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ビューティー・オーク  ~ オークになった美容外科医、世界を変える ~  作者: 香坂 蓮
漢であるということ……そこに、人とかブタとかは関係ない。
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~ 第二話  諦めるなっ! 彼女の心が折れるまで! ~

良い子のみんな! ストーカーは、犯罪だぞっ?

 ナディア=ジールマン。


 俺たちよりも『少し』、早く生まれたらしいお姉さんオークだ。といっても、時間の感覚が大変ルーズなオークのことだ、『少し』は一週間かもしれないし一年かもしれない。


 特徴は……とにかくデカイ。体長、体重、筋肉、そしておっぱい。すべてがクイーンサイズだ。ちなみに顔はキレイ系らしいよ? 俺には判別がつかんけど。


 性格は勝気。気が強く、常に元気いっぱい。雄のオークと共に狩りに行き、雄以上に燃え上がる性格をしている。

 

 ちなみに、アルミンに鳥肉をあげた時の会話がこれだ。


『ぶごっ! ぶぎゃ! ぶがが!』 (おいアルミン! この肉やるよ!)


『ぶぎゅ? ぐが、ぶが?』 (えっ? いいの?)


『ぶがっ! ぶがが! ふがっ』 (お前はちっこくて弱っちいからな! 喰え!)


 以前も言ったがアルミンはヒグマ以上にでかい。


 そして、ナディアはヒグマが裸足で逃げ出すほどにでかい。大きさの順に並べるなら、ナディア、俺、アルミン、熊ってところだ。


 女性。デカくてごつい。気が強くて身体も強い。


 人間でもオークでも、そういうタイプの女性はなかなかに人気が出ないらしい。結果としてナディアは、言葉は悪いが“売れ残り”という状態である。


 まぁ、本人は全く気にしていないみたいだけどな。間違いなく彼女は、村でも有数の戦士だ。人間でいうと、バリバリのキャリアウーマン。一人でもやっていけるわよっ! ってとこだな。



『ぶご、ぶごぶごふご、ぶぎゃぎゃ』 (アルミンよ、俺からのアドバイスは一つだ)


 俺のその言葉に、アルミンは息を呑む。……真面目な顔してフゴって鼻息、やめてくれない? 笑いそうになるからさ。

 

 それはさておき……。


『ふご、ぶが、ぶぎゃぶご』 (何度でも……突撃あるのみ、だ)


 別に、考えることを放棄したわけではない。豚同士の恋愛なんてどうでもいいと思ったわけでは断じてない。これはれっきとした、ナディアの心理を分析した作戦だ。


 ナディアの男勝りな性格を考えた時、下手に策を巡らせることは危険だ。バレた時、取返しがつかない。


 それよりも、男らしく堂々と告白し、フラれても諦めず、愛を伝え続けるほうが間違いなく効果的だ。


 情熱的な告白によって、恋とは無縁な生き方をしてきたナディアを、ラブコメの世界に引きずり込む。……コメディになっちゃ不味いか?

 

 しかし、あれだな。なんのひねりもなく、ただ告白するだけってのも芸がないな。


 よっしゃ! ここは俺に任せろ!


………

……


『ぶごっ、ぶごご、ぶぐ』 (あなたの事が好きです)


 片膝をつき、美しい花と共に、意中の女性へと愛の言葉を告げる。


 完璧だ。


 両者共に巨大な豚で、共に半裸だが、問題ない。


 花はゴブリンを丸々溶かすような食虫植物についてるものだが、美しいからオッケーだ。オレンジに紫の極彩色……世界に一つだけの、げふんげふん。


 万事、上手くいった完璧な告白……だったはずなのに。


『ブゴッ! ブゴブゴ! ブガぁ!』 (なーにを気持ち悪いことやってるんだい!)


『ぷぎゃぁ』 


 アルミンの悲鳴は、訳さなくてもいいだろうよ。だって、そのままだもん。


 自分よりも一回り以上デカい巨体から繰り出される、美しい右ストレート。アルミン……南無。


 とはいえ、アルミンはすごい。あのパンチをモロに受けて、気絶しなかったのだから。 


『ぶぎゃ! ぶぎゃぎゃ、ぷぎゃー!』 (おいっ!思いっきりフラれたじゃないか!)


 ナディアが颯爽と去っていった後、アルミンは俺に泣きついてきた。


 落ち着けアルミンよ。恋の伝道師、ラブリー・アルトに任せておけば、大丈夫だ。


『ぶご。ぶごご、ぶぶ、ぶぎゃぎゃ、ぎゃ』 (落ち着け。たった一回で上手くいくはずがないだろう)


 ナディアは、恋を知らない(おとこ)系女子だ。ならば、まずはその心を乙女にしてやらなければならぬ。


 しかし、ここには観覧車も、夜景の綺麗なレストランも無い。フラッシュモブ? ……豚が大量に踊り狂うところ、見たいか?


『ぶごぶごっ。ぶが、ふがが、ぶぎゃあ。ぶががっ、ふご!』 (何度もお前の気持ちを伝えるんだ。ナディアが根負けするまで。それが勝利への道だ!)


 恋する気持ちが伝われば、ナディアの心もきっと乙女に戻るはず。だって、女の子だもん。


 ストーカー? なんとでも言え! ここには警察も法律もねーんだよっ。


『ぶがっ。……ぶご! ふがぁ!』 (分かった……僕っ、頑張る!)


 いいぜアルミン。その真っすぐさが、きっとナディアの胸を打つさ。……もしかしたら、その単純さに母性本能をくすぐられるかもだけど、それはそれで有りだろ?



 その後アルミンは、諦めずに何度も何度もナディアへとアタックをし続けた。


 殴られ、蹴られ、村中の豚から生暖かい目で見られても、奴は諦めなかった。


 そんな奴のことを……俺は、尊敬している。人間ならばどんなドMであっても、あのパンチは耐えられないはずだ。……そりゃそうか、多分一発でお陀仏だ。


『ブガブガ! ぶぎゃあ!』 (しつこいよっ!いい加減にしなっ!)


 今日も今日とて、アルミンは吹き飛ばされる。間違いない、ナディアの前世はボクサーだな。今の右フック、世界を獲れるぜ?


 とはいえ心無しか、ナディアの対応にも好意が出てきた……気がする。ほら、頬が少し赤らんで、ないな! うん、どう見ても緑色だ。


 いや、大丈夫だ。毎日のように愛の告白をしているんだ。さすがに色恋に鈍感なナディアでも、いい加減にアルミンの気持ちは認識しているはずだ。もう少しだぞ! アルミン。


『ぶご……ふごふぎゃぶ!』 (僕は……ナディアを諦めない!)


 夕日を受け、紅に染まるアルミン。


 その姿は……とても気持ち悪かった。だからなんで肌の色が緑なんだ、神様!


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