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ten remember

懐かしい記憶の中にいる。

そんな気がする。

ふと、浮かぶのは懐かしい、知十世の幼い頃の笑った顔。

「逢いたいな」

次、逢えるのは、また今日から一週間後。

カレンダーを見ていても、早く早くこの時間が過ぎればいいなんて思ってしまっている。

やっぱり、そのくらい好きなんだって実感する。


思い出した記憶もあった。

初めて逢ったあの日。

知十世は偽りのない笑顔で僕に笑いかけてくれた。

可愛くて、ふわふわしている君に恋をしました。


なんで、忘れていたんだろうって思うけど、仕方のないことなのかもしれない。

あの時、初めて逢ったのは、僕が6歳くらいのときだった。


大事な記憶なのにな。



一週間は思うよりも早い。

「行ってきます」

小さな声を残して、今日もまた一人部屋を出た。

病院に行くたびに通る桜並木はいつも変わらず、揺れている。

一応、外もあまり自由には出歩けない。

とても、面倒。だからこそ。

今のコレも楽しい。


病室の前

いつも思うけど、緊張する。

ノックをして、戸を引く。

「おはよう。チトセ!」

その部屋でチトセは、大量の薬を見つめていた。

「あ!澪。おはよう」

そういうと、薬を順番に重ねて、しまった。

「薬?」

頷いて少し下を向いた。

「私が飲む二週間分の薬。一度にあの量を飲むと、死んじゃうんだって」

その言葉が引っ掛かる。

「何かあった?」

すぐに僕のほうを向いて

「えっ?何もないよ」

と、明らかなウソを吐いた。

でも、言わないってことは、言いたくないんだろうから、聞かない。

「ねぇ。澪」

「何?」

顔が少し暗くなった。

「もう来ないで」

え?今、なんて...

「え?もう一回言って?」

目を閉じると、

「もう、来ないでほしいの」

悪い冗談だよね?

いたずらなんだよね?

でも、聞けなかった。

だって、明らかに、真実だよって言ってるんだもん。


「チトセ、いやだ」

「来ないで」

どんどん声が小さくなって、薄れていってる。

「来る。チトセ、僕を嫌いになったわけじゃないんでしょ?」

そうでなきゃ、“指輪”を外してる。

だから、また来る。


その嘘を吐く理由は、教えてくれそうにないね。

今日は珍しく知十世に用があるらしく、あと20分しかない。

「チトセ、大好き」

暗い顔のチトセがやっと笑った。

「澪。一つ我が儘言っていい?」

僕を見上げるその上目遣いだけで、心臓がバクバクしてうるさい。

「いいよ。なんでも言って!」

ちょっと目を伏せて、言いにくそうに口を開いた。声は小さくて、耳を近づけないと聴こえないほど。

「き、...キスしてください」

あぁ。なんでこんなに可愛いの?

「目、瞑って」

 僕は、チトセの頬にキスした。

すると、

「澪、コッチ」

ちょんちょんと人差し指で唇をつついてる。

いじわるしたくなる気持ちが抑えられなくなった。

「言葉で言って」

僕を見上げると、瞳が潤んでいた。

「口、唇にキスしてください」

そう言って目を閉じた。

可愛いその唇に僕の唇を重ねた。

欲しがってくれるのは嬉しい。だけど、もう少し欲しがってほしいなんて思いもある...

触れるだけのキスをして、すぐに離した。

目を開けたチトセはぷっと頬を膨らませて、いかにも不満そうな子ども。

「もっと。苦しくなるの」

「どんなんだっけ?」

とことんいじわるしたくなってしょうがない。

チトセはまた、恥ずかしそうに頬を赤らめて

「だから、澪の舌が私の口のなか入ってきて、苦しくなるキス」

って小さな声でねだった。その姿は可愛くて、我満できなくて、ぎゅっと抱きしめた。

抱きしめると、チトセがびくってしたけど、チトセも僕を抱きしめた。そして、小さく蕩けた声で言った。

「しあわせ」

と。

ゆっくり、腕を緩めて顔を近づけた。チトセは目を閉じた。

激しいキスを望むなんて、チトセは欲しがりさんだなって思うなか、求められて嬉しくて、くすぐったい。

唇を少し触れさせると、ぴくっと驚く。そしてまた重ねる。角度を変えて。そして、僕の舌をチトセの口に滑らせた。

いつもは逃げるチトセは今日、僕の舌に自分の舌を絡めてきた。

深く深くなっていくほどどんどん離れたくなくなっていった。

チトセの息が続くまでキスをしてたら、あっという間にもう時間だ。




「また来るね」

そう言って病室を出た。


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