~ 第一話 恋しちゃったんだ、たぶん ~
第二章、スタートです!
どうも! 健康的な食生活と適度な運動を続けた結果、見た目からは想像出来ない良質な筋肉を手に入れたオーク、アルトです。
豚ってデブのイメージがあるだろ?
甘いな。木の実やらキノコやら……やたらとヘルシーな食生活。もちろん狩った肉も喰うけれど、現代日本人のような偏食になんかなる余地がねぇ。
結果として、脂身の少ない引き締まった身体が手に入るのさ。なぜか見た目はデブだけど。
メアリーちゃん騒動の後も、俺はオークとしてオークらしい日常を送っている。すなわち、毎日のんびりと働き、のんびりと生きているってことだ。
ちなみに、スキルのことは誰にも言っていない。言ったところで、誰も信じないだろうしな。
そもそも、スキルについて説明しようと思えば、元人間で前世の記憶があることを告白しなきゃいけない。
だが、仲間の中には、家族を人間に殺された奴だっている。なにも悪い事してないのに、だ。そんな奴に、「俺、元人間なんだよね」なんていう度胸が、俺にはなかった。
人間といえば、あれ以降も度々、彼らは俺たちを狩りに来ている。
メアリーちゃん経由で、『オークは実はいい奴』なんて価値観が広まってくれれば、とか思ってたけど、さすがに甘かったみたいだ。
一度に人間と触れ合っちまうとあれだな、捨てたはずの元人間な部分が蘇ってきやがる。おかげで攻撃の手が緩み、危うくチャーシューにされちまうところだったよ。
ってかね? 森の中で炎の魔法を使うかね、普通?
火事になったらどうすんのさ。山火事はこえーぞ? まったく、最近の人間は常識っちゅうもんを知らん。二歳程度のオークですら、森でむやみに火を使っちゃいけないことくらい理解してるぜ?
あっ……言うの忘れてたな。
オークは……魔法、使えません。
その代わり、なのかは知らんが、たいていの魔法は緑のお肌が弾いてくれる。そりゃあもう、防水スプレーをかけたガラス並みに弾く。
ゆえに、魔法を使える奴と戦う時は、突っ込んで・弾いて・叩き潰す。脳まで筋肉のような戦い方だが、これが一番効率がいい。
……えっ? 魔法が強すぎて、弾けなかったらどうなるかって?
ケガするだけですけど何か?
※
『ぶぶー、ぶ、ぶきゅう』 (おーい! アルトー)
この声は……声だけじゃ誰か分からん。
ならば、振り向いて顔を……パッと見ただけじゃ分からん!
……あっ! アルミンじゃん! どうしたー?
『ぶぎゃ、ぷぎゅ、ぶう』 (お前に相談したいことがあるんだよね)
少し深刻そうな表情だ。……表情が見分けられるようになったのって、成長だと思うんだよね。
『ぶぎゃ?』 (どうした?)
『ぶぎゅ、ぶがぶが?』 (ここじゃあちょっと。少しいいか?)
珍しいな?
深く物事を考えるのが苦手なオークの中でも、特に何も考えていない男、それがアルミンだ。その能天気さ、もといポジティブな生き方が俺は嫌いではない。
アルミンに連れられて、集落から少し外れた森の中へと移動する。
『ぶぎゃ? ぶごぶご?』 (それで、どうしたよ?)
俺の問いかけに、モジモジとするアルミン。例えるならば、照れるシュレックだ。ただし、顔は豚。
『ぶご……ぶう、ぶがが、ぶぎゃ』 (あのさ……お前、好きな人って、いる?)
な、なんだと?
これはもしかして愛の告白タイムなのか? しかし待て、アルミンは男だぞ? LGBTへの偏見は無いが、俺は女好きだ。申し訳ないが、アルミンの気持ちには……そもそも豚を恋愛対象として見れないよ! 神様のバカヤロー!
『ぶぶ……ぶぎゃ、ぶご、ぶう』 (実は……僕、ナディアのことが好きなんだよね)
そんな俺の葛藤などまるっと無視して、アルミンがネタばらしをする。よかった……本当によかった。
『ぶぎゅ、ぶが……ぶごぶご』 (それで、お前さえ良ければ……応援してもらえないかなって)
もちろんだとも、マイフレンド! 親友の恋だ! 成就させてやろうじゃないか!
しかしナディアか……確か俺たちより年上だな。
ここで、アルト先生のワンポイントレッスンだ。
オークは、人間と比べて成長が早い。あっという間に身体が熊並みにでかくなる。俺もアルミンも、いまやヒグマ以上のビッグサイズだ。
そして大人の身体になったオークは、早くに人生の、いや豚生の伴侶を見つける。そして、その後はずーっと添い遂げる。いわゆる離婚という文化はない。番になった二人が離れる時、それは死が二人を分かつ時のみだ。
不貞? ……やめとけ。村中のオークからタコ殴りにされることになるから。
ちなみに、子供は最大で三人までしか産むことが出来ない。それ以上は、いくら子作り的な行為をしても妊娠することはない。……不思議生物だろ?
子供を三人産んだオークは、夫婦水入らずで残りの余生を過ごす。平均寿命が分からないから、どれくらいかは明確じゃないけど、そりゃあ長い時間だ。
つまり、だ。
アルミンの恋の行方、それは、彼のこの先の長い一生を共に歩むパートナーを選ぶことに繋がるということだ。それほどまでに、ナディアという雌オークに惚れちまったってことだ。
なんだよ、おいっ! どんな恋のロマンスがあったんだよ?
『ぶご、ぶごお、ぶぎゃぶぎゃ?』 (それで?ナディアのどこに惚れたんだよ?)
『ぶぎゅう、ぶが、ぶぎゃぶっがぶぎゃ』 (こないださ、鳥の肉、譲ってくれたんだ)
アルミン……。
お前のそういうとこ、俺は嫌いじゃないぜ?
読者様からのご指摘により、オークが産むことが出来る子供の最大数を2から3に変更いたしました。ご指摘を頂いた読者様、ありがとうございます。