーミングな再会の現場を見て、案内役のお二人はようやく力を抜いたようだ。そりゃあ焦るよな、護衛対象がオークに向かってダッシュしてきたら。
「アルトさん。お久しぶりです。リリー様、急に走ったらアガサさんが心配するじゃないですか!」
「あぁ、ごめんなさい! ……アガサ! 大丈夫?」
こちらもお久しぶりなメアリーちゃん。相変わらずの村娘スタイルだ。
そんなメアリーちゃんが指し示す先には、シンプルな服を着た女性が一人、へたり込んでいる。……おっぱいが大きい人のシンプルなファッション、けしからんと思います!
(なるほど……マスターは、巨乳が好き、っと)
……イブさん? 前から思ってたけどさ、あなたスキルが発動してなくても俺と喋れるよね?
(そのような事実はありません)
喋ってるじゃん! 聞こえてるじゃん! 答えてるじゃん!
(……)
ここに来ての無視!? ……スキルが俺を振り回す件。俺には扱いきれない巨大な力なんだな、きっと。
そんな俺の内心は置いといて、今はリリーちゃんとボインちゃんの様子だな。ボインちゃん、半泣きだし。
「リリー様! もうっ! 心臓が止まるかと思いました!」
「ごめんね、アガサ。けど、アルトさんは優しい方だから」
「それは伺っています! ですが、それでも驚くに決まっているじゃないですか!」
涙目でリリーちゃんに抗議をするボインちゃんこと、アガサちゃん。申し訳なさそうにしつつもどこか楽しそうなリリーちゃん。なんか、仲のいい姉妹みたいだな。
「アルトさん。こちら、私の部屋付きメイドをしてもらっています。アガサ=ゴートンです」
……なぬ? メイド、とな?
ならばなぜ、メイド服じゃないんだっ! メイドといえば、メイド服でしょうがっ! なぜ、そんなシンプル・イズ・ベストな感じのシャツとパンツなんですか!
この世界の人間よ! オシャレな家が作れるなら、メイド服も作ろうよ!
心の中で魂の雄たけびをあげている俺に、アガサちゃんが自己紹介をしてくれる。
メイドさんらしく、気品があるように思えるお辞儀に感心する俺。シンプルなシャツの胸元から覗く、魅惑の谷間になんか全く興味はない。ないったらない。
ならば、こちらも自己紹介をせねばならぬな。地面に名前をカキカキ、『あると』、『ぐれごーる』っと。
「まぁ。こちらは、グレゴールさんとおっしゃるのですね?」
『ぶご』 (そうだよ)
めんどくさいから家の名前は省いた。バイエルンさんって言われてもピンと来ないしな。
「グレゴールさん。私、リリー=オルブライトと申します。よろしくお願いしますね」
スカートの端を摘まむ、例の貴族っぽくてかっこいい挨拶をするリリーちゃん。相変わらずのお嬢様オーラ全開だ。
対するグレゴール、初めて人間に真正面から挨拶をされて完全に戸惑っている。さっきの騎士さん方の時は、俺がずっと交渉役だったからな。
『ぶぎゅる、ふごふぎゃ!』 (グレゴール、挨拶っ)
『ぷぎょ? ……ぶぎゅる。ふぎょぶが』 (あ、あぁ。……グレゴールだ。よろしく頼む)
まっ、言葉は通じないんだけどな。
けど、やっぱり挨拶って大事だよ。仲良くなるための最初の一歩なんだから、言葉が通じなかろうと歩み寄る姿勢を見せることが大事なんじゃね?
だって、ほら。グレゴールの挨拶を受けたリリーちゃん、めっちゃ嬉しそうだもん。それが答えなんだと俺は思う。