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~ 第五話  イケメンオーク、相撲をとる ~

スローライフ編、ラストです。


では、どうぞっ!

 アルト君は考えました。オークには、足りないものがあります。


 衣?


 しっかりとした、腰巻があるじゃないかっ! オシャレとか……そういう文化はオークには必要ないんだよ! 誰が服を作ってくれるって言うんだ!? オークに扱えるミシンを作ってから出直して来いっ!


 食?


 毎日が自然食。食品添加物のない、ヘルシーな食生活だ。調味料? ほら、濃い味って動物に悪いって言うじゃん。


 住?


 ちゃんと、屋根のあるところに住んでるよ。なんだっけ? 竪穴式住居か? あの縄文時代のやつ。あれに雰囲気は似てるな。真ん中に柱があって、屋根は枝と葉っぱだけどこれがなかなか快適なんだ。


 そう。衣食住は足りている。足りているったら足りているんだ!


 オークに足りないもの。それは、無くても生きていけるけど、あれば人生に潤いを与えてくれるもの。つまり、娯楽だ。


 まぁ、毎日生きるために働いて、陽が落ちたら寝る生活だからさ? 別に娯楽が無くても、暇を持て余すことはないんだよね。


 でも、娯楽が一切無いってのも、どうかと思うわけよ。


 オークは子供である期間が短いからさ、子供の遊びみたいなのもないわけで。精々追いかけっこレベルが限界だ。


 身体が大人になったら毎日仕事……あれ? 割とブラックな人生じゃない? こんなにストレスフリーなのに?


 ってなわけで、時間が空いた時に楽しめるモノを考えたいと思います!


………

……


 アルト君は気付きました。


 オークでも出来る娯楽……超ムズカシイ説。


 まず最初に思いついたのがさ、トランプだよ。あれならゲームもいっぱいあるし、皆で楽しめるじゃん? グッドアイデアだと思ったさ。


 ……で、どうやってカードを作るんだ? そもそも、オークって数字読めないぜ? 元人間の俺ですら、こないだリリーちゃんに教えてもらうまで、この世界の数字を知らなかったくらいだからなっ! 


 ってなわけで、トランプは却下。同様の理由で、オセロや将棋も却下だ。オークの不器用さが、いまさらながら、憎い。


 次に考えたのがスポーツ。ほら、みんなで楽しめて、身体も鍛えられるじゃん? 球技とかだったら子供も夢中になるしさ。


 ……球技の球、どうやって作ろう。石製? サッカーなんかやった日にゃ、さすがのオークもケガするぜ?


 野球ならどうか! 木の棒で石を打ち返せばそれっぽくなるじゃん! とも思ったけど、オークサイズでそんな事をやったら、死人が出るな。いや、死豚か。


 そして、紆余曲折のすえにアルト君はたどり着いたんです。たった一つの真実に。


 ……もう、相撲でよくね? と。


 いや、相撲をディスってるわけじゃないですよ!? なんたって相撲は、日本の心だ! ただ、もうちょっと凝った競技をやりたかったんだよ。気分的にさ。


 腰巻一丁のオークを見て、相撲を思い出したわけでは、断じてないからな!?


………

……


『ぶぶご! ぶぎゃぷぎょぶ、ぶがぶがぶご?』 (いいか! この円から外に出るか、転んだら負けだぞ?)


 森の中のオークの集落の中に突如現れた、日本人には見覚えのあるであろう土俵……にしてはデカすぎる円。


 あっ……土俵を囲ってる徳俵は、ツタを編んで作りました。不器用なオークでも、三つ編みくらいは出来るんだぜ?


 土俵の周りには大量のギャラリーが観戦中だ。なんでも、アルトがまた変な事をやりだしたということで集まってくれたらしい。……『また』ってなんだよ?


 そして土俵の中にはアルミンとナディア。夢の夫婦対決が実現だ。


 なんでこの二人になったかというと、俺が説明した相撲のルールに、ナディアが異常に喰いついたからだ。うん……力比べとか、好きそうだもんね。そして、巻き込まれた哀れな被害者がアルミンと言うわけだ。


『ぶごぶぎゃぷぎゅぶ……ぶぎゅぶご、ふごふがふぎゃ』

(この線のところに両手をついて……アルミンそうじゃねぇ、手は握るんだ)


 相撲取りが立ち合いで手をパーにしてるのは、日本人として違和感があるからな。俺は日本の伝統を大事にするイケメンなんだ。


 ん? だったら女性は土俵にあがれない? ここは日本じゃねぇんだ。 細かいことはいいんだよっ!


 二人とも準備は出来たな? よし、じゃあいくぞ?


『ぶっきょー……ふごーっ!』 (はっけよーい……のこったっ!)


 ナディア山が勢い良くぶつかった! アルミンの花、土俵際で粘る……ことも出来ずに一気に押し出された。


『ぶがぶご、ぷぶー』 (ナディアの、勝ちー)


『ぶごーっ!』 (おっしゃぁ!)


 まぁ、読めてた結果だわな。ナディア、超強いし。アルミン……尻にひかれてるし。


 その後は、我こそはと言うオークが大量に初土俵を経験した。


 いやぁ……思っていた以上の大盛況で、俺、ビックリ。シンプルなルールと身体を使うってことが思った以上にオークには合ったみたいだ。


 俺? ずっと行事をしてますが、何か?


『ぶごぶご、ぶぎゃふぎょぶご!』 (いよいよ、頂上決戦でございますっ!)


 観客を煽る俺。よっ! 盛り上げ上手!


『ぶがぶよぷご! ぷーぶー!』 (最強のオーク女子! なぁ~でぃ~あ~っ!)


 俺の紹介を受けて、ナディアがその拳を天に掲げる。なんだかプロレスみたいになってきたけど、盛り上がっているから問題ない。


『ぶごご……ぶぎゃふごぶぎょ! ぶーごーごーぶぅ!』 (対するは……心優しき巨大な怪物! ぐぅれーごーるぅ!)


 俺たちよりもだいぶ年上な、グレゴール父ちゃん。ちなみに一人息子は一人立ちをしている。


 彼の最大の特徴は……とにかくデカイ! オークの中でも大きな分類に入るナディアよりもさらに一回り以上デカい。ゆえに力も強い。それはもう、アホみたいに強い。


 ただ、その巨体ゆえに森で動けば音が大きい。さらに、オークの中でも特筆すべき不器用さ。そして、気が弱い。


 以上の理由により、狩りが苦手だったりする。まぁ、安全な場所での力仕事をやらせりゃ天下一品だし問題ない。あと、高いところの木の実も取ってくれる。木に登らなくても手が届くって、いいよね。


 さぁ、時間いっぱい! ナディアの獣のような瞳に、たじろぐグレゴール。父ちゃん……頑張ってくだせぇ。


『ぶがぶごが……ぶっきょー……ふごーっ!』 (見合って見合って……はっけよーい……のこったっ!)


 立ち合いから勢いよく相手の懐に飛び込んだナディア。そのままグレゴールをかちあげようとする。それを悠然と受け止めたグレゴールが、じわりじわりとナディアを土俵際に追い詰めていく。


 おっ! ナディアが強引にグレゴールの側面に回った! これはチャンスか!?


 いやっ! さすがはグレゴール。動かない! あぁ!? 上手投げだ!


『ぶーごーごーぶー!』 (グレゴールのぉー、勝ちぃ!)


 土俵に転がされて悔しそうなナディアに、グレゴールが手を差し伸べる。ギャラリーはそんな二人を称えていた。


 ふむ、これでオーク最強の力士はグレゴールとなったわけか……甘い、甘すぎるぜ森の豚共よ!


『ぶぎゃぶご、ぶごごぶ』 (グレゴールよ……勝負だ)


 満を持して、イケメン界の横綱が登場だ。……これだとイケメンのナンバーワンになっちまうな。えっと……横綱なイケメンの登場だ!


『ぶぎょぷぎょ、ぷぎゅう』 (止めとけよアルトー。勝てないよ)


『ぶがぶぎょ、ぷぎゅう』 (アルト、そんなに強くないじゃん)


 うるさいぞ、群衆! 俺が、相撲とはなんたるかを見せてやる。アルミン! 行事は任せたぞ!


『ぷぎゅう……』 (しょうがないなぁ……)


 クソ……アルミンまで俺を信用してないなんて。いや、これは皆をアッといわせるチャンスだ!


『ぶごご? ぶっきょー……ふごーっ!』 (じゃあ、いくよ? はっけよーい……のこった!)


 奥義! 猫ダマシ!


 相撲を知らない人のために説明しよう! 猫ダマシとは、立ち合いと同時に相手の目の前で両手をパチンと叩く技だ。急に目の前で手をパンとされた相手は、思わず目をつぶってしまい、そこに隙が生まれるという一撃必殺。


 見ろっ! 気が弱いグレゴールはびっくりして目を瞑っている! チャンスだ! 覚悟したまえグレゴール!


 ……あれ? 土俵際で、動きが止まったぞ? なんでだ?


 あっ……奥義の効果が切れたっぽい。グレゴール兄さん、復活してるじゃん。思ったよりも効き目が持続しないのな、猫ダマシ。


 あっ……あぁ……。負けた。なんだろうな、みんなの視線が痛いや。


………

……


 どうだい、みんな? イケメンなオーク、アルトの優雅な日常生活、少しは紹介出来たと思うんだけどな? プライベートを公開するなんて……キャッ、恥ずかしい!


 ……さて、まぁ俺の日常はこんな感じだ。明日もきっと、時間は緩やかに過ぎていんだろう。毎日がスローライフだ。


 しかし、相撲は予想以上に受けたな。ここは、流行を作る豚として、次の娯楽を考えないとな!


 そんなことを考えていた俺。だけど、どうやらオークの変わらない日常に変化の波が押し寄せてくるようだ。


 指に光る真珠の指輪。その輝きが、増してきていた。リリーちゃん……ほんとにもう一度、俺に会いに来てくれているのかもしれない。


 人間と関わっていく。もしも現実になったとしたら、それはオークの生活に大きな変化をもたらすことになるだろう。きっと、良い事ばかりじゃない。


 今までと何も変えずに、森の中に引きこもってた方が、楽だし幸せなのかもしれないな。


 だけどさ、少なくとも人間から命を狙われることが無くなれば、それは間違いなくオークにとって幸せなことなんだよね。せめてそこだけは、改善したい。……きっと変えられる。


 それにしても、時代って、イケメンを放っておいてはくれないんだな。


 ふぅ、俺ってば罪な男だぜ。


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