one tear
「やっほ~。元気?」
病室のドアを引いて言った。
ベッドに座っている女の子。着ているのは、白いブラウスと、布団に隠れていて見えない。
「だれ?」
瞳は笑みを失い、左側に一つに束ねられた長い黒髪をするりと触る。
「澪だよ♪れ・い」
チトセは首を降って、本に目を落とす。
「チトセ~?1週間くらい来れなくてごめん」
ベッドの隣の椅子に腰を掛ける。ちょっと下から、チトセの顔を覗く。
「ちぃ~?」
こっちに目を向けて欲しくて、わざと言う。
「八」
チトセの声。声が聴こえた。
「はち?」
意味がわからなくて聞き返す。
「七ちがう。」
それは
こっちを向いて、言った。
「1週間ちがう。1日足りない」
また、そっぽを向いたように本に目を落とす。
「ちぃ、ごめん」
この言葉に返事はなかった。
もっと早く逢いたかったよ?
僕の能力は、家のために使わないといけない。
だからね。
僕自身が自由に使えるってわけじゃないし、僕一人じゃ何もできないのとおんなじなんだ。
でも僕は、チトセに笑っててほしいから、調べてる。
僕一人でも、ちゃんと能力を制御できる方法。
なかなか、見つからなくて焦ってる。
だって。
チトセが、壊れてくからさ。
チトセが幸せになるのなら、僕は血を出しても、倒れても。
この能力を使うよ。
このチカラが、チトセを笑顔にできるなら
どこまでだって、飛んでいくよ。
「澪、嘘つき。次、7日あとだったのに」
僕の名前...。
ぽーっと、知十世の顔を見た。
チトセは、僕の顔を見て、
「聞いてる?」
って眉間にしわを寄せてにらんだ。
「チトセ、ぎゅってしていい?」
きょとんって首をかしげて、数秒...
沈黙は僕らを緊張の渦に飲み込む。
僕が立ち上がると、視線をずっと離さない。
何も言わないから、ベッドにいる知十世を抱きしめる。
「いいって言ってない」
「ダメって言ってないでしょ?」
いじわるになっても、いいでしょ?
8日ぶりに大好きな君に逢えたんだから。
「澪、もっと一緒に...」
チトセの声が小さい。
「なに?」
チトセもぎゅって抱きしめ返した。
「何でもない」
言わないの、か。
「言って?」
「いや。言わない」
仕方ない。最終手段...
「お仕置きするよ?」
チトセは、また抱きしめる力を強くした。
「言わないもん」
可愛いなぁ。
あぁ。現実に目を向けたくなくなる。
「チトセ」
腕の力を弱める。
チトセも僕を離した。
「キスして?」
チトセは眼を泳がせる。
もっと顔を近づけた。
「近い」
「ねぇ!」
問答無用さ。
「もぅ...」
重ねたソレは、温かかった。
唇を離すと、
チトセの頬に一筋の涙が伝った。