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~ 第七話  異世界のお金事情 ~

「アルトー……なんか、すげぇよなここ」


『ぶぎゃふぎょ』 (ほんとにねぇ)


 サリーちゃんと駄弁る俺。しつこいようだが、サリーちゃんは俺が何を喋っているか理解出来ていない。


 ほら、英語が全く分からなくても表情とかジェスチャーとかでニュアンスは通じるだろ? なんとなく分かったような気分で、「Ah~Ha~?」とか言っちゃうだろ?


 細かい意味は通じなくても、なんとなくで会話は成立する。ノリがよければなんとかなる! サリーちゃんはなんとなくでコミュニケーションが取れてしまうリア充タイプなのだ。


 暖炉の前でなんだか甘くておいしいお茶? を頂きながらのんびりと過ごす。


 ちなみにリリーちゃんやハリソンさんは、その他数名の賢そうな人達と作戦会議中だ。これから始まるベルグ族との交渉に向けて、どういった方針で臨むのかを決めているのである。


 まだ下っ端なサリーちゃんと、豚っ鼻な俺は気楽にのんびりとしているってわけだ。


「お待たせー!」


 ビアス君が大きな木の扉を開けて入って来る。後ろには五、六人のベルグ族の人が付いてきている。


 ってか……あの扉、重くないのかな?


 人間よりも遥かに大きいオークな俺が通れる大きさのドアだぞ? それを、小学校低学年かってくらいの身長のビアス君が開けて入って来るって……ファンタジーだなぁ。


 力持ち疑惑が発覚したビアス君は、俺達の近くに腰を下ろすと申し訳なさそうな顔を作る。


「族長、まだ仕事中だった。仕事が終わったら来ると思う」


 確か族長さんは鍛冶師さんだったな。……仕事場が見たいっす!


 あれだろ? 燃える炎の前で、槌を片手に金属と語り合う感じだろ? 最高に萌えるじゃねぇか! もとい、燃えるじゃねぇかっ!


 なんて思いつつも思慮深い俺は自重する。職人ってのは……むやみに仕事場を荒らされることを嫌うんですぜ? アルト、違いが分かる男だからその辺は配慮出来るんだぜ?


 その後、とりとめのないアイドリングトークを交わした後、徐々に話題は交易などの交渉へと移っていく。


 イケメンオークもハリソンさんから貰った紙とペンを使って絶賛通訳中だ。……デカい字しか書けないから紙がドンドン無くなっていくんだけど、大丈夫なのかな? 紙、足りる?


 交渉は、基本的にリリーちゃんが担当しハリソンさんが補助をしている感じだ。時々リリーちゃんの言葉を補うように口を挟んでいる。


 あとの数名の賢そうな人は、日本で言うところに官僚のような立場なんだろう。すごい勢いでメモを取っている。……小さな字が書けるの、マジリスペクト。


「ベルグ族の皆さまは、通貨は使っておられるですか?」


「通貨ー? なにそれ?」


 どうやらお金と言う概念はないらしい。


 話を聞いていくと、ベルグ族の皆さんの生活は大雑把な物々交換で成り立っているそうだ。それぞれがそれぞれの仕事を全うし、その成果を持ち寄って共有する。


 それだけ聞くと俺達オークと同じように思えるが、大きな違いもある。ビジネスマンっぽく言うならば、オークはジェネラリストでベルグ族はスペシャリストなのだ。


 ……今の説明、かっこよかったよな? 就活生とかに尊敬されそうじゃね?


 えっ? そうでもない? ちゃんと説明しろ?


 はーい、説明しまーす。


 つまり、ベルグ族の人達はそれぞれが専門的に行う仕事を決めているわけだ。農業をする人、狩りに出掛ける人、道具を作る人って感じで。


 そのうえで、基本的には自分の仕事しかしない。繁忙期とか緊急時とか、例外はあるんだろうけどな。


 そうすることで自分の専門分野における高度な技術を身につけていくというわけだ。毎日やっていれば上達も早いしな。


 一方のオークは、何でもやる。


 今日は狩り、明日は農作業で明後日も農作業。その次は……ハイキングにでも行くか? ってな感じのスローライフだ。


 なので、どの仕事もそれなりに出来る。ビジネスマン的な言い方をすれば、幅広い技術と知識を有しているというわけだ。ただし、知識の底はものすっごく浅いけど。


 オークがベルグ族みたいな生き方をするのは無理だろうなぁ……。手先不器用だから、毎日修行しても高度な技術なんか身につかなそうだし。なによりみんな飽きっぽいし。


「我が国の通貨を導入していただくは……尚早でしょうか?」


「そうですな。ベルグ族の貨幣が我々に依存するということは、我らが圧倒的に優位に立つことを意味します。ベルグ族が貨幣という概念を理解していない状態でそれを行うことは、騙し討ちのようなものです」


 どうやら“騙し討ち”はしないらしい。リリーちゃんにせよハリソンさんにせよ、本気でベルグ族の人達と信頼関係を築きたいようだ。


 このベルグ族の領域もオルブライト辺境伯家の領地内にある。それこそ植民地的な扱いをしてもおかしくはないわけだ。


 まぁ、それをするつもりならもっと早い段階から武力を使って制圧してるよな。粘り強く物々交換取引を続けてきたその姿勢が、なによりも信頼に値すると俺は思うぜ?


 豚だけど賢い俺がインテリジェンスな振る舞いをしている一方で、ビアス君はお金に興味をもったらしい。


 そのことをリリーちゃんに伝えると、ハリソンさんが懐から袋を取り出した。


「これが我が国で流通している通貨です」


 おぉっ! 初めて見たぜ、この世界のマネー。


 全部コインだぜっ! 


 ……でも、なんかイメージと違うな。


 ほら、こういうファンタジーな世界のお金ってさ? 金貨とか銀貨とかのイメージじゃん? ジャパン風に言えば小判。つまりは金ピカなイメージ。


 なんていうか……全部、鉄ッポイ材質なんだよね。刻み込まれているデザインが違うだけで、材質はたぶん一緒。強いて言えばサイズが少し大きめなのか? 五百円玉よりも二回り大きい。


 しげしげとコインを眺める豚の隣で、ビアスくんは通貨システムの説明を受けている。商品に値段をつけたうえで、通貨を介して取引をするという基本的な流れの説明を受けたビアス君は、一つの疑問を導き出した。


「これ、いくらでも真似して作れちゃうよ? 偽物がいっぱい作られたら大変じゃない?」


 偽札ならぬ、偽コイン問題である。即座にそこに気付くとは、ビアス君は頭の回転が速いらしい。ちなみ俺は言われてやっと気づいた。


 だって! 日本で硬貨を偽造するなんて話、聞いたことなかったんだもん! 


「大丈夫ですよ。この魔道具を使うんです」


 そう言ってリリーちゃんが後ろの部下さんから受け取ったのは、拡声器を小さくしたような代物だった。そのラッパ状に広がっている部分をコインに向ける。


「硬貨が本物であれば、このように緑色に光ります」


 魔道具の頭についている四角い部品が緑色に光っている。……まさかのハイテクシステムである。


「硬貨の中には魔法の術式が刻まれています。この術式は国家の秘術であるため、それを漏らしたり悪用したりすれば厳しく罰せられることになります」


 リリーちゃんの説明に、ビアス君が食い下がる。


「じゃあ、これを分解して術式を盗まれたらどうするの?」


――イケメン通訳中。


「それは出来ません。分解しようとすれば、コインは自壊するようになっています」


 ハイテクが止まらない! 偽コインを許さないという強い意思を感じるぜ!


 そんなリリーちゃんの説明に好奇心をくすぐられたのか、ビアス君はキラキラした目でコインを分解させてくれるように頼んでいる。


 危険だからと難色を示すリリーちゃんを説き伏せたビアス君は、近くにいたベルグ族の男の人に、誰かを呼びに行かせる。このタイミングで呼ばれたってことは、何かの職人さんなんだろう。


 しばらく待っていると、さっきと同じように大きな扉を小さな男が開けて入って来る。連れてこられた人、すでに目がキラッキラだ。


 職人さんと思われるその人は、しばらくコインをいじくり回した後、いくつか器材をとりだしてコインの分解を始める。


 マジかよっ! ゴーグルまであんの!? めっちゃかっこいいじゃん! ゴムじゃなくて紐でしばる感じがレトロで最高じゃん!


 ……どうやらそこに感動したのは俺だけらしい。大勢の視線に見守られながら、職人さんは作業に集中している。


 楽しくて仕方ないのか、その表情はニッコニコだ。髭の剃り跡を差し引いても、充分かわいらしいスマイルである。


 そして数分後。


――ボフンッ!


 コインが爆発した。


 いや、結構破片飛び散ったぜ!? 思ってたよりも危険じゃねぇかっ! 職人の人、ゴーグルつけててよかったねっ!


「実際に見たのは初めてなのですが……こんなにも危険だったのですね」


 リリーちゃんも呆然としている。……あっ、分解を許可したことを謝り始めた。完全に自己責任だから気にすることないと思うぜ?


 にしてもこの世界の偉い人は、どうやらお金を偽造する奴を許すつもりは無いらしい。


 まぁ、俺達オークには関係ないけどね! やろうと思っても出来ないしさ!


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