~ 第五話 ある豚の恋の物語 ~
本日二話目でございます。
僕の名前はアルミン=ヘス。ヘス家の次男坊だ。今は、お父さんとお母さんと三人で暮らしている。
ちなみにお兄さんが二人いるんだけど、僕が産まれた頃にはもう一人立ちしてたからあまり兄弟という感覚はない。
そんな僕が、一番頼りにしているのが、バイエルンさん家のアルトだ。アルトは本当にすごい。僕の知らないことをなんでも知ってるし、いつも僕を助けてくれる。
例えば、僕がずーっと悩んでいたことがある。
僕は、オークにしては身体が小さいんだ。僕よりも後に生まれた子達が、僕よりも大きくなっていく中で、僕はそのことを悩んでいたんだ。
『ぶが? ぶごぷぎゃ、ぶがが』 (はぁ?熊よりもでけぇくせに何言ってるんだよ)
そんな僕の悩みを、アルトは最初呆れたように聞いていたんだ。オークが熊よりデカイだなんて、当たり前のこと言っちゃってさ。
だけど、僕の悩み真剣なものだって分かると、アルトも真剣に答えてくれた。
ただデカイだけの鈍い熊よりも、速くて爪が鋭い熊の方が怖いだろ、って? だからお前も、小さくても強い、『ウシワカマル』のようになれ、って。
『ウシワカマル』っていうのは、昔の英雄らしい。蝶のように華麗に舞い、蜂のように鋭く刺す……かっこいいよね。しかも、すごく顔も綺麗だったんだって。きっと、鼻が大きくて、上向いてたんだろうな。
だから僕は、絶対に『ウシワカマル』みたいになるって決めたんだ。アルトが僕の人生に目標をくれたんだよ! ほんと、アルトはすごい。
※
僕……好きな人が出来たんだ!
ナディア=ジールマン……僕より少しお姉さんで、おっぱいがすごく大きくて、目がぱっちりした美人なんだ。
実を言うとさ、最初は苦手だったんだ、ナディアのこと。
僕よりも身体が大きくて、とっても強いナディアは……ちょっとガサツなんだ。口よりも先に手が出るし、気は強いし……怖いし。
だからあの日、狩りで一緒になった時も、嫌だなって思ってたんだよね。
――何やってるんだいアルミン! 早く止めを刺しな!
――かっこつけてる場合かい!? とっととぶん殴りなっ!
僕の『ウシワカマル』みたいな戦い方を、ナディアは全然認めてくれないんだ。蝶とか蜂を見て研究したのに……。
だけど、その日の狩りの終わり。ナディアが石を投げて仕留めた大きな鳥を僕にくれたんだ。
『ぶごっ! ぶぎゃ! ぶがが!』 (おいアルミン! この肉やるよ!)
『ぶぎゅ? ぐが、ぶが?』 (えっ? いいの?)
『ぶがっ! ぶがが!ふがっ』 (お前はちっこくて弱っちいからな! 喰え!)
嬉しかった。
この鳥……めちゃくちゃ美味しいんだよ。そんな獲物を僕にくれるなんて、なんて優しいんだろうって感激しちゃったんだ。
それから、僕はいつもナディアを目で追うようになっていった。
確かに気は強くてガサツだけど、実はいろんな人に気遣いをしているナディア。すごく強くて、かっこよくて、狩りの度に大きなおっぱいが揺れる。どんどん彼女のことを好きになっていったんだ。
だけど、僕はナディアに告白する勇気がなかった。他の誰かに取られたらどうしようって三日も悩んで、それでも動くことが出来なくて……とうとう僕は、アルトに相談することにしたんだ。
……アルトもナディアのことが好きだったら……どうしようって、すごく不安なんだけどね。
………
……
…
よかった! アルトはナディアのこと好きじゃなかったみたいだ! それどころか、『なんでナディアなんだ?』みたいな感じだったよ。なんだよアルト、見る目ないなぁ。
だけど、アルトが応援してくれるなら百人力だ。あいつの作戦を聞いて、僕、思わず震えちゃったよ。告白の時に花を渡すなんて……なんてかっこいいんだ。
確かに、女の子って、森の中で花を見て「キレイ」って言ってたもん。二人で森の奥まで花を取りに行って、大きなオレンジと紫の花を見つけた時、僕は絶対に告白が成功すると思った。すごく鮮やかで、綺麗な花だったから。
『ぷぎゃぁ!』
だけど、結果は残念だった。ナディアに思いっきり殴られちゃったよ。
『ぶぎゃ! ぶぎゃぎゃ、ぷぎゃー!』 (おいっ! 思いっきりフラれたじゃないか!)
どうしてくれるんだよ!? フラれちゃったじゃないか! しかも……ナディア、ちょっと怒ってた気がするし。せっかく頑張って取ってきた花……お腹で踏んづけちゃったし。
『ぶご。ぶごご、ぶぶ、ぶぎゃぎゃ、ぎゃ』 (落ち着け。たった一回で上手くいくはずがないだろう)
……えっ? これで終わりじゃないの? だって、フラれたよ?
『ぶごぶごっ。ぶが、ふがが、ぶぎゃあ。ぶががっ、ふご!』 (何度もお前の気持ちを伝えるんだ。ナディアが根負けするまで。それが勝利への道だ!)
勝利……そうだ! 絶対に勝たないと!
負けたら、他の男にナディアがとられちゃう!
『ぶがっ。……ぶご! ふがぁ!』 (分かった……僕っ、頑張る!)
よぉし! ナディアに気持ちが伝わるまで、何度でもアタックするぞっ! アルトが言ってるんだ、間違いない!