~ エピローグ オークの結婚式 ~
本日二話目、二章のエピローグです。
では、どうぞっ!
色々あった。本当に色々あった。この日を迎えるまでに、何度も死にそうになった。赤い熊に引っ搔かれたり、ナディアに殴られたり、ナディアに蹴られたり。ほんと、よく生きていたな……僕。
だけど、ついにこの日が来たんだ。
――アルミン! おめでとー!
――幸せになぁ!
――夫婦喧嘩するなよー。殺されるぞー?
今日、晴れて僕とナディアは夫婦になった。
集落の真ん中にある広場で、みんなに祝福されて美味しい肉を食べる。こんなに幸せなことはない。
となりでは、ナディアが笑っている。今日も笑顔が可愛い。
『ぶ? ぶごぷぎゃ?』 (ん?なに見てるんだい?)
『ぶぎゃ、ぷぶぶご』 (ナディアが可愛いなぁって)
痛っ!
思いっきり背中を叩かれた。でも、それすらも幸せなんだから、怖いよね。
代わる代わる、色んな人が僕達を祝福しに来てくれる。
おじさん、おばさん、それに同年代の仲間たち。そして……。
『ぶぅ、ぶごぷぎゃぷご。ぶぎゃぶぎゃ!』 (よう、アルミン!やったじゃねぇか。おめでとう!)
アルトだ。
本当に、アルトには感謝してもし足りない。
アルトが居てくれたから、諦めずにナディアに気持ちを伝え続けられた。
アルトが居てくれたから、今日、自信を持ってナディアを奥さんに迎えられた。
堅く握手をし、僕とアルトは互いに笑顔を浮かべる。
あの不思議な場所と、人間の姿になったアルトのことは、僕とアルト、二人の秘密だ。
………
……
…
あの日、人間の女?に変なモノを口に付けられて、意識が遠くなった後、気付いたら森で寝てたんだ。
『ぶほ、ぶごぶ。ぶがぎゃ?』 (ようアルミン。起きたか?)
『ぶご!? ……ぶ、ぶきゅう!?』 (えっ!? ……アルト!?)
そこには、ちゃんとオークの姿に戻った、アルトの姿があった。そうだよ!それでこそアルトだ!
『ぶぎゃぎゃ? ぶごぶがぷぎょ?』 (気分はどうだ? 気持ち悪かったりしないか?)
『ぶごっ』 (大丈夫だよ)
『ぶが……ぶぶ』 (そうか……じゃあ)
そこで、アルトはいったん息を吸い込む。
『ぶごご、ぶ……ぶぎゃあ?』 (ペニスは……痛くないか?)
その言葉に、僕の記憶が蘇る。
そうだ! 確かアルトが、僕のペニスを剥いてくれるって言ってたんだ!
急いで腰巻を外して、僕は自分のペニスを確認する。
『ぶぷぎゃ……ぶがっ、ぶごぶぎゃ!』 (剥けてる……お父さんと一緒だっ!)
思わず僕は、複雑そうな顔をしているアルトに抱き着いてしまった。
『ぶきゅう、ぶぶう! ぶごぶがっ!』 (ありがとうアルト! 恩に着るよ!)
『ぶぎゃ! ぶごふごっ! ぶぎゅう、ぶがぁーっ!』 (止めろ! 当たってるから! アルミン、放せー!)
アルトに振り払われた僕は、いそいそと腰巻を付け直す。すると……。
『ぶほ……! ぶきゅう!ぶごぶぎゃ! ぷぎゃぁ!』 (あっ……! アルト!? どうしよう! ちょっと痛い!)
『ぶごご? ぶぎゃ、ぷぎゃぶご』 (言っただろ? 剥いた後は、こすれると痛いって)
たしかに言ってた! 今まで皮の下に隠れてたから、刺激に弱いんだって。
本当だった。やっぱりアルトは物知りだ。
『ぶぎょぶがぶぶ。……ぶご、ぶぶぷが』 (しばらくすりゃあ慣れる。……結婚までに、慣れるといいな)
この痛みに慣れないと、子作りは出来ないらしい。
そうと聞いたら、絶対に慣れてみせる。僕はナディアとかわいい子供を作るんだ!
………
……
…
あの時、人間の姿になったアルトを信じて本当に良かった。
姿は違ったけども、あれはやっぱりアルトだったよ。なんていうかさ、動きがアルトだったんだ。他の人には分からなくても、僕には分かる。親友だからね。
あの時、アルトは全部本当の事を言ったわけじゃないってのは、なんとなく分かってるんだ。アルトにしては珍しく、なにかを誤魔化しているような言い方だったから。
だけどいいんだ、誰だって秘密にしたいことくらいあるじゃない。いつか言える日が来たら、アルトはきっと僕に打ち明けてくれる。それは、間違いないと思う。
あっ、でもこれだけは聞いておこうかな。
僕はアルトを呼び寄せ、こっそりと耳打ちをする。
――人間の姿が本当の姿じゃないの?
なんの根拠も無い、ただの直観。
でも、たぶん当たってると思うんだ。少なくともアルトは、絶対に普通のオークではないから。
ほら、アルトが驚いたような顔をしている。僕の勘も捨てたもんじゃないね。アルトから一本取れるなんて……やっぱり今日は、特別な日みたいだ。
『ぶぎょ?』 (内緒だぜ?)
ニヤリと笑い、指を鼻に当てるアルト。
分かったよ、親友。
だけど……いつかは僕にも、君の話を聞かせて欲しいな。
これにて二章が終了です。
二章の登場人物、アルミン。素直で愛すべきバカである彼を表現するために、彼の視点のお話では出来るだけ、難しい言葉を使うことを避けるように心がけました。上手く表現出来ていればいいなと、願うばかりです。
この後、幕間を挟んで、お話は大きく動きます。よければお付き合いください。
香坂連でしたー。