nine present
ウサギは、あの時[リイ]と名付けた。
それは、チトセが付けてくれた。
僕の名がれいだから、らりるれろの中のり。
このリイが、初めてもらったプレゼントだった。
僕が初めてあげたプレゼントは、何だったかな?
今度、聞いてみよう。
リイはいつも、押し入れの暗い場所に居させてるけど、もう出そうかな。
寂しさは、限界。
「澪。入ってもいいかしら?」
母の声。いつもとどこか違う?
「どうぞ」
平静を装う。すぐにばれそうだけど。
戸を開け、僕を見た母は驚く。
その目線の先には、ウサギのリイがある。
しかし、僕の目を見て、座った。
「ご用件は何でしょう?」
「真矢さんのことなの」
まぁ。それ以外はないか。
「はい」
「それほどに、知十世さんが好き?知十世さんが大事?」
僕を見つめる母の目が怖い。
でも、ここでくじけることのほうがもっと怖い。
逃げない。そう思ったせいか目に力が入った。
「うん。世界中の誰より、知十世が好き。大事だし、他の誰かなんていない」
このきっぱりした答えに、母は驚きもしなかった。
「澪。変わらないのね」
渋々って顔が言ってるよ。
「変われないんだよ。そのくらい、知十世は、僕の大事な人なんだよ」
母の顔が、どんどん優しくなっていくように感じた。
「お父さんが、許さないわ。お父さんが帰ってきたら、どうするの」
父は今、世界にある会社を回っている。
だから、今は日本にいない。
「母さん、僕は最低でも、二人生まないといけないんでしょ?だから知十世じゃダメなの?」
わかってること。ずっとずっとわかっていたことなのに、聞かないと、消えそうだった。
「そう...よ。母さんもそうだった。でも、お父さんは愛してくれてる。この人がいいって思ったの。だから澪も、真矢さ」
「勝手に決めないで!」
いつも真矢さん。真矢さん。
「僕に、知十世のこと聞いたのは何なの?」
矛盾してるじゃん?
僕は、受け入れないといけない運命にあると、それは、絶対なの?
「澪。ごめんね。でも、江祇時の血を止めるわけにいかないの。わかるでしょう?次男に受け継がれる血は、あなたしかいないの。史乃は、受け継げない。でも、もう母さん、子供は産めない」
つまりは、受け入れてってことだよね...?
あのあと、僕は気を失ったのだと、母さんに聞いた。
その間、僕は、知十世のことを見ていた。
思い出したんだ。
初めてのプレゼント。
それは、僕が作ったお守り。
儀式のとき、こっそり念を込めたお守り。
今も、持ってくれてるかな?
ずっと、持っていてくれるかな?