two chocolate
涙に気づく。この涙の意味がわからなくて、でも聞けなかった。
それは、なぜだろう。
考えることもなくわかるのに、わかりたくない。
わかってしまったのなら、覚悟しなければならない。
チトセには時間がないこと、を。
チトセの病について、僕はよく知らない。医師も看護師も口止めされているようだった。
そもそも、僕たちの婚約解消は、半年前のこと。
知十世が倒れたことにあった。
その前に、なぜ僕らが婚約していたのか。
知十世の家は長寿の家系で、親族に病気の者もいないことから、10年ほど前から話があった。
親の都合は小さい頃からわかっていたものの本音は嫌だった。知十世に逢って良かったと思うまで、時間がかかった。
そのこともあって、僕は知十世を失いたくはない。できることなら、チトセとずっといたい。もっと話したい。
「チトセ!」
離れた唇から、吐息が零れる。
「ん?」
ぽーっと僕を見つめる瞳には、なみだ。
「...チトセ、大好き」
驚きもせず、ただ僕に微笑んだ。
そんな可愛い顔見せないでよ
我満できなくなっちゃうでしょ?
「澪、好き。でも、約束守らないの嫌い」
はっきり言うチトセの言葉がすがすがしくて好き。
曖昧にしない性格。
わがままは全部言って?
それに全部、応えるから。
「ごめん。次は、明後日来る」
手帳を何度も見返して、空いてる日にちを見つけてから、その日だけはずっと守ってる。
「もう、行く?」
悲しいって目が言ってる。
行かないでって言ってる。
「まだ行かないよ。チトセがさっきの続き言うまで」
あっと声を挙げ、下を向く。
「ねぇ、お願い!聞かせて?」
覗こうとして、顔を近づけた。
すると、チトセの顔が近づいた。
「ばか」
小さい声が聴こえた。次の瞬間、
唇が重なった。さっきとは違って、チトセは僕の後頭部あたりを押さえている。
ぎゅっと瞑った目が開く瞬間が見たくて、目を開けていた。
求めるようにキスをするチトセのその瞬間は遠そうだけど。
やっと離されるか、と思うと
また重なって、離してくれない。
でも、求められるのは嬉しいから、抵抗しない。
そして、やっと、瞬間が訪れた。
ふっと花が開くように、瞳が見えた。
僕の視線に気づき、目を逸らす。
でも、また僕のほうを見る。
「教えて?」
むっと頬を膨らまして、
「澪、もっと...」
声は小さく、細くて聞き取りにくい。
「もっと一緒に、いたい!」
もう、吹っ切れたみたいに僕の目を見た。
でも、すぐ赤くなって、目も逸らした。
もう一度重ねた唇は、チョコの味がした。