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私は、このまま押し当てた手と手の間の樹脂が温まって、向うの体温が伝わってくるまでずっとこうしてたい……と、思った。
もしそうしても、きっと優しいノア君は私に付き合ってずっとこのままいてくれると思う。
それどころか、私が私の人生を終えるまでこの場所で暮らしたいと言い出したりしても、きっとノア君は困った顔をしながらなし崩し的にズルズルと一緒にいてくれる気がする。
私がこうして鈴岡明花の人格を取り戻したのを知ったんだから、ノア君は少しは快方に向かうんだろうし、ちょっとくらい一緒にいて貰ってもいいんじゃないかなって、心の中でズルい自分が囁いたりもした。
けど……そんなのは、ダメ。
そう、ただちょっと、そんな風に思ったってだけの話。
大体最初からそんなの私、耐えられるはがずないんだよ。
劇的に悪化することはないかもしれないけど、ノア君が調子悪いってこと、知ってるんだもん。
細胞の劣化とかジル言ってたけど、治療用水槽使っても回復に百年以上かかるくらい悪いんだよね?
そんな具合の悪い状態のノア君と、自分の欲だけで平気で一緒にいられるわけないよ。
だって私、ノア君が大好きなんだもん。
好きな人が具合悪くしてたら、少しでも早く良くなって欲しいのって当たり前でしょ?
じわっと身体ごと水槽に近寄って、透明樹脂の表面にくっつきそうなくらい顔を寄せた。
ジルが何気に上の方まで広がって視界を狭めるナイスフォローを行ってるのを視線の端に、私はノア君の顔をじっと見る。
……うん、好き。大好き。
こうして綺麗な顔のノア君でも、もししおしおシワシワのお爺ちゃんのノア君でも、それとも、緑色の爬虫類とかヌルヌルで『シギャー』って叫ぶSFホラーのヤバイ系だとしても、ノア君がノア君なら、私はただそれだけでいいんだよ。
すーごくこの人が好きだから……大丈夫。
私は、大丈夫……。
それに……それに、もし私が待っていられなさそうだったら、その時は子供でもなんでも産んでさ、その子にノア君の傍にいてあげてってお願いするんだ。
……チューもしたこと無いのに、あなたと私の子よ~……っとか勝手にそんなの産んでるのってちょっと酷いとは思うんだけど、でもノア君、きっとその子供、可愛がってくれると思うんだよ。
もちろん産むって言っても、人工授精的な何かだし。
しかも、万が一、私が頑張れなさそうならって話だけどね……。
見上げた先で黒くて長い睫が影を落とすノア君の目が、何か言いた気な感じで私を見つめ返してた。
目覚めるに800年オーバーとか遅すぎだろ……とか、地球で死ぬ時のスプラッタがグロ過ぎ……とか、身に覚えがある私としては、ノア君の苦情は甘んじて聞かせていただこうと身構えて待ち受けてたんだけど、どうしたのか彼の口はなかなか開こうとしない。
よっぽど言いにくいことでもあるのかな……と、ちょっと不安になって来た。
なんだろ?
鼻水はちゃんとティッシュで拭ったはずだよね。
目とか鼻は赤くなってるかもしれないけど、そのくらいで何か言うノア君じゃないし。
髪の毛は強風に煽られたり走ったりしたからぐちゃぐちゃだったかも……うぅ……部屋に飛び込む前に櫛でも入れとけばよかった。
いや、だけど、ノア君はそんなのでツッコミ入れるデリカシー無い人じゃない。
……けど……ハッ! そうだ、髪って言えば、この失敗した2Pカラーみたいな目玉と髪と肌の色の組み合わせっ!
「───ノア君っ……私のこの、髪の毛とか目の色とかって、に、似合わなくて変だったりするのかな……っ」
本人としてもかなり痛いと思ってるのに、実はノア君から見ても想像以上に痛々しくて困ってるんじゃないかと私は慌てた。
自分でこの色になりたいとか希望しておいて何言ってんだとも思うけど、あの時は何しろほらっ、半分以上あたまが涅槃入りしてたから。
「え……? 髪と、目?」
私からの唐突な質問に、ノア君は一瞬虚をつかれたように目を見張った。
次いで、パチパチと繰り返される瞬き。
「……明花は、何色をしてても可愛いよ」
"当たり前のことを当たり前に言ってます"感が半端ない素の表情でそんな言葉を返されて、私は思わず透明樹脂の水槽に頭を強打した。
痛い。でも嬉しい。
どうしよう、可愛いとか、照れちゃう……。
うっかり治療用水槽の下の方を覗いてしまわないように目を閉じて身もだえる。
ああ……どうしよう、鼻血が出そうなくらい嬉しくて幸せだ。
だってノア君、何色してても可愛いとか、そんな……へへへ。
私もノア君がもし紫色だったり緑色でヌルヌルしても、素敵って思うけど。
顔を上げ目を開けると目の前には驚き顔のノア君がいる。
「明花、大丈夫!? 今おデコ、すごい音……」
「っ平気、全然! そんなことよりもノア君───……ありがとね?」
「……え?」
今生の別れがどーしたとか、そんなグチグチ考えるより一番にしないといけない事があったのに、私は馬鹿だ。
「ノア君、私と"最後まで一緒にいてくれる"って約束、守ってくれたでしょ? あれね、すごく嬉しかったんだよ」
"ありがとう"と"ごめんね"を言えないのは駄目なヤツだよって、お父さんもお母さんも、お爺ちゃんだって教えてくれてたのに。
そういうのは人間としての基本だからねって、せっかくそう教えてくれたのに。
「私、ノア君が一緒にいてくれたからあの時、世界中すっごく滅茶苦茶になってたけど、全然怖くなかったよ。本当にホントにね、最後の瞬間まで怖くなかったし、二人でいられるのが楽しくて……幸せだった。だから、ノア君……ありがとう」
感謝していることにはお礼の言葉。
……で、申し訳なかったと思うことには、お詫びの言葉。
「それからね、"あの時"突き飛ばしちゃってごめんね? あと、なんか最後の最後にちょっと見苦しいって言うか、バッチイもの見せちゃって……本当にごめんなさい」
ジルが言うには結構な惨状だったらしいし、酷いトラウマな光景をみせちゃった気がするから、これはちゃんと謝っておかなくちゃと思いながら頭を下げたら、当たり前だけど水槽の表面にまたおデコがぶつかった。
なぜか鼻はあまり痛くないけど、今回もやっぱりぶつけた角度のせいだと思……いたい。
「明花……」
なんか、ノア君がちょっとポカンとした顔してこっちを見てた。
いっつも割と隙のない彼にしては珍しい呆け顔なんか見れて、ちょっと得した気分。とか思ってたら、急にノア君の顔が見えなくなった。
いや、水槽の中から突然ノア君が消失したわけじゃないから。そのイリュージョンなんて天功?
ただ、ノア君が急に自分の顔を手で覆い隠してしまっただけ……なんだけど。
「な……なに? ノア君どうかした? 具合悪いとか気持ち悪いとか気分が悪いとか体調が悪いとか、もしかしてそんな感じ!? どこか痛いとか苦しいトコあったりする!?」
透明樹脂にベッタリ張り付いてオロオロする私に向けて、ノア君は頭を左右に振った。
「僕……は、明花にありがとうなんて言われるような……人間じゃ、ないから……」
顔を覆い隠した手の下から、苦し気な声でノア君がそんなことを言い出して、ビックリした。
「え!? でも私、ノア君が一緒にいてくれて、本当に嬉しかったんだよ! って言うか、ノア君が人間じゃないからお礼言ったらダメってこと!? え? え? なんで? もしかしてノア君が宇宙人だから!? あっ……そう言えばどうしよう。ここ地球じゃないんだし、地球人だった私ももしかして今は宇宙人なんじゃ!? あれ……っ? 地球人の遺伝子もう私にはないんだっけ!? じゃあ私、何人になってるの???」
ノア君の様子にテンパってちょっと自分でも意味不明な事を口走っちゃってる気がしないでもない。でも、なんで?
ノア君がありがとうって言われるような人間じゃないって、どうして???
「ご、ごめんっノア君。私あの時一緒にいてもらったのも、またこうしてノア君に逢えたのも本当に嬉しいから、ノア君にお礼言っちゃダメだったら私、こんなに嬉しいのに一体誰にありがとうって言えばいいのか分からなくて困っちゃうんだけど!」
「だって、明花……僕は、明花のお母さんもお父さんも、雄太兄も助けられなくて……地球も、動物とか人間とか殆ど全部、滅亡して……」
喉の奥から無理やり絞り出すような苦し気なノア君の言葉に誘発されてか、頭の中に最後に家族の顔を見た時の記憶がチラついて、胸がぎゅっと痛くなった。
あれからもう800年以上も前のだとジルに聞いたけど、私にとってそれは、まだほんのちょっと前の出来事にしか思えない記憶だ。
お母さんもお父さんもお兄ちゃんも、せーじん君子ではなくても悪い人間じゃなかった。
ウチはわりと家族仲も良かったりするからよけいに、今もどうして天災とか人災とかああいうどうにもならない状況に巻き込まれて皆死ななきゃならなかったのって……ホント、どうしようもないことだけど、あんなの理不尽で酷いって、自分でも何に対してかわかんない怒りがあったりするんだけど……。
でもね、だけど、同時にちょっと諦めの気持ちってのも、そこにはあるんだよ。
たぶん、ずっと何年も前から、もう世界はおしまいに向かってるんだろうなって思いながら生きてたからかもしれないけど、なんて言うのか……野生の草食動物がさ、ライオンとか豹とかそう言うのに首筋齧られてもうダメだって時の心境ってのか……ね。うん、ライオンに齧られたことないけど、そんな感じの気持ちがあったって言うのか。
あれは、どうしようもなかった。
幾つもミサイルが落ちて、地面が引き裂けて変なガスは発生するし、火山は噴火するし地震で津波は来るし、何が何だか分かんないくらいに滅茶苦茶。
あんなの、人間がどうこうしようって言ってもどうなるものでもないよ。
「……人間とか動物とかが滅んだのって、ノア君が悪い宇宙人で地球破壊に来たからなの?」
……と、私はノア君に聞いてみた。
いや、んなわけないって、分かってる。さっきそれもジルに聞いたし、そんなことするわけないって知ってる。
『何を馬鹿なことを……! さっきの話を聞いていなかったのか、この愚か者が』
とか、水槽の表面にへばりついた銀色が騒いでるけど、それはサクッと無視。
顔を隠してしまってた両手を外し、ノア君が茫然とした顔をして小さく頭を左右に振った。
ああ……ノア君の目もとが赤くなってる。
溶液の中だから涙は見えないけど、きっと彼は泣いてたんだ。
「……違うよね? だから、ノア君のせいじゃないよ」
たまたまそこに、もしかしたら何とか出来る力があったかもしれない自分がいたから、だから彼は自分のことを責めてるんだって、わかるよ。
ノア君は優しいもん。
でも無理だったんだってことだって、分かってる。
死んだあとの私の脳みそを持ち出したのでさえ、レンメイの規定ではグレーゾーンだったって言うんだから、それ以上のことなんて許されるとは思えない。
だいたい、ノア君はこのゴールディロックス階層世界なんて世界を創っちゃえる凄い人かもしれないけど、万能な訳じゃないんだってこと、過去世での最後のことを考えればすぐ分かるでしょ?
有毒ガスの中、平気で歩いていたかもしれないけど、落ちて来る鋼材には気づかなかったし、近くを浮遊してた筈のジルだってそれに反応出来なかったもんね。
神さまみたいにすごくても、神さまなわけじゃない。
科学力とかの知識や資金力は持ってるかもしれないけど、フツーの人だよ。
死にかけの私を抱えて歩きながら……あの時、ノア君、泣いてたんだもん。
「だけど、僕は……」
治療用水槽の溶液の中、唇を震わせるノア君の顔は苦しそうに歪んでるけど、とてもキレイだと思う。
「うん、でも、ノア君のせいじゃないよ。だって、ノア君はたまたま滅びかけの惑星に来ただけなんだから。責任感じる必要なんてあるわけないよ」
ノア君は優しい。
本当に優しい。
たぶん、私なんかより全然優しい。
私はあの時、ノア君が泣いてて辛そうだとは思ったけど、実はちょっと嬉しかったんだよ。
自分でも酷いヤツだなって思うけど、これから未来も生きてくだろうこの人は、きっとこんなに涙が出るだけ悲しくて辛いなら、きっと私のこと忘れずいてくれるだろうなって思ったから、ちょっぴり嬉しく思っちゃったんだ。
ちょっぴりだけど、ね。
「私はね、本当にノア君と最後までいられて嬉しかったよ。それに、あれでもうおしまいって思ったのに、ノア君とこうしてまた逢えたのが、すごく嬉しい」
透明樹脂に両手とおデコをペッタリと張り付けて、私はギリギリ出来る限りノア君に近づいて彼の事を見上げた。
こんな近くにいるのに、足元に中身が詰まったティッシュの箱だってあるのに、ノア君の涙を拭いてあげられないのがもどかしい。
ジルがさらに上の方まで透明樹脂上を浸食して来て、また何気にナイスフォロー。
……でも私、下の方とか覗いたりしないのに実はこいつ失礼な奴なのかもしれないとも思うのだけど、気のせい?
今はそれどころじゃないから……後でみてろ。
「なんか、なかなか"私"が帰って来なくて、ごめんなさい。私ね、ノア君のこと思い出せて、すごくすごーく嬉しいよ。帰って来れて良かった。ホントに……良かった」
メイ・リンヒルとしての人生もそれなりに面白い物ではあったけど、メイ・リンヒルで明花でもある今がもっと楽しいのは、やっぱり前の自分には何か足りない欠片があるって感じてたからだと思う。
なにしろ、私の半分はノア君への愛で出来ているわけだし?
ってことは、前の自分って半分しかなかったってことだもんね。
「ありがとう、ノア君。私に、"私の続き"をくれてありがとう。それからこんな素敵な面白い世界を創ってくれてありがとう。私ね、いっぱいノア君に話したいことがあるんだよ。それにたぶん、これからもたくさん話したいこととか出て来ると思う。だから私───ノア君が元気になって起きるまで、待ってるね?」
なんと言うか……変なふうに自然に、それでもって確信めいて、待ってようって言葉が胸にストンと落ちた。
待っていられるなーって、なんかそう思った。
うん、無理そうなら、その時はその時。でもたぶん、大丈夫な気がするから大丈夫。
「100年とか120年とかかかるんだっけ? きっとアッと言う間だと思うし、全然大丈夫だけど、出来るだけ早く起きてね?」
これから100年以上のお別れ……もしかしたら、今生の別れってやつになるかもしれないのをしようとしてるのに、不思議なくらい悲壮感はなかった。
だってさ……ノア君、元気になるために眠るだけだもんね。
お喋りは出来ないけど、寝顔を見に来ることはできるでしょ?
あ、ノア君の裸、見に来るんじゃないからね。そこんとこはちゃんと、ジルになんとかしてもらうし!
元気になったノア君を待ってるくらい、きっと出来る。
何しろほら、私の半分はノア君への愛で出来ている事だし?
愛が奇跡を呼び起こしてなんか良く分かんないけど大団円ってさ、物語の定番でしょ。
変に自信満々、この部屋に飛び込んで来た時の涙も引っ込んでニコニコ笑いながらそんなことを言う私のことをどう思ったのか、ノア君は少しぼんやりした感じの顔でこっちを見てる。
「待つ」
とか言いきったの聞いて、ビックリしたのかも知れない。
唇の震えは止まってるし、目もとはまだ赤いけど、たぶんもう涙も止まってると思う。
「……待ってて、くれるの?」
「うん。ちゃんと待つよ」
「本当に……?」
「うん」
「……そっか」
「そうだよ」
ノア君は"私"が起きるの800年以上も待っててくれたからね。100年ちょっとくらい待ってるよ。待てるよ。待たなきゃ。
「明花……」
「うん?」
「待ってて」
そう言いながらノア君は、また水槽の内側から手を伸ばして来て透明樹脂の面に触れたから、私も同じようにその上に手を重ねて
「うん」
と、頷いた。
「ちゃんと待ってる。……約束」
無意識に指きりしようとして右手の小指を伸ばしたけど、残念ながら透明樹脂に阻まれて小指を繋げず、思わずムゥーっと口を尖らせる私を見て、ノア君が少し笑った。
まあ仕方ない。
あの時だって、別にノア君と私は指きりげんまんしたわけじゃないけど、ノア君はちゃんと約束守ってくれたから、私も頑張って約束まもろう。
これでダメだったりしたら、私ってば大嘘つきだよね。
でも……それでとりあえず100年後にノア君の身体が健康になっててくれるなら、罵られてもいいかも……とか、思っちゃってたりしなくもない。
いや、頑張るけど。
「明花」
水槽の表面で阻まれた自分の小指を睨みながら唸ってた私の名を、ノア君が呼んだ。
見上げるとノア君の目が優し気に……ちょっといたたまれなくなるくらい優しく私の事をみてくれてて……。
「100年後に、ね」
透明樹脂の上、たぶん私の頬をなぞる軌跡でノア君の指が滑って、唇辺りで小さくトンと跳ねる。
瞬間、自分の顔が真っ赤になっただろうと自覚がある。
うぎゃー!
とか、奇声を発して飛びのいたり、照れるあまりにまた水槽に頭を強打しそうになったけど、なんとか意志の力で踏みとどまった。
……酷いノア君、なにその不意打ち!?
水槽に当てた手に力を入れ過ぎて、ギュワギュワ変な音を立てたけど、これ、表面大丈夫だよね?
「ひゃ……100年後に、逢ったら私、ノア君に言いたいことがあるから……っ」
ギョワギョワギュワギュワと水槽表面に変な音をたてながら、私はなんとかそう言った。
本当は今すぐノア君にノア君のことを私がどれだけ好きかとか勢いまかせに言いたくなったけど、そういうのはノア君が元気になって出て来てくれるまで自分にお預けにしておけば、ご長寿さんへの道への励みになりそうだから、ここはぐっと我慢しようと思う。
うん。ここで想い告げるとか、最後っぽくて非常に良くないよ。
次にあったらあの人に告白するんだー……ってのも、フラグ臭いけど……。
「……僕も、次に逢ったら、明花に言いたい事があるから。……明花、ちゃんと聞いてね」
わー!
わー!
わー!
ノア君、私に何を聞かせるつもりなの!?
何を聞かせてくれるつもりなの……!?
いや、なんか分かるけど、分かるんだけどっ!!
真っ赤になってる顔が更に赤くなるのを感じつつ、私はただ無言でコクコクと頭を縦にふりながら、水槽の表面をギュワギュワと鳴らしたのだった。
ノア君が眠る治療用水槽の部屋の外、私は壁に凭れてズルズルと床の上にへたり込んだ。
休眠中の設定調整の為にと言って、ノア君とジルの二人に部屋から追い出されたのだ。
頭の中、ごちゃごちゃ。
泣きたいんだか、照れて悶えて転がり回りたいんだかも良く分からないけど、とりあえず顔が熱い。
……知恵熱の可能性も無きにしろ非ずだけど。
きっとまた私は、元気になったノア君と元気なまま逢おうと思う。
絶対ぜったい逢おうと思う。
……無理だった時は、仕方ないから子供を残す。
そしたらきっと、ノア君はなんだかんだ言いながらも子供のお世話をしたり見守ったりしてくれるだろうし、上手くゆけば次の世代の子供だって見ててくれるかもしれない。
……もちろん、自分が元気で再会するのが一番の理想だけど。
ああ……そうだ。
「ノア君の私室に勝手に入ってごめんって、謝るの忘れてた……」
次に会った時に、ちゃんと謝らないと、ね。
うっすらと暮色を混ぜた光が降り注ぐ白い部屋の中、私は火照った自分の頬を両手で抑えながら、大きくため息をついた。




