~ 第七話 辺境伯として、父として ~
本日二話目です(*^^)v
では、どうぞっ!
ただいま私、貴族様のお屋敷にてお泊りでございます。……言葉遣い、これで合っているのでしょうか。ベッドの大きさとふかふかさに戸惑っています。とてもじゃありませんが、眠れそうにありません。
横たわりながら、昼間のことを思い出します。
私の話を聞いた領主様はしばらくの間、無言で何かを考え込んでおられました。その間、生きた心地がしませんでした。『嘘をつくなっ!この無礼者がっ!』とか言って切り捨てられたらどうしようかと。
ですが領主様は、私の話を信じてくれたのです。
「そのオーク……いや、大賢者様にお会いすることは出来るかな?」
「それは……その、難しいと思います」
私があのオークさんに会ったのは、顔をキレイにしてもらったあの時の一回っきりです。そして、あの時に自分がどこにいたのかすら分かりません。帰る時も、村の近くまで送ってもらいましたし。
「では……大賢者様と普通のオークで、見た目に違いはあるかな?」
「多分……無いと思います」
生きているオークを見たのは、あれが初めてだったんです。女がオークに見つかるということは、攫われて犯されるということだと教えられてきましたから。
それまでに私が見たことがあったのは、冒険者の人が倒してきたオークの死体。それも首だけだったうえに、怖かったので遠くから見ただけです。
ですが、あの大賢者様の姿は、伝え聞くオークの姿そのものでした。他のオークとの違いと言われても、私には分かりません。
「そうか……」
再び黙り込む領主様。沈黙が重いです。あっ……緊張がぶり返してきました。
「君に……頼みたい事がある」
真正面から目を見つめられて、動けなくなってしまいました。その目がとても真剣……というよりも泣きそうに見えたんです。
「森に入って……大賢者様を探してくれないか? もちろん、君の安全はこちらで保証する」
「それは……大丈夫ですけど。会えるかどうかは、その……分からないです」
「構わない。少しでも……希望が欲しいんだ」
情けないだろ? と自嘲する領主様。そのお姿は……とても悲しそうです。
「そんなに……酷い火傷なんですか?」
思わず聞いてしまってすぐに後悔をしました。領主様……顔を手で覆っています。余計なことを言う自分の口が憎いです。
胃が捻じれるような時間がしばらく続き、領主様はその重い口を開きました。
「そうだな。……危険なことを頼むのに、こちらの事情を話さないというのは、公平じゃないな」
独り言……でしょうか。
その独り言に対して、部屋の端にいた、執事さん?が声を掛けます。正直、今の今までこの人の存在を忘れていました。執事さんに合図を送り、領主様がお話を続けます。
「これから話すことは、他言無用で願いたい。……いいかな?」
「はっ……はいっ!」
なんでしょう。今までよりも領主様の身体が大きく見えます。迫力がスゴイです。
大丈夫です! 私、秘密は守ります! まだ死にたくないです。
領主様はじっくりと私の顔を見た後、ある“秘密”を私に打ち明けてくださったのでした。
………
……
…
「リリー様……かわいそう」
ふかふかのベッドの上で、寝返りを打ちます。領主様から聞いたお話は、とても悲しいものでした。
領主様には、娘様が二人いるそうです。名前は、アレクシア様とリリー様。そして、このお二人は仲があまりよくなかったそうです。というか、アレクシア様がリリー様を一方的に嫌っていたそうです。
その理由は……容姿の差だったとか。領主様は言葉を濁しておられましたが、要はリリー様がお美しく、アレクシア様はそうでは無かったということらしいです。
ある日、アレクシア様が恋する男性が、領主様のお屋敷を訪れたそうです。ですが、その男性はアレクシア様との結婚を断りました。
そのことを深く悲しんだアレクシア様は、なぜかリリー様に怒ったそうです。領主様曰く、アレクシア様は、その男性をリリー様に取られたと思ったそうです。実際は、そんなことは無かったそうですが。
恋する相手を奪われたと思い込んだアレクシア様はリリー様に復讐をしたそうです。炎を出す魔道具を使って、リリー様の顔を……。
顔に大火傷を負ったリリー様は、それ以来、お部屋に引きこもって外には出てこなくなったそうです。
もちろん、治療のために安静にしていることが必要なのですが、それを抜きにしても、部屋から出てこないのです。元々は明るい性格をされていたそうなのに。
――顔の傷も辛いだろうが……それ以上に、実の姉にそこまでの憎しみを向けられたことが辛いのだと思う。
辺境伯様はとても苦い顔でした。
確かにそうだと思います。自分の家族から憎しみを向けられる。想像するだけでも悲しいです。
姉であるアレクシア様は屋敷から隔離され、妹であるリリー様は部屋に籠って出てこない。大事な娘様が、二人とも……領主様が追い詰められたのも、当然だと思います。
領主様の話を聞いて、私は絶対に大賢者様を探しだそうと心に決めました。
顔の火傷が元に戻れば、リリー様の心も少しは晴れるはずです。今までどん底にしか思えなかった世界が、少しでも明るく見えるようになれば、元気も取り戻せるはずです。
それに……アレクシア様の気持ちも、少し分かるんです。
ブスな人間は、勝手に周りへの劣等感を感じてしまうんです。一生、このままの顔でいなければいけない。なんで自分だけこんな思いをしなければいけないの、と思ってしまうんです。
まして、実の妹が美しければ、やりきれないと思います。ズルいと思ってしまうのも無理はありません。そのモヤモヤが、些細なきっかけで爆発してしまったんでしょう。
もちろん、アレクシア様のやったことは許されることではありません。ですが……気持ちは分かるんです。
私なんかに出来ることは少ないと思います。だけども、少しでもリリー様に元気になってもらいたい。そのために、全力で頑張るつもりです。
そして、出来ることならアレクシア様と仲直りもしてほしいです。アレクシア様に心を開いて欲しいんです。自分がブスだということを、一番気にしているのは自分なんだ、ということに気付いて欲しいんです。
周りの人は、きっとアレクシア様を大事に思っている。少なくとも領主様は、アレクシア様を大事に思っているのですから。
目を閉じ、決意を新たにします。
待っていてください、リリー様。必ず、大賢者様を連れてきますから。