回復の泉につかって
邪神の像を発見してから一週間。
私は回復の泉につかって、プカプカと時間を過ごしていた。
木陰の隙間からのぞく空が青い。あの雲、美味しそうだな。
何もやる気が起きない。
「もしも、本当にここがゲームの邪神が復活した後の世界だったら……」
プカプカしながら何度もぐるぐると頭を巡っていた思考を、再びなぞっていく。
「少なくとも知性がある存在は、残っていないだろう。もしかしたら、動物すら全てラスボスに食べられてしまっているのかもしれない。残っているとしたら、植物か、虫以下の生き物ぐらい……」
私は地下茎に巣くっていた蛆的な生き物を見たことを思い出す。今思えば、あれぐらいしか生き物を見ていない。
「蛆ぐらいの知性なら、見過ごしたのか。はぁ。これからどうしよう。こうして回復の泉につかっていれば生きるだけなら何ら問題ない。でも、誰も生きていない世界でこれから何をすれば……」
私のなかで同じ思考がぐるぐると回り続けていた。
さらに一週間後。
プカプカとしながら、私は覚悟を決めた。
「この世界の何処かに万が一誰か生き残っているとしても、探し出すのは難しい。手がかりもないし、命をつなぐ手段が回復の泉しかない以上、世界をくまなく探すのは現実的じゃない。というか生命線たる回復の泉から離れるのはリスクが高すぎる。今出来るベストの事。この世界に来てから得た、
唯一のもの。魔法の可能性を探ろう。」
こうして私は魔法を、その存在を、限界と限界の先を目指して一つ一つ検証を始めることにした。
一月後。
「アクアドロップっ!」「アクアドロップっ!」「アクアドロップっ!」
現れた拳大の水塊が次々と落下していく。
回復の泉に浸かったまま、ひたすらこの一ヶ月間アクアドロップの魔法スキルを使用してきた。それこそ、寝ている時間以外はずっと。
そうして、私はようやくつかんできたものがある。
そう、MPの減少を体感として実感できるようになってきた。
「てっきり、オーラとか気とか、もしくは血管のなかを廻っているのかと思ったけど、全然違ったな。」
私は背中に意識を集中して魔法スキルを使用する。
「アクアドロップっ!」
背中側の肩甲骨の下に僅かに生じる違和感。
そう、MPはどうやら私の背中側に、何かがあるらしい。
さらに一月後。
「……」
無言の俺の目の前に、拳大の水塊が現れる。
そのまま重力に引かれ、回復の泉へと落下していく水塊。
「やっと、出来たっ」
私はついにスキルを使用せずに、魔法の発現に成功していた。




